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花菖蒲のほとり  作者: B星
第3章 ① 本邸 11歳
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 095. 食堂にて 2/2 ― お嬢様効果? (徹)


 小夜さよさんと悠子ゆうこさんと一護いちごが食堂に入ってきた。洗濯した布巾などを持った一護が、そのまま台所に入っていった。定位置にしまうためだ。


「それじゃ、一護くん。今日はここまで。お疲れ様でした」


「い、一護くん、お、お疲れ様でした」


「はい。ありがとうございます。お疲れ様でした」


 俺たちにも、「お疲れ様でした」と挨拶をして食堂を出ようとしたが、はたと立ち止まり振り返った。


「あの、一加いちかは……。飲み物とか……」


「一加は菖蒲あやめと、菖蒲の部屋に行ったぞ~。ジュースは菖蒲が持っていたな。一護のマグカップも持っていったから、何も持っていかなくて大丈夫だ」


「ありがとうございます」


 一護はにこっと微笑み、おじぎをして出ていった。


「ふふ。元気になって良かったですよね。悠子さん、お茶でいいですか?」


「はははい。ありがとうございます。お嬢様と、な、仲良さそうで安心しました」


「本当にな~。菖蒲あやめの部屋で過ごしてから、俺たちにも笑顔を見せるようになったしな~。やっぱり、催眠術か何か――」

てつ……」


 理恵りえにらまれたので、視線をそらし口をつぐんだ。


「あはは。催眠術ってなんですか?」


 小夜さんは、お茶をいだマグカップを二つ持って、笑いながら台所から出てきた。悠子さんにマグカップを一つ手渡した。


「な、なんのことだろうな~?」


 小夜さんと悠子さんも、椅子に腰かけた。お茶を二口三口飲んだ小夜さんが口を開いた。


「でも、本当に不思議ですね。お嬢様とは一週間くらい一緒にいたので、仲良くなっててもおかしくないんですけど。熱を出すほど嫌なことがあったのに。大人の私たちにまで……」


「お嬢様効果」律穂がボソッと呟いた。


「お嬢様効果~? どういうことだ~?」


「あの二人は、今回のごどでお嬢様に絶大な信頼を寄ぜだ。だぶん、お嬢様が親じぐじでいる人は、大丈夫っで認識じでる」


「なるほどな~」


「ふっ。適当に言っだ」律穂が鼻で笑った。


「な、なんだよ~。納得しちゃっただろ~」


「でででも、そうかもしれません。私も、お、お嬢様が仲良くしている人は良い人なんだろうなって思います。…………えっ? えっ? なんですか?」


 悠子さんの言葉を聞いて、みんなが悠子さんに顔を向けた。悠子さんは焦ってみんなの顔を見回している。


「説得力が……」


「……ないわね~」


 小夜さんの言葉のあとを、理恵が続けた。


「なな、なんでですか?」


「なんでですかってな~。菖蒲あやめがあれだけ仲良くしてる黒羽のことを、性格が悪いって言ってる悠子さんに言われてもな~」


「あっ! あああの人は例外です。お嬢様と仲良くなる前に、お嬢様と同時に、し、知り合ったので」


 俺が指摘すると、黒羽の存在を思い出したらしく、視線を泳がせた。


「じゃあ、菖蒲あやめと仲良くなってから、黒羽と知り合ってたら違ったのか~?」


「そそそれは……、わ、わかりません。だって、あの笑顔は……。あの作り笑顔は、よくないですよ。あ、で、でも、前よりは……、前ほど悪い人だとは思ってませんよ」


「そうなのか~?」


「や、やっぱり、お嬢様が楽しそうにしてるのを見ると、悪い人じゃないのかなって思ったりもしますし。そそ、それに……、私たちにも泣いて笑ってくれたから……」


「そんなことあったか~?」記憶になくて首をかしげた。


「は~、あったでしょう! も~! てつはあのとき、菖蒲あやめより泣いてたから、見てなかったのかもしれないけど」


「ああ。あはは。そうでしたね。てつさん、号泣してましたね」


「ふふふ」


 どうやら黒羽が学園へ出発した日の話らしい。理恵は呆れた顔をしている。小夜さんと悠子さんに笑われてしまった。


「あ、あの~~」


 出入り口に一護が立っていた。手にはジュースの容器を持っている。


「なんだ? どうした~?」


 声をかけると、中に入ってきた。手を差し出して、容器を受け取った。


「新しいジュースをもらえますか?」


 一護はおずおずと小さい声で言った。


「はは。いいぞ~。 お嬢様と一加に行ってこいって言われたのか? パシらされてるのか~?」


 台所から新しいジュースを持ってきて、手渡した。


「お嬢様はそんなこと言いません」


 一護は俺の目を見てそう言ったあと、視線をそらした。


「一加が……、一加がワガママだから。本当、こんなときばっかり、姉ぶって……。だいたいボクはそんなに飲んでないのに。いっぱい飲んだの一加なのに……」うつむいて、ぶつぶつと呟き出した。


「女の子二人の相手は大変ですか?」


 小夜さんが声をかけると、ハッとして顔を上げた。


「大変……だけど、二人とも、かわいいから。大丈夫です。ジュースありがとうございます。あんまり時間かけると、何言われるかわからないから、すぐ戻らないと!」


 一護は勢い良くおじぎをすると、駆けていった。


「あはは。お姉ちゃんのことも、かわいいだなんて。とっても良い子。いい姉弟ですね」


「え、ええ。い、良い子だと思います。あ、姉のこと、かわいいって思うなんて、す、素敵です」


(二人ともって、菖蒲あやめもってことだよな? それって……)


「ま、まさか……、菖蒲あやめのこ――」

てつ……」


 理恵が低い声を出した。俺のことをジトッとした目で見ている。


「姉と同列よ。あれはそういう意味よ。余計なこと言わないでね」


 最後にキッとにらまれた。隣で律穂がニヤニヤと笑っている。理恵のいかりをこれ以上買わないように、おとなしく口をつぐんだ。



「さてと」小夜さんが立ち上がった。


「そろそろ帰らないと」


「わわ、私も」


 小夜さんと悠子さんは、「お疲れ様です」と言って帰り支度をするために出ていった。律穂も、忠勝の仕事の様子を見てくると書斎に向かった。


 みんなのマグカップを洗い、理恵と夕食の準備に取りかかった。


(そういえば、一加と一護の好きな食べ物って……)


 前に聞いたときは、好きな食べ物も嫌いな食べ物もないと言っていた。今聞いたら、違う答えが返ってくるかもしれない。


(二人の好きな料理もの、作ってやりたいよな~)


 一加と一護の好きな料理ものを、夕食のときに聞いてみることにした。ある、と答えてもらえたら、明日の昼にでも作ってやろうと思う。普段だったら、献立が狂うと理恵がおこりそうだが、この件に関しては喜んで賛成してくれるだろう。

 二人が好きな料理ものを食べて、美味しいと顔をほころばせるところを想像しながら、フライパンを火にかけた。


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