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花菖蒲のほとり  作者: B星
第2章 ④ 本邸 10歳
84/351

 082. 初デート? 4/4 ― 失敗?(黒羽)


「は~、お腹いっぱい」


 昼食を済ませ、ゴミを片付けると、お嬢様は寝転がった。シャッターを切るとこちらを向いた。


「ちょっと、ここに横になってみて」隣をポンポンと叩いている。


「こうですか?」お嬢様にくっつくように横になった。


「これでカメラ構えてみて。こっち向けてね」


「こ、こんな感じですか?」


「そうそう。動かないでね」


 お嬢様は立ち上がると僕が持っているカメラのファインダーをのぞき込んだ。僕の手を掴んで位置を変えている。


「ここ。このまま動かさないで」


 そう言うと、お嬢様は素早く僕の隣に寝転がった。


「はい、撮って!」


 言われるがまま、シャッターを切った。


「どう? うまく撮れた? うーん、ズレちゃったね。やっぱり、難しいか」


 写真には、お嬢様と僕が、三対七くらいで写っていた。お嬢様の顔がほとんど切れてしまっている。ズレてしまったのは僕のせいだ。手を動かしてしまった自覚がある。お嬢様が隣に寝転がったとき、カメラを支える腕の中に入ってきた。肩に頭を乗せ、僕の頬にひたいを寄せた。カメラよりもそのことに気を取られてしまった。


「これから、どうしよっか」


「お散歩しながら、写真を撮りましょう」


「まだ撮るの?」


「もちろんです」


 お嬢様と公園内を散歩しながら、たくさん写真を撮った。途中、ベンチに座って休憩をしながら、くっついて景色を眺めたりした。


(うん。とってもいい感じ。もうちょっと散歩したら家に帰って、これはデートだったって伝えて。それから……)


「ふふ」思わず声がれてしまった。


「どうしたの?」


「なんでもありません。あ……、カメラにフィルムをセットしないと。もう少し休憩で」


 ベンチに座ってお喋りをしていた。フィルムが切れていたので、新しいものをセットした。十枚まで一度にセットしておける。


(あとは、ポケットに入れてた写真をファイルに入れて……)


 フィルムをセットするタイミングで、ポケットのケースに入れておいた写真をファイルに移していた。ファイルを取り出そうと思い、リュックの中をのぞき込んだ。見当たらなかった。


(う、嘘!? な、ない! なんで!? どこかで落とした!? お嬢様の写真が!)


「あ、菖蒲あやめ様。僕、ちょっと、トイレに……。長いかも。十分か二十分くらい。もっとかかるかも。戻ってくるので、ここで待っててください」


「うん。いいよ~。ごゆっくり~」


 写真のファイルをなくしてしまったことを、お嬢様に言えなかった。撮られることを嫌がっていた。その写真をなくしたと知られたら、怒ってしまうかもしれない。誰かに見られてしまうと、落ち込んでしまうかもしれない。楽しくデートをしていた。そんな終わり方はしたくなかった。


 来た道を走って戻った。リュックの中身を出し入れした場所を必死に思い返していた。


 見つからなかったら、どうしようかと思った。すぐに見つかった。拾ってくれていた。


 後ろから肩を掴まれた。


黒羽くろは、待で」


「り、律穂りつほさん……」


「ごれだろ? 落ぢでだ」ファイルを手渡された。


「あ、ありがとうございます。助かりました」


 ファイルを胸に抱きしめた。ホッとして、涙が出そうになった。


「もう、なぐざないように」


「はい。本当にありがとうございます」


「あれ? 律穂さん?」


 律穂さんの後方から声がした。よく知っている可愛らしい声が聞こえてきた。


「な、なんで、お嬢様が……。待っててって……」


 僕がお腹を壊したと思ったお嬢様は、リュックを持って追いかけてきてくれていた。近くのベンチで待っていようと思ったそうだ。ここは、お嬢様に待っていてと言ったベンチと一番近いトイレとの間だった。

 すれ違わなくて良かったが、見られたくないところを見られてしまった。



「なあんだ。そっかあ。ずっと、律穂さんがいたんだね」


 律穂さんと一緒にいるところを見られたあと、三人で本邸に帰ってきた。お嬢様の部屋でソファーに並んで座り、今日のことを説明していた。


 お嬢様と出かけるための条件が、律穂さんの同行だった。二人だけでは許してもらえなかった。でも、律穂さんは遠くで見守るだけで、お嬢様にはいることを教えなくてもよいと言われた。


「あ、あれ? ってことは、ほっぺにしてるところとか、見られてたんじゃ……。く、黒羽~! 黒羽!?」


「うぅ……」


「ど、どうしたの? なんで泣くの!?」


「今日は、お嬢様との初デートのはずだったのに。公園もきれいな場所とか調べたのに。服も新しいの着たのに。うまくいってたのに。どうして、僕は……」


 言わなくてもよいことを話していた。思わず言ってしまうほど悔しかった。僕がファイルをなくしさえしなければ、最後までうまくいっていた。


「で、デート?」


「はい。でも、失敗です。僕のせいで、律穂さんのことがバレてしまったので。二人きりじゃなくなったので……」


「デートかあ。まあ、言われてみれば、そうかも? でも、バレてもバレなくても、律穂さんはいたんでしょ? 最初から二人きりじゃないよね?」


「それでも、お嬢様が気づかなければ二人きりだったんです……」


「そ、そうなの?」


 うなずいた。ティッシュを取り、涙を拭いた。悔しくて、どんどん涙があふれてくる。


「黒羽……、そんなに泣かないで」


「うっ、うう……」


「……黒羽にとってデートって、二人きりが大事なの?」


「デートって、そういうものじゃないですか?」


「まあ、だいたいはそうだね。ダブルデートとかあるけど、それはまた別の話か」


 お嬢様が僕の近くにゴミ箱を置いてくれた。丸めたティッシュを捨て、新しいティッシュを取った。


「黒羽、お家デートって知ってる?」


「お家デート?」


「家でね、デートすることだよ。お部屋デートかな? 二人で、家でご飯食べたり、遊んだりするの。私と黒羽は、いっぱいお部屋デートしてるよね。私の部屋で二人きりで、お茶飲んだり本読んだりしてるし。お庭デートだってしてるよね」


 お嬢様は優しく背中をさすってくれている。


「それに、今日のだって失敗じゃないよ。とっても楽しかったよ。ちゃんとデートだったよ」


「ほ、本当ですか?」


「本当だよ! 景色もきれいだったし。近くの公園だけど、ちゃんと行ったのは初めてだったし。黒羽が調べてくれたから、いろいろ楽しめたんだよ。黒羽が一緒だったから、楽しかったんだよ」


 僕が顔を上げると、お嬢様はにこっと微笑んで褒めてくれた。


「それじゃ、キスしてください」


「な、なんで!?」お嬢様は体を少し引いた。


「デートの最後はキスです」


「そんな決まりはない!」


「お嬢様、お願い。そうじゃないと、この失敗を引きずってしまいます」


 ジッと見つめた。お嬢様は困ったような顔をしている。


「お嬢様……」


「わ、わかったよ」


 お嬢様はソファーから立ち上がると、僕の正面に立ち肩に手を置いた。


「失敗じゃないよ。大成功。とっても楽しかったよ」


 そう言って、頬にキスをしてくれた。お返しに僕からも頬にキスをした。

 本当は違うところにキスをしたかったが、あきらめた。もっといっぱい頬にキスをしたかったが、我慢した。ファイルをなくした自分への罰だ。


 それから、二人で写真の確認をした。お嬢様は全部回収と言ったが、そんなことをさせるわけがない。一枚も回収させなかった。


 翌朝、食事をとったあと、お嬢様にお洒落をするようにと言われ、よそ行きの格好をした。髪も簡単にセットした。お嬢様の部屋に連れていかれた。好きな服を選ぶように言われたので選んだ。お嬢様はその服を着ると、髪を結ってと僕にクシを手渡した。


 カメラを持って玄関に集合と指示された。自室に戻り、カメラを持ってから玄関に行くと、レジャーシートを持ったお嬢様と律穂さんが待っていた。律穂さんにカメラを使ってもいいかと聞かれたので、どうぞ、と手渡した。


 玄関を出て、家の前で写真を撮った。花壇の前でも撮った。庭のはずれに行くと、お嬢様がベンチにレジャーシートをかけた。その上に座った。それから、芝生の上にも敷いて座った。お嬢様とのツーショットの写真を何枚も撮った。芝生の上では二枚撮った。お嬢様が、私も欲しい、と言ったからだ。


 律穂さんにお礼を言うと、公園でのことを謝られた。律穂さんがついてきてくれたから出かけられた。ファイルを拾っておいてくれた。律穂さんが謝るようなことは何もない。感謝しかしていないと伝えた。

 普段の服に着替えてから、カメラを持って、お嬢様と家の中や庭を散歩した。


 ファイルには、デートの前に一度だけ試し撮りした肩叩き券の写真とお嬢様の写真がいっぱい、公園の景色の写真が少し、お嬢様と僕が一緒に写っているズレた写真が一枚差し込んであった。

 そこに、お嬢様とのツーショット写真が増えた。旦那様とみんなと、家の中や庭の写真も増えた。


 お嬢様との初デートの想い出と写真に、みんなと写真を撮ったこととその写真が加わった。お嬢様と一緒にみんなの写真を撮ったり、撮ってもらったりするのも、とても楽しかった。

 お嬢様が言ったとおり、デートは失敗ではなく大成功だったなと思った。


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