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花菖蒲のほとり  作者: B星
第1章 別邸 5歳、6歳
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◆011. この世界


 本棚には、『イモムシ』のぬいぐるみが仲間に加わっていた。デフォルメされててかわいい『イモムシ』だ。

 父のお手製のスカーフもちゃんとしている。購入したスカーフなのかと思っていたが、スカーフも布から仕立てていた。


 六歳の誕生日は、父と大地だいちたちと一緒にお祝いした。


 父から受け取ったプレゼントの袋を、みんなの前で開けたら『イモムシ』が出てきた。


 大地が「なんで、イモムシ…、くぅくくく…」と笑い出したが、父が「明日が楽しみだな」と言うとピタッと止まった。

 翌日、出先から戻った大地が、いつもより傷だらけだったのは気のせいだろう。




 カンッ!

 カアァァンッ!


 裏庭で、大地と隼人はやとが木刀で打ち合っている。私はそれを木の柵の上に座って見学していた。

 裏庭の一部は馬や牛を放牧できるようになっている。二百メートルのトラックが一つか二つくらい入りそうな広さがあり、回りをグルッと木の柵で囲んである。内側は、一面芝生だ。


「なんでっ、あんなにっ、強いんだよっ!」


「知りませんよっ!」



 父は領主で男爵だと聞いてから、この世の中や湖月こげつ家のこと、みんなのことを聞ける範囲で聞いた。談話室に置いてある新聞を読んでみたり、買い物に連れていってもらったときに本屋で調べてみたりした。


 この世界は、前世の未来で日本なんだろうと思っていた。日本語で暦もほとんど一緒だったから。でも、未来ではない。


 水道や下水の設備、洗濯機や冷蔵庫などの家電、前世の記憶とほぼ同じだ。でも、車は普及されていない。移動の基本は馬車か馬だ。鉄道はあるが、まだ実物を見たことはない。また、通信手段は手紙か電話くらいだ。

 前世とは、発展の仕方がデコボコしている。なぜコレがあってアレがない、と思うこともしばしばある。


 この時点では、『平行世界』、パラレルワールドと思った。でも、至った結論は『異世界』だ。


 この世界の人類は、『氣力きりょく』が使える。『氣力きりょく』と言っても、やる気などのことではない。

 魔法が使えるのかと思って喜んだが、想像したようなものではなかった。


(気功? うーん、体内電気?)


 屋敷の周りにも、町にも、電線路がない。地下に、電話線は通っているが、電線は通っていない。電池やバッテリー、発電機と『氣力きりょく』で電化製品を動かしている。基本、『氣力きりょく』で動かし、発電機等は補助的な役割をしている。

 電化製品は、『氣力きりょく』を蓄電できるものと、『氣力きりょく』を流しながら使用するものがある。例えば、洗濯機は必要な分だけ蓄電してから、ドライヤーは流しながら使用する。


 その他にも『氣力きりょく』は色々使われているし、弊害もある。『氣力きりょく』を生活などに使用するとガスのようなものが発生しまる。それを散らさなければならない。散らすためにも『氣力きりょく』を使用する。堂々巡りのような気がするが、千使ったまりを一で散らすような感じなので問題はない。


(平行世界では新人類が誕生していた! も捨てがたかったけど……)


 もう一つ、決定的な違いがあった。地図が違った。日本列島ではなく、オーストラリア大陸みたいな形をしていた。


(大陸移動したのかもしれない。これほどの変化となると、人間は一度滅びたかもしれない。ってなると、新人類の可能せ――)



「お嬢様は、強い人が好きですか?」


 隣で木の柵に寄りかかりながら、一緒に見学していた黒羽くろはが質問してきた。


「強くなくちゃダメとは思わないけど。強かったら、守ってくれそうでいいよね」


 練習のかいあって、私の舌足らずはかなり改善した。今では、よく喋るおませな女の子だ。


 黒羽は大地にゲンコツをされてから、仕事や家庭教師以外のときでも、大地や隼人とよく話すようになった。以前よりも親しく、というより遠慮がなくなり、今では「大地」「隼人」と呼び捨てにしている。


(私はみんなのこと『さん』付けだと言いにくくて、最初から呼び捨てにしちゃったな)


 髪の毛を結うのも上手になった。喧嘩の原因になった髪型も、今ではお手のものだ。

 隼人が私の髪の毛を編み込むのを見ながら、黒羽が隼人の髪の毛を同じように編み込む練習をした。手順を覚えたあとは、ひたすら隼人の髪の毛で練習していた。


(今でもたまにやってるけど。隼人の髪の毛を、一生懸命結っている黒羽はかわいいんだよなあ)


「ふふっ」思わず笑みがこぼれてしまう。


「どうかしましたか?」


「黒羽は、努力のできるいいこだなと思って」


 見上げてきた黒羽の頭をグシャグシャとなでた。グシャグシャされているのに、黒羽は嬉しそうに目を細めて、されるがままだ。


(この顔、かわいいな)



 爵位についても調べた。

 爵位と聞いて『貴族』かと思ったが『華族かぞく』だった。爵位は五等級で、順番は公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵だった。父は男爵なので、華族としては下だ。


(それでもすごいけどね)


 爵位がどのような基準でさずけられているかは、面倒なので調べていない。とりあえず、家に対して与えられている。襲位は主に男性がしているようだ。


(私は女だけどどうなるんだろ? っていうか、私はどこかに嫁ぐのかな? 婿をとるのかな?)


 父の父母、私にとっての祖父母はもう亡くなっている。父には弟がいるらしいが、遠くに暮らしていてほとんど会うことはないらしい。

 母方については、大きくなってからと教えてもらえなかった。

 どちらについても、父はあまり話したくはなさそうだった。


 今住んでいるこの屋敷は、本邸ではなく別邸だった。父は本邸に通って仕事をしている。



 カンッ!

 ガン、ゴッ!


「ぐっ」隼人が木刀を横にして、大地の木刀を受け止めている。


「ははっ! どうした? どんどん弱くなってるんじゃないか!?」


「べ、別に強くなろうとしてませんからっ!」



 私は六歳だが、来年になったら小学校に通うわけではない。ここでは、十六歳になる年から、二年間か三年間、学園で寮生活をする。それまでは、家庭教師をつけたり、学習学校に通って学ぶそうた。学校といっても、義務教育ではなく塾のようなものだ。


 ちなみに成人年齢は十八歳。飲酒や喫煙の年齢制限はない。ただ、夜のパーティーや酒場などの出入りは成人してからになっている。なので、なんとなく成人してから、堂々とお酒を飲んだり、喫煙するようになる。ほとんどの人が、自宅などでは成人前から楽しんでいるが。


 大地は、学園で三年間過ごした。その後、「自分探しってやつ」でフラフラしていたときに、『鬼神きしん』のところで働けると聞いて飛びついたと言っていた。


 『鬼神』とは、父のことだ。学生時代の二つ名らしい。剣術部と体術部で伝説になっていて、剣術部だった大地の憧れだそうだ。


 大地は、定期的にどこかへ稽古に出かけ、たまに本邸で父に稽古をつけてもらっている。誕生日の後の父の稽古は、一段とハードだったようだ。


「大地は、騎士団に入りたいの?」


 騎士団は、町の治安を守ったり、『氣力きりょく』を使用する弊害の対応をしている。警察、消防、自衛隊が一緒くたになったようなものだ。


 大地が所属していた剣術部の人たちはほとんどが入団を目指すらしい。今も稽古をしているので、そう聞いた。大地の返事は、さあね、だった。


 そんな大地と押し負けながらも打ち合えている隼人も剣術部だった。大地の一つ下の後輩だ。将来について悩んでいた隼人を、大地が引っ張ってきたんだそうだ。


 二人は、やりたいことが見つかるまで、腰かけ前提の『使用人もどき』だ。


 黒羽は、湖月こげつ家の副業の一環で、ここにいる。


 学園への入学は半強制だが、無料ではない。授業料、家賃、生活費などが必要だ。

 経済的に難しい人は、国から融資を受けられる援助制度がある。これにより、放棄しない限りは入学できる。でも、融資額には上限があり、返済が必要だ。


 そこで一部の華族が、学資の援助を名乗り出た。国が、それを援助制度の一部とし、事業の一つと認めた。しかし、援助の仕方は決められていない。援助する華族次第のため、たまに問題になったりもする。


 収入源には、ほとんどならないらしいが、国に届け出るので手柄にはなる。手柄をあげれば、爵位が格上げされることもある。


 黒羽は、孤児院から引き取られてきた。湖月こげつ家が援助する人、第一号だ。使用人の仕事を手伝いながら、学園生活に向けて準備をしているらしい。



「俺の勝ちだな!」


 大地がトドメと言わんばかりに木刀を振り上げた。


 大地の木刀の重みから解放された隼人は、一瞬の隙をつき、しゃがみこんで大地の足を払った。大地はそれに気づいたが引っかかり、転びはしなかったがよろめいた。


「うわっ、とと」


「動作が無駄に大きくなってましたよ」


 隼人の木刀が、大地の喉元をとらえていた。勝負あり、だ。今日は珍しく隼人の勝利だ。


「あー、しんどい」


 隼人が両手を腰にあてて、前方に少し上半身を倒し、「は~~」と息をいた。


「じじいか」


「大地さんみたいな体力バカと、一緒にしないでください」


 黒羽と一緒に、二人に駆け寄った。


「お疲れ様でした」


 黒羽が、ヤカンからコップに水を注いで配った。私はタオルを二人に渡した。


「今日は隼人が勝ったね。おめでとう」


「ありがとうございます。私で憂さ晴らししようとするから、負けるんですよ」


「あー、あぢぃ。憂さ晴らしじゃない、怠けきってる隼人を鍛えてやってるだけだ」


「別に怠けているわけじゃないんですけど」


 大地が、コップの水をゴクゴクと一気に飲み干した。


「今日は、涼しいと思ったけど、動くと暑いな」


 七月上旬だが、今日はわりと涼しい。風も吹いている。

 十五時から準備運動や肩慣らしを含め、一時間ほど打ち合っていた。二人ともあごから流れ落ちるほどの汗をかいている。


「あー、風呂入りたい。まだ早いけど、風呂にするか」


 大地がこちらを見た。


「どうぞ、お入りください」


「お嬢様も一緒に」


「やだ、まだ早いし」


「でも俺、今入ったら、また入るの面倒くさい。一緒に入っちゃおうぜ」


「ひとりで入れるから大丈夫」


「そんなこと言うなよ~」


 私が被っていた帽子を取り上げ、黒羽の頭に置いた。「な、お嬢様」と言いながら、私を後ろから抱き上げ、頬ずりしてきた。大地の流れる汗が、私の頬についた。


「ちょ、うわ、やめ、やめてー!」


 腕の中で暴れるが、頬ずりは止まらない。


「だいたい、なんで隼人のときだけおめでとうなんだよ。俺のときはないのに」


「あー! バカ大地! お嬢様がけがれる、やめろ!」


「なんだ、黒羽もやってほしいのか」


 大地は黒羽と肩を組み、引き寄せ、頬をなすりつけた。


「やめろ! 汚い! 離れろー!」


「遠慮するなよ」


 黒羽は抵抗しているが、大地の腕からは逃れられない。私と黒羽の悲鳴がこだました。近隣に家がなくて良かった。


「やれやれ」


 隼人は黒羽の頭から落ちた帽子を拾い上げた。私たちを眺めながら水を飲み、パタパタと帽子であおいでいた。


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