第4話 おわりを貫く拳
天の魔法……
その力は未だ知れず、その真意すら知れず
だが、その力、まさしく"天"の名に相応しい
世界には、二つの力が在る。
その力は、双方共に、世界を遥かに逸脱している。振るわれる時、それこそ世界が一瞬で消滅する程の……
で、だ。その力は普段どこに有るのか?
「無双……解放……! 見せてやるよ、あんたに────世界を超えた力ってヤツを……」
『ならばこちらも、小手調べでは無く、正真正銘の天の魔法をご披露致しましょう!』
シエルは自身の今立つ壊れた建物内で全身から黒い流れを強く表出させながら風と炎を更に強く表出させる。爆発を伴う属性の魔力放出は壊れた建物を完全に消し飛ばし、海斗諸共巻き込む。
だがそれを物ともせずに放たれる風と炎を容易に躱すと、海斗は一歩踏み込んでその場から消える。白髪の魔女は間髪入れず右手を目の前に翳すと、光の刃が高速で伸びていく。
突然光の刃の横に現れた海斗が拳を構えると、シエルが素早く一度だけ地面を足踏みする。すると即座にその場で全長50mの剣山が彼女の周囲に発生した。
海斗がそれを躊躇う事無く殴ると、砕けた剣山の中からシエルが消えており、代わりに自身の周囲に水の飛沫が広がっている事に気付く。
何故突如海斗の周囲に水飛沫が広がってるのかは察するに容易い。シエルは海斗の全方位を更に球体状にした闇と炎で囲い、逃げ場を完全に無くしつつ水飛沫を鋭く尖らせて内側へと一気に飛ばす。
序でに囲いの闇と炎を一気に圧縮して中で海斗を押し潰す。圧縮された闇と炎はこれ以上の圧縮に耐えきれないと爆発を伴って炸裂し、残る建物を巻き込んだ。
不気味に微笑む白髪の魔女が真白な歯を見せびらかす様に笑おうとした瞬間、彼女視線が勝手に真上を向いた。如何言う事か把握しようと思考を巡らせた瞬間、脳内が急に地震でも起こったかの如く、歪みが悉くに発生した。
これは一体、何が起こってる?
「目標回数、1京発……」
瞬間、シエルの視界は乱れに乱れ、歪みに歪み始めた。一体何が起こってる? 私は何をしている? されている? 体が、思うように動かない……
そして徐々に気付き始める、自らの肉体が無尽蔵の強固な一撃で打たれている事に。
海斗の動きは速い、とにかく速い。余りにも速過ぎる動作で、海斗が何人にも分身してるのではと錯覚する程だ。
そして強い、何より強い。繰り出す一撃一撃全てが最強の魔女であるシエルの体を確実に破壊していく。
「9999兆9999億9999万9999、からの────」
一瞬で兆を超える拳の乱打、その計り知れぬ膂力で瞬く間にシエルを上空1万mまで打ち上げ、同時に……
「1京ッ!!!」
渾身の蹴りで真下の地面へと叩き落とす。この間、僅か1秒の出来事である。
海斗が蹴りを放つと同時にシエルの体は地面に直撃し、噴煙を巻き上げて喀血する。余りにも海斗の攻撃が速過ぎた為に、シエルの肉体は遅れて一挙に押し寄せる壮絶なる激痛に喘いだ。
『ぐぉッがァァァァァ!!? オェッゲェェェ!!?』
体の痛みは脳にそのまま余す事無く伝達され、悶え苦しむも如何にもならない想像を絶する激痛がシエルの全身を強襲する。その様を見下ろしながら静かに着地し、海斗は全身から吹き荒ぶ強風をそのままにしてゆっくりと歩き出す。
『一体何が……一体何が……』
「あんた程度じゃ捉えられねぇよ。この速さ、既に世界を超えているからな」
圧倒的膂力、決定的実力、絶対的戦力。刹那で決着する力、無双。まさか、最強と思われていた魔女が、こうも簡単に倒されるとは……
「さぁ、もう諦めろ」
海斗がシエルの前に立ち、自らと相手の実力差を示した。その時……
「なに?」
最悪の奇跡が起こった。
『はぁ……はぁ……ふぅ────』
瞬きをした時、海斗の目の前からシエルが消え去った。否、消えてなどいない。いつの間にか海斗の背後に回っていた。しかし海斗はまだ無双を解いてない! 常時発動状態だと言うのにも関わらず……
「あんた、今何をした……?」
『何を? これは異な事を。私は普通に移動して、貴方の背中を取ったまでです』
「ふざけんなよ? 俺は世界を超えた力を出している。この世界に速さで勝る奴は居ない筈なんだ、なのに何故、あんたは簡単に俺の背後に居る? 答えろ!」
『そこまで知りたいですか? ならその前に、私の"もう一つの名前"をお教えしましょう』
かつて敗れた幻真も似た様子だったが、それを海斗も霊乃も知らない。が、シエル・アルカンジュは知っている。相手の出した全力を丸々上回った時には決してこの時、彼女は気紛れな風で物事を口にしない。
だが、逆に自らを超えてくる可能性の有る相手には、一種の敬意を評して、天の魔女シエルはもう一つの名を明かす。
それは、彼女の魔法の隠された力。この魔法を使う時、それこそ世界の掌握が真に叶う。
『私の名は天の魔女、シエル・アルカンジュ。またの名を……
時の魔女、クロノス・ルーラー』
「時の魔女……クロノス!?」
『この名を明かしたのは、実に1000年振りです。私以外、この名を知るのは貴方のみ。他の魔女にも教えてないのです』
直後、海斗の背を強く重い途轍もない衝撃が襲い掛かった。今まで受けた攻撃の中でもかなり上位に食い込む程の威力を誇る。表現するのは難しい……ただ、説明の出来ない理解不能の一撃。
『そして、時の魔法を軽く応用した結果生まれた破壊の副産物。いわゆる、タイムパラドックスとはこうして起こる物なのだ、と、体感出来るモノ。敢えて名前を付けるなら、時砲でしょうか』
シエル、否、クロノスは左手を海斗に突き出したまま要らない説明を淡々と続ける。だが、時砲……こればかりはそう何度も受けていられない。今の一撃をくらった事で無双が消失してしまった。
再度無双に入るには少しでも集中出来る時間が欲しい。だが、クロノスはそれをさせてはくれないだろう。何故なら……
「ぐあぁぁッ!!?」
四方八方から見えない攻撃がやって来ているからだ。先ほどの時砲には届かないまでも、海斗を怯ませるには十二分の威力が込められている。それが数を以って更に攻めてくる。
『それそれそれぇ!!!』
クロノスは身を固めて防御する海斗に目掛けて更に攻撃を放つ。片手を突き出しているだけで彼の肉体を全方位から痛めつけられる天の魔法、攻撃手の一つ、その名も……
『【天使の羽毛】……』
迚も天使と言う名に似つかわしくない程熾烈で苛烈な攻撃。見た目としては周囲の空気を高速射出する技のようだ。海斗が攻められないのを良い事に、彼女は一瞬で海斗の目の前に現れ、防御の中に手を滑り込ませて彼の頬に直接触れた瞬間、見えない攻撃が海斗の頬を直撃する。
斜め上に打ち上がる海斗の体を更に激化した攻撃で追い詰める。その一瞬、攻撃が止んだと思ったら、いつの間にか体に火炎が纏わり付き、顔に水が覆い被さり、大木の枝が動きを封じていた。
続いて枝が海斗の体を開き、防御の薄い腹部に光と闇の矢と槍が百数個、一斉に飛来する。
「ぐがァァァッ!!?」
一方その頃、少女霊乃は、座り込んで"観ていた"。目の前で繰り広げられる壮絶な闘いを、"観ている"事しか出来なかった。あの中に混じる事が出来ない、それどころか、足手纏いになる事しか想像出来ないのだ。
「私は……私は……」
私は、何をしに来たのか? 最初に何と言っていた? この体たらくで、何が……何が────
「私に、この世界を救う事は……」
「──ばッッッ!!!?」
その時、海斗の腹部にクロノスのあの技、時砲が直撃する。霊乃の目にも海斗が顔を覆う水の中で吐血する姿が見えた。体は焼かれ、呼吸も碌に出来ず、身動きが執れない中で、更に見えない攻撃と光景が一瞬歪む一撃。
同時に何度か海斗の目に映らぬ攻撃や仕掛けがあるが、それ等は恐らく時の魔法とやらなのだろう。だがあの技、時砲は、見える攻撃。だが、避けられない。避ける事をさせてもらえないからだ。
そんな海斗が大変な状況で、何故自分は何もしないでいる?
〈ねぇ霊乃。キミは何をしてるの? 何の為にここに居るの?〉
パシェットが霊乃の服を引っ張って緊張感無く問い掛ける。この状況下で、呆けている霊乃に、問い掛ける。そして直後、霊乃の頭の中に声がした。
(霊乃、何やってんだ?)
「師匠……? この声は、師匠?」
(なぁ霊乃、人って何で生きてるか、わかるか?)
「それは、難しいです……」
(じゃあさ、俺達って何で生きてるんだっけ?)
「それは、救い無き世界を救う為です! あ────」
(そうだよな。もう俺は居ない、色々散々好き勝手やり尽くして消えちまったからな。だからお前に押し付けるようで悪いと思ってるんだ)
「師匠……」
(でもさ、俺はお前しか居ないとも思ってるんだ。あの優とか言う奴は俺もさっぱりわからない。だがそいつが連れて来た、この世界の脅威に立ち向かう為に。それはつまり、お前が適任だったって事なんだろう)
「それは、どうなんでしょうか……私は、まだ私の実力が信じられません。この期に及んでかもしれませんが、正真正銘の強さです。魔女の人々は確実に私達より強い。だからこそ協力して闘わなくちゃいけないのに、私は、動けないんです……! この足が、惨めで情けない心が、物怖じして動けないんです!」
(なーにが動けないんです、だ。勇気出せよ、いつもの悪は絶対許さない精神はどうした? 相手は操られてるんだろう? その操ってる大元を早く何とかしないといけないんじゃないのか?)
「それはその通りです……」
(ったく、しょうがないな。じゃあ教えてやる、身勝手に消えたどうしようも無い師匠からの言葉だ。
人を助けるのは勇気と精神、それと一つのキッカケだ。助けると言う行為は簡潔に言うと"自己犠牲"から来るものだ。自分なんてどうなったって良いって言う、捨て身の覚悟。だが、ただ捨て身をするだけなら誰でも出来る。自己犠牲ってのは、正しくは自分の身を犠牲にして、何かを絶対に守る、助ける、救うって言うのを完遂する『信念』だ。お前に、その『信念』が有るか?)
「それは……それは……!」
(それで良い、さぁ行け。君咲 霊乃)
「────はい!」
その瞬間、霊乃の目が変わった。
ここで怖気付いてる暇など無い、この『信念』が有る限り、私は立ち続ける。何が何でも!
立て、立て、立て、立て、立て、立て、立て、立て、立て、立て! 立て! 立て! 立て! 立て! 立て! 立て! 立て! 立て! 立て! 立て! 立て! 立て! 立て! ……そして、闘え!!!
「うぅわあああああああああああああああーーーーーッッッ!!!」
張り裂けんばかりの雄叫びを上げて、少女は駆け抜ける。勿論目標は、天の魔女シエル。否、時の魔女クロノス!
霊乃の雄叫びに気付いてクロノスが声の方向に振り向いた瞬間、彼女の顔面に小さな拳が減り込む。骨を折る程度で収まる一撃だが、海斗から引き離す事は出来た。
直後、霊乃の体を理解不能の一撃が強襲する。その余りの威力に吐血、流血、鼻血の三連血流が発生した。しかもこの一撃、かなり複雑な構造になっている。
霊乃の能力は、『知を以て武を制する』事にある。知識に組み込む事でその力を制し、ダメージを無効化する事が可能になる。だがクロノスの一撃、時砲は、とても彼女には、否、並大抵の種族には到底知識が及ばない構造になっている。
故に、この攻撃だけは霊乃は無防備にならざるを得ない。
だがそれで良い、寧ろ構わない。気にする事は無い。自分がやるべき事は、海斗を勝たせる事。
唯一クロノスに勝る事が出来るとするならば、彼を置いて他に居ない。彼の持つ"無双"がこそ、天の魔女を、時の魔女を超える唯一無二の方法。
だからこそ、今だけは海斗には、触れさせない!
「ぬッぐぅ……うぅぅぁぁぁぁぁぁああああッ!!!」
『くッ!? この……!』
反撃しようとする霊乃へクロノスが容赦無く攻撃を仕掛ける。見えない攻撃は容易に霊乃を突き放し、時折放たれる時砲は彼女の肉体を着実に破壊していく。だがそれでも、止まらない、止まれない、止まるワケにはいかない。
彼女の『信念』が今、何よりも熱く燃えているから!
「うあああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーッッッッ!!!!!」
霊乃の気迫に一瞬怯んだクロノスは、少女の渾身の右拳の一打をくらった。しかしクロノスは鼻血を出しながらも霊乃の顔面に左手、次に右手を最初の左手に重ね、両手から時砲を放った。
『【時砲】ッ……!!!』
少し強めに撃った時砲は、霊乃の顔面と体を吹き飛ばす。その瞬間、クロノスの顔面にもう一打の拳が減り込んだ。超音速で殴り飛ばされながらクロノスが見た姿は、青空のような澄んだ目をした男だった。
海斗。遂に無双を再び解放する事が出来たようだ。それもこれも、全て霊乃がクロノスを引き離してくれたおかげだ。全身からは微風が吹き、体の傷は消え、纏わりつく火炎や枝、顔に覆い被さる水、刺さった矢や槍は全て消し飛んだ。
「悪いな、一応手加減したんだがよ」
「か、海斗さん……」
「よぉ、手間掛けさせたな。やるぞ、二人で」
「はい……頑張ります!」
覚束なくなりつつある霊乃の足元も、海斗を前にして奮い立つ。あともう一押し、その域までクロノスを追い詰める事が出来ているのだから。
数々の建物を貫通して、クロノスは止まった。折れた鼻を無理矢理戻して立ち上がると、一瞬で目の前まで移動して来た海斗と霊乃の強襲に遭う。拳を構える海斗と御幣を剣にして振り被る霊乃が同時に攻撃して来たので、止む無くクロノスは両手で防ぎ、また吹き飛ばされた。
「『夢想霊砲』ォォォ!!!」
霊乃が両手を近づけて腰辺りでエネルギーを溜めると、それを即座に前に突き出して七色の超極大光砲を放った。距離を重ねれば重ねる程範囲を広げる七色光砲は、瞬く間にクロノスの目前まで迫る。
だが静止したクロノスが右手を払い除けるように横に振った瞬間、七色に光り輝く光砲は簡単に威力を相殺されて消失した。ところが上空から一発の弾丸が飛来する。
躱して見上げると、海斗が指を銃の形にして構えていた。すると次々と海斗の指から超高速螺旋回転を帯びた弾が降り注ぐ。
『無駄です』
瞬間、霊乃が、海斗が、世界が、全てが止まった。これが時の魔女、クロノスの魔法。時間の加速、遅延、停止、逆行を可能とする最強の魔法。この時間の止まった世界で、彼女に敵う者は誰一人……
『フフフフフ……ん、な、なに!?』
誰一人、居ない筈だった。ただ一人を除いて────
「やっと介入出来たよ、時の世界に。やっぱ凄いぜ、『終焉』は! "無双"は!」
彼女しか居ない時の止まった世界に、海斗が居た。そして海斗が居ると言う事は、彼の放った攻撃も当然ながら介入して来る。
『ヴゥッ!!?』
体の全体に弾丸が何発も撃ち込まれ、その全てがクロノスの体を貫通する。その反動で時間停止が強制終了し、直ぐ様海斗と霊乃が接近して拳や足、剣での高速連続攻撃を繰り出す。
クロノスも持ち前の精神力で痛みを無視して迫る二人の攻撃を両の手を使って捌く。
だが強力な攻撃を何度かくらい、ダメージが蓄積しつつある為、クロノスもさすがに長く攻撃を凌ぐ事が難しくなっていた。そして遂に攻撃の捌き手が遅れ、霊乃が御幣剣で斬り掛かる時、止むを得ず時間を止めて霊乃を止めた。
しかしまだ海斗が攻撃を続ける。止まった霊乃の分まで速度を上げて攻める。
『くッ……この、痴れ者がァ!!!』
クロノスが怒号を放った直後、海斗が止まった。この直前、この土壇場で、まさかのクロノスの時間停止が海斗を上回ったのだ。この好機を逃さず、クロノスは右手を霊乃、左手を海斗に向けて、今までで最大の時砲を放つ!
『【時……砲】ッッッッ!!!』
時砲は停止の終了と同時に放たれ、海斗と霊乃は無抵抗の状態でお弾きのように勢い良く弾き飛んだ。しかし、クロノスもダメージの蓄積と最大の時砲で体力を大幅に消耗した。
でもこれで二人ももう起き上がらないだろうと、クロノスは安堵をして地面にゆっくり降りた。
ところが────
「気を抜くだなんて、随分と腑抜けてんじゃねぇのか? クロノス・ルーラー」
『き、貴様……!? まだ!』
安心しきっていたクロノスの目の前に、海斗が立ちはだかった。だが、霊乃の姿は見えない。隠れている気配も、視線すらも無い……つまり、今この場にはクロノスと海斗の二人しか居ない事になる。
「決着、つけるぞ」
『えぇ、望むところです』
途端に静寂が訪れた。二人に残る体力から察して、文字通り決着は一撃のみ。
クロノスの一撃は無論、時砲。だが海斗は? ただ無双で強化された拳で殴るだけか?
否、それは違う。今の彼なら、きっと打てる一撃がある。彼の持つ能力"回転"と、継承した世界の力『終焉』の持つ"無双"が融合した奇跡の一撃が……
間も無く無くなる静寂、今がその時────!
「うぅぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーッッッッ!!!!!」
『はぁぁぁぁぁぁあああああああああああーーーーーッッッッ!!!!!』
踏み込んだ一瞬、クロノスが時間を止める。当然、海斗も動きを止めて、クロノスだけが動く。右手と左手を合わせ、全身全霊を以って海斗の体に撃ち込む。
『これで終わりですッ!!!』
「────あぁ、終わりだな。お前がッ!」
今再び時間を超えた海斗。次の瞬間、海斗は姿勢を低くしてクロノスの両手を潜り、無防備の腹部へと右の拳を打ち込み、捻り込む。重ねた両手が解かれ、クロノスの口から血が吐き出された。
だがまだ終わらない。この程度では決着にならない。海斗は拳に更なる力を込めて突き出し、無双の膂力全てを右拳に込めた。そして、残る全身の力をも右拳に委ね、後は出来る精一杯の心だけで拳を押し込む。
すると、その瞬間奇跡が起こった。
「……ここは────」
海斗は、巨大な雲の上を足場に立っていた。流れる雲、青い空、そして、目の前には無傷のクロノス・ルーラーが立っていた。
「ようこそいらっしゃいませ。私はシエル・アルカンジュ、その心です。真の私とでも言いましょうか」
「なるほど、じゃあ俺は成功したんだな」
「成功? 何にですか?」
「『無双輪廻』って言う、新しい技だ。以前有った『流天の無双』からヒントを得て思い付いたんだ。成功するとどうなるかわからないが、とにかく自分の目指した領域まで到達出来る。それが叶ったんだ」
「凄い技ですね! さすが私を倒したお方です!」
「そうでも無いさ。それに、あんたも凄く強かった。まさか無双が劣るとはな……俺も全然修行が足りないみたいだ」
「いいえ、確かに貴方は強い。天の魔女の私が言うのですから、胸を張ってください」
「あぁ。ところで、あんた一体誰に操られてるんだ?」
「それが、全く。ですが、非常に邪悪で黒い気配を持つので、近づけば直ぐわかるかと……」
「黒い気配か」
「お願いします! 残りの6人も助けてください! 今もまだ呪いに苦しんでいる筈です。しかも、呪いから解放しても、黒い気配の支配が貴方達を苦しめるでしょう……ですが、貴方なら、きっと成せる筈です! お願いします、どうか! どうか!」
「安心しろ。あんたも、他の6人も、必ず助け出す! 約束だ!」
この言葉を最後に、海斗は元の世界に戻った。気付いた時、全身を使った正拳突きの構えで佇み、背後に白髪の魔女シエルがうつ伏せで倒れていた。構えを解いた海斗はシエルを抱え上げ、霊乃が落ちた場所まで一瞬で到着する。
霊乃は、大の字の姿で倒れ、肩で息をしていた。ふと顔を少し上げて海斗を見つけると、抱えてるシエルの姿を見て、傷と血に塗れた手で親指を立ててサムズアップ、笑顔で海斗の勝利を喜んだ。
「やりましたね……!」
「あぁ!」
────────────────
一方で、幻真が入れ替わった後まで戻る。活躍とアルマと幻真の三人は、目的の場所まで到着していた。勿論の事ながら、この幻真を除いた二人も驚く事になった。
「おいおい何だこりゃ、こりゃまるで……」
「まるで巨○兵の卵みたいだな」
「やめろアルマ、そんなふざけた状態じゃないんだ。良いからさっさと割るぞ」
三人は目の前に転がる光り輝く巨大な球体を割る事にした。
続く……
ア「桃から元気な────」
幻「だからやめろ」
活「お前もしつこい奴だなアルマ、もうちっと真剣にやれよ」
ア「うぃーっす……」
また次回