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第3話 つよき"天"の魔法使い

最初の敵、"天"の魔女


世界を意味する天の魔法。その強さ、如何に……

 "天"。それは我々の住む世界の空、或いは世界そのものを指す。


 全知全能、は少し言い過ぎかもしれない。だが、その力は文字通りに世界を掌握する事が出来る。天の魔法は、7つの属性の中で、最も強い。


『私の力、篤とお見せしましょう! まずは小手調べ』


 シエルは鋭い目付きでしなやかな両手を頭上に振り上げ、(ムチ)のように前方に突き出す。動作と同時に両掌(りょうてのひら)から(とて)も強風とは形容し難いそれ以上の突風が霊乃と幻真に直撃する。


 ただの強風ならまだしも、強風を遥かに凌ぐ強風……そう、例えば、例えるなら、それは水素爆弾の如く、いや寧ろそれ以上! その風力……否、威力、実に水素爆弾の100倍!


「くッ……こ、の……風、は! 一体ぃッ!? 強、過ぎ……る!!!」


「お、れにぃ……! 掴ま、れぇ!! 『幻重結界』!」


 推定範疇だが、水素爆弾100倍の風を正面から受け、霊乃と幻真は地面に足を付けたまま300mも一瞬で離された。全力で踏ん張って耐えているが、余りに風が強過ぎた為に最初の一波で霊乃の巫女服の袖とスカートの一部、幻真はシャツをビリビリに裂かれて上半身が裸になる始末。


 ギリギリで耐えながら幻真は見えない結界を自身と霊乃の前に大きく展開した。ひとまずこれで風を凌げる。かと思われたが────


「よし、これで……なッ!? ふざけてんのかコレ!!」


 幻真は思わず怒りを表に出してぶつける。幻真の展開した結界は、物理攻撃、魔法攻撃を防ぐ丈夫な防壁。その強度は自慢に値するほど頑丈に出来ている筈なのだが……


 結界は、シエルの放つ風で音を立てて粉々に割れていくではないか……


「何だよ!? 一体何だってんだこの風! この結界がこんな簡単に壊れるとか、ふざけんなッ!!」


「手も足も出ない……一体どうしたら!?」


〈全く、本当にぬいぐるみ遣いが荒いよね〉


 幻真が守る術を無くし、霊乃が焦燥している時、霊乃の背後からパシェットがいきなり飛び出してきた。結界の完全崩壊の直後にパシェットは背中から透明の防壁を目の前に設置し、風を再び防ぐ事に成功した。

 この瞬間を逃さずに幻真は今しか無いと全身に力を込め出した。


「一気に加速(アクセル)する! 最初から全開だァッ!」


 全身から噴き上がる強風は赤色と金色のオーラに変わり、頭髪すらも赤く変色する。加速する奔流の力、これぞアクセル! その名も、モード4!


「アクセルモード(フォー)!!!」


 完遂された加速で防壁の外に飛び出し、猛然とシエルの方へと駆け抜ける。重厚な建物を紙吹雪が如く吹き飛ばす風を幻真は物ともせず突っ込んで行く。

 しかし、その勢いも200mを進んだ辺りから徐々に、着実に弱まっていった。モード4でもダメなのか、どれだけふざけてる……


「だったら……アクセルモード、(ファイブ)だァァァァァ!!! うゥゥゥゥォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーッッッ!!!!!」


 渾身で踏み込む幻真から噴き上がるオーラが巨大化し、雄叫びと共に更に巨大化する。再度駆け出す事が出来たが、最初よりスピードが体に乗らず、50mを切り始めてから再び減速をし出した。


「ぬッッッグゥッ! ズッツ! くぅゥゥ!!! オオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」


 最大を出している筈の幻真も、シエルまで残り10mで停止。それ以上先に足を踏み出す事が出来ない。


 気が付けばそんな幻真の額には水色の炎の様な小さなオーラが灯っていた。知らず知らずに本人の意志を超え、体が更に最大を引き出そうとする。それを知ってか知らずか、幻真の足は大きく一歩を踏み出し始める。


「どうしたァ!? 風が弱くなってんぞォッ!!!」


『良いですね、やっと及第点ですが。言ったでしょう? 小手調べだと。この程度でそんなに力んでる様だと、余り期待は出来ませんねぇ』


「何だとォッ!?」


 幻真が挑発じみた言葉を掛けると、シエルはそれ以上に嘲りを込めて喋り出した。それに応じて幻真が怒号を放つと、額の水色のオーラが全身のオーラと同じ赤と金の混合に変色した。

 途端強く踏み込んで飛び上がると、シエルとの距離を瞬く間に縮め、遂に拳が触れる距離まで接近出来た。


 ここからが反撃、そう思った時だった────



「……なッ!? テメェ……!!」


 瞬間、シエルが両手を解いて風を止め、突き出される幻真の拳を左手のみで受け止めてしまった。


 幻真が出していた力は想像を絶する力、体が意志に反して力を引き出していた為、驚きはまだ弱いが、彼が使った力はソウルドライブモード。しかも2段階目まで進行した力だったのだ。

 その力は銀河二つを破壊可能とされるようだが、何とあろう事か、その力の込められた拳を、白髪の魔女が片手で受け止めているではないか!?


『甘いですね。まさかこの程度で私に挑むつもりだったのですか? ()めてるのですか、あなた……』


「うるせぇ! なに、を……な……何で、何でソウルドライブモードなんかに……嘘だろ、何で……止められてるんだ! ふざけんなオイ!!」


 残酷、余りにも残酷。彼に告げられたのは、彼女との、天の魔女との圧倒的、決定的実力差だった。


 今更自身の力の状態を知ったところで、既に遅い。


『あなたとは闘う価値も、殺す価値もありません。失せなさい』


「はっ────」


 気が付いた時、幻真の体はシエルから遠く遠く離れていた。攻撃は一発も受けてない筈なのに、とても痛い、とても、痛い。ソウルドライブモードすら解け、ただ流れに身を任せていた時、幻真はその目で見た。


 シエル・アルカンジュ。天の魔女、シエルは何を見るでも無い目で彼、幻真を見ていた。まるで、地面に溜まった泥水を蹴っても、ああそうかとも思わないような目。

 悔しかった。堪らなく悔しいが、遠のく意識は力を抜く。


「畜生ッ……」


 その時、あと少しで崩壊する寸前だった透明の防壁を手で押さえていた霊乃は、風が止んだ事で力が抜けて安堵の息が漏れる。が、直ぐに迫る目前の光景でまた体を緊張させた。


「ふぅ……え、幻真さ────」


 言葉を言い切る前に少女は飛ばされた。自身の方へ向かってくる幻真と言う大の大人に巻き込まれて共に弾け飛んだ。二人の敗北を示すかのように、霊乃と幻真は総合中央広場まで一気に戻されたのだった。

 地面を無様に転がった霊乃は何とか起き上がるが、飛ばされた元の幻真は起きる事が無い。


「幻真、さん……! 大丈夫ですか!?」


 心配した霊乃が近寄って力無く揺さぶるも、目蓋を開ける様子が全く無い。もしやと思って心臓の音を聴こうと幻真の胸に耳を当てた直後、彼女の肩を誰かが平手でポンポンと叩いた。


「心配すんな、そいつは生きてる。気絶してるだけだ」


 声の方向へ振り向くと、最初の頃に霊乃の頭を掴んだ優その人だった。そうで無くても霊乃に彼の印象は劣悪であるが、今回ばかりはそうも言ってられない。


「あなたは……」


「その様子だと惨敗だったらしいな霊乃」


「っ…………」


「まぁ気にすんな、ハナからそう言う奴等が居る場所なんだ。お前が弱いんじゃない、向こうが強過ぎた。それだけの簡単な話だ」


 情けなかった。当初あれだけ優に粋がってた自分が、今は逆らう言葉を何も持たない。それどころか、優から言葉を頂きたいとさえ思った、助けて欲しいと心から願った。


「風に、手も足も出ませんでした。今まで体感した事が無いような風で、建物も、私達も飛ばされて……あと、シエルさんが! 天の魔女の様子が変でした。呪いから解放した前後は弱々しかったのに、急に私達を殺すと言い出して、それで……」


「よぉ、それだが奴さん、どうやら倒された敵に操られてるらしい」


「えぇ?」


 それについては、思い当たる節がある。幻真がシエルから飛び退いた後、直立するシエルの全身から黒い流れが表出していた。恐らく、あの黒い流れこそが、彼女を操っている元……


「実力はそのままだが、容赦が無いだろうな。ただ天の魔女はある程度加減を知ってるらしい、そのおかげでお前達は生きてるってとこだぁな」


「ですが、どうすれば? この通り幻真さんはやられてしまいました。私一人が行って如何にかなるとは……」


 突然、霊乃は優しい感触が頭に降り掛かるのに気付き、見上げると髪を振り乱す勢いで撫でられた。

 優が霊乃の頭を撫でていたのだ。


「お前もつくづく頭が固いねぇ。誰もこのまま行けだなんて言ってねぇだろぉ? 役不足ならメンバーを変えろ」


「メンバーを?」


「そうだ。相手は天の魔女、なら相性が良いのは世界そのものの力だ」


 そう言うと軽快に指を打ち鳴らし、瞬間に目の前にいきなり海斗が現れた。突然の事に霊乃は目を見開いて驚くが、割と慣れているのか、海斗は頬を軽く掻いて優に近づく。


「あのぉ……何か御用ですか?」


「まずはこれを見ろ、幻真がやられた。相手は天の魔女、ならお前が継承した力を存分に振るう時、出番だ海斗くん! 適任の相手が待っている」


 優がゲームのような説明をして、霊乃も癖のように御辞儀をしてお願いする。海斗は、回転を力とする特殊な能力。それともう一つ、世界の始まりと終わりの内、"終わり"を持つ力を継承している。


 この力が天の魔法を、天の魔女を打ち破る鍵となる。


「なるほど、俺の出番なワケですね。でも、俺が居たところはどうしましょう?」


「幻真を治して向かわせる。気にせずやれ、じゃあな」


 言うだけ言って優は幻真と共に消えた。ともあれ、海斗が幻真の代わりに入った事で、再び天の魔女の元へ向かえる。しかし、霊乃は未だに不安を抱えていた。またやられるのではないかと、幻真みたく飛ばされるのが落ちなのではと。


 いや、ダメだ。そんな事を思ってはダメだ。自分が信じないで何の意味がある? 試してみる価値はあるだろう。


「じゃあ取り敢えず行こうか?」


「……はい」


 霊乃は、新しく編成された海斗を連れて、天の魔女の居る建物まで歩き始めた。目的地まで500m程近づいた時、また風が吹き付けて来た。

 だが今回は何故か弱い、それどころか、微風に感じる程風が優しい。


 だがよく見ると、その微風は霊乃の前に立つ海斗から吹き付けるものであると、気付くのに時間は掛からなかった。


「下がってろ」


 直後、微風が強風に変わり、瞬きをした瞬間に海斗の姿が霊乃の目の前から消えた。

 海斗は水素爆弾100倍の風を受けて何も無く、速度を落とす事無く、寧ろ加速してシエルの目前に立った。風を出していた当人、シエルも驚きを禁じ得ないほど、海斗の速さと風を物ともしない膂力は想像を絶している。


「あんたが天の魔女、シエル・アルカンジュだな? 俺は転流 海斗。"終焉"の継承者だ」


『……合格、いいえ。最高です! 私は、貴方のような強者(つわもの)を待っていました! さぁ始めましょう、殺し合いをッ!』


 海斗を目の前にしてより一層黒い流れを表出させる天の魔女、シエル。一方で海斗は平常のまま目をゆっくり閉じて、ゆっくり開ける。

 そうすると、海斗の黒目が澄んだ青空のような色に変わり、全身から微風が吹き付け始めた。


 これが、"世界を終わらせる力"だ────



無双(むそう)……解放(かいほう)……!」








続く……

活「あれ!? 海斗どこ行った!?」

ア「海斗は居ないけど幻真は居るよ」


幻「どうも」


活「何でだよ!?」



また次回

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