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第30話 それは覚醒め、"白"く瞬き

白vs黒────


いざ、開幕

 ……かつて存在した"白"と"黒"。


 その再会は、悲劇にも死闘である事を、"彼女"は知っていた────


「我が名は霊乃。七魔聖天、霊乃!!!」


 それは神々しく、それは輝かしく、それは洗練され、この上なく、彼女を、霊乃を、遥かな領域へと進化させた。今ここに立つのは、救世主霊乃であり、七聖魔法士の頂天"白"である霊乃だ。


『ほぉ……白か。俺の黒と対の属性。まさか白と黒が"再会"する事になるとは、願っても無い幸運、実に僥倖な事だ』


 実に奇妙なものだ。黒の男は自分と言う"黒"と霊乃と言う"白"の対する様子を遭遇ではなく、邂逅でもなく、対峙ですらなく……ただ純粋に"再会"と称した。ずっとこの時を、この瞬間を心待ちにしていたかのように。

 最初からこうであるのが当たり前のように────


 数回ゆっくりと拍手をした後、男は霊乃の周囲を歩き、一周して元の正面に立って再び口を開く。


『これならそれなりに力を出しても大丈夫そうだな、霊乃……いや、敢えてこう呼ぼう。七魔聖天(セブンスルーラー・)霊乃(ホワイト)、と。さぁ、愉しもうじゃないか……!』


 黒の男が呟き、歩み寄ってくる実に数秒後、周囲の空気……否、空間が一変する。霊乃は表情を変える事無く真剣な面持ちのまま心の底から思っていた言葉を男に放った。


「貴様はそうやって、一体どれだけの人を苦しめた……」


 言葉の直後、霊乃と男が互いに触れ合う距離まで接近した……その瞬間、都市全体を吹き飛ばす程の絶大な衝撃波が発生した。それだけならともかく、一発の衝撃波を皮切りに次々と同じ威力の衝撃波が霊乃と男から超連続的に発生する。


「……ぐッ……ちくしょ────な、何だ一体……!?」


 肋骨が全て折れた幻真は血を吐きながら起き上がろうと顔を上げる。そこで、彼は目にした。


 ふと顔を上げた彼が見たのは、中心で身長170cmの白い女と身長190cmの黒い男が互いを睨み合う最中、彼と彼女の同じ姿が全くの同時で無数に存在し、壮絶に打ち合っている光景だった。


 落ち着け、中心に居るのは間違い無く二人だ。だが周囲には、二人と同じ姿が、何億、何兆、何京、何垓……数え切れない! これは一体、何が起きてると言うんだ!?


『ふふ……良いね、これだけ動けると気持ちが良いよ』

「黙れ。今すぐその口、開かなくしてやる!」


 霊乃が言葉を言い切った直後、霊乃と男の姿が消えたが、衝撃波は更に威力を増して都市を吹き飛ばす。建物は根刮ぎ消し飛び、地面は衝撃波に負けて亀裂を起こし、隆起と陥没と繰り返しては崩壊していく。


 一体何が起こってるのか分からない幻真は、ただただ衝撃波から身を守る事しか出来ない。そんな中、霊乃と男は依然変わりなく打ち合っていた。


 世界が二人の速さに置いていかれて時を回せない正に"0"秒の中、途轍もない速度と威力で渡り合っていた。打ち据えるところを防ぎ、打ち据えるところを躱し、防ぎ躱すところを打ち据える。ひたすらにこの連続を、1秒も経過しない世界で何(がい)、何()、何(じょう)、何(こう)と繰り返す。


 だが霊乃は危惧していた。自分の力が今一体どれだけ上がっているのかはわからないが、黒の男と同等に上昇したなら、今居る地球が闘いの余波に耐え切れるか否か。

 答えは否。黒の男と打ち合って解る。この男はやろうと思えば爪弾き程度の力で星を壊せる。なら、今この地球を壊させるワケにはいかない。


 霊乃は一瞬打ち合いから数歩程度後退し、0秒の世界から抜け出してから男を力一杯真上に蹴り上げる。勿論男も霊乃の蹴りの軌道は読めている為、簡単に防御するが、その代わりに威力に押されて瞬く間に大気圏を突破して宇宙空間に放り出された。

 それを追って霊乃も宇宙空間に到達し、完全なる真空の宇宙で再び打ち合いを始めた。


 一瞬衝撃波が止んだと思えば今度は上空から圧迫されるような勢いで強風が降ってくる。幻真は驚くばかりだが、この男はそうでは無かった。


 海斗。血を吐いて倒れていたが、幻真と同じく闘いを途中から見始めていた。幻真と違うのは、闘いの様子を僅かでも目で追えていた事。その際に見た霊乃と姿と今の力に驚きと感動を同時に受けた。


「それが今のお前か……凄いぜ、全く」


 自分達では全く歯が立たなかった相手を霊乃は見事に同等の領域で渡り合っている。わかる、今まで躱されていたばかりだった攻撃が、男が防ぐようになっている時点でよく解る。俺達にはまだ、希望がある。


「【エレメント・ホワイトクルセイダー】ッ!!!」

『【エレメント・ブラックバイター】……」


 遥か宇宙の彼方で白と黒の力の塊が衝突する。白の方は女神の姿を象ったような白いエネルギー体、黒の方は悪魔の姿を象ったような黒いエネルギー体。純粋な魔法の力のみがぶつかり合った瞬間、二人の身の丈よりもずっと巨大な数多の惑星や恒星が迸る衝撃で跡形も無く粉々に砕け散った。


 再び七色の光と黒色の流れが激しくぶつかり、二人の世界だけが七色と黒色に二分されて世界を染め尽くす。解き放たれた色は二人から剥がれ飛び、一瞬の睨み合いと取っ組み合いから壮絶な乱打、乱打! 乱打ッ!!!


 那由多を超す数の乱打は、一撃介すごとに近くの星が砕け、内の一つに霊乃が吹き飛ぶ。その先にブラックホールが在るが、霊乃は体を翻してブラックホールに吸われる事無く寧ろ足場にして男に向かって飛び出した。ブラックホールは霊乃の蹴り出しで情け無く消し飛び、その間に彼女は男との打ち合いを再開した。


 移動しながら打ち合い、銀河を飛び出し、別の銀河へ突入しても尚止まらず、片っ端から打ち合いの衝撃波だけで星々を破壊していく。星を破壊する度に加速し、打ち合う度に苛烈に、睨み合う度に過激に、世界を超越した膂力が更に増長する。


 これが想像を絶する、これが常識を凌駕する、これが、"世界を超えし者"────



 渾身の一打同士を二人がぶつけた瞬間、その場で留まる二人の周囲で再び無数の二人の打ち合いが繰り広げられた。右の拳と拳をギリギリと押し付け合い、自身の残像が実像の如く周囲で打ち合ってる最中、男は霊乃に話し掛けてきた。


『そんなもんじゃ無いだろ? もっと本気を出せよ白』

「そんなに見たいなら今見せてやる、黒ォッ!!」


 終いにはお互いを属性で呼び始め、拳同士を一発打ち付け合ってその威力で互いの間合いを確保した。その瞬間から黒は自身の流れを針状に変化させ、白は全身を銀の光で覆いながら、両者は技を容赦無く放った。


「『七色魔手・天セブンスハンド・エアロ』! 【天使の羽毛(アンジールバレット)】ッ!!!」

『【デッドリーソーン】……!』


 黒い細針の壁と銀色の半透明な球体の群れが銀河範囲で射出され、衝突した一瞬で再び二人の無数の打ち合いが開始する。互いの攻撃を躱しつつ互いの拳や脚を当てていき、迚も薄く透明な境地の紙一重が勝負を分ける一進一退の攻防を絶え間無く行い、続けた。


 0秒の中とは言え、二人の体感でなら判る時の流れ。外界(通常)で経た時間は1秒程度だが、二人の、白と黒の、世界を超えし者の経た時間は、実に"1年"!!!


 彼等彼女等が干渉しない、出来ないだけで、二人は1年もの間、壮絶で熾烈な戦闘を行っていた事になる。その底無しの体力は未だ尽きる事無し!


「このォッッッ!!!」

『そーれッ!』


 白の霊乃が渾身の左拳を放ったタイミングで黒の男が軽やかに拳を回避して彼女を蹴り上げ、渾身の飛び後ろ回し蹴りで打ち上がった霊乃を遥か彼方に蹴り飛ばす。男の蹴りを食らった霊乃は呻き声すら上げずに吹き飛び、銀河を飛び出して最初に居た銀河に突入し、地球に戻って来ると同時に半径50kmのクレーターを都市に形成してしまった。


 一方の海斗と幻真も、空から突然光が一瞬で落下し、それがかなり遠い場所に落ちたのを目視で確認した。続いて黒い光が同じ様に同じ位置に飛来し、直後から白い光と黒い光が空中に無数に出現し、消えては現れ、現れては消えを繰り返した。


 因みに霊乃の落下位置は海斗達の居る場所から大陸一つ分もの距離があり、それだけの距離から視認出来る戦闘とは一体どれほどのモノなのか、筆舌に尽くしがたい。ただ、あらゆる分野から規格外なのはよく解る筈だ。


 激闘の最中、彼女は、霊乃は焦っていた。何故だ? 押し切れない……攻め切れない……力は互角まで上がっている筈では無いのか? どれだけ打ち込んでも、どれだけ捌いても、相手からは、黒の男からは途方も無い余力を感じる。何故だ? 何故まだ、勝てないんだ!?


『流石に飽きてくるなー……ほらよっと』


 果てしない数字に及ぶ打ち合いの途中、男は急に拳を下ろし、右足の前蹴りのみで霊乃の動きを止めると、続け様に右足で超光速連打を浴びせ、ネリチャギで霊乃を地面へと叩き落とした。


「ガハッ……な、ぜッ……!?」


 地に叩き付けられ、七魔聖天となって初めて血を吐いた霊乃の疑問を解消すべく、黒の男は彼女の近くまで降りて溜め息を吐きながら呆れた様子で述べ始めた。


『やれやれ、いい加減悟れよ。俺とお前の領域差は歴然だ。お前は第7段階"烈記者"……いや、第8段階"絶者"だな。ところが俺はそれより1段階上、第9段階"断世者"、世界を超えし者にとって、この1段階が致命的差だと存在で解る筈だけどね』


 男の言葉が耳に入った瞬間、霊乃の時間が止まった。世界の時が止まったのでなく、感情や意思や肉体や思考が石と化したかの如く止まってしまった。これほどの、魔女達が託してくれた力を以てしても、この男には勝てないのか? まるで白が黒と言う名の絶望に染められていく……正にその時────


『全く、やれや────お前は』


 黒の男の前に、一人の男が現れた。赤いボロボロのスーツを身に纏う目前の男は、何故か【居た】。そう。あり得ない事だが、七魔聖天となった霊乃を下した黒の男がそう認識する程、男は、彼は、目の前に唐突に現れた。


『いつからそこに居た? さっきまでお前はこの場には居なかった筈だ。何をした?』


 黒の男の問いに、彼は答えない。


『何をしたと訊いているんだ、質問には答えて然るべきだろ?』


 彼は答えない。


『答えろ! 何をした!』


 答えない。


『何をしたと、言っているん────』











 "何をした? 何かな……何もしてない。ただ俺は、大切な事を、思い出しただけだ"











『ぐッ!? なにぃ!?』


 突如、黒の男が怯んだ。七聖魔法士を瞬殺し、彼等彼女等を赤子の如くあしらい、剰え七魔聖天となった霊乃を打ち据えるこの圧倒的存在が、初めて怯んだ。


 一体、何が起こったと言うのだ?



「────癪だが、テメェには感謝するよ。俺はまた一つ、大事な事を思い出せた」






 男の名は、彼の名は、白谷 磔……








続く!!!

諦めない。諦めない。何があっても諦めない。


だからこそ、強い。挫ける度に思い出すからこそ、強い!

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