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第2話 かなしき呪いの代償

 長い長い魔法の歴史で欠かせないのが、呪い


 悪しき用途でしか需要が無く、正規の魔法使いには無用の長物


 だが、時に必要となる。罰を下す為に……

 "呪い"、と言うのは、いつまで経っても消えない魔法の、文字通り黒歴史だ。


 癒えない傷、醜い姿、愛する者を手に掛ける……古来から、呪いは忌避すべき最低の魔法の使用方法だった。"超常"、"神秘"を扱う者として、扱えぬ者を守る存在として、悪質で外道な魔法の使い方は許されない。


 過去、この"呪い"で失格になった魔女が数人居る。


 裁決をするのは"天"に属する魔女。彼女は歴代の魔女で唯一の初代のまま、その年齢は推定で2000歳を超えていると思われる。地の魔女ですら100歳前後なのに、それすら赤子に感じる程。


 理由は勿論有る。彼女の"天"の魔法は、適合する魔法使いが居ない事。天の魔法は非常に稀な魔法、"天"を冠するだけ有り、全ての魔法属性を使う事が可能で、その真価は世界を簡単に掌握してしまう。

 また"天"を扱えるだけで7人の魔女の中では頂点に位置する事を指す。その重責に耐えられる者で無ければ天の魔女は務まらない。


 その点で言えば、今の天の魔女の彼女には正しく適任と言える。彼女は優しい、優しいが故に強く、故に時に誰よりも残酷になれる。その決断力の強さが、数々の同胞を殺める結末となった。


禁忌(きんき)を破った貴女を、私は罰します。

水天の宇宙コズミック・ウォーター】を科します、死を以って償いなさい』


 彼女が同胞に科した呪いに依る死の罰。他6人の魔女が顔や目を背けるのに対し、彼女だけは真っ直ぐに罪人を見ていた。厳しい眼から今にも滲み出そうな涙を堪えながら。


『ごめんなさい! ごめんなさい……! ごめんなさいぃ……』


 罰が終わった後、ただ一人の部屋で泣き崩れる。天の魔女はその優しさ故に、自責に耐えられない。夜が明ける度、目は充血し、目の周囲は腫れぼったくなってるのに、それを魔法で化粧し常に隠す。


 一体何度眠れぬ夜を過ごした? 一体何度己の罪に潰されかけた? ジリジリとズルズルと、同胞殺しは蛇の如く這い登る。逃れられぬ記憶として、永遠に自身に刻まれていく。


 嗚呼、いっそ死ねたなら、世界の事など塵ほど気にせず死ねたなら、どれだけ楽なのか? 自身が居なくなる事の重大さなど、毛ほど気にせず死ねたなら、どれだけ楽なのか?


『オンブラ、私に呪いを掛けなさい! 皆も苦しいけれど、お願い耐えて! きっと、誰かが、きっと誰かが、この世界を救ってくれる。私にはわかります、"天"の魔女として、まだ希望が残されてる事に』


 いいや、助けなくて良い。この呪いで、やっと私は解った。やっと失った。だから、これで良いのだ……








 ────────────────








「さて、まずはこの広域の都市とやらの地図の作成といこうか。俺が龍を出して周囲を観察する、んで持ち帰った景色を紙に纏めて完了だ」


 幻真は少し力む様子で全身から闘気を放つ。闘気から次第に白い鱗の胴長龍、黒い鱗のワイバーン、複雑な姿をした龍の三体を形成した。呼び出したか、形作ったかはどちらでも良い、龍を呼べど成せど、出来得るだけで能力としては高い。


「お前はこの都市の端から端、お前は全体を、お前は建物の高さとか壊れ具合とかを見てくれ」


 幻真の命令が済むと、龍達は一斉に散る。どうだ、と言いたそうな顔をしてるが、霊乃は痛いところを突いてくる。


「それはそうと、紙はどこから調達しましょうか?」


「あ、そう言えば忘れてた。こういう時にアナログの重要さって思い知らされるよなぁぁ……」


 唐突に霊乃の後髪が強く引っ張られ、振り返ると、足元に奇妙なぬいぐるみらしき物体が立っていた。奇妙な物体を見た霊乃は驚いて声を上げた。


「あー! パシェット! あなたいつから居たの?」


〈最初から居たさ、キミが気付かなかっただけだよ〉


「ちょうど良い、あなたの背中ちょっと貸して」


 霊乃はパシェットと言うぬいぐるみらしき物体を掴み上げると、突然ぬいぐるみらしき物体の背を摘んで引っ張る。すると中から正体不明の光が放たれ、霊乃と言う少女はそれに躊躇い無く片手を挿入した。


〈全く、ぬいぐるみ遣いが荒いな〜〉


「ゴチャゴチャしてる、偶には整理整頓くらいしてください」


〈無茶言うなよ、この手見てよ。こんなか弱い手でゴミの中を如何にか出来ると思う?〉


「私はそのゴミの中から必要な物を取ろうとしてるんですがね! ────あった!」


 怪しいぬいぐるみとの会話をしつつも霊乃は着実に必要な物を確保した。取り出したのは、筒状に巻かれた大きめの紙。広げると、それは企業などの貰い物、市販で売られているカレンダーだった。


「幻真さん、このカレンダーをご活用ください」


「おぉ? 良いタイミングに有るもんだな! 有り難く使わせてもらうぜ」


 頭髪を掻き乱す幻真に、霊乃が声と共に必需品を届けた。カレンダーと言う名の必需品は、カレンダー表記をしてある面の裏は何も書いてないので、紙の大きさとしても地図を書くには最適なのだ。


「序ででなんですが、複数コピーをお願いしたいのですが」


「コピーか、景色を描写するとして、同じように複写出来るほど俺も龍も器用じゃ無いからなぁ……」


「だったらそれは僕がやろう」


 名乗り出たのは狐面を着けた黒コートの怪しい人物、シルク。先程優の名前を書こうとして出来なかったノートとペンを取り出し、まるで取材記者の様なスタイルを執る。

 直後、幻真と霊乃の目の前でペンを高速で走らせ、白を点に、点を線に、線を字に、字を文章にしていく。出来上がった文は見せず、ノートを音を立てて閉じると、ペンと共に黒いコートの(ふところ)にしまった。


「これで君が作成した地図は自動的に僕達8人分まで増える」


「今ので増えるんですか? 字を書いただけですよね?」


 霊乃が疑問を投げ掛けると、狐面の人物、シルクは人差し指を前に出してリズミカルに左右に振った。


「詳しくは言えないが、僕には色々出来る力があるんだよお嬢さん。本当はこの都市の地図くらいワケ無く作成出来るけど、実際の物の方が信頼性高いし、今回は手伝うだけで留めとくよ。さてじゃあ役目終わったから暫く暇潰ししてるよ」


 シルクは黒コートのポケットに両手をすっぽり嵌めて悠々と海斗と夜桜の居る方へと帰った。その後間も無く龍達が帰還して来たので、龍達の見た情報を元に幻真は地図を作成し、直後に作成した地図が8枚にまで増えた。

 霊乃は一度全員を集めて地図を配り、互いに位置を把握する事にした。


「まず私達が居るのは総合中央広場です。かつて公園と噴水広場やアミューズメントにショッピングモールが有った場所らしく、今でもその名残があります。幻真さんの龍が探知した瘴気(しょうき)、魔力の濃さでラインがキッチリ7つに分かれていますので、これを辿ればそこに魔女が居ると考えて間違いないでしょう」


「じゃあそうなると手分けして探した方が無難だな」


「人数分けしとく? 一人は余る事になるけど」


 作戦前の緊張感が如く、霊乃は7人を取り仕切っていた。もう既にこの8人の中で指揮権を所有しているのは霊乃と見て間違いないだろう。魔女への道標で、ラインが7つに分かれていると聞き、海斗が口を開く。

 手分けして探すと言い出すと、今度は夜桜が人数分けを提案して来た。


 しかし、夜桜の人数分けは7つのラインの数のまま人数を入れ込むだけで、それに霊乃が強めの言葉で遮る。


「いいえ、余らせません。今回、この世界の基盤の魔女を一瞬で倒した(やから)が居るのです。二人か三人で組んで行った方が良いと思います、常に用心深く行かなければ、こちらも一瞬で死ぬ事が多いにあり得ます」


「じゃあ俺と霊乃で1組、シルクと夜桜と白谷で1組、海斗と活躍とアルマで1組にしよう。どうだ?」


「ひとまずそれで良いと思います。以上三組で別々に魔女の救出へと向かいましょう、何かあればまたここに集合で。解散、行動開始!」


 変わらず場を冷静に見ている幻真は霊乃の意に沿うようにチーム分けの例を出した。これには霊乃も不満は無く、決まったところで早速行動が開始された。


 それぞれ地図に記されたラインに沿って歩き始め、静かにシルクが『まるでシロアリみたいだ』と漏らした。

 都市は完全な魔力で生きてた世界。地球で言うなら、その自転を完全に止めている。ここは地球とは違う惑星なのかと言ったらそうでは無い、言わばこの世界の地球がこそ魔力に依る自転を行なっていたのだ。


 魔力自転を行う地球を維持する為に必要なのが、当然魔力。自然の力で独立しているワケでは無い為、常に供給する役割が必要となる。その役割が7人の魔女達だ。


 彼女達の持つ個々の膨大な魔力を以って、この世界は回る。この世界の成り立ちは非常に悲しいものだ。


 暫く道成に歩き続けて10分、霊乃と幻真の視線の先に建物が映り込む。屋根が殆ど朽ち果て、ドアも窓も吹き飛んだ見窄(みすぼ)らしい大きめの建物が存在した。

 壁も廃れて吹き飛んでいたが、ある程度の形を残しているので、辛うじて建物は形状を保っている。


「ここですね。ここに魔女の一人が居ます。今も呪いに苦しんでるのでしょうか?」


「わからないな、どう言った状態でどう言った感覚なのかは直に体験してる魔女本人にしかわかんねぇだろ。そもそも俺達には呪いの概念が無い、魔法使いじゃ無いからな。だからその苦しみも呪いを受けない限りわかりはしない。辛いのが、その分かち合えないところだろうな」


 幻真は淡々としていた。魔女が苦しんでいるだろう呪いは、自分達にはわからない、と。霊乃には、その分かり合えない事がただただ自分にとっては呪い以上に苦しく思えた。

 人と人の繋がりは目に見えないモノでしか無い。それが、何の確かめ、何の根拠、証拠になると言うのか?


「着いたぞ、目の前のアレだな」


「……え? 何ですかあれは!?」


 ボーッとしていた霊乃は幻真の声で我に帰る。その際に見た目前の光景に目を疑った。


 球。目の前には球が在った。異形の存在を髣髴させる黒い球体は、運動会の大玉より二回りも大きい。模様も無く、ただ無骨に黒、光すら呑み込み、外の明かりが全く映らない。



 これが魔女の"呪い"、これが"魔法"────



「とにかくあれを斬ります。パシェット! 武器!」


〈あいよ頑張れ〉


 霊乃はぬいぐるみを呼び、ぬいぐるみが己の背中から一本の棒を取り出して投げる。投げられた棒は細身で、先端に紙が付随してあり、そこから長く別れた二又の折り畳まれた支手が振り乱れる事で複数の支手が姿を現す。


 名前は御幣(ごへい)と言う神職がお祓いを行う際に用いる神祭用具である。霊乃は御幣を手にして閉眼すると、片手を棒に近づけて力を込める。と、力を込められた御幣は振り乱す支手を真上に逆立て、まるで刀身のように形が纏まった。


「せいッ!!」


 声と共に霊乃は球体の前で御幣を思い切り振り下ろした。だが球体はビクともせず、静かに佇み続けるのみ。


「硬い……」


「ちょっとそれ貸してくれ」


 見兼ねた幻真が霊乃の御幣を手に取り、霊乃と同じように球体の目の前に立つと、全身から急に強風が噴き上がり始めた。強風は次第に色を纏い、水の様な薄い青色へと変化して幻真を覆うオーラとなる。

 次に稲妻が幻真の全身を走り出し、オーラが赤色と金色を交えて水色を塗り潰していく。


「アクセルモード(スリー)。念の為にもこのくらいが良いだろう」


 幻真はオーラを身に纏った状態で御幣を両手で持ち、頭上にまで振り被った後、渾身で両腕を振り下ろす。


「ふんッ!」


 幻真が振り下ろした御幣は球体の中心に見事縦の割れを作り、そこから徐々に球体の中の全貌が明らかになっていく。消失した球体の中には白髪で白いドレスの様な服を纏った美女が居た。


 恐らく彼女が(くだん)の魔女だろう。


「中から女の人が! 大丈夫ですか!? もし!? もし!?」


 霊乃は堪らず駆けつけて白髪の女性の上半身を持ち上げる。胸に耳を近づけてみると、心臓の音はするので生きてるとわかる。が、あの球体は間違い無く"呪い"の形、あの中に居たと言う事は、何かしら受けてるダメージがある筈。


「……だ、だれか、居るのです、か?」


 突然、女性が喋り出した。意識が戻った事が一瞬でも嬉しく、直後に霊乃が言葉に漏らした。


「あぁ良かった! このまま死んでしまうのではと……」


「おい、あんた魔女なのか? まずそれを確かめさせろ」


 淡々と幻真は白髪の女性に問い掛ける。決して冷たいワケでは無い、ただ彼には優先度があるだけなのだ。今この場で保護する前に目的の魔女であるか否かを確実に知りたい。


「いかにも、私は……シエル・アルカンジュ……天の魔女。7人の内の、"天"に属する魔法使いです……」


「よし霊乃、毛布とか無いか? 今は無闇に動かすべきじゃない、ここで少し休ませよう」


「わかりました!」


 慌てる事無く霊乃はパシェットの背中を漁り、毛布を探し出す。ふと、幻真は霊乃から女性へと視線を戻した瞬間、驚きで飛び退いた。それに気付いた霊乃も探すのを止めて女性の方を見て、驚愕した。


 女性は倒れている状態からいきなり直立していた。同時に、全身から何やら黒く妖しい流れが表出し始めた。何かがおかしい、先程までの女性と何かが決定的に違う!


「……シエルさん?」


「あんた、いつの間に立った?」


『フフフフフフフ……よくぞここまでいらっしゃいました。(わたくし)はずっとお待ちしておりました、貴方達を殺す事を心待ちに……!』


 突如女性は顔を上げて、赤く染まった瞳で霊乃と幻真を見ると、黒く妖しい流れを強く出し、魔力を全身に充填していく。これが魔女、これが世界の基盤。


 だがこれは、明らかに彼女のものであり、彼女のモノでは無い!


「シエルさん!」


「今のあれはシエルであってシエルじゃない。よくわからないが、これだけは言える。あれは、マジでヤバイ何かだ!」



 突然天の魔女が豹変し、二人に殺意を向ける。黒く妖しい流れが表れてから、その様子は一変してしまった。


 一体何が起こったと言うのか?








続く……

海「ところでお前本どうしたんだよ、ノートなんて持って。しかもCa○pusのノート」


シ「やめろ」



また次回

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