第21話 あかるき"光"の魔法使い
"光"とは一片の曇り無き心。
燃え続け、滾り続ける正義の炎!
"光"────それはただ一つの希望。
忘れるな。彼の者こそが、勇気の体現だと……
ある家に、子が産まれた。
魔法使いの子供と言う事もあり、赤子は産まれて直ぐに魔力を全身から発していた。
その魔力は実に明るく、実に繊細で美しい。それに、迚も綺麗だった。
一切の汚れも淀みも無い曇り無き魔力。それが彼女、ルーチェ・アイゲングラウだった。彼女には姉が居る。4年先に産まれた黒髪の姉が……
少女ルーチェは、4年先に産まれた姉と違い活発的で、皆に好かれる性格の子だった。しかし彼女の慕い敬う相手は、常に姉のオンブラだった。
姉は優しかった。皆が余り関わりたがらないけど、姉はいつでも笑顔で部屋に入れてくれて、本を一緒に読んでくれたり、魔法を教えてもらったりした。今でも姉から教わった魔法を彼女は使っている。
実に強い魔法だ。何せ姉の名を冠する超火力の砲撃なのだ、弱い筈が無い。憧れた優しい姉の魔法、姉は産まれた時から黒く淀んだ魔力を身に纏っていたらしい。だが姉の目指す魔法使いは光の魔法使い。
なら私が闇の魔法使いになって、姉を支えてあげたい。私は姉を応援する。姉も私を応援してくれる。だから、七聖魔法士に、二人でなるんだ!
『光の、魔法使い……?』
しかし、現実は残酷だった。姉の目指した光の魔法使いに、自分がなった、なってしまった。一方で姉は自分がなるべきだった闇の魔法使いになってしまった、ならせてしまった。
私は、なんてダメな妹なの……?
『お姉ちゃんごめんなさい! 私、闇になろうとしたのに、光に……』
『……ルーチェ。私の愛しい妹ルーチェ。良いの、貴女が謝る必要なんて無いの。悪いのは私、謝るべきは私。貴女に、大切な妹に、無理強いの如く私の願望を押し付けてしまった。謝るべきは、私の方なの。これが結果なら、全てなら、私は諦めるわ』
『そんな!? お姉ちゃんあんなになりたいって言ってたのに!』
『いいのよ。私はいいの、大丈夫。私は自分の願望を叶えて幸せに浸るより、貴女の大切な幸せな笑顔を守りたい。だから笑ってルーチェ、貴女の為に、私の為に、笑顔になって』
そして程無く、彼女は、少女は、ルーチェは、光の魔法使いとなった。その数週間後、現れた黒い何者かが彼女達を倒し、呪いを各々に掛けさせた。七聖魔女が掛けた呪いは、掛けた本人か外部からそれを解ける強い力の持ち主でなければ解けない為、内部から解く術は無く、永遠に呪いを受け続けるしかない。
だがしかし、唯一、魔女の呪いを受けて尚自ら解く術を持つのが、光の魔女、ルーチェの持つ特性。
『私は、諦めません。シエル様の言う通り、誰かが助けてくれる筈です。今の私達にはそれしかない。ブルーム様! 私に貴女の呪いを掛けてください! 貴女の呪いは死とは別で恐ろしい呪いだと聞いています。でも私なら、或いは……』
私は負けない! この苦難にも立ち向かい、打ち勝ってみせる! 私はルーチェ! ルーチェ・アイゲングラウ! かかって来い、黒い者よ!!!
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暫く時間が経過し、彼等彼女等は中央総合広場に集まり、会議を始めた。それは、残る光の魔女を全員で倒しに行くと言う、既に決まった答えの有る議題だった。
「さて、いよいよ最後の魔女だ。気を引き締めていけよ」
幻真が全員に向かって言葉を放つと、一人緊張感を欠いて挙手をする。少し焦った顔をしながら、その者は言葉を投げかけた。
「あ、ちょっとトイレ良い?」
一同は愕然とした。その者は桐月 アルマ、魔女との最終戦を前に、何と用を足そうとする。確かに、催してからでは遅いのは当然解るが、それは今じゃないだろう……と、言った感じに皆から冷たい目と感情を一身に受ける。
「ごめんね! すぐ戻るから!」
彼は皆から口からは決して出ない言葉を目から受けておきながら御構い無しにトイレへ駆けた。彼のそんなマイペースさに、気負いを僅かに吹き飛ばされ、若干気が楽になった者も少なからず居るが、大抵は「空気が読めない」と蔑まれるのがオチだ。
「────と、こんなとこまで来れば良いか」
だが、不思議と今の彼はそうでは無かった。解っていた、自分の、自分達の置かれている状況くらい、解りきっている。でも何故か、今の行動は敢えてやった風味が非常に強い。
何より……
「凄い嫌な予感だ、頭が割れそうなくらいガンガン脳内に響く悪寒がする」
今の彼、桐月 アルマは驚く程に真剣そのものだ。どうにも似合わない、そう茶化されても致し方無いくらい彼は奔放だったのだ。現状のアルマがおかしく見える程、真剣も真剣だった。
暫く彼が歩いていると、都市の広い道から一つの人影が近づいて来た。彼はそれを身構える事無く自ら歩み寄って行く。
そう。彼が突然一人で動き出した理由は、これだ。彼は会議の最中、誰かに呼ばれた気がした。
呼び声は幼く、力弱く健気に叫んでいた。「助けて……誰か、助けてください……!」、彼にはそう聞こえていた。同時に、その声が自分にしか聞こえていない事にも気付いた。
迚も弱々しいが、こんなにもハッキリ助けてと聞こえてるのに、何故みんなは気付かない? 俺には耳障りなくらい聞こえているのに、何故みんなには聴こえてない?
ならば、と彼はその場から離れ、独自に声の聞こえる方向に駆け出したのだ。
その結果が今だ。今、彼は声の主を目の前にしている。そうだ、あの弱々しくも健気な声の主、微かでありながら耳障りな声の主、今にも消えそうで、潰えそうな、可哀想な声の主が、直ぐ目の前に。
「俺を呼んだのは、あんただね?」
『ぜぇはぁぁ……はぁ、はぁぁ……ぜぇ……』
彼の問いに、人影は答えない。ただ、息を荒くしながら、こちらの存在を確かめるように身を乗り出してきた。その際に、彼は人影の正体を知る事になった。
短い金髪にマント姿、全体的に少年の様な恰好をしているが、それは間違い無く少女だった。間違い無く、魔女だった。そう、確信出来た。
何故かは解らない。幾ら魔女も残すところ後一人とはいえ、そんなに判り易いモノでも無い。しかし彼はわかった、アルマにはわかった。ただ、わかったのだ。
彼女が魔女だと、助けを求める魔女だと、黒い流れに操られ、足掻き苦しむ魔女だと解った。
ただ、それだけだった。
「あんた、光の魔女だな?」
『だ、誰……? 人? ダメ! 来ないで!! 今の私は、私であって私で無いんです!』
彼が問い掛けると、少女は彼の姿を完全に確認し、それから直後に拒否を示した。何とも不可思議な言葉だ、私であって私で無い? まさか、黒い流れの操りか? しかもそれに、抗っている!?
『お願いです! 逃げてください! 私が私で無くなる前に……! お願い! 逃げ────』
瞬間、彼女の声が、感情が、表情が止んだ。彼女の、少女の何もかもが、一瞬止まった。直後、彼女の目から、光が……表情から、光が……感情から、光が消えた。消え失せた。皆無となった。
完全な感情の"無"を体現し、その場に佇み、爆発的に黒い流れを表出させる少女。彼はその様を見て、頭を手で押さえた。
途端、少女がいきなり目の前に現れた。目と鼻の先、まさにそこ。彼女は名前すら名乗らないまま、彼の眼前で光を振るう。幾重にも、数多にも繰り出された光は、容赦無くアルマの体を切り裂く。
切り裂いた傍からまた光を振るい、回り込んで蹴飛ばしてはアルマの体を光で貫き、こねくり回して八つ裂きにする。再生すら追いつかない速度に依る攻撃の連続……アルマには解る。彼女はこんな事を無表情で行う子では無い筈だ。
それが何だ? 今の彼女は、まるで人形……いや、傀儡だ。それを思い浮かべた時、頭が更に痛む。途轍もない激痛だ。何がどうなっている?
────何だ? これは……何だ……? 頭が痛い……割れるように、痛い……いや、違う。
血液の循環が良い、良過ぎるくらいだ。心臓の鼓動が疾い、内から破裂しそうなくらい疾い。でも何故だ……何故、こうなっている。何だ、何なんだ……これは……
まさか、『怒』?
「そうだ、これは怒りだ。この体の加速、暴走、感情の荒ぶり、理性の破砕……何もかもが、箍の外れた怒りだ。
ムカつく……! あんな、あんな優しい女の子を! 健気に抗う少女を!! 無理矢理押さえ込み、剰え傀儡にするなど、なんて、なんて外道なッ!! 腑が煮え繰り返るッ!!!」
ふと、彼の中で限界まで張っていた糸状の"何か"が、音を立てて切れた。
プチンッ────と、音を立てて……
「おのれッッッ!!! 幼い少女を甚振るだけに飽き足らず、テメェの傀儡にするたぁカビすら朽ち果てる程腐った野郎だ!! テメェのやろうとしてる事は知らねぇがどうでも良い!!! もう、許さねぇッッッッ!!!!!」
理性で止めていた怒りの抑制が外れた。それと同時に、彼の中で、何か怒りとは別の"何か"が目覚めようとしている。アルマはこれに逆らうこと無く、一切の躊躇いを抜いて叫ぶ。
「昇華!!!」
直後、彼の姿に変化が生じる。髪色に赤と青の二色が混じり合い、紫へと変わる。額には角が生え、全身を囲う特殊な霧のようなモノが発生した。だが、この変化は彼の持つ変身にどれも当てはまらない。
一体これは何だと言うのか?
「待ってろ、今俺が解放してやる。光の魔女!」
続く……
活「アルマがキレた……」
シ「アルマがキレた」
白「アルマがキレたな」
ア「ちょっとボキャブラリー無さ過ぎない?」
また次回




