第20話 ななつの魔弾、その代償
『終焉』……それは終わらせる力。
迎えるべき『終焉』と、迎えてはならない『終焉』。果たして、これはどちらか?
世界の終わり、終焉……その無双────
しかし、これは相応しなければ、最凶の矛と化す。
走る戦慄が勇気を掻き立て、全身に迸る風が神経を研ぎ澄ます。未だ嘗てない7人の無双を扱う者が、立ちはだかる魔女を見据えて構える。今すぐにでも動ける、光を超えて攻撃出来ると言うところで、海斗が言葉を発した。
「無双は完全なる純粋だ。俺のように『終焉』を受け継いだならともかく、そうでないあんた等が無双を使えてるのは例外も良いとこだ。一部の能力は汚れとして一時的に使えなくなるだろう、文句はやめてくれよな」
「あるワケがありません。シルクさんの託したこの力で、一気に畳み掛けましょう!」
海斗の言葉の終わりに対して食い気味に霊乃が返した。この最大最強の好機に、何の文句や問題があろうか?
ある筈も無いだろう。元より無双の最大の見せ場はその身体能力に依る超光速攻撃だ。能力など手助けどころか、所詮足枷にしかならない。
「最初からハラは決まってるか。なら────」
これ以上の言葉は不要。もし言葉があるなら、それは勝利した時だけだ。
「行くぞッ!」
気合の一声の直後、彼等彼女等の全身がゴムのように引き伸ばされ、次の瞬間にはパッと消え、フォルテの目の前で拳を構えていた。その余りの速さに彼女は全く彼等の動作に気付かず、目の前に現れてやっと目視した。
『何だと!?』
地の魔女の驚愕を初めて目の当たりにするのと同時に、7人全員の渾身の拳が魔女に命中する。顔、腹、胸、脇、腕、脚……凄まじい頑丈さの通りに拳に硬い感触があるものの、それでもフォルテの体に拳が減り込み、表情を僅かながらに歪ませている。
7人それぞれの一撃の衝撃は散らず、魔女の体を真っ直ぐ突き抜ける。全員の拳でそのまま押し込める……そう思えた瞬間、フォルテの全身から猛り狂う真っ赤なオーラが噴き上がる。
オーラの噴出で7人は吹き飛ばされ、様々な方向へと散らばる。やはり無双を得ても、縮められる力の差はまだ足りないのか? 圧倒的な膂力の1人に対し、こちらは7人、数は有る。上回るには数しかない。
今の数でも駄目なら、諦めるしかない。だが退けない。退くに退けない!
ここで退いてしまえば、もう何も出来なくなる! 立ち向かえ! 勇気を振り絞れ! 必ず勝つと言う意志を捨てるな、忘れるな、手放すなッ!!!
「はぁぁぁぁああああああああああッッ!!!」
散った7人の中で最初に霊乃が体勢を立て直して飛び出した。それと同時に天の魔女との闘いを思い出した。あの時も、海斗を勝たせる為に勇気を振り絞り、自分より圧倒的に強いシエルに立ち向かった。
力で負けてるのは解ってる、解り切っている。それでも大事なのは力なんかじゃない────
やり抜く、やり通す、必ず成し遂げる意志。その信念だ!
『ふッ!』
少女と魔女の拳が激突する。およそ原子爆弾に匹敵する破壊力を伴った衝撃波が周囲に飛び散る。霊乃とフォルテの拳は小人と巨人くらいの違いがある。然れど打ち合える。今の、この無双で!
「まだまだぁ!!」
第二の拳が地の魔女から繰り出されると、今度は霊乃とフォルテ以外に、もう一つ拳が加わる。その者の、赤と青が混ざらず存在する色の瞳が、綺麗に色鮮やかに光を放つ。
次にアルマが飛び出していた。それと同時に闇の魔女との闘いを思い出した。あの時、オンブラの絶対なる強さに恐怖し、敗北した。
その恐怖を乗り越え、今此処に立ち、此処で拳を突き出している────
恐れるな、慄くな、怯えるな。恐怖とは、乗り越え、塗り替え、己の力に出来る!
『雑魚がァ!!!』
「うるッせぇぇぇ!!!」
魔女から突き出される頭突きに別の頭突きが衝突する。その者の、黒Yシャツのボタンが弾け、薄汚れながらも意を失わず、捲られた袖からは血管が浮き出た腕が晒されている。
次に白谷が飛び出していた。それと同時に火の魔女との闘いを思い出した。あの時、イグニスの絶大な強さを前に対抗しながらも、結局最後まで敵う事は無かった。
それでも諦める事はしなかった。勝つ事を、救う事を諦めはしなかった────
逃げねぇ、絶対に。諦めねぇ、絶対に! 俺は、何が何でも勝ってみせる!
「『爆轟犀拳』ッ!!!」
「『アルマーニイレイザー』!!!」
「『ネイルシュート』ォォォ!!!」
霊乃とアルマと白谷が各々最大の力を込めて放つ渾身且つ会心の一撃。
霊乃は拳をくっ付けたまま先端に力を凝縮させ、一気に爆発させる。アルマは拳を開いて掌から白い極大レーザーを解き放つ。白谷は頭を引いて右拳を彼女の額に叩き込む。
『くッ!!?』
直撃。爆ぜる衝撃と覆う熱と数百数千と連続で打ち付ける痛みが地の魔女を襲う。今まで感じた事の無い重い一撃達、それを彼女は苦痛として体に受け入れた。これが、シエル様の言っていた者達か。と……
なるほど、デカい口を叩くだけはある。良い強さだ、先程とは見違える強さだ。覚悟だけじゃない、意志も強い。一人は動けないとして、7人。後4人は如何出る? 来いッ!
『こんなものか……効かぬぞォ!!!』
「ならこいつはどうだ!」
吼えながら三人をオーラの放出で払い除けた傍から頭上に重い衝撃をくらい、フォルテは高速で真下に落下した。ところが、落下し地面に激突するのでは無く、体を翻して地面にしっかりと着地した。
だが、その瞬間に彼女の体は動かなくなった。
「『素敵な蟻地獄』へ、ようこそ!」
片膝を突いて地面に手を触れた状態で彼は、海斗は笑っていた。見ると自身の足下に黒い渦が在り、そこから巻き付くように渦の一部が足に絡み付いている。これを振り解こうと動いた瞬間、周囲に先程とは別の三人が既に肉薄している事に気付く。
背後に一人、横から一人、頭上から一人。頭上のはさっきの重い衝撃の正体だろう。横は体から炎を出す奴、背後のは恐らく童顔の女だ。
一瞬でフォルテに気付かれる事無く近づくとは、やはり無双は凄いと言う他あるまい。
「斬裂、増幅、連環、隔離、暴発、滅裂! 『切り刻まれる空間』!!!」
「『爆裂火焔球』ゥ!!」
「『凍てつく水色の龍』ッッッ!!!」
夜桜と活躍と幻真が各々限界の力を込めて放つ全力且つ全霊の一撃。夜桜は両掌を構えて突き出し、現象を放つ。活躍は大型拳銃二丁を構え、両方から火球を撃ち出す。幻真は碧い龍を出現させ、右拳に碧い氷を纏わせて突き出す。
刹那に無数の斬撃と絶大な爆炎と全身を刺すような途轍もない痛みが襲う。この追撃がさすがに響いたのか、ここに来て初めてフォルテが吐血した。
追い打ちは止まない。三人がその場を退くと、魔女の正面で海斗が指を銃に見立てて構えて立つ。その指先には透明な螺旋状の回転物が浮かび、宛ら弾丸が撃たれるのではと言うその時、彼は指に強く力を込めて呟いた。
「『霊魔追尾弾』……!」
一瞬の内に透明な螺旋が数百数千数万と撃ち出され、瞬く間にフォルテの体に満遍なく突き刺さる。が、直後にフォルテは突き刺さった螺旋を全て弾き飛ばし、両足を縛る黒い渦を強く踏み付けた。
力んで足底に力を込めた事で彼女の足下の黒い渦は即座に霧散し、代わりに海斗の足下から強烈な衝撃が押し寄せる。咄嗟に両腕を交差して防ぐも、衝撃の余りの強さに容赦無く突き上げられてしまい、終いには防御を突き抜けて彼を吹き飛ばした。
海斗の両腕には靴底の模様までもがくっきりと付いており、それを付けたのが魔女フォルテであると判るのに、時間は掛からなかった。
至極当然。技を仕掛けていた海斗本人ならば尚更それを理解する。
黒い渦は自らの手足から発する為、渦から渦は相手に対しても海斗に対しても直通となる。この接続を理解すれば容易にカウンターを取れてしまう。だがフォルテはそれを理解していたワケでは無い。
今回のは偶々だ。
海斗が吹き飛んだ事で黒い渦の拘束が消え、魔女が再び力が漲らせる。勢いままに彼女が地面を強く踏み付けると、今度は拳の打ち下ろしも交えて吼えた。
『【超弩級なる大地】ッッッ!!!』
踏み砕いた地面を更に殴り、クレーターを更に更に崩壊及び爆裂させる。迸る衝撃が地面を走り、砕き、弾き飛ばす。弾けた地面は一つ一つが光速の飛礫となって散り、彼等彼女等に直撃した。
その中でも全てを回避して退けたのは海斗と白谷の二人のみ。全弾回避を熟した二人は、序でに衝撃の光景を見る事になった。
「な……おい、海斗……俺、目がおかしくなったかな? 気の所為か何か、フォルテが────」
「デカくなってる……あぁ、見間違いじゃない。俺にだってハッキリわかる。180cmが、200cmになってやがる」
その時、海斗は木の魔女ブルーム・ナチュールを思い出した。彼女の特性である『成長』は戦闘を通して時間と共に完成し、増大していくものだ。
だがこれは、これは違う。これは成長では無い。そもそも地の魔女の特性に『成長』は無い。あるのは力、大地、溶岩だけ……
────なら、何が?
「おい! 海斗! あれ……」
「ッ!? 遂に来たか……」
考える暇無く、海斗は新たな事実を目撃する。今シルクを除いた全員が"無双状態"であるのだが、その無双状態が、一人、二人と解けてしまったのだ。
幻真と夜桜、この二人が飛礫を受けてダメージを負い、同時に時間制限が訪れて消失してしまった。個人に依って時間の差はあるものの、やはり短い。全員が無双状態に移行してから、まだ30秒も経過していないと言うのに。
無双の消失とダメージで、二人はもう動けない。残りあと5人。無双状態で動けるのは、あと5人だけだ。
「畜生ォ! 体から力が消えていく……!!」
そうこうしている間に、今度はアルマの体から無双が消えかかっていた。無双が消えつつある事で、漲っていた力が全身から抜け出る感触に、彼は口惜しそうに言葉を吐く。
「まだだ、まだ────」
何か技を使おうとした瞬間、彼の頭部が自身の胴体を縦に割る。一瞬巻き上がる噴煙が即座に退くと、そこには拳を鉄槌の如く振り下ろした地の魔女の猛々しい姿があった。
同時に、アルマから無双が完全に消え去り、彼の体は暫く再生する事は無かった。それは、彼から力が完全に抜け切ってしまった事を顕著に示していた。
これで4人。あと4人だけが、無事に動ける者達。
「くッ!? 私は、まだ!!」
少女、霊乃は、消えゆく力に対してただ悔しそうに己の無力を呪い、自分はまだ何も出来てないと感情を吐露する。そこへ一瞬を超えてフォルテが彼女の前に現れ、1000を超える打撃を以て霊乃を地面へ意識と一緒に沈めた。
バチャッと肉が弾け散る惨い音諸共、霊乃なる少女から無双が消失した。
────残り、3人のみ……
『ふぅッ……どうした!? この程度か! お前達人間はこの程度でしか無いのか!! 私を倒してみろ! この私を、地の魔女を! フォルテ・ティターンを! 大地の一族を!!! 打ち倒してみよォ!!!』
爆発的に表出する黒い流れ、それと赤いオーラ。更には彼女の、魔女の、フォルテの体までも噴き上がるオーラと共に増大し、側から見て『巨大化』と形容するに値する状態に至った。
眠れる一族の血の力、その威、その意よ、轟け!
『【血族解放・大地の一族】……!!!』
その身長、実に5m!! 大体二階建ての家と同じくらいだが、その場に立って見てみなければわからないものがある。海斗達からして今の彼女は、存在感も含めて軽く10m有るように感じている。
ここで海斗はやっと気付いた。彼女の、フォルテの持つ特性に────
これは彼女の能力では無く、一族……そう、つまり血の、遺伝子の力。今まで彼は魔女達の魔法の特性だけを見ていた。それの範囲を広げて一旦全部を見直してみると、ある情報が気に掛かった。
種族の観点で見ていた時、天の魔女・人間。火の魔女・人間。木の魔女・エルフ。地の魔女・ティターン。
ん? ティターン? 地の魔女の苗字だ。これが種族なのか?
更に種族の持つ特性を見て、彼は驚いた。
ティターン族は"巨大な体躯"と"絶大な怪力"を有する一族で、時代の流れと共に体躯を小さくしていったが、本来の身の丈は5mを容易に上回る……と。
なるほど。つまり、地の魔女フォルテの体が急に大きくなったのは、フォルテ自身の種族が"ティターン"だからなんだ。要するに、これが本来の姿、本来の形……
「やっと本気ってか、フォルテ」
『お前達が弱過ぎるが故に煮え切らんでな。もういっそ全力で潰してやる事にした』
巨大な魔女に対して言葉を発するも、それが届く距離なのか否か判らないくらいいつも通りの感覚で喋ってしまったが、そんな心配など無意味にする返答をフォルテはした。
「はっ! デカくなった分ノロノロになったんじゃねぇのか!? おまけに的当てがしやすくなったぜ魔女さんよ!」
瞬間、挑発する白谷の横を真空が突き抜け、衝撃が横切る。フォルテが使った技で崩れ飛び、ほぼクレーターが無くなる程の地面になっていたが、それがまた抉れ、洞穴と呼べる穴を形成する。
その洞穴を形成したのが、またもや地の魔女フォルテであるとは、想像すら出来なかっただろう。
『ノロくなったか、的当てがしやすくなったかは、確かめてみろ。人間!』
「────ふざけんな……質量増した上でスピードまんまかそれ以上だとッ……!!?」
絶望だ。立ちはだかる明確な絶望だ。こんな反則を、どうやって対処しろと言うのか?
いやまだだ、まだある!
「いや、的当てはしやすくなった! 俺が証明してやる!! 活躍! 無双はまだ続いてるな!?」
「あ、あぁ! 多分大丈夫だ!」
「ならありったけの銃でぶちかませ! 1発残らずな!!! 俺が弾丸に、『終焉』を乗せる!」
希望は有る。海斗は活躍にありったけの銃を作成して撃つように指示し、活躍はそれを頷いて了解した。直ぐ様思い付く限りの銃を無数に上空高くに形成及び展開し、込める弾は全て実弾にして一斉掃射する。
「くらい散らせ! 『銃火器爆発物一斉処分祭』!!!」
ありったけ無数、数にして数千万を形成、展開された数多の銃や爆弾の有り得ない集中砲火を活躍は躊躇無く繰り出した。連射、火力、威力、弾の大きさ、其々各々の性能は違えど、空中一面を黒く埋める数の銃の、一面を発砲の発火の赤で埋める斉射の、一面を金色で埋める弾丸の嵐の、何と壮観な事か。
だが笑う、魔女は笑う。余裕を絵に描いたように、彼女はその巨躯から猛り狂う赤いオーラを放出し始めた。
『何をしようと、所詮同じ事の繰り返しだ!』
「そいつは、どうかなッ!?」
途端、猛り狂う赤いオーラの放出は止み、同時に白い光に全身を包まれた。オーラの放出が止むのはともかく、この謎の白い光が気に掛かるところだが、魔女はそれでも笑ってみせた。
『少々悪足掻きが過ぎるな人間、【超絶怒涛滅凄覇】ッッッ!!!!』
刹那、白谷の胴を穿つ果てしなく強固で鋭利な一撃が通過する。一撃は、白谷の横腹を、腹部の3分の2を消し飛ばし、謎の白い光も纏めて消し飛ばした。薄れゆく意識の中、白谷は驚愕と共に全身を使った拳打の構えのまま佇む魔女を見ていた。
「『ヘクセンチア』が……ウソだろ……この光の柱は、何があっても破壊されない筈なのに……」
白谷は、あり得ない事が起こってしまった驚愕を言葉に出して、無双が全身から消えていきながら意識も闇に落ちた。彼は死してなくとも、それは事実上の死に匹敵する事態だった。
『お前が何を言ってるのかはわからんが、"常識"を破ってこそ我々魔女だ。よく覚えておけ』
残り、2人────
ふと、魔女は見上げた。迫る……大量、膨大、無数の弾丸が。来る、自分なら簡単に弾ける軽々しい塵が如き程度物が。来い、これを吹き飛ばし、文字通り決着を付けさせてやる。
『【母なる大地の血液】』
フォルテは地面に手を近づけ、引き上げると、地面から赤やら橙やら黄やら、とにかく高熱を持つ粘着質な液体が蛇のように溢れ出てきた。グツグツとフツフツと、高熱の液体は煮え滾りながら素早く彼女の頭上に広がり、守備の形態を執った。
これが彼女、地の魔女の使う魔法のもう一つ、溶岩流。
彼女が自らを溶岩で守った時、海斗は銃が弾の発射から10秒後、0秒で斉射された弾丸全てに触れ、全てに『終焉』を付与した。それから間も無く溶岩に弾が触れる頃、彼は自らの無双を解いて弾の"無双"を一斉に解放する!
「無双、連鎖解放!」
螺旋の回転を帯び、弾は更なる加速を得て溶岩流に沈み込む。海斗の持つ回転と終焉の"無双"で溶岩流の中でも溶ける事無く、尚も進行し続ける無敵の弾丸達。怯む事無く、弱まる事無く、一切の無駄無く弾丸は溶岩の中を駆け抜ける。
『ふぅんッッ!!!』
突然、魔女は猛り狂う赤いオーラを全身から放出した。ただ放出しただけでも空気を押し潰せるこれが、溶岩流に加わって更に防壁として強固になる。しかし無双の弾丸は物ともせずに突き進む。一切に阻まれる事無く突き進む!
「受けろ、俺と活躍の合わせ技……」
それは、必然必中の弾丸。それは、禁じられし弾丸。それは、悪魔との契約で見出された、たった7発の禁弾。最後の一発は、悪魔の望んだ方へと……突き進む!
「『魔弾の射手・改』ッ……!!」
名前を口にしたのは、回転拳銃を構えた活躍だった。彼は無双を介す事で海斗の言わんとする事、やらんとする事を感知し、それを実行出来たのだ。弾丸は1つ、2つと溶岩流を通過し、次々と巨躯の魔女の体に突き刺さっていく。
やがて数億単位の弾が溶岩流を突き抜け、フォルテの体に全て突き刺さった。弾丸が撃ち込まれた箇所から出血が起こり、魔女に地味ながらも確実なダメージを与えている。
片目を瞑って痛みに耐える魔女に、最後の一発を見舞う為、活躍は態々回転拳銃の中の弾を全て抜き、たった一発の弾を込めて構える。拳銃、もといS&W M500は、自らの銃口内に青く澄んだ光を集束させ、今か今かとその解放を待つ。
唐突、力強く引き金が引かれ、弾が撃ち放たれる。
因みに魔弾の射手とは、1〜6発までは射手の望んだ方向に飛び、7発目は悪魔の望む方向に飛ぶ。つまり本来、これは忌まわしき魔弾なのだが……
「この7発目は、俺の望む方向に飛ぶ。何せ俺は、悪魔だからな!」
そう。活躍の種族には、悪魔が含まれている! 最初から最後まで彼は、彼の望む通りに弾を当てられるのだ!更に言うなら、魔弾の7発とは、シルクに依って無双を解放した霊乃、幻真、アルマ、夜桜、白谷、海斗……そして活躍の7人の意志の形でもある!
「魔弾は、悪魔の狙撃は、お前を撃つ!」
ならばこれは、決して負けない"究極"の魔弾だ!
『ぬぅッッッ!!?』
最後の一発が巨躯のフォルテの左胸に突き刺さる。途轍もない回転を帯び、静かな奔流を纏い、終わらせる力を得て、魔弾の意を受けた小さな弾丸は、迷う事無く標的を射る!
それでも、それでもまだ魔女は倒れない。左胸に突き刺さった弾丸も心臓には至らず、胸筋の締め上げで弾を、因果を、押さえていた。全身に突き刺さった弾も傷こそ作れど致命傷にはならず、瞬く間に全弾弾かれた。
「なら、8発目だ!」
その瞬間、彼女が受けた弾同様、静かな奔流を纏う一つの、否、二つの物体が目の前に────
「俺が……」
「俺等が……」
「「8発目の魔弾だぁぁぁぁぁああああああああああーーーーーーーーッッッッ!!!!!」」
海斗と活躍の両雄が咆える。拳を突き出す。互いに背中を合わせ、肘を合わせ、拳を合わせ、全力を込めて殴り抜く。正真正銘の最後の一撃は、無双を再現したシルクの意志を乗せて、打つッ!!!
「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!」」
『うッッぐッ!!? ぐぬッうぅぅッッッッッ!!! うおおおオオォォォォォオオおおおおおおーーーーーーッッッッッ!!!!!』
5mの巨躯の心臓目掛けて放たれる両雄の一撃に、フォルテは歯を食い縛り悶え苦しむ。必死に耐える地の魔女でさえも、食い縛る歯の隙間から血が溢れ飛び、心臓に叩き込まれる今まで体感した事の無い驚異的な一撃に意識を手放しそうになる。
それを踏ん張り、威力に押されて後退るも、猛り狂う赤いオーラを放出して海斗と活躍を突き放そうとする。だが退かない。両雄は一切退かない。猛り狂う赤いオーラの威力など容易に奔流で打ち消し、問答無用の一撃で一気に押し切る!
二人の確かな、強き心が信念となり、決意となり、破れぬ壁を打ち砕く。それこそが今の二人、それこそが、彼等彼女等!
「常識を破ってこそ、あんた等魔女だって言うなら!」
「その常識、"不可能"を打ち砕いてこそ俺達だ!」
「「「「「「消え失せろぉぉぉぉぉッッッ!!!!!」」」」」」
活躍、海斗と続き、最後は霊乃、幻真、アルマ、夜桜、白谷、シルクが思念となって拳に乗り移り、フォルテの肉体を螺旋を描く光となって貫いた。思念となった彼等彼女等が発した言葉は、魔女に対してでは無く、魔女を苦しめる『黒い流れ』に向けて放った。
両雄の一撃か、将又思念の言葉のおかげかは定かでは無いが、フォルテ・ティターンの体から黒い流れが吹き飛び、みるみる内に元の大きさ、180cmに戻った。力無く倒れる彼女を、海斗と活躍は間一髪で支え、互いに向き合って笑った。
「やっと終わったな」
「そうだな。しかし全員掛かり且つ無双の力を借りてってのは、盛大な辛勝────」
突如、異変が起こった。それは活躍が自分達の勝利を辛めに見た時だ。いきなり彼の体が内から弾け、背中からバックリと肉と骨が滅茶苦茶に裂けた。目の前で突如起こった仲間の異変に、海斗は反射的に無双を解放し、地の魔女の方を向く。
だが、魔女の方向を見ても、そこにはただ力尽きて倒れる地の魔女が居るだけ。そうしてる内に、今度は他の仲間にも異変が起こり始めた。
幻真は気絶してるにも関わらず血を吐いた瞬間胸部が破裂し、一気に肋骨が丸出しに。アルマはバラバラの体が再生するどころか、一つ一つの細胞が急速に死滅していっている。
夜桜はヘソから血を流し、徐々に確実に体の正中線に沿って切れ目が入っていく。白谷は欠損した横腹から壊死が始まり、まるで鉄錆のように朽ちていっている。霊乃もまた、鼻血と吐血が止まらず、爪が剥がれ落ち、そこから皮膚が火傷のように捲れていった。
一番無双の被害から遠い筈のシルクも例に漏れず。彼は意識の無いまま生命力が抜けていき、その容姿が急激に老けていく。
「何だ……!? 急にどうした!? みんな!!! おい!!?」
海斗が錯乱に陥りそうになった直後、彼の肩を優しく叩く何者か。その感触を、彼は何処か覚えている。
「やれやれ。やっちゃならねぇ事をしちまったな、海斗」
「優さん……」
優。ただ一人、その事態の全容を把握していた。
「お前さん、前に説明したかと思うが、『終焉』ってのは、完全な"純粋"だ。それ故に何も穢さず、何にも穢されない。ただし不浄は容赦無く消し飛ばし、この力を邪魔する者、穢そうとする者は、直ちに『終焉』に殺される────わかるか?
つまりな、継承者以外が無双を使うとな、使用者は不浄と見なされ、『終焉』を邪魔したとされ、容赦無くその肉体、存在を殺され、滅ぼされるんだ。無論、それに関与した場合でも邪魔にあたり、死か滅びを約束される」
それは『終焉』、"無双"の思わぬ穴だった。いや、穴と言うよりは、底無し沼とでも言うべきか。一度踏み込んでしまえば、二度と戻れない必死の沼……
彼等彼女等は、己の約束された死を抱えて、それを知らずに無双を行使していたのだ。
「一体、どうしたら……?」
「こればかりはなぁ。『終焉』ってのは『破壊』、つまり"終わり"を意味する力だ。世界の力で破壊を担った終わりは、終わらせる事しか知らない。故に、こいつを止める手段は何処にも無い」
次々と苦しみ、確実に終わろうとする仲間達を見て泣きべそをかく海斗に、優は残酷に真実を告げる。もう、終わりを止める手段は何処にも無い────それはつまり、優にも止められないと言う事なのだ。
「────って、んなワケねぇだろぉ? ちょっとしたイタズラだ。こいつを止める手段はただ一つ、たった一人の、つまり俺だ」
その時、優の指打ち音で、全てが元通りに戻った。苦しむ仲間達は皆体が治り、約束された滅びが完全に消え去ったようだ。
「ただ、俺以外にはこいつを止められない。そこだけは気を付けろよ。そうあの物書き馬鹿に伝えろ、序でにお前は脳無しか? ともな」
そう言い残し、優はまた余裕の表情で姿を消した。優の言葉を聞き、仲間達の無事を見た海斗は腰を抜かして後ろから倒れてしまい、大きな溜め息を吐いて言葉を口にした。
「もぉ〜……よかったぁぁぁぁぁぁ……」
彼は、安堵の溜め息をもう一度吐き、淀んだ空を見上げた。もし、この終わりを止められなかったらと考えた。もしそうなっていたら、自分は、どうなっていただろうか?
いや、やめよう。きっと恐ろしい事に違いない。考えるだけ、嫌になるだけだ。
深い溜め息をもう一度吐き、彼は地面に寝そべった。次の、いよいよ最後に残った光の魔女の救出を考えながら、静かに目を瞑ったのだった。
続く……
霊「死にかけたのはともかく、シルクさんだけ衝撃でしたね……」
シ「俺だけおじいちゃんってちょっと!」
幻「終わると言う点では皆平等だ、やめとけ」
また次回




