不滅の破裂死体
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【ジャイアントグラップ!】
レッドドラゴンを倒した時と全く同じ、巨大な巨人の腕が地面より生え出でて、ハイアンデッドを握りつぶす。
【GUAAAAAAAAAAA!!】
絶叫に近い苦悶の怨嗟の声が響き渡り、何かが砕け握りつぶされるような鈍い音と同時に、巨大な拳の指の間から黒い霧のようなものが天井に向かって立ち上り、闇と同化をする。
「やりましたよ!リューキ様!」
よろこぶミユキは、俺の周りを飛び回り。
「リューキ! 無事!?」
「なんとかなぁ……」
エリシアは様子を見に来るようにこちらへと走り寄って来てペタペタと俺の頬や腕を触り始める。
「なっ!? なっ、何を!?」
「怪我とかしてない? 大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ、お前の魔法のおかげでな」
「そう……良かった。 自信無さげだったから心配したんだけど……流石はナイトね! よしよし!」
エリシアは嬉しそうに飛び跳ね、同時に俺の頭を撫でてくれる。
「あっ……う……えと……」
人に褒められるのなんて……いつ以来だろうか。
笑顔で頭を撫でるエリシアに、俺は何も言葉を紡ぐことができず、ただしどろもどろに音を漏らして目を白黒させる。
考えても見てほしい、エルフの少女に心配され頭を撫でられ、あまつさえ褒められたのだ。
控えめに言って最高であり……俺の心の中は、一瞬にして色々なもので満たされる。
「まさか、最初のダンジョンでいきなりボスを倒せるなんてね」
しかし、こんなこと何でもないといったように、当のエリシアは俺の頭を撫でるのをやめると自らが仕留めた獲物を感慨深く見上げてそう頷く。
高々と掲げられた巨人の腕は、誇らしげに堂々と天井に向かって伸び、未だに黒い霧が指の隙間から漏れ出している。
「いかにハイアンデッドの欠損修復能力が高いとはいえ……これだけの魔法を受ければいちころころりんスットントンのようですね」
「だな……また何かが起こるかもしれないし……そうなる前に探索を終了させちまおう……」
「リューキに賛成……」
そういうことになり、俺たちはダンスホールの奥、玉座のある方へと向かい巨腕に背を向ける……。
と。
【GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
絶叫の様な声が響き、同時に巨腕の人差し指がへし折れ崩れる。
「なっ!?」
言うまでも、何が起こったのかを確認するまでもなく、俺たちすぐさまその場から離れる。
「うそでしょ!? これだけの魔法を喰らっておきながら……」
エリシアは驚愕の声を漏らすが、しかし現実は目前に無情にも立ちはだかる。
指を砕かれた巨人の腕は、一つが崩れると文字通り魔法が溶けたように崩れ落ちていき、バラバラと神殿が崩れながらもあたりに瓦礫が散乱し。
【AAAAAAAAAAAAAA】
その瓦礫を押しのけ……剣を握り立ち上がるそれは言うまでもないだろう……ボロボロで全身がおかしな方向にひしゃげているが、それは紛れもなく、ハイアンデッドであった。
「あんなになってもまだ動くなんて!」
「どうなってんだ!? あいつ、レッドドラゴンよりもタフだってことか?」
「そんなはずはありません! ステータスの数字はそのまま反映をされますから……ハイアンデッドは14、レッドドラゴンは確かに22です……どう考えてもあのハイアンデッドがエリシアさんの魔法でやられない理由がありません!」
「じゃあなんだって……」
理由が分からず、俺はステータスの魔法によりハイアンデッドのステータスを再度確認すると。
「えっ!?」
ステータスを共有してるミユキが、不意に驚いたような声を漏らす。
「どうした?」
「スキル、ガッツの発動を検知?」
「ガッツ?」
慌てて俺もミユキと同じようにステータス画面を確認すると、確かにハイアンデッドのステータス画面に【スキル・ガッツ発動】と書かれていた。
「致死のダメージを受けたときに、生命力をわずかだけ残して耐えるという特殊スキルです!」
「はぁ!?」
「さらにガッツは体力が最大回復すると同時に使用可能になりまして……」
「つまり?」
「常に傷を修復する特殊能力を持つハイアンデッドがこれを所有していると、もはや手が付けられません!」
「なんだとぅー!?」
「ちょっ!? どういうことよ二人とも! 私にも分かるように三行で言うとどうなるの!」
「やべえ、あいつ、倒せない!」
「大変じゃない!」
エリシアはそう叫ぶと、再度アンデッドに杖を構える。
体の修復は終了したのか、ハイアンデッドはよろけながらも剣を構えると、ゆっくりと後ろへ後ずさり玉座へと戻ると……倒れていた騎士に刺さっている、もう一本の剣を引き抜く。
二刀流……これが本来のあの王の戦闘スタイルのようだ。
再度俺はステータス画面を確認するが……ガッツというスキルなんて表示はされていない。
「見落としじゃないな……やっぱり、ガッツなんてスキルこいつは保有してないぞ?」
「しかし、確かにステータスはスキルの発動を検知しました……スキル隠匿の魔法でしょうか……しかしそうなればもっと分かりやすくステータス表示に妨害が起きるはず……」
ミユキは考える様な素振りを見せるが。
「AAA!」
「どうやら悩んでる時間は与えてくれそうにねーみたいだぞ!」
アンデッドは剣を構え、再度こちらに突進をしてくる。
「ちっ!?」
エリシアの魔法はまだとけてはおらず、敵のステータス欄も未だに黄色いままであるため、俺は剣を構えなおし、突進してくるアンデッドを迎撃する。
振りかぶるのは、引き抜いた方の剣。
「エリシア! 下がってろ!」
「う、うん!」
俺はエリシアを下がらせると同時に、振るわれた刃に自らの刃を重ねる。
筋力ではこちらが上回っている。
剣の持ち方も両手ではなく片手持ちになっているため、威力も弱いはず。
ならば、全霊で打ち合えば、必ず剣を弾き飛ばすことができると踏んだからだ。
「おおおおらあぁ!」
大きく態勢を崩せば、スキルグラップにより相手を丸裸にできる。
そうなればいかに二刀流の使い手だとは言え、恐ろしくはないはずだ。
そのため、俺は怒声を上げながら両手で思い切り剣を振りぬく。
予想は的中。
剣は大きく弾かれ、アンデッドはそのわき腹を大きくさらけ出し隙を作る。
―――――――今ッ!
左手を伸ばし、相手の腹部を殴りつけてスキルグラップを発動する……そうすれば、ガッツもろともスキルを奪い取ったうえでとどめを刺すことができる……。
俺は勝利を確信し、俺の指は腹部へとあと数センチと迫る。
だが。
【――――――――――――――――!!】
衝撃が走り、目前の映像が揺さぶられて体は浮遊感をしばし感じ。
「!っっっ――――!」
何かにぶつかる痛み……そして続いて訪れる何かが焼ける様な匂いと、ありえないほどの暑さが全身を襲う。
「リューキ!?」
「リューキ様!」
「あ……うっ……あ」
俺の名前を呼ぶ二人の少女の声は、なにやらどこから響いているのかがわからないほどめちゃくちゃな方向から響き反響をする。
自分の体を見てみると、腕からはぶすぶすと煙のようなものが上がっており、焦げ付いた自分の衣服を見て初めて、俺は爆発に巻き込まれたということに気が付いた。
「リューキ様!? ご無事で!」
「あぁ……マジで泣きそうだけど」
正直、なんで五体満足で目立った怪我もなく立ち上がれたのかが不思議なぐらい体が痛い。
「とっさに後ろに飛んで爆発を回避したのね……」
「爆発……」
「鋼鉄の体が無ければ即死でした……エリシアさんに感謝です」
「あー……とりあえずさんきゅー……」
ふらりと立ち上がり、俺はハイアンデッドをにらみつけると、そこには体中から煙を巻き上げ、体を修復しているアンデッドの姿があった。
「……エクスプロージョン……物を起爆させる特殊スキルですが……あのアンデッドは、自分の体を起爆させるようです……自らを起爆させ、オーバーダメージになりそうならばガッツで耐えて修復をする」
「なんて卑劣なスキル構成なの……」
「だけど、どうなってんだよ……ステータスの魔法じゃ」
「ええ、確かにそんなスキルあのアンデッドには備わっていません」
「AAA!!」
修復が終わったのか、まだ疑問の答えも出ていない状態で、アンデッドは再度こちらへと迫りくる。
「来るわよ!!」
「エリシアさん! 足止めは!」
「スクロールも使い切った、魔法も待機時間が終わっていないわ!」
「リューキ様!」
「あぁもう本当は全身痛くてやりたかねーんだけど!!」
体中痛い……。
四肢切断でもされてればここで立ち上がらなくても済むのかもしれないが。
悲しきかな、体は何の問題もなく思い通りに動き、爆心地に一番近かったはずの左手の指も今から裁縫仕事すらできそうなぐらい元気に動く。
流石は鋼鉄の体といったところだろうか。
これではさぼる口実を作ることもできないので、仕方なく剣を再度とり時間を稼ぐことにする。
「リューキ……大丈夫?」
「全身痛いけどどうやら体はぴんぴんしてるみたいなんでね……それよりも魔法を早くお願い」
「う、うん、できるだけ急ぐ!」
エリシアの言葉に、俺は一つうなずくと、そのまま迫りくるハイアンデッドを迎え撃つ。
「AAAAAAAAAAAAA!」
振るわれる剣は先ほど引き抜いた赤く光る剣であり、今度は受けるわけではなく回避をする。
剣は地面をたたき、俺は切りかかろうと剣を振るうが。
「AAAAA!」
刃が体に触れそうになった瞬間ここぞとばかりに、アンデッドは再度爆発を起こし、石造りのダンスホールを破壊し、破片が俺の体を打ち付ける。
「いてえっつーの!?」
今度は少し離れていたため、吹き飛ばされることはなかったが、爆発により舞い上げられた瓦礫が俺を打つ。
体は元気であるが、しかしぶつかる石つぶては痛いものは痛い。
俺は怒りに任せ、お返しに体を修復中のアンデッドの背中を切りつける。
「AA!?」
当然手ごたえなしであり、俺の与えたダメージなどダメージの内にも入らないと言いたげに、黒い霧がその部分を含めて爆発により欠損した体を修復していく。
糞っ垂れ。
「……畜生……何だってんだ本当に」
困惑よりも、疑惑が立ち上り、俺は振るわれる剣を受け止めながらも、爆発をいなしながら効果のない攻撃を繰り返す。
「リューキ様……何か気づいたことは!? このままでは」
「くっそ!」
ミユキの言葉に、俺はその言葉の意味を理解し、同時にアンデッドから距離を置き、足元に落ちている瓦礫の破片を掴み、投げつける。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
結果は爆発……離れていても相変わらず瓦礫が俺を襲うが、体はぴんぴんしており、俺はその体の修復時間の間に息を整える。
「リューキ様!? ただ戦っているだけでは勝ち目はありません!」
「分かってるってーのミユキ」
そう、闇雲に戦っていてもこの戦いはアンデッドに軍配が上がることに気が付いたのだ。
エリシアに魔法を頼みはしたが、この見えないステータスのカラクリを解かなければ答えは出ないだろう。
そうなれば、体力の消費がないアンデッドに最終的には軍配が上がるのは必至であり。
同時に俺は自分が息切れを起こし始めていることに気が付く。
当然か、魔法の力で底上げをしていても、体力が無尽蔵になるわけではない。
本当の騎士さまであればもっとましな動きをするのだろうが、元々ヒキニートの体を無理やり動かしているのだ……体力的な限界が早々に訪れるのは当然の帰結という奴だ。
早めにこの謎を解かなければ……恐らくここで三人仲良く木っ端みじんだ。
「AAAAAAAAAAAA!!」
「こいつを倒すのがかなり面倒くさいというのは分かったし……なんとなくだが気づいたこともある」
そう……だがこのリューキ。 ただ闇雲にアンデッドを切りつけていたわけでもない。
「……何か分かったんですか!?」
「とりあえずは、奴は戦術的に考えて爆発を起こしているわけじゃねえってことだ。 ある一定の距離まで近づくと爆発をするそういうふうに設定されてる」
「本当ですか?」
「あぁ……さっき瓦礫を投げた時、俺は離れてたのに爆発をしただろう?」
「た、確かに」
「それはつまり、モノや生き物が近づくと爆発するようになってるんだ。 あのアンデッドの力なら、石の破片なんて喰らってもなんでもないだろうしな……あいつが自分の意思で考えながら戦ってるんだったら、間違いなくあの場面で自爆するなんて行動は起こさないはずだ」
「では、どのように!?」
「さっき、爆発した直後に切りつけた時爆発せずに刃が通った。それはつまり」
「連続では爆発することはできない!」
ミユキの言葉に俺はうなずくと、すぐさま瓦礫を拾い上げてアンデッドへと放る。
【AAAAAAAAAAAAAA!】
予想通り、とんできた瓦礫の欠片に対しても、アンデッドは敏感に反応し爆発を起こす。
破片がいくつか俺の体を打つが、爆発するのがわかっていれば飛んでくる破片はさして脅威ではなく。
俺は剣を構えてすぐさまアンデッドへと走る。
【AAA!】
こちらも予想通り……爆発はすることなく、自爆の影響か、鈍い動きのままアンデッドは剣をゆっくりと振るうが。
「遅いぜ!」
俺はその剣を紙一重で回避をすると、そのままアンデッドへと触れる。
アンデッドの傷は修復間近……だが、治りきる前にスキルグラップでスキルをすべて奪いきってしまえば、ガッツも爆発も起こせないはず!
「全てを選択!!」
どのようにスキルを隠匿しているのかは知らないが……スキルグラップからは逃げられない……そのものが現在保有しているスキルをすべて奪いきる!
一瞬、ハイアンデッドの体から電流の様なものがほとばしる。
同時に、敵のステータス画面のスキルは空になり、俺のステータス欄にアンデッドが所有していたスキルが並ぶ。
制限時間は五秒と表示されているが、触れ続けていれば問題はない。
「……おっし……これで」
後はこいつ自身のスキルを使って……エリシアの詠唱が終わるまで……。
拘束していればいい……そう俺は安堵のため息を漏らすが。
「いけませんリューキ様!?」
「へ?」
不意にミユキは怒声を発し、俺は間抜けな声を出してミユキの方を見やると。
「爆発と……ガッツがグラップできていません!? まだそのアンデッドはその二つを所有しています!!」
バカな……という声よりも早く。
【A--――――】
閃光がアンデッドの体からほとばしる。
その表情は……どこかざまあみろと笑っているようにも感じた。
【ガッツ】 文字通り、耐え忍ぶスキル。 いかなる攻撃、いかなる破壊を受けたとしても、HPが1残った状態で生存できる。 しかし、一度使用した場合再度使用するためにはHPを全快状態にしなければならない。 通常、常命の物にしか宿らないスキルである。




