第1話 夕方の公園、静かな始まり
遠くでジリジリと蝉の声が響く、猛暑の余韻が残る夕暮れ時だった
「太陽、この後みんなで飯行くけどどうするー?」
「あー、ごめん! 今日この後、帰りにちょっと寄るとこあるから、また今度な!」
サークルの仲間にひらひらと手を振り、俺はいつものように賑やかな輪から抜け出した。 大学での評価はたぶん「ノリの良い陽キャ」。友達もそこそいるし、場を盛り上げるのは得意な方だ。だけど、たまに自分でも理由のわからない疲れがドッと押し寄せてくる時がある。
人付き合いは嫌いじゃないはずなのに。
俺って本当は、思ってるより陰キャなのかもしれない。
そんな時、俺が向かう場所は決まっていた。 駅から少し離れた、夕暮れ時の小さな公園。
サークル仲間と歩くいつもの通りを途中で折れ、細い路地をぬけた先にある、古びたベンチと大きなクスノキが一本立っているだけの小さな場所だ。
自販機で買った冷たい缶コーラをひとつ。プシュッと鳴る炭酸の弾ける音が、静かな空間に響く。 そのまま勢いよく口に含むと、シュワっと広がる刺激と冷たさが、サークル終わりで火照った身体に心地よかった。
周りが敷いたレールの上を、ただなんとなく要領よく歩いているだけの自分。
「俺、何やってんだろな……」
誰も気にとめないような独り言を呟く。
西日に照らされた公園の砂場からは、近くの施設から来ているらしい子どもたちの甲高い歓声が響いていた。 鬼ごっこをして走り回る足音、擦り切れたブランコがギィギィと軋む音、砂山を崩してはしゃぐ笑い声。夕方の橙色の光の中で、子どもたちの影が長く伸び、誰もが自分の世界に夢中になっている。 まるで世界そのものが、眩しいくらいの熱量で動いているみたいだった。
――だけど、その賑やかな光景のすぐ脇に、ポツンと切り取られたような「静けさ」があった。
俺の視線は吸い寄せられるように、少し離れた日陰のベンチへと向かう。 そこに、小さな女の子が一人、膝を抱えるように座っていた。
ボロボロのクマの人形を小さな手でギューッと抱きしめ、楽しそうに遊ぶ子どもたちを、どこか冷めたような大人びた目で見つめている。
(あの子……今日も一人だな)
大学での人間関係に疲れて、この公園に逃げ込むようになってからどれくらい経っただろう。 最初は自分のことで手一杯で周囲の景色なんて目に入っていなかったはずなのに、いつの間にか、あの小さな姿が俺の目に留まるようになっていた。
大勢の中にいるのに、どこか一人で冷めているような少女の姿に、俺は柄にもなく勝手な親近感を覚えていたのかもしれない。
―それが、俺と結月の、静かな始まりだった。
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