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第1話 

初めて小説を書きました。

優しく拝読いただければ幸いです。

GWが明け、次の祝日はまだまだ先。少し気怠い5月の金曜日だった。

陽射しはすっかり初夏の気配をまとい、朝から雲ひとつない青空が広がっていた。

8時。さくらコーポレーションの業務が始まる。

経営管理課の小山千尋こやまちひろは、パソコンを立ち上げると今日のスケジュールを確認した。

経費精算の確認と処理。会議資料の修正、次回までの提案。午後は来月予算の打ち合わせ。

送られてきた経費申請は決まったフォームに入力されていなかったりと不備が多い。異動や新規採用などで慣れないながらも経費申請を送ってくれる方、ありがとう、でも、これじゃ処理できないよ。私が決めたルールじゃないんだよ、ごめんね。

月末も近づいているので、今日中に終わらせておきたい仕事は山積み、ちょっと憂鬱。でも、どこかルンルンな千尋がいた。今日は金曜日。仕事が終われば待ちに待った週末。

明日、明後日は3月から押さえていたチケットのデーゲームがある。

明日は13時開始だから、11時には球場に着きたいな。今日の先発は山下か。また1回から炎上しないと良いけど。ローテを考えると明日の先発はジョーンズか。

そんなことを考えながら、キーボードを叩く。


時計が12時を回ってお昼に行こうと席を立った時。

「小山さん、いる?」

ドアからぴょこっとずんぐりむっくりの体型をした狸みたいなフォルム。

「佐々木さん」

総務部の佐々木さんは社内でも有名な野球好きなおじさんで、千尋とはよく野球の話をする仲だ。

「今日の試合なんだけどさ」

「今日は行かないですよ。明日明後日行く予定で、今日は我慢したんですから」

「ちょうど、ここにいいものが」

佐々木はにやっと笑って、胸ポケットから2枚のチケットを取り出した。

その瞬間、千尋の目が輝く。

「えっ?」

「急なんだけど、一緒に行く予定だった奥さんが体調崩しちゃって」

「あら……」

「僕だけ観に行くわけにはいかないじゃない?このままだと2枚とも無駄になるんだよ」

千尋はチケットを受け取る。

内野指定席。佐々木さんがレッドフェニックスが暗黒期と呼ばれた時代から持っているシーズンシート。めちゃくちゃ観やすくて、かつ応援団も近いという神席。一度名義くださいって言ったら、本気で拒否られたことがある。

「行きます!」

思わず声が大きくなる。

「だと思った」

佐々木は笑った。


「でも2枚なんだよね。誰か心当たりいる?」

「あ……」

千尋の動きが止まる。

同期の松本ちゃんは今日は予定があると言っていた。

大学時代の友人も仕事中だろう。今日誘って今日行ってくれるような友達はいたら、私の野球人生はもっとバラ色だ。どうしよう、空席作るの嫌なんだよな


そう思った時だった。

「失礼します」

経営管理課の入り口から、一人の男性が入ってきた。

黒縁眼鏡に白いワイシャツ。

ノートパソコンを片手に、静かな足取りで歩いてくる。

情報システム部の広野皓太郎ひろの こうたろうだった。

「パソコンの調子が悪いと連絡をいただきまして」

「ああ、広野くん。悪いけど、お願い。」

千尋の上司である山口課長は仕事はできるが、パソコンだけは壊滅的だった。「電源が入らない」と呼んだ原因が、コンセントが抜けていただけだったこともある。きっと今回もそんなところだろう。

情報システム部の広野くんには、いつも申し訳なく思っている。

慣れた手つきで設定画面を開く。


その様子を見ていた佐々木が、ふと笑った。

「広野くん」

「はい?」

「今日、予定ある?」

皓太郎は顔を上げた。

「今日は特にありません」

「野球、行かない?」

「……野球ですか?」

少し驚いたような声だった。

「チケットが余っちゃってさ」

佐々木は千尋の手元にあるチケットを指差した。

「小山さんと行ってきてよ」

皓太郎は千尋を見る。千尋も少し驚きながら目が合った。


「ご迷惑じゃなければ……」

皓太郎は遠慮がちに言った。千尋は首を横に振る。

「迷惑なんて全然」

むしろ助かった。

「野球は好きですか?」

そう聞くと、皓太郎は少し困ったように笑う。

「実は、一度も球場へ行ったことがないんです」

「えっ、本当にですか?」

「テレビで少し見たことはあるんですけど……ルールもあまり分からなくて」

その答えに、千尋は思わず笑みをこぼした。

「じゃあ初観戦ですね!」

「はい」


「安心してください」

千尋は自然と笑顔になる。

「野球って、ルールが分からなくても球場は楽しいですよ」

「そうなんですか?」

「はい!」

大好きな野球の話になると、声が弾む。

「応援の音とか、球場の雰囲気とか、ご飯とか。そういうのも全部楽しいんです!」

皓太郎はそんな千尋を見つめていた。

野球の話をしているのに、試合の説明ではなく「楽しい」と何度も言う人。

それが少しだけ印象に残った。

「もしよかったら、一緒に行きませんか?」

千尋がそう言うと、皓太郎は少し考えてから微笑んだ。

「ぜひ、お願いします」


パソコンの不具合を直し終えた皓太郎は、自部署へ戻る途中でふと思った。

野球って、そんなに楽しいものなんだろうか。

少なくとも、小山さんは心から楽しそうだった。


千尋の方といえばルンルンで今日中に終わらせる予定だった仕事を、定時までにすべて片づけた。

試合があるからといって仕事は手を抜かない。その代わり、終業後は誰にも遠慮しない。

今日はナイター。仕事終わりのビールが待っている。


16時59分。

千尋はパソコンの電源を落とすと、小さくガッツポーズをした。

「よし、プレイボールに間に合う。」

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