表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃墟に咲く永遠の蕾  作者: ありぽん
第3章 警告と覚醒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/38

6話 成長おめでとう! 大丈夫、私には見えてるよ

 私は慌てて中庭に出ると、この研究所で1番の友人、まだ蕾のままの花に駆け寄った。


「わぁ、わぁ! いつの間に!! こんなに変わったなんて!!」


 今日の朝は、どうしても花に会いに来ることができなくて、朝の花の状態は分からないんだけど。昨日の夕方までは確かに、いつも通り小さく硬く閉じたままだった蕾。

 でも、今私の前にある蕾は、1.5倍程大きくふっくらと膨らんでいて。しかも全体的に、今までで1番元気が良いような、輝いているような、そんな素晴らしい姿に成長していたんだ。


「こんなに元気に育つなんて……。ああ、もう! こんなことなら、朝もどうにかして来るんだった! そうしたら成長している最中の姿を見れたかもしれないのに!」


 あ、でも、朝から今の間に、成長したわけじゃないかもしれない。急激とはいっても、昨日の夕方、別れてから今までに成長したとしたら、ずっと見ているわけにも行かなかっただろうし。


「でもやっぱり、朝は来るべきだったよね。うーん」


 成長した姿を見られたという嬉しい気持ちと、ここまで頑張ってきた花におめでとうと、頑張ったねと、やっぱり嬉しい気持ちだったけれど。その場で、成長している最中の姿も見たかったという、残念な気持ちが入り混じって、なんとも言えない気持ちになってしまったよ。


 というか、残念な気持ちの方が大きいかな。だって、ようやく大きくなってくれたんだよ。その瞬間が見られないなんて。


 と、私がそんな、なんとも言えない気持ちに悩まされていると、


「何をそんなに、うんうん唸っているのよ。また、所長か課長に何か言われたの」


 そう言いながら、宮本さんが歩いてきた。


「あ、そっちの方は別に何もありません。いつも通りって感じなんで大丈夫です!」


「そう? というか、いつもお通りだから大丈夫っていうのも、本当だったらダメなのよ? アレは上に立つ人として、ダメな態度なんだから。はぁ、まぁ、今は良いわ。それで、今は何を悩んでいたの?」


「いえ、悩んでいるというか、なんというか」


 私が花を見ながら話を始めると、宮本さんも花を見る。


 この時の私は、私の話を聞けば宮本さんも、私と同じような気持ちになるだろうな、とそう思っていたの。でも……全ての話を聞いた後の宮本さんの反応は、思わぬものだったんだ。


「大きく? 昨日よりも? そうね……大きく?」


 蕾をじーっと見ながら、少し首を傾け、歯切れの悪い返事をした宮本さんに。私は思わずその言葉に、『ん? あれ?』と声を出しかけたよ。


 いつも、私を気にかけてくれる宮本さんは、ここでは私のお姉さんみたいな存在で。悩み事や、何か楽しいことがあれば、いつもそれを聞いてもらっていて。そんな宮本さんに、私が大親友のこの花のことを、話さないはずがなく。


 それで、花のことを話したあとは、宮本さんも時々、私と一緒に花を見に来ていたから、蕾の様子を知っているの。

 だから、こんなに蕾が変化していたら、そして雰囲気が変わっていたら、すぐに気づくはずなんだけど……。


「あの……、大きくなっていると思うんですけど、どうですか?」


「うーん、そうねぇ。そう言われると、大きくなっているような? でも、咲くまではまだまだかかりそうよ? あ、もしかして、これだけ長くお世話しているのに、もうすぐ咲きそう! ってくらいに、蕾が大きくならないって悩んでいたの? 大丈夫よ! 私は最初の状態を知らないけれど、確実に前よりは元気になってきているんでしょう?」


「それはそうなんですけど……」


「なら良かったじゃない。どうせここからは出られないんだし、気長に待ちましょうよ。それで、ここを出る時は、この子と一緒にここを出れば良いんだから。ね! さぁ、今日も話を聞いてもらうんでしょう? それが終わったら、プレイルームで少し汗を流しましょう!」


「は、はい」


「私は先に行ってるわね!」


 そう言い残し、建物に入っていく宮本さん。


 確実に、蕾は昨日より大きくなっている。でも宮本さんは、大きくなっているような? って、その程度にしか見えていない? どうして?


 私はしゃがむと、じっと蕾を見る。もしかして私みたいに宮本さんにも、不思議な出来事が、違和感が起きるようになってしまったとか? ほら、こう、山田さんたちみたいな、大きな出来事じゃなく、私のちょっとしたおかしな出来事。


 何を食べたか忘れたり、味が思い出せなかったり。部屋の掃除や、お風呂掃除をしたことを忘れる。洗濯や、洗濯物を畳んだことを忘れる。

 あとは、私だけがそう聞こえる、所長のノイズ入りの放送に、誰かに見られているような感覚。いろいろ不思議なことが、私の周りや私自身に起きているけれど。


 今もそれは収まることなく、何だったら出来事が増えていっていて。それが私だけじゃなく、ついに宮本さんにも起こり始めたとしたら? 


 と、そんな事を考えていた時だった。たまたま目黒先生が廊下を歩いてきたから、私は急いで先生を呼び止める。


 目黒先生も宮本さん同様、私のことを心配したくさん話を聞いてくれて。私は目黒先生にも、花の話をしていたんだ。

 それで実際に、先生も花を見に来たことがあったから、目黒先生にも今の花の状態を見てもらって、感想を聞こうと思ったの。


「先生、呼び止めてすみません」


「良いのよ、ご飯前だけど、おやつでも食べようと思って移動してただけだから。それで、何かしら?」


「あの、蕾のことなんですけど……」


「蕾がどうかしたの?」


 私は宮本さんの反応については話さず、自分だけの感想を先生に伝える。先生は私の話を聞いている間、真剣に蕾を見てくれていたよ。そして……。


「先生、どうですか? 私は蕾が大きくなったと思うんですけど……」


「そうねぇ……。少しは大きくなったのかしら? 確かにこの辺がふっくらしたような? うーん、でも、私は数回しか見たことがないから。いつも一緒にいる瞳さんが、大きくなったと思うなら、きっとそうだと思うわよ」


「……そうですか」


「先生! ちょっときてください!! 指を切ってしまって!!」


「……いやね、私のおやつの時間を奪うなんて。はぁ、分かったわ!! それじゃあ、瞳さん、私は行くわね」


 話していると研究員が先生を呼びに来て、先生はおやつが食べられないと、少しイラつきながら、小走りで戻って行ってしまったよ。


「はぁ、やっぱり私だけなの?」


 うーん、これはどう考えたら良いんだろう。宮本さんや目黒先生が見ている花が、今の本当の花の姿で、私に新しい違和感が起きたのか。

 それとも、みんなに違和感が起きていて、私だけが成長した花をちゃんと見ることができているのか。


 でも、もしもみんなに違和感が起きていて、私にだけ起きていないのなら、逆にそれはそれで問題のような? 

 なんて、あれこれといろいろ考えてしまい、宮本さんと約束していたけれど、どんどん時間が過ぎていく。


 と、その時だった。何日ぶりだろう、珍しく曇り空の間から、ほんの少しだけ光が差し込んで。私は思わず顔を上げたの。でもすぐに花に目を戻した私。


 本当、たまたまだと思うんだけど、その光が花と私を照らして。今までで1番元気が良く、輝いているように見えていた花が、もっともっと輝いて見えたんだ。


 それはどれくらいの時間だったか。たぶん5分も経っていなかったと思う。すぐにまた雲に隠れてしまった太陽。でも、それでも花は輝き続けていて。それで私は、考えるのをやめて、気持ちを切り替えたの。


 ……まぁ、違和感でも何でも良いか! あなたが成長した、そう私には見えているんだから、それで良いんだよね。

 それに、これから花が咲くまで、また時間がかかるかもしれないけど。さすがに花が咲けば、きっとその時はみんなが、しっかりとあなたを見ることができるはずだし。


 うん! もう気にしてないでお水をあげよう! 大体だよ? 最近は違和感を、あまり気にしていなかったんだから、気にしない気にしない! と切り替えたんだ。


 いや、もう本当に、違和感が多過ぎて、最近はそれに慣れすぎちゃって、いちいち気にしていなかったんだよね。だから、また違和感が? なんて、考えるのもなって。


 それに、だからってわけじゃないけど、今回は蕾のことでしょう? しかも悪いことじゃなく、成長して元気になってくれたっていう、良いことの違和感なんだから、難しく考えることはないと思ってね。


 私はジョウロに水を入れに行き、戻ってくると、私が作った栄養剤をジョウロに入れて、花に水をやり始める。


「みんなには、どう見えているか分からないけれど、これからは、もっとちょくちょくここへ来て、私にできることをするよ。だから、もっともっと元気になって、かわいい花を咲かせてね」


 私は、どんな花が咲くのか、こんな花かな、それともあんな花かなと、綺麗に咲いた花を思い浮かべる。


「楽しみだなぁ、どんな花が咲くんだろう」


 こうして、花のことを考えながら、水やりを終えたあとは、いつも通りいろいろな話をして。それから私は、プレイルームへと向かったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ