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第二章:「異邦の再会」

第二章:「異邦の再会」


 箱根警察署の取調室。無機質なLED照明が、ホームズの青白い横顔を冷たく照らしていた。彼はパイプの吸い口を弄びながら、壁に掲げられた「訓告」の文字を退屈そうに眺めている。そこへ、足音とともに一人の男が入ってきた。仕立ての良いスーツを崩して着こなし、どこかニヒルな空気を纏った男だ。

「さて。君がシャーロック・ホームズと言い張る不審者か? そう言い張るなら、君が得意の観察力で私を……」

「おそらくあなたがこの署の警部ですね?」 

 ホームズの口調は丁寧だが、男の言葉をナイフのように遮った。警部は口を開けたまま硬直する。

「なっ……」

「まず、その態度です。巡査ならば私を値踏みする前に上官を呼びに行くでしょうし、警部補ならもう少し慎重な物腰になります。あなたは最初から“自分が判断する側”として話しかけてきました」

 警部は黙っている。

「次に、その靴です。かなり靴底が磨り減って使い込んでいます。机仕事中心の上層ではありません」

 ホームズの視線が、男の袖へと移る。

「そして袖口の摩耗。頻繁に腕を組み、壁や机に寄りかかる癖があります。部下の報告を現場で直接聞く立場の人間に多い仕草です」

 ホームズは軽く肩をすくめる。警部は数秒間、声も出せずに立ち尽くした。やがて、彼は降参したように苦笑し、椅子に腰を下ろした。

「……本物の化け物か、さもなければ史上最高の詐欺師だな。私は家城だ。この英語が通じることに感謝してくれ」

「感謝なら、警部のポケットにあるその**『光る薄い板』**にさせてもらおう」

  ホームズは身を乗り出した。瞳には飢えた狼のような好奇心が宿っている。

「山道で見た。人々はみな、それを神のごとく崇めていた。警部もそれを肌身離さず持っている。私に貸してくれないか。この世界の仕組みを知るには、それが最短の近道のようだ」

 家城警部は戸惑いながらも、自身のスマートフォンを差し出した。ホームズの細く長い指が、驚くべき速度で画面をフリックし、情報の海を泳ぎ始める。その適応力は、隣で見ていた家城警部が戦慄を覚えるほどだった。

「……ワトソン!」

 ホームズが不意に叫んだ。ちょうど隣の部屋から連れてこられたワトソンが、ドアの隙間から顔を出す。

「ホームズ! 無事だったのか! ここはどこだ? 私は不当な拘束に抗議していたところで……」

「そんなことは後だ! 見たまえワトソン、この板の中に大英博物館を上回る知識が詰まっている。そして信じられるか、この板は私について5,000万件以上もの記録を持っているんだ。中には、私たちが経験したはずのない奇妙な冒険譚まであるぞ」

 ホームズは画面をスクロールさせながら、愉快そうに口角を上げた。

「ふむ、この『ベネディクト』という男は、私の歩き方を実によく研究しているようだ。……おや、こちらの『ロバート』という男は、少々暴力的すぎやしないか? 拳で解決するのは君の役目だろう、ワトソン」

「ホームズ、何を言っているんだ? べね……何だって?」

 混乱するワトソンをよそに、ホームズは家城警部に向き直った。その目はすでに、目の前の「事件」を捉えていた。

「家城警部。この『グーグル』という検索エンジンは素晴らしい。私の脳内図書館を整理し直す手間が省けたよ」

「……さて、家城警部。あなたが今頭を悩ませている『富士屋ホテルの外交官不審死』。その現場へ連れて行ってくれないか。この便利な道具の実践的な使い方を、君に教えてあげよう」

 家城警部は慌ててスマホを取り上げ叫んだ。

「おい、その事件は貴様みたいな怪しいコスプレ野郎には関係ないことだ」

「もういいから、二人ともここからさっさと出ていけ!」

 ホームズとワトソンは、現代の箱根に放り出された。普通なら途方に暮れるところだが、ホームズは未知の世界に目を輝かせた。


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