2-20
ルイはルイーズと踊る中、そっとルイーズが身を引いたのを見て、気づいた。
「ルイ陛下のお役目です。わたしは、窓際にて待っております。」
アンリエットが、マリー・ルイーズを抱いて来ていた。
ルイは胸が締め付けられた。
なんて小さな、我が子だ。
遠目に見ることしか出来なかった、自身の娘。
「アンリエット」
「陛下。わたしの過ちです。兄が守ってくれたとはいえ……謝って済む事では無いわ。」
「そなたのせいではない!」
ルイは、殿方と踊っているフィリップを呼びつけた。
「フィリップ!」
フィリップはワルツで汗をかきながら、兄の元に駆けつけた。そして、状況を把握する。
「はい!……わたくしとアンリエットの赤ちゃんですね?お兄様が抱っこしてあげてくださいませ。それが、アンリエットの悲願ですわ。」
ルイは頷き、アンリエットに近づいた。
「マリー・ルイーズを、よいか?」
アンリエットは一筋の涙を流した。
「はい。どうかこの子に、陛下の愛を分けてください……。」
ルイとて、我が子を遠目に見ながら、愛しくないはずは無かった。
アンリエットとルイの関係は、国際問題に発展してしまう。
フィリップの子として、自制していただけだ。
ルイは柔く壊れそうな赤ちゃんを抱き、首の位置が落ち着かないのに戸惑う。
アンリエットが補佐した。
「まだ、首がすわっていません。気をつけて……肩肉に首を乗せる感じに。」
ルイはようやく、マリー・ルイーズを抱く事が出来た。
自身の初めての子供だ。
ルイは自然と微笑んでいた。
愛らしい、マリー・ルイーズ。
ルイを知らないはずなのに、泣きもせずに笑ってくれた。
神が授けた天使のようだ。
美しい白いベビードレスを着せられている。
フィリップが告げた。
「わたくしが夜更かししてベビードレスを縫って、ルイーズさんがベビーボンネットを縫ってくださいましたの。」
ルイはマリー・ルイーズを愛しげに抱え、涙腺を堪えながら、告げた。
「よく支えた、フィリップよ。そして、アンリエット。よくぞ生んでくれたな。マリー・ルイーズは弟の子だが、我ら兄弟の子である。余はこの子を我が子のように愛している。この感動は、余を一歩成長させることだろう。なんと、愛らしいのだろう……」
座ったままショコラを飲んでいたマリー・テレーズ王妃も、自分の子より早い赤ちゃんが羨ましくはあったが、ルイが初の子を抱けたことを、ルイと共に嬉しくなって、見守っていた。
ルイーズが歩み寄って来た。
「王妃様。舞踏会に来てしまったことをお詫びします。ご懐妊なされたのに、わたしが貴方様を苦しめてしまったのでは……お腹にお障りが無ければよろしいのですが……」
心配そうなルイーズに、王妃マリー・テレーズは微笑んだ。
「優しいルイーズさん。わたくしは、苦しんでいませんし……貴方のような方を、恨めるような人はいません。どうか、気を楽になさって。国王陛下はまだかかりそうです。よろしければ、わたくしと一緒に、ショコラはいかが?」
「お優しいのは、王妃様です。……ショコラをいただきます。」
ルイーズはお誘いにのり、マリー・テレーズ王妃と共にショコラをいただいた。
シラノは雪の降る中、いつまでも墓地にいた。
シラノの胸には、あの日の悔恨ばかりが降り積もる。
引き止めていれば良かったのだ。
愛しい貴方。
墓の中で何を思われるのか。
夢見る貴方。
貴方は今、天で幸せになれたのか?
死を持ってしか、彼女に恵みは無かったのか。
理不尽が過ぎる。
なんて、過酷な現実だろうか。
イタリア帰りのショワジーは、真っ先に墓地に駆けつけて、雪に埋もれたシラノの凍死未遂は事なきを得たが、傷心ばかりは手に負えない。
「馬鹿な人ですわ。墓からダニーは出てきません。誰か、手を貸してください!この人を暖めねばなりませんわ。」
イエズス会地下、仮初のアジトで、ダラメダ公爵は旧友ポルトスと戯れにチェスをしていた。
ポルトスは、銃士隊を引退後、未亡人であったあの老夫人に婿入りした。老夫人の死後、自由な身となり、侯爵様となっていた。
ポルトスが何故ダラメダについたかは、親友の形勢不利からである。
ダトスとバッツが国王側なら、ポルトスは不利なダラミツにつく。それが、男の筋というものだ。
「法王選挙は破綻。法王代理イノケンティウス11世は、わたしの親しい枢機卿だ。これは、あながち誤算では無い。」
チェスで何度も負けながら、ポルトスは盤上を掻き回した。
「えーい!!これだけ大敗した奴が何を理由に笑ってやがる!!次回のコンクラーヴェまで、俺たちは寿命が持つのか?んん!?」
「マダム・ド・スカロン」
「ここに。」
知的で美しく、凛々しいマダムが、呼ばれて現れ、頭を下げた。
ダラメダ公爵は紹介した。
「彼女はわたしを法王にしてくれるキーパーソンだよ、ポルトス。」
「なにが?美しい女だ。それが?」
「準備期間が増えたという訳だ。マダム・ド・スカロン、彼女はルイに母の愛を与えるだろう。信仰に厳格な方だ。彼女からカトリック思想をルイに与える。次回はルイ自らわたしに投票することだろう。下がりなさいマダム。」
「はい。」
ポルトスは顔を顰めた。
「母の愛だ?まだ、ルイの母がいるのにか?」
ダラメダ公爵はチェスのポルトス側のクイーンの駒をつまびいた。そして、自身のクイーンを進める。
「アンヌ・ドートリッシュを始末する。ルイもユスターシュも、核を失えばわたしのなすがまま。クイーンは二つもいらないのだよ、ポルトスよ。」
…………コンテュニエ!!
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