第60話 受注クエスト:Mob雪崩警戒区域②
――ウュウォーン!!
可愛いらしい、子犬のような鳴き声が、村全体に響き渡る。けれども、それは害獣の声。
迫りくる〈アナグリム・ノワール〉を、黒髪の少女が拳で弾き飛ばす。
津軽地方の村は、何とか生活できるのではないか、と言っても過言ではないほど損傷が激しい。
穴だらけの住宅、焼け焦げた小屋と思われる歪な建物、枯れ果てた井戸の水。
空っぽの商品棚、引っかかっているのがやっとの割れたハンガーラック。
異臭が漂う家畜の死骸。これらは、全てモンスターの仕業に違いない。
目の前で、つぶらな瞳を輝かせる子供の〈アナグリム・ノワール〉が、戦意がないことを訴えてきた。
私も殺したくはない、ないけど倒さねばならない。その場で屈み子供の頭を優しく撫でる。
――ビリビリッ!!
芯まで伝わる電流が、ルグアの身体に流れ始めた。彼女の脳にも同様な影響を与えるが、撫でるのをやめない。
「ルグア様。一体何をされて……。おや? 敵が襲って……来ませんね」
私も気付かなかったが、確かに他の〈アナグリム・ノワール〉は、足を止めて立ち上がり子供を見守っている。
と、その時。
『りんり〜ん!! 速いよ〜、でも追いついてよかった〜♡』
遠方から、置き去りにしたはずの藍が、なにかをばら撒きながら猛ダッシュで駆け寄ってきた。
ルグアが、東京から津軽地方まで、約37分。対して藍は、20分後に到着。
自分の勘がここで初めてハズレを引いた。後日、ルクスこと兄の巣籠陸に、地形情報を加えて計算してもらったところ、
685km=142時間+山道5箇所各40分仮定で3時間=145時間=6日と1時間
その先は、細かく計算しすぎで何一つ理解出来なかった。
◇◇◇◇◇◇
ずれたので、現在に戻す。ルグアは、藍がばら撒いている物が気になっていた。
「なあ、お前何やってんだ?」
「これのこと〜? グリちゃんの餌だよ〜、ねぇ? グリちゃん飼いた〜い!!」
「はぁあ?」
害獣をペットにできるわけない、と思ったが、撫で続けたことで完全に懐いたのが1個体。
「連れて行こうよ〜」
「しょうがねぇなぁ〜。…………全部引き取るか…………」
私以上にわがままで、自分勝手で、自己中で、歯向かうと機嫌を悪くする藍の言うことは、絶対守らなければならない。
というのも、反対しても言うこと聞かないし、拒絶すると精神暴走で、被害が拡大しかねない分、めんどくさいことになるからだ。
ルグアは、藍に餌付けを頼み、通常飛行で東京に戻った。
◇◇◇◇◇◇
「って、ことで〜、前回に引き続き、みんなの底辺アイドル、藍がお送りしま〜す」
◇◇◇◇◇◇
はい、ハート♡
(いらねぇわ!! あとまたやんのかよ……。ファンサービスほどほどにな。 by.ルグア)
おけおけ、了解!! それじゃあ行っくよ〜!!
(絶対わかってねぇだろ。by.ルグア)
東京に戻ったりんりんは、早速空き地を見つけて、耐電付きの巨大牧場をその日のうちに建設!!
群馬県1つ分の牧場は、餌箱や餌の栽培施設などなど、様々な設備が整っているんだよ〜。
そして、ルグア特製の巨大ケージに、約200万匹のグリちゃん入れて、牧場に放牧!!
なんということでしょう!? グリちゃんたちが、のびのびと生活を始めたではないですか……!!
(何とか○○○、みたいな語りになっているのは気のせいだよな。 by.ルグア)
餌箱に向かって転がるグリちゃんかわゆい♡ 転がりながらじゃれ合うグリちゃんかわゆい♡
丸まってコロコロ転がって昼寝するグリちゃんかわゆい♡ 寝返りうって転がり落ちるグリちゃんかわゆい♡
転がりながら跳ねるグリちゃんもかわゆい♡
(さっきから、転がってばかりじゃねぇか!! by.ルグア)
(モードレさんと藍さん、コンビ組んでも良さそうなくらい、息ぴったりです。 by.ガロン)
(組むわけねぇだろ!! リアルの私がどう思っているは、わからないが……。 by.ルグア)
(いいよ〜♡ by.明理)
(マジかよ!! ってか、どうやって干渉してきたんだよ!! by.ルグア)
(ルグアさんって、二重人格者なのでしょうか? by.セレス)
(違うわ!! ・違います!! ルグア&明理)
それは、置いといて…………。
(でも、リアルの私はツッコミ苦手だからよろしくね〜。 by.明理)
(丸投げかよ!! 嗚呼、めんど……。 by.ルグア)
ねぇ、これで説明終わりだけど、みんな話聞いてる〜?
(聞いていませんでした……。 by.全員)
◇◇◇◇◇◇
「ということで、次回予告!! 次回は、りんりんからの依頼で、武器強化素材集めだよ〜」
ポジティブ過ぎる藍が、堂々と発表する。みんなは顔を合わせて、ガイアが、
「なぜ、ルグアさんが依頼したのですか?」
と、問いかける。
「それはだな。日本軍全員の装備を新調しようと思ったからだ。もちろん、手伝ってくれるよな?」
「「はい!!」」
私の回答にみんなが頷き、
「おふざけ、お遊び禁止で、集中して作業してくれ!!」
「「了解しました!!」」
そして、ルグアの我が家は、私とフェンリルの2人だけになった。




