表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/165

第48話 剣と主の暴走と芯の強さ

 1ドットのHP。小刻みに震える身体。怒りに寄り添う意識。


 全てが限界に達し、憤怒が悲鳴をあげる。何も感じない。何も見えない。聴覚が唯一機能して、敵を捉える。


 歩みが重い、足の裏で察したのは、地面のへこみ。手に持つ剣の重さもわからない。


 これも、怒りのせいなのだろうか。歩みが重いのとは逆に、上半身だけが軽い。


 勝手に行動を始める、私のアバター。激流の如く、薙ぎ倒す。

 喘ぐ人の声。狼狽える人の悲痛な叫び。


 手加減してあげたいけど、言うことを聞かない。居合いの声はなく、ただただ、操り人形が滑るように動く。


『な、……なんだよ……コイツ。急に強くなりやがった。……て、……撤退だ、今すぐ撤退しろ!!』


 発したのは、上機嫌だった外国人の男性プレイヤー。見逃してやりたい、意識を戻そうとしても、怒りに負けてしまう。


 その頃には後の祭り。刹那に聞こえたのは、刃の切っ先が、男性の喉元に突き刺さる音。


 ゲームなので、痛覚補正はあると思うが、涙の伝う小さなものまで耳にする。


 全ては実力ではなく、技術でもない。誰かがそんなことを言っていた。弱さが自分を強くすると。


 私は今まで、自分の弱いところを隠して、苦手な分野から逃げていた。


 興味が無いゲームに潜り、知識だけを習得しては実戦を行う。勘とはいえ、運引きがほとんどに近い。


 また、自分を否定した。弱い心を受け入れようとしていない。なぜ、このようになったのか。


 そこで、私はやっと気付く。剣が認めないのは、自分が剣の重みを、受け入れないからではないか?


 確かに、重量感をネガティブ思考で振るっていた。重い、だから鈍い。これでは、認めないのも納得できる。


 たった一つ、誰にも負けないことは、諦めが悪いため、ハマったやつは、最後までやりきること。


 もう、嘆いてはいられない。弱い自分を捨て、受け入れるしかない。



 ――『でも、明理。今から勉強すれば大学には行けると思うよ』



 セレス/三上輝夜の言葉が、フラッシュバックする。もしかしたら、本当にできるという、可能性が見えた気がした。


 数学をとにかく勉強し、大学入試のために試験を受ける。最初からそうしていれば、と自己満足。


 怒りは収まり、視界が開ける。纏う黒炎は残ったまま、剣の拒絶は消えていた。


 心の強さは芯の強さ。芯という大黒柱が緩んでいては、強くはなれない。


 そして、心の弱さは受け入れることで、飛躍への道に繋いでくれる。


 受け入れなければ何も始まらない。そのことを、私は学んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ