第48話 剣と主の暴走と芯の強さ
1ドットのHP。小刻みに震える身体。怒りに寄り添う意識。
全てが限界に達し、憤怒が悲鳴をあげる。何も感じない。何も見えない。聴覚が唯一機能して、敵を捉える。
歩みが重い、足の裏で察したのは、地面のへこみ。手に持つ剣の重さもわからない。
これも、怒りのせいなのだろうか。歩みが重いのとは逆に、上半身だけが軽い。
勝手に行動を始める、私のアバター。激流の如く、薙ぎ倒す。
喘ぐ人の声。狼狽える人の悲痛な叫び。
手加減してあげたいけど、言うことを聞かない。居合いの声はなく、ただただ、操り人形が滑るように動く。
『な、……なんだよ……コイツ。急に強くなりやがった。……て、……撤退だ、今すぐ撤退しろ!!』
発したのは、上機嫌だった外国人の男性プレイヤー。見逃してやりたい、意識を戻そうとしても、怒りに負けてしまう。
その頃には後の祭り。刹那に聞こえたのは、刃の切っ先が、男性の喉元に突き刺さる音。
ゲームなので、痛覚補正はあると思うが、涙の伝う小さなものまで耳にする。
全ては実力ではなく、技術でもない。誰かがそんなことを言っていた。弱さが自分を強くすると。
私は今まで、自分の弱いところを隠して、苦手な分野から逃げていた。
興味が無いゲームに潜り、知識だけを習得しては実戦を行う。勘とはいえ、運引きがほとんどに近い。
また、自分を否定した。弱い心を受け入れようとしていない。なぜ、このようになったのか。
そこで、私はやっと気付く。剣が認めないのは、自分が剣の重みを、受け入れないからではないか?
確かに、重量感をネガティブ思考で振るっていた。重い、だから鈍い。これでは、認めないのも納得できる。
たった一つ、誰にも負けないことは、諦めが悪いため、ハマったやつは、最後までやりきること。
もう、嘆いてはいられない。弱い自分を捨て、受け入れるしかない。
――『でも、明理。今から勉強すれば大学には行けると思うよ』
セレス/三上輝夜の言葉が、フラッシュバックする。もしかしたら、本当にできるという、可能性が見えた気がした。
数学をとにかく勉強し、大学入試のために試験を受ける。最初からそうしていれば、と自己満足。
怒りは収まり、視界が開ける。纏う黒炎は残ったまま、剣の拒絶は消えていた。
心の強さは芯の強さ。芯という大黒柱が緩んでいては、強くはなれない。
そして、心の弱さは受け入れることで、飛躍への道に繋いでくれる。
受け入れなければ何も始まらない。そのことを、私は学んだ。




