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一話 始まり

また しょうせつかいてみました

とある大手スーパーの屋上。


木枯らしが吹く肌寒い空気の中、その空気を切り裂くように熱気をはらむ声が飛び交う。


「悪魔将軍アクアクン!これ以上の悪事は許さん!」


顔のかたちにフィットするような赤いヘルメットを被り、全身を赤をベースとして白や黒のラインが入ったコスチュームに身を包んだ男が、悪魔将軍アクアクンと呼ばれた男に向かって指をさしながらはっきりと言い切る。



「なっ!貴様らはソウルレンジャー!なぜここがばれた!」



指をさされた悪魔将軍アクアクンと呼ばれた男は、顔の上半分を動物の骸骨に隠された紫色皮膚の男だ。

黒いローブは禍々しいツノがいたるところから生えていて、取り敢えず誰が見ても悪役に見える風体だった。

その男が狼狽しながら手を横にいる小さい子供の肩に置く。


子供は泣きそうな顔をしながらも、目の前にいるヒーローに釘付けになっている。


悪魔将軍アクアクンの前に並ぶのは5人の色とりどりの男女。


「子供達を離すんだ!」


「黙れ!ソウルレッド!ちっ…いけ!キャンヒー!」


「「「「「ヒーーー!!!!!!」」」」」


「みんな!行くぞ!」


赤いコスチュームの男は派手なアクションを交えてキャンヒーと呼ばれた顔に一つ目のゴーグルをかけたような全身黒タイツの男たちを倒していく。


それに続くように四人の色とりどりなコスチュームを着た男女も周りのキャンヒーを倒していく。


「喰らえ!デスビーム!」


「なっ!ぐぁぁぁっ!!」


「ソウルレッド!!」


そこで不意を打つようにアクアクンが手をかざすと、

ソウルレッドと呼ばれた赤いコスチュームの男の胸に火花が散り、ソウルレッドは後ろに倒れた。



「いゃー!そうるれんじゃーまけないでー!」


「アクアクンばーか!!!はやくまけろー!」





………




その一連の流れは、舞台の上で行われていた。その舞台を半円に囲むように置かれた椅子に子供が10人ほど座って、いや、立ち上がって舞台に手をかけながら口々にソウルレンジャーに向けた声援やアクアクンに対する罵声を浴びせていた。



結末は、子供の声援を受けたソウルレッドが立ち上がり、全員の必殺技を食らったアクアクンは倒れて平和が訪れた。



まだ興奮冷めやらぬ子供達を親が連れて帰り、屋上が閑散とするまで、ヒーローは30分以上子供に囲まれていた。







「お疲れっすレッドさん」


やる気のなさそうな頬のこけた男が軽い口調で挨拶をしてくる。


「あ、お疲れ様です。グリーンさん、それに皆さんもお疲れ様です。僕はバイトあるんで先に失礼します」


それに適当にへこへこと挨拶を返しながら、周りにいたパッとしない面子にも社交辞令。


「おーお疲れ様」


「またね〜」


待機室を出てため息を一つしたあと、次のバイトの時間まで余裕があることを確認してゆっくりと歩き出す。


山崎 ユウジ。


それ以上でもそれ以下でもない。


ユウジのそれ以上を強いて言うとするならば、大手食品店の屋上でヒーローショーをやっていることくらいだろう。

詳しく説明すると、日曜の朝にやっている【情熱戦隊 ソウルレンジャー】のレッド役を任されていた。



大手食品店の屋上だけでも何百人いるかもわからないソウルレッドをやっているだけであって、特に感慨はない。

このヒーローで意味があるのは、テレビの向こうで本体をやっているソウルレッドだけだ。

他は分身にすぎない。



ユウジには俳優になりたいという夢こそあったが、

今ここにいる通り、そんな夢は諦めて早数年。


動機は笑われることの方が多かったが、昔見たテレビのヒーローにあこがれて昔はヒーローになる事が夢だったのだ。


街の人のピンチに颯爽と現れ強い敵に苦戦しながらも最後は仲間と力を合わせて敵を倒す。


そんなヒーロー。


だが、それはテレビの中でしかないもので、

現実にそんなヒーローはいなかった。

だからヒーローにはなれなくても、

ヒーローを演じる俳優になろうと思った。


夢を諦めきれない結果が、なんとも中途半端な結果になってしまったのだった。


だが、俳優の道は簡単に閉ざされてしまった。

単に演技力が足りない。


それだけでユウジは落とされた。


地元で俳優になると意気込み、多少の演技力で周りに持て囃されていた分、一回落とされたことのダメージは大きかった。


どうでもよくなってしまったのだ。


何もかもが。




でも何故か、また中途半端に諦めきれず、

なんとなくコンビニのバイトとスーパーのヒーロー役の仕事をしていた。



ヒーローショーなんてぶっちゃけてしまえばもうやる気なんてものも特にない。


はしゃぐ子供もうっとおしく感じる様になってきた。

だが子供がいてくれないと仕事にもならない。

だから取り敢えず俳優を目指していた頃に身につけた演技力で誤魔化す。


そんな毎日。


ユウジがレッドに選ばれた理由も、ただ単に一番演技がうまかったからだ。


そして適当に悪役に攻撃して、たまにピンチになって、でも最後は気合の力で必殺技を放ち倒す。



そんな毎日。



ヒーローの着ぐるみを脱げばただのヒゲの剃り残しのあるやる気のない若者の完成だ。


11月に入り寒くなりだした外に嫌気がさす。


「さむっ…急がないと凍えそうだ…」


ユウジは肩を寄せてスーパーから歩いて10分ほどの所にあるコンビニに向かった。





5分ほど歩いた頃だろうか。

急にユウジ見ている景色がぐらりと揺れた。


「な、…なんだ?」


地震かと思ったが、何かが違う。


少し前を歩いていた通行人は何事もないように次の角を曲がって行った。


ぐらりとまた大きく視界が揺れた。

地面に頬がつく瞬間、ユウジは自分が倒れたことに気がついた。


「か、身体が…うご………」


そのまま何もできずに意識が遠のいていくとき、これで終わりか…と何の感慨もなくユウジは心の中で呟いた。












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