第6話『私は、あなたの道標《ビジョン》に、なれますか?』
あの年の夏休みの作文は、どうにか仕上げることができました。
私の人生において、とても濃い夏休みであったと自負します。それからの私はというと、あの水族館に通い詰めるようになり、熱帯魚の生態について詳しく調べるようになりました。
何者でもなかった——いえ、何者にもなれたあの頃の私は、熱帯魚を専門とする研究者を夢見るようになりました。
中学に進学するにあたって、海洋生物の研究が盛んな大学の附属の中学を第一志望にして猛勉強をしました。
両親に無理を言って塾にも通わせてもらい、やっとの思いで私は第一志望の中学に進学できました。
それからは中学、高校、大学と、生物科目の授業を中心に受講し、熱帯魚の研究にそそげる限りの情熱を注いできました。
そして私は今——熱帯魚専門のカメラマンをしています。
ええ、研究者ではなく、カメラマンです。
どうやら、私に研究者の白衣は似合わなかったようで、私は熱帯魚の魅力を解き明かそうとする研究者になるという志を半ば諦め、その代わりに、熱帯魚の魅力を世界に発信しようと、魅惑に富んだ刹那の瞬間を一フレームに切り取ることを生業としています。
そんな活動が評価され始め、仕事としても軌道に乗り出したある日のことでした。とある私のSNSアカウントの元に、一通のダイレクトメッセージが届きました。
なんとも懐かしさを感じる文面がそこにありました。私が撮影した熱帯魚の写真を賞賛し、ところ詳しく感想を述べる文章の、その最後に添えられた一文に、クスリと声が漏れてしまいます。
微笑ましく思いながらも、あの頃の感情が彩り鮮やかに思い出され、未熟な身でありながら大層な夢を抱えていた自分にわずかな羞恥心を覚えながら、それでも悪い気はひとつもせず、私はかつて父が授けた言葉を今更ながらに噛み締めることになるのでした。
同時にあの日、薄暗い水族館の中で目にした、例の紙に残された激励の言葉を思い出します。
顔も名前も知らないあの人のような、自信に溢れた言葉を目の前のスクリーンに並べ立てていきます。おそらく、電子の海洋の果てより先で彷徨う迷い子に、必要となるであろう言葉をつらつらと。
書き終えて読み返すと、ずっと強気の文が続いてしまいました。
じっと見返していると、なんだか急激に罪悪感が湧いてきて、返事をしないか書き直すか迷った挙句——私は最後の最後に一文を追加して締めくくることにしました。
それは、誰のためでもない、これまでの私に向けた償いの言葉でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
これからも応援してくださると嬉しいです。




