第2話『あなたの夢は、なんですか?』
小学校六年生にもなれば、将来の夢は幻想の秘境を踏破し、触れるほとんどの温度が冷ややかな輪郭を湛えた世界を歩み始めていました。
世界を救うヒーローや、キュートでマジカルな魔法少女に対して抱いてきた熱狂は、三十分浸かり続けたお風呂のお湯のように冷めていったのを私は当事者ながら肌で感じていました。
要するにそれは、その先駆けとなる課題の一つだったのです。
当時の私には、おおよそ夢と呼べる大層なものは持ち合わせていませんでした。ゆえに、夏休みの宿題でそのお題が、目の前の黒板に大々的に書き記された時は、困惑に目を回したものです。
明らかに周囲の同級生たちの士気も落ちているのが、目に見えてわかりました。まったく夏休みだというのに、救いのない悲惨な戦場のような有様でした。
担任はそんな私たちに武運を祈るように終業の礼をさせると、そそくさと紙とインクの匂い漂う、窮屈な巣に帰ってきました。
夏休みが終わるのはまだ遠くのことでしたが、早くに課題を終わらせようと息巻いていた私は、先刻告げられた作文の課題に頭を抱えずにはいられず、ついには、ヒントを求め友人たちに当てを立てて聞き回り始めたのです。
「作文の内容、何にするの?」
単純な問いかけです。
クラスで人気者の女の子は、人気モデルと答えました。彼女はすでに雑誌に載っている子役モデルで、このまま順調にその道を進み続けた未来を記すのだと言いました。
本好きの女の子は、司書になりたいと大事そうに本を抱えたのです。時間に余裕を見つけてはいつも本を読んでいる子で、話すと度々知識量の差に私は驚かされていました。
よく算数を教えてもらう男の子は、天文学者になりと瞳の中に宇宙の神秘を覗かせていました。お父さんがそうらしく、彼も尊敬する父のようになりたいのだと心躍る表情で語った顔は印象的でした。
気になる男の子は、サッカー選手になると高らかに宣言しました。強豪のサッカークラブに所属していた彼の夢に、周りにいた友人たちが揃って褒め称え喝采をあげていました。
彼ら、彼女らには確かな夢があったのです。私はそんな友人たちを心の底から尊敬しました。そして、
「——は、将来何になりたいの?」
続くその言葉にひとつも返せなかった私自身に、私は限りなく失望したのでした。
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