2025クリスマスSS 大森林は雪が降らない
※本編には全く関係ありません。
ヘーネの大森林の中にあるエルフ族のベース。その窓からハルが外を眺めている。ふんふんふ~んと鼻歌を歌いながら、お尻をヒョコヒョコ動かして。
「じんぐっべーる じんぐっべーる しゅっじゅがぁーなるぅー♪」
とうとう歌を歌い出した。膝でリズムを取りながら、ノリノリだ。
「ハルちゃん、それなんや?」
「くりしゅましゅの、おうたら」
「お歌は分かるけどな、クリスマスって何やの?」
すぐ隣にいたカエデがハルに聞いている。ハルを一人にすると何を仕出かすか分からないので、一応カエデがハルに付いている。実際にハルを止められるかは、あまり期待はできそうもないが。
「もう、くりしゅましゅらからな!」
ふふふ~ん♪と、また鼻歌を歌い出す。カエデの質問の返事になっていない。
「しょうら、りゅしかにいって、うしゃぎを焼いてもらわねーと」
「え? うさぎとどう関係あんの? ハルちゃん!」
言い出したかと思うと、ハルはもうタッタッタッタと走っている。きっと厨房へ行ってルシカに頼むのだろう。
「まあ、いいねんけどな。ベースの中にいてくれたら助かるわ」
「ん? かえれ、なんら?」
「なんでもないで。ルシカ兄さんとこに行くんやろ?」
「しょうら」
二人してベースの中を走って行く。厨房に入ると、エプロンを着けたルシカがいた。
「おや、ハル。おやつですか? クッキーならありますよ」
「お、たべりゅじょ」
そそくさと椅子に座ろうとするハルを、ルシカがヒョイと抱っこして座らせる。
「りゅしか、ありがと。じゅーしゅもほしいな」
「はいはい」
「ハルちゃん、違うやろ? ルシカ兄さんに頼むことがあるんやろ?」
「しょうらった」
「私にですか?」
そうそう、おやつを食べに来たわけではない。ちゃんとルシカに説明をしないといけない。
「もう、くりしゅましゅらからな。うしゃぎを焼いてほしいんら」
「うさぎをですか? 構いませんが、クリスマスですか?」
「しょうら。チキンの丸焼きとイチゴのケーキを食べるんら」
「ハルちゃん、うさぎと違うやん」
「らって、うしゃぎのほうが、うめーじょ」
そこはハルの好物が優先されるらしい。
「それにイチゴのケーキも言うてなかったやん」
「しょっか? けろ、ケーキもたべるんら」
「ウサギにケーキですね」
「りゅしか、イチゴのけーきらじょ」
「ふふふ、分かりましたよ」
「やっちゃ。楽しみら!」
満足そうに、ルシカが出してきたクッキーを頬張る。どうやらハルの中のクリスマスは、食べ物が中心らしい。決してウサギの肉とイチゴのケーキを食べる日ではない。
「なんや、クッキー食べるんや」
「かえれ、あたりまえら。りゅしかのクッキーは超うめー。あらがえねー」
「え? なんて? あらがえないってか?」
「しょうら。たべないなんて、むりら」
「アハハハ、ハルちゃんはそうやな」
おやおや、ハルはルシカのクッキーを食べない選択肢はないらしい。
「ごちしょーしゃん。りゅしか、うまかった」
「はい。で、ハル。そのウサギとケーキは今日ですか?」
「しょうらな、きょうは何日ら?」
「今日は24日ですね」
「じゃあ、きょうら」
「じゃあ夕飯のときにしましょうね」
「おー!」
ピョンと椅子から飛び降りたハル。ハルちゃん、24日はクリスマスイブだぞ。
「じゃあ、たのんだじょ!」
「ハル! どこへ行くのですか!? 森に入ったら駄目ですよ!」
「わかってるじょ!」
「カエデ、頼みますよ」
「はいな!」
手を振りながら、もう走って行くハル。カエデがハルの後を追う。
「ふぅ……ハルは何をするか、分かりませんからね」
ルシカが呟いている。ちびっ子ハルちゃんは一体なにをするのかな?
ベースの建物から出てきたハルとカエデ。
「ハルちゃん、結界から出たらあかんで」
「でねー」
トコトコと歩いて行く。カエデが言ったベースの周りに張られた結界の中で立ち止まり、空を見上げている。
「ふりしょうもねーな」
「ハルちゃん、なに?」
「ゆきら」
「ん? ゆき?」
「しょうら、しらねーか? つめてーの」
「冷たいん?」
「しょうしょう。ちゅもったら、まっしろになるんら」
「ん? 全然分からんで?」
ハルは雪が降らないかと空を見ているらしい。だけど、カエデは雪を知らないみたいだ。アンスティノス大公国では降らないのだろうか?
カエデが不思議に思っているほんの少しの間に、ハルは走り出していた。
タッタッタッタとしっかりと地面を蹴り、腕を振って走って行く。
「ハルちゃん! どこ行くん!」
カエデが叫ぶがハルは止まらない。そして突然ジャンプした。
「よっと! ちゅどーん!」
まあ、軽くでいいか。といった感じでピョンと飛び、すぐそこにあった小さな木の根本の地面を目掛けてドロップキックだ。
「ハルちゃん! なにしてんの!」
メキメキと音を立てて、根っこがついたまま木がドサッと倒れた。
「うん、こんなもんかな?」
倒れた木の先端を抱えて、ズルズルと引きずってくる。小さいとはいえ、ハルの何倍もある木を軽々と。
「ええーッ!?」
カエデが驚いているが、裏から慌ててイオスも走って来た。
「なんだ!? 何があった!?」
「イオス兄さん、ハルちゃんが!」
「ハル! 無事か……え? ハル!? なにやってんだ!?」
「おー、いおしゅ。くりしゅましゅちゅりーに、しようと思って」
なるほど、クリスマスツリーにするために手頃な木を倒したと。根がついたままだぞ?
だけど、ちびっ子が自分より大きな木を引きずる絵面ってどうなんだ?
「いやいや、待てよ。その木をどうすんだ?」
「かじゃるんら」
「飾るってなにを?」
「あ、しょっか。かじゃりがねーな」
「もう、ハルちゃんったら意味が分からんで」
「らから、くりしゅましゅなんらって」
クリスマスを分かってもらおうというのは無理がある。この世界にクリスマスはないのだから。
考えていたかと思ったら、空を見上げて立ち止まるハル。
「いおしゅ、ゆきふらねー?」
「なんだって?」
「らから、ゆきら」
「ああ、雪か? 大森林には降らないぞ」
「しょっか、ふらねーのか」
「そろそろそんな季節だな」
「くりしゅましゅらからな」
「ん? なんだって?」
イオスはハルの言葉は完璧に理解できるはずなのに、知らない単語が入ると駄目らしい。まだカエデの方が理解している。
「イオス兄さん、クリスマスなんやって」
「なんだそれ?」
「自分も知らんねんけどな、チキンの丸焼きとイチゴのケーキを食べる日やねんて」
「それと、木とどう関係があるんだ?」
「あれに飾りを付けようとしてるんやろ?」
「飾りって何を?」
「さあ?」
「しゃーねー」
ハルがヒョイと木を持ち上げ、ベースの前の広場にズボッとぶっ挿した。え? 木を地面に挿すのか? そのために、根っこごとだったのか。
身体強化を、とっても無駄なことに使っているような気もしなくもない。
「ここれいいか」
ハル自身は納得しているらしい。そして木に向かって手を掲げる。
短い両手を木に向けて出し、大きく半円を描くとあら不思議。木がピカピカと光り出した。
「はあッ!? ハルちゃん、なにしてんの!?」
「アッハッハッハ! 魔法の無駄使いだな!」
イオスがお腹を抱えて笑っている。どうやらハルは魔法で木を光らせたらしい。一体どうやって? とも思うが、そこはそっとしておいて欲しい。
「よしッ! こんなもんか。と、ちゅいでに」
ハルは周りを見渡して、手を出しながらゆっくりとグルリと回った。すると、ベースの周りの木がピカピカと光り出した。周りの木にも魔法をかけたらしい。
「アハハハ! ありえねー!」
「ほんまにありえへんわ。信じられへん。なんで木が光るんよ」
「まあ、いいじゃないか。ハルがやりたいんだろう? それに綺麗じゃないか」
「イオス兄さん、ありえへんって」
イオスが言った通り、ベースの周りの木がピカピカと光っている。しかもご丁寧にイルミネーションみたいに、点滅までさせている。ハルちゃん、そこに拘るのか?
木を倒したりしたものだから、ベースから皆が出てきた。
「なんだ!? これはハルの仕業か!?」
「あ、リヒト様」
「アハハハ、まあいいんじゃね」
リヒトとイオス、ミーレにシュシュがやって来た。コハルちゃんはどうした? 食事の時間ではないから、ハルの亜空間でおやすみ中らしい。
「まあ! ハルちゃん、とっても綺麗だわぁ」
「しゅしゅ、くりしゅましゅら! ゆきがふらねーのは、じゃんねんらけろな!」
リヒトが半分呆れながら聞いてきた。
「ハルのいた世界の、お祭りか何かか?」
「まあ、しょんな感じら」
とっても適当なハルだ。
ハルがここまでクリスマスに拘った理由は前世にある。前世のハルは身体が弱くて、母に迫害されていた。
だからクリスマスという行事をしたことがなかった。少しだけ、祖父母がケーキを用意してくれていた。イチゴののったショートケーキを。それがハルにとってのクリスマスだった。
この世界に来て、健康な身体になった。信頼のできる仲間もいる。だからハルはクリスマスをしたかったのだ。
今まで、ハルには関係のなかったクリスマス。いつも一人でベッドにいたクリスマス。今年は皆で楽しくクリスマスをと思ったらしい。
「りひと、りゅしか、みーりぇ、いおしゅ、かえれ、しゅしゅ、めりーくりしゅましゅ!」
とっても嬉しそうな笑顔のハルだ。そのハルの笑顔で、皆も笑顔になる。今年は良いクリスマスになりそうだ。
その後、ベースの周りが光っていると噂になった。それを聞きつけて、ハルの仕業に違いないとやって来た長老夫婦は、話を聞いてとっても残念がったらしい。自分たちも参加したかったと。
この世界では、ハルは一人じゃない。信頼でき可愛がってくれる皆がいる。これからも、何度でもクリスマスはできる。温かいクリスマスを。
――Merry Christmas!☆




