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淡々史記  作者: ンバ
第八十六 刺客列伝
23/274

荊軻 六、燕の太子丹、秦王政に憤る

22.

居頃之,會燕太子丹質秦亡歸燕。燕太子丹者,故嘗質於趙,而秦王政生於趙,其少時與丹驩。及政立為秦王,而丹質於秦。秦王之遇燕太子丹不善,故丹怨而亡歸。歸而求為報秦王者,國小,力不能。其後秦日出兵山東以伐齊、楚、三晉,稍蠶食諸侯,且至於燕,燕君臣皆恐禍之至。太子丹患之,問其傅鞠武。武對曰:「秦地遍天下,威脅韓、魏、趙氏,北有甘泉、谷口之固,南有涇、渭之沃,擅巴、漢之饒,右隴、蜀之山,左關、殽之險,民眾而士厲,兵革有餘。意有所出,則長城之南,易水以北,未有所定也。柰何以見陵之怨,欲批其逆鱗哉!」丹曰:「然則何由?」對曰:「請入圖之。」


(訳)

しばらくして、えんの太子・たん

人質に出されていた秦から

亡命して燕へと帰還してきた。


燕の太子・丹はかつてちょうの人質となり、

趙で生まれた秦王の政は

年少の頃、丹と交驩こうかんしていた。


政が秦王として立つに及んで

丹は秦の人質となったが

秦王の待遇が善くなかったために

丹は怨んで亡命・帰国してきたのであった。


帰還したのち、丹は

秦王への報復(が可能な者)

を求めたが、燕は小国であり、

そこまでの力はなかった。


その後、秦は日毎に山東へ出兵して

斉・楚・三晋(韓・魏・趙)を伐ち、

じわじわと諸侯を蠶食さんしょく(侵略)して

まさに燕まで迫ろうとしていた。


燕の君臣はみなわざわいの到来を恐れた。


太子丹は秦の侵攻を憂患して

太傅たいふ鞠武きくぶに諮問し、

鞠武は対して述べた。


「秦の地は天下にあまねく、

その威は韓・魏・趙を脅かし、

北には甘泉かんせん谷口こくこうの堅固さ、

南には涇水けいすい渭水いすい沃野よくやを有し、

巴・漢の豊穣なる地を独擅どくせんしており、

右(東)にはろうしょくの山地が、

左(西)には函谷関かんこくかん殽山こうざんの険を有し、

民は多く、士卒ははげしく、

兵革(武器)は有り余る程です。


意のままに出兵した所、

則ち、長城ちょうじょうの南から易水の北まで

(秦に)平定できぬ場所などはないのです。


どうして侮られたという私怨のために

その逆鱗に触れようとなさるのですか!」


丹は言った。


「しからば、どうすれば……?」


鞠武は対して言った。


「お入りください。中で図りましょう」


(註釈)

嬴政はキングダムだと超かっこいいですが

実態は人間不信の塊のような男です。


13歳という若さで秦王となった政は

実の両親(?)に殺されかけたために

儒教の標榜する孝悌の精神に

懐疑的な目を向けるようになってしまい、

韓非子の謳う帝王学、

法治主義に傾倒していきます。


その後、一大強国と化した秦に対して

燕は太子・丹を人質に出して

服従の意を表明しようとします。


嬴政と子供の頃に仲の良かった丹は、

昔のよしみから厚遇して

貰えるだろうと踏んでいましたが、

魑魅魍魎サバイバルを

生き延びてきた幼友達は、

すっかり人が変わってしまっており

丹はハナクソと同程度に扱われます。


このへんは馬援ばえん公孫術こうそんじゅつ

同じパターンでした。

旧交を蔑ろにしてはいけない。


昔仲が良かっただけに、余計

屈辱の念に駆られた丹は、

独断で秦を脱走し、燕に

帰ってきてしまうのでした。


簡単に逃げられたあたり、

政はまるで彼の存在など

気にも留めていないのが窺えます。


数字と規範以外何ものも信頼せず

我こそは天下に唯一無二の

完全な存在であると

思い込んでいそうな嬴政。


彼に恨みを持つ者たちの

逆襲が始まります。

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