25雅樹のお願い(紫苑視点)
顔合わせが終わってからは、トントン拍子に再婚話は進んでいった。
同居するにあたって今のマンションでは狭いという事で、新たなマンションを探す事になった。
僕も下見に誘われたが、二人のお邪魔虫になる気はサラサラない。
特に住む場所にこだわりなんてないからな。
まあ、強いて言えば今の学校に近ければどこでも構わないとだけ伝えておいた。
そしてあっさりと新居も決まり、僕と父親が先に入居する事になった。
荷物を運び入れながら、チラリと隣のドアに目をやる。
…ここに雅樹が住むのか。
今からワクワクが止まらない。
夏休みの後半になって、ようやく雅樹達が新居に越してきた。
引っ越しを手伝おうかと思ったが、引っ越し業者もいるし、下手に手を出してかえって邪魔になっても、と思い自粛した。
やがて、片付けが終わったのか、バタンと雅樹が部屋を出て行く音が聞こえた。
…この部屋に来るのかな?
そう思ったが、僕の部屋ではなく、リビングの方に向かったようだ。
僕も部屋を出てリビングへと向かう。
リビングの扉を開けようとしたところで、雅樹の声が耳に飛び込んできた。
「学校では『高橋雅樹』のままで通わせてもらえませんか?」
それを聞いた途端、僕は扉を開けるのを止め、薄く扉を開いた状態で聞き耳を立てた。
まさか!?
雅樹は二人の再婚に反対だったのか!?
それとも僕と同じ『桐生』の名字を名乗りたくないと言うのだろうか?
先日の壁ドンをした時の雅樹の表情を思い浮かべる。
驚いてはいたけれど、特に嫌がるような素振りは見せていなかった。
だが、内心ではどんな感情が渦巻いていたのだろうか?
雅樹の訴えに由梨江さんが悲痛な声を上げる。
「雅樹! 何を言い出すの!?」
僕の声を代弁しているかのような由梨江さんの言葉に僕も賛同する。
それに対して父親はあくまでも冷静に対応していた。
「何かわけがあるんだね? 言ってみなさい」
そこから雅樹は通学における懸念を述べ始めた。
確かに『桐生』という名字は珍しい。
そこから僕と雅樹が義理とはいえ兄弟になったと知ったら、僕のファンを公言する彼女達が知ったらどうなるだろうか?
一時期、ストーカーまがいの事をしてきた彼女達を思い浮かべた。
何とか話し合いをして彼女達の暴走を止める事は出来たが、それがいつまでも持つとは限らない。
雅樹が今後の懸念を述べていたが、確かに雅樹が彼女達に振り回されないとも限らなかった。
だから父親があっさりと雅樹のお願いを了承するのは当然だ。
納得していると、父親と由梨江さんの雰囲気が怪しくなってきた。
雅樹が焦ったような声を上げる。
「ぼ、僕、紫苑と話してくるね」
どうやら今の話を僕に伝えに来るようだ。
僕はそっと扉を閉めると、少し下がって雅樹が出てくるのを待った。




