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#53「証明が為の戦い・伍」

 剣と拳が衝突する。甲高い鋼音が校内に響き渡る。周囲に火花を散らし、朝の花火を作り出しては廊下を照らす。更に僕の身体から放たれる蛍色の稲妻が火花と共鳴し、フラッシュのような現象が視界を覆う。


「君のその覚悟、どれほどのものか見物だナ!」


 鮮血が弧を描き、豪喜の右拳が僕の刀を押し返す。

 次の瞬間、凄まじい衝撃波が爆ぜ、僕の身体は後方へ吹き飛ばされた。壁に叩きつけられる衝撃が背中に走り、頭上の窓ガラスが砕け散る。


「っ……!」

「これがオイラの能力『生破再環(サーキュレーション)』。生成、破壊、再生の6通りに渡る循環を行う力ダ。

例えば今の衝撃波はオイラの拳から放たれた魔力によって『生成』された力。2階から天井を突き破って君を襲ったやつは対象を『破壊』する力。そして破壊した人体以外のものを修復して『再生』する力ダ。

 皆にはもう教えたけド、君には教えて無かったから特別サービスだゾっ」


 豪喜が破壊した床に右手を翳すと、砕けた破片が逆再生のように元の形へと戻っていく。説明を終えるとすぐに豪喜は地を蹴った。  視界が揺れ、気づけば目の前に迫っている。伸ばされた右手が、僕の首を掴もうと迫る。


「だガ……これで見納めダッ!」

「くっ……まだ、終わってないっ……!」


 痛む全身に鞭を打つかのように稲妻が僕の体内に無理矢理命令を下すように迸る。青黒い炎を纏わせた刀を構え、豪喜の右腕目掛けて下から掬い上げるように斬り上げる。


「零式魔刀技・三式『秦月恐燐(フォビアステラ)』――」


 ――――――その時だった。


「っ――――――!!?」


 ――――――僕の身体の奥底で、何かが弾けたのは。


「がっ……ぁぁあああああ!!!!」

「ミコトっ――!?」


 蛍色の稲妻が僕の右手の指先から肩を通り、そして全身を駆け巡る。皮膚を内側から裂くような痛みが走り、鮮血が弾け飛ぶ。


「あああっ……がっ、ぁあああっ……!!」

「おイ、しっかりしロ! ミコト!!」


 あまりの出来事に先程まで対峙していた豪喜が戦意を捨て、僕の元に駆け寄ってくる。瞬く間に血溜まりとなった床を踏みしめながら、必死に僕の名を呼ぶ。しかし返ってくるのは痛みに苦しむ僕の叫び声のみ。


「と、とにかくその傷何とかしないとだナ……!」


 豪喜がひょいと僕の身体を抱える。水浸しになったタオルから水が溢れ出るかのように、抱えた腕を伝って、傷口から温かい血が滝のように流れ落ちては床に流れ落ちる。


「『何で僕を助けたんだ』とか言うんじゃねぇゾ……さっきも言ったがオイラは別に君を恨んだりとかしてないからナ。まぁあれダ、同じ1年1組の(よしみ)って事にしといてくれよナ」


 両手でしっかりと抱え、再び地を蹴って廊下を駆ける。保健室に向かって、ただ真っ直ぐに。


 だがその時――


「――くだらん」

「っ……!?」


 漆黒の羽根が豪喜の横を掠める。その刹那、羽根が空中で棘と化しては僕の右肩を穿つ。


「がぁあああっ!!」

「っ……!?」

(羽根が棘になっタってことは、まさかナ……)

「運が悪かったな、1年」


 冷たい声が降りてくる。

黒の短髪に同色のコートを羽織り、背中には漆黒の翼を生やす少女――生徒会副会長の鳳王華凛(ほうおうかりん)の姿が、そこにはあった。


「貴様の抱えるその(よしみ)とやらの運命はここで尽きを迎える事となったぞ」

(参ったナ、今一番遭遇したくない人とマッチしてしまっタ。よりによってこんなタイミングとか、運が悪いのは否定できないナ)

「大人しくそのスパイの身柄を渡してさえくれれば、貴様の命は狙わん。拒絶するのならここでスパイ諸共殺す。まぁどうしようと勝手だ。弱者が何をしようと強者の前に果てるだけだからな」


 声帯に冷気でも纏ってるのかと思う程に、彼女の声は冷たく、言葉がその鋭さを増強させていた。


「……オイラごと殺すってなら、それこそ好きにしろヨ。ここで潔して見捨てるほど、クラスメイトってのはやわな関係じゃないゾ。ま、全然話せてないんだけどナ」


 少しだけ足を震わせながらも、声色を一切変える事無く豪喜は拒否する。そうなると分かっていたのか、華凛はため息すらつくことなく、その場で翼を大きく広げる。


「『死鳥之羽棘(デスピアス)』」


 床に散った羽根がふわりと浮き始め、無数の球体へと変化する。そして弾丸のように豪喜へ殺到した――



「『凛花散斬(りんかさんざん)』」




 突如純白の花弁が舞い散り、漆黒の球体が一瞬で斬り裂かれる。この場にいる全員がこの状況を理解できなかった。


 ただ一つだけ、見慣れた制服を纏う白髪の姿を除いては。


「運が悪かったですね、鳳王副会長。貴方のターンはもう終わりですよ」


 無数の光が青年の刀に収束し、一振りの刃が姿を現す。青年はゆっくりと目を開き、柄を握る手に力を込める。


「ここからは、僕のターンです」

「何のつもりだっ……桐谷っ!」


 不敵な笑みを浮かべながら、奏刃は正面に刀を構えて答える。


「親友の危機から救いに来た……ただそれだけですよ」

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