『酒精と酔う夜』
あの日。
きゅうりみたいに、スパッと。
トマトみたいに真っ赤に。
冷たい剣が包丁みたいに、オレの身体を野菜みたいに簡単に斬りつけていた。
左肩から胸まで、ザックリだった。
──それを、やけに冷静に、覚えてる。
姉ちゃんが。大事だったから。
守りたかったから。生きてほしかったから。
……オレが代わりになればいいって、あの時は無茶やった。
あの時の。
オレを斬った時のじいさん先生の顔、覚えてる。
じいさん先生、泣きそうな顔だった、なあ。
──。何が悲しかったのか、オレは知らない。わからない。
でも、そん時だけ。じいさん、じゃなくて子供みてえで。
「なんで、泣かない、の?」って言ったら。
「泣けるなら、泣いてる」って、わけわかんなかった。
◇◇◇
酒精が完全に脳に回って、歩けなくなったザイルをレグが背負って、夜道を歩いていた。
「レグ〜、傷、もう治ったあ??」
「はい。完治しています」
「そっかあ、頑丈」
ザイルは、ケラケラと笑った。
彼の傷も完治しているが、傷痕は残った。
だから、じいさん先生。
風呂の後、裸でウロウロしてると気っまずそうにするんだよなあ。
ギリクの旦那に、じいさん先生に斬られた傷痕って、冗談で見せたら。
真顔で「おまえ、意外と度胸あるな。見直した」と褒めてくれた。
ご褒美に、その日のまかないは唐揚げだった。刻んだピクルス入りのタルタルソースが抜群に美味かった。
「なー、レグー、今度さ、唐揚げたべよ」
「いいですね。どこの店にしましょうか」
酔っ払っているザイルの言葉にいちいち丁寧に答えながら、獅子はのしのしと、歩みを止めなかった。




