あるオーダーメイドの完成
「完成したの!?」
このアメリア歓喜の声の少し前。
王国騎士団の特別指南役の就任初日の任を終えて、心地よい疲労感に浸りつつアンドレスと雑談しながら帰路をのんびりと歩いていた。
共に夕食を取ろうと約束していたアメリアとカミーユとの待ち合わせ場所であるレストランに向かっていたところ、ふいに後ろから呼び止められて振り返るとそこには顔なじみの配達員がいた。
俺の二つ歳下でやや小柄だが仕事がら両脚はガッシリしている。
そんな彼が幼馴染の彼女と結婚して仕事にますます精が出ていると息巻いていたのは先月のことだったか。
「ノアさん、ちょうど良かった!
速達をお届けにノアさんのお宅に向かっていたんですよ!」
「速達?
あ、マルセル工房からじゃないか」
「こちらに受領サインをお願いします」
「りょーかい、お疲れさん。
奥さんとは仲良くやってるのかい」
「そりゃあもう!」
差し出されたノートの彼が指し示した箇所へ少々乱れた筆跡でサインを済ませ、彼が何度か振り返りながら引き揚げるのを見送った後またアンドレスと共に歩き出した。
「ついに出来たのか」
「多分そうだろう」
手で乱暴に破ってもいいのだが、マルセル工房の紋章が綺麗に捺印された立派な封筒なものだから、風魔法の刃で丁寧に開封することにした。
進行方向で人とぶつかりそうにないことを確認したのち、歩きながら風魔法を起こし、封筒の端をちょっぴり切り落とした。
もちろん切り落としたところを道端に捨てたりせず持ち帰るぞ。
それはさておき。
そこで最初に戻る。
「完成したの!?」
後ろからアメリアが歓喜の声と共に駆け寄ってきた。
手紙を奪おうとするアメリアの脇から続けてカミーユが声を掛けてきた。
「ノアが開封しようとした封筒にマルセル工房の紋章が見えたもので」
「いい目だな」
「見えたのは姉さんですけどね」
「ああ、なるほど」
覚醒強化された能力には五感―視力もあるからな。
恐らく鳥類に匹敵するのではないかと王城の研究チームあたりが言っていたとかどうとか。
「剣も杖も完成したから取りに来いだって!」
まんまと手紙を奪い取って便箋を読んだアメリアの更に歓喜した声が響いた。
「姉さん、声が大きいよ!」
「今から行こうよ!」
「いやいや流石に今からは遅い。
もうすぐ営業時間も終わるし、ディナーだって予約してるんだぞ?」
「えー、じゃあ明日の朝いちばんから!」
「姉さん、明日は4人で隣町へ依頼の話を聞きに行くんだったでしょ?
約束の時間より早めに着いて御当地のランチを食べるんだって息巻いていたのは姉さんだよ?」
「うーーーん。
ランチは諦めて、時間に間に合うように工房を出るということでどう?
お昼ご飯は弁当持参で道中どこかで食べる!」
「その弁当は私が作ることになるんでしょ!
というか長引いちゃって約束に間に合わなかったらどうする気!?
明後日以降にしましょう。」
「えー」
相変わらず賑やかだ。
「ノアからも姉さんに何か言ってやって下さい」
「えー、俺?」
くるっと振り返るアメリア。
何その期待と不安が入り混じったような目は。
捨てられた仔犬みたいな。
やめろ見るな。
そこへこの事態を好転させる声が。
「ノアさん、はぁー、良かった!」
声の主の方を振り返ると先程の配達員だ。
珍しく中腰で両膝に手を付くほど息を切らせている。
「あれ、どうしたの?」
「いや、その、もう1通あったのを忘れてました。
出掛けに他の局員から手渡されたので別々に持ってたもので…なんて言い訳ですね。
で、これもサインを頂きたかったので、まだ近くにいらっしゃるかなと思って、戻ってきました」
「それも速達?何処からかな」
「えっと…、
あ、速達ではなかったようです。
僕の早合点でした」
「どれどれ。
あぁ、故郷の村長からだ。
毎年今くらいの時期に手紙を来れるんだよ。
何度も走ってもらって、すまない…」
と、閃いた。
そして俺は彼に訊いてみた。
「なぁ、今ここで速達中の速達をお願い出来るものかな」
「局を通さずにですか?
市内程度なら僕で受付できますよ」
「マルテル工房に今から走って貰うわけにはいかないだろうか」
「え、しかも今からお届けですか?
マルテル工房のある商店区画なら今日この後に普通郵便の配達に向かう予定でしたが、今からって…速達は直接手渡して受け取りサインを頂きたいですし、間に合わないかも知れませんよ?」
「あそこは住居併設だから大丈夫、ベルを鳴らせば出てきてくれるから。
そうそう、まだ結婚祝いを贈ってなかったね。
珍しい魔石があるんだけど、奥さんにどうだろう」
「行きますよ、ノアさん!」
「ありがとう!ちょっと待ってくれ」
目をパチクリするアメリア達を放置しながら話を進めていたことに気付いて、ここでようやく彼女たちに解説することにした。
「工房のマスターの所へ、彼にこれから手紙を届けて貰う。
明朝いつもより早く店を開けてくれってね」
「やった!」
「ノア、そんなことお願いしてもいいのですか?」
「予め手紙を出すだけマシだな。
昔は朝早くに住居のドアを叩いて起こして出てきて貰ったこともある」
「懐かしいな、なんの連絡もなくって、かなりどやされたっけ」
「二人ともそれは酷くないですか?」
「だから今回は手紙を書くんだ。
アメリア、早く剣が欲しいだろ?」
「欲しい!
カミーユだって杖の完成を待ってたものね!」
「もう、姉さん…」
そう話しながら既に俺はアイテムボックスから取り出した便箋に、アンドレスの背中を借りてサラサラと…とはいかないが、ペンを走らせている。
やがて書き終えた便箋を封筒に入れて。
「糊がないな」
「それなら僕が」
と、赤い小石のようなものを取り出して呪文を詠唱したと思ったらタラーッと封筒のフタ部分に垂れ落ちた。
「封蝋を用意しているのかい、すごいな」
「流石にスタンプまでご用意できませんが」
「それなら大丈夫だ」
と、俺は右手中指に嵌めていた指輪を外し、いま垂らした赤い封蝋の塊に押し付けた。
そっと指輪を離すと封蝋には木を模したマークが出来上がった。
「ノアさんこそ、用意がいいですね」
「まぁね。
じゃあ、これで頼んでいいかな」
「はい!確かに!」
つい先ほどアンドレスと二人で見送ったはずの彼の背中を、いや、先ほどと同じように何度も振り返る彼の顔を、今度は四人で見送った。
「よろしくね!」
特にアメリアは機嫌よく両手をブンブン振って見送っていた。
よし、これで憂いはなくなっただろう。
今日と明日の予定を変えずに、明朝から仕上がった剣と杖の受け取りも出来そうだ。
「よし、ディナーへ、レッツゴー!」
「はいはい、行きましょ、わわっ」
小走りに駆け出したアメリアに手を掴まれて一緒に駆け出す羽目になったカミーユ。
知らない人が見たら、ただ仲の良い姉妹の微笑ましい1シーンだ。
こんな二人が近いうち魔王領に向かおうってんだから。
いや、他人事じゃないんだが。
緊迫したシーンをとんと描かないので近く魔王と対峙するなんてまるでピンとこない。
そもそも私がピンときていない…頭の中の細切れの物語をチグハグながら紡ぐだけで精一杯だ。
いや、これはノアの言葉じゃなくて、私・作者の言葉です。
さて。
ディナーではノアとアンドレスの指南役初日の話題はもちろんのこと。
フリーだったら見学に来るつもりだったアメリアたち、前日に王城から遣いが寄越されて不動産業者と使用人たちを紹介するから都合つかないかと急な要請に応じることになり王城に出向いていたので、その報告のほうが多くなった。
「急だったよね」
「ほんと、急でした」
「せっかくノアとアンドレスの勇姿を見に行こうと思ってたのにさー」
「近くに居たのに、間に合いませんでした」
「勇姿なんかじゃないけどね。
それで、どうだった」
「よさそうでしたよ。
元は上層階流向けの学生寮を閉館して改築したものなのですが買い手が付かなくて格安になっているようです。
本棟と別棟があるので、教会が言ってきていた条件も大丈夫です」
「ああ、『聖女は異性との同居不可』ってやつだな」
「はい」
等など、この後は当物件の間取り図や支払い費用の概算資料、王城から紹介された使用人の名簿と推薦状、彼らへの必要報酬について、次々に確認していった。
「今夜中には見きれそうにないな、日を改めよう」
「そうですね、アンドレス。
物件もまだ一軒目ですし、焦ることはないですね」
「よし!じゃあ今夜は解散!
明朝は、えーと、何時に集合かな、ノア?」
「朝7時に工房だ」
「そんな早くに開いているのですか?」
「開けてもらうんだ」
「じゃあ朝7時に現地集合で!」
「開けて貰えるのでしょうか…」
「皆んな遅れるなよ、おやすみ」
自宅の方向が一人違うアンドレスが一足先に店の前で別れ、その後いまだに表情が対照的なアメリアとカミーユを自宅の近くまで送り、俺は帰路についた。
アメリアも楽しみにしていたが俺だって楽しみだ。
帰って湯船に浸かって、一杯だけ葡萄酒を飲んで早く寝るとしよう。
そういやご新規さんから請けていたコップの材料がそろそろ届く頃合いだ。
本格的に忙しくなる前に納品しないとな。
「サクラなら在庫で足りたんだけどなー、ご指定のシラカバは心許なかったし」
と、風呂上がりに窓から流れ込む涼風にあたりつつ、お気に入りのコップ―これもサクラから作った自作だ―を傾けながら暫しそんな考え事をしていた。
朝だ。
ちょうど太陽が顔を出し、優しい日差しが室内を照らし始めたところだ。
目覚めを促すほどではないので手のひらで顔を叩いて思考を呼び起こす。
昨夜は椅子にもたれかかったままウトウトしかけたが辛うじてベッドに入って眠ることが出来た。
お酒は好きだが強くはないのだし程々にしなければ。
トーストを焼いている間に顔を洗って歯を磨き終え、昨夜に使ったサクラ製コップを水でさっとすすいで珈琲を注ぎ入れた。
まだ時刻は6時、ここから工房まで歩いて20分余りの距離だ。
約束の7時までまだ余裕があるので庭から摘んできたプチトマトとキュウリをトーストの脇に添えて朝食の出来上がりだ。
このへんの描写は適当に流してしまおう。
「行ってきます」
一人暮らしなので誰も見送る人はいないのだが、出掛ける時も帰宅したときもノアは自宅の「誰か」に声をかけることにしている。
これはノアが故郷にいたときからの習慣で、家には精霊がいるという古くからの習わしによるものだ。
もうじきパーティで同居するようになればこういった朝の挨拶も目に見える相手に出来ることだろう。
「おはよう、皆んな」
「ノアが最後だよー」
待ち合わせのマルセル工房の前。
アメリアとカミーユが一番で、次いでアンドレス、俺が最後だったらしい。
約束より5分あまり早く着いたのだがアメリアは更に15分も早く着いていたらしい。
「遅れたわけじゃないだろう。
それよりも朝から店の前ではしゃいで騒いだりしていないだろうな」
「どきっ」
そのへんは分別のついた大人であると信じておこう。
今の我々の会話も全て小声で交わしている。
工房の窓―鉄格子が嵌められた窓からは既に灯りが漏れている。
既にマスターたちはスタンバイしてくれているようだ。
このあたりは朝日が入りこまない路地裏のため早朝は灯りが必須で、店内に人がいることが判るというものだ。
「じゃあ時間だし、入るか。
静かにな」
「はーい」
コンコン。
ギイっとドアを開けると奥のテーブルについていたマスターに無言で手招きされ、静かに店内に四人続けて歩を進めた。
最後に入ったカミーユがドアを閉め、マスターに促されるまま四人はテーブルの席についた。
「ドアを閉めたらもう普通に話してくれていいぞ。
このへんは石造りの建屋が密集しているからな、外は話し声が少し反響するんだ。
嬢ちゃんたちが早々に着いたことに気付いたときはどうしようかと思ったが、小声で話してくれていたし、そのまま待って貰うことにした。
こちらも準備していたものでな、外で待たせてすまなかった」
「いえいえ、そんな」
「こちらこそ我々の勝手に応じて貰って申し訳ない。
マスター、そして奥さんも、ありがとうございます」
四人そろって誠意のペコリだ。
「そんなのはよせ、商売でやってんだから」
「こういうのは必要なときは必要だと思うのでね」
「まぁいい。
じゃあ、さっそく見て貰おう。
お前たち時間ないんだろ?」
「お願いしまーす」
既にテーブルには長い麻布製の包みが二つ置かれており、マスターと奥さんが紐を解いて広げてくれた。
ご対面の瞬間だ。
アメリアは既にテーブルに突っ伏するかの如く顔を近付けて剣をマジマジと見つめている。
「…前よりも綺麗になったよね」
「さすがアメリアだな。
いちど仮組みして振ってもらったが、あのときはまだ研磨中だったからな。
研磨を仕上げたのもあるが魔法付与を始めたら更に輝きが増したんだ」
さすがと言われてドヤ顔のアメリア。
彼女は両手で握りを持って、深い紫色をした剣身に映った自分の顔を覗き込んでいる。
「そういえば魔法付与は、マスターひとりでやったのか」
「いや、アンドレス。
一度だけノアに手伝いに来て貰ったんだ。
お陰で助かったよ、ノア」
「元々そのつもりだったから気にしないでいいよ。
いくら魔石があったとて補助がいたほうが制御が楽だと思ってたんだ。
まあマスターだけでも問題なかったと思うけど」
「いやいや。
用意されていた魔法陣が、種類が多いのはいいんだが、サイズのデカいのもあったからな。
自信がなかったわけじゃないが、不測の事態で納品が遅れたらコイツは国への信用問題にもなったから、万全を期すことにしたんだ」
「杖は大丈夫でしたか?」
カミーユもアメリア同様に杖を両手で握って4つの魔石を代わる代わる覗き込んで見比べている。
こちらは多面にカットされた魔石に、覗き込むカミーユの顔が無数に映り込んでいる。
「むしろ杖のほうがノアの魔力を持っていかれた付与があったな。
例の『羅針盤』と言うやつだったか」
「私もサラ所長の手紙を私も見せて貰ってね、その付与は何種類もある魔石を頻繁に交換しなくてはいけないって書かれてたね。
最後の方に『ノア君に手伝って貰ったほうが楽』って書かれているのを見つけたんだよ」
「オフの日にすまなかったな、ノア」
「いいや、さっきも言ったように最初からそのつもりだったから」
「剣ちょっと振っていい?」
「待てアメリア、流石に剣を振り回すと近所まで響く」
「えー、そっかー」
「私だって試したいのを我慢しているのですよ、姉さん」
「これから移動が控えてるんだ。
そのためにマスターに無理言って早く店も開けて貰ったし、代金を払ったら移動するぞ」
「はぁい」
「マスター、代金を確認してくれ」
アンドレスがアイテムボックスから取り出したのは拳くらいのサイズに縛られた麻袋だ。
ガチャリ音を鳴らしながらそれをテーブルに置いた。
中には金貨が入れられている。
「一括でよかったんだよな」
麻袋の紐を解きながら横の席に座る奥さんに確認を促すマスター。
金貨を入れるトレイ―個数カウントに使えるノアお手製の小道具を手に持っており、そこに金貨を並べ入れていく彼女。
もっとも金貨もある程度は纏めて縛ってあるのでこの作業は楽なはずである。
「確かにピッタリ頂いたよ」
「ありがとうよ」
「私達こそありがとうございました」
「ありがとー、マスター」
「いいや、俺こそ良い経験をさせて貰ったから、こちらこそありがとうだ。
―あぁ、そうそう」
と、立ち上がったマスターがカウンターの奥に手を伸ばして別の麻袋を取り出してきた。
こちらは腕の肘から先くらいのサイズがある。
それをテーブルに置いて袋から中身を取り出した。
樹皮だけでなく中まで紫色をした―パープルアイアンウッドの木片が幾つか出てきた。
「預かっていた素材の残りだ。
流石に剣や杖を打つほどは無いが短剣か鏃を幾つか仕立てるくらいならまだいけるな」
「ありがとう、マスター」
「あと、これだね」
マスターに続いて奥さんがテーブルに置いた木製トレイの中には指輪とネックレス、バングルが置かれていた。
「もう用意してくれてたんだ。
しかも魔石も既に嵌めてくれてるとは」
「それくらいはわけないさ。
でもノアさん、これくらいなら自分で作れたんじゃないのかい」
「ノアとアンドレスが身に着けると言ってたものですね」
「そう。
最初はお手製で作ろうと思ってたんだけど、耐久性を求めたら金属を自分で加工するのはやはり難しくてね、手伝いに来てたとき本職の奥さんに相談したんだ」
「作りかけのものをアレンジしただけだったけど、こんな感じで良かったかい」
「十分です」
「いいじゃん、ねぇアンドレス?」
顔を近付けて見ていたアメリアの目の前のトレイから俺はバングルを持ち上げ、アンドレスに差し出した。
ちなみに指輪とネックレスは俺が身につける予定だがアメリアやカミーユに使ってもらってもいい。
「どうかな、アンドレス」
バングルを俺から受け取って左腕に嵌めるアンドレス。
「いい感じだ。
魔法付与は…これからだな?」
「ああ。道すがら付与するつもりだ。
奥さん、これは幾らになるかな」
「さっきのに含んでるよ」
「え、本当かい、大丈夫なのか」
「心配ないよ。
見積もりもしたじゃないか。
もっとぼったくっていいのかい」
「もっとって…
いや、じゃあ、含まれているということで」
「毎度あり!」
「急ぐんだろ、さぁ行った行った!
俺らは今から少しゆっくりするからさ、もう出発しろ」
「マスター、ありがとうございました。
朝早くから私達の我儘に応えて下さって、本当に申し訳ありません」
「いいんだよ、カミーユちゃん。
私ら好きでこの商売やってんだから、気にしなくてもさ」
「そう言ってくれて助かる」
「アンドレスとノアは気にしなさすぎじゃない!?」
「はは、言われたな。
ノアは最初はそうでもなかったが、アンドレスの影響だな」
「マスター、俺は今でも控えめだぞ?」
「もう行きますよ!」
カミーユに急かされ席を立つ俺とアンドレス。
アメリアは既に新しい剣を身に付けており、父の形見の剣はマスターにメンテナンスに預けたようだ。
「明日か明後日までには綺麗にしておくからな、アメリア」
「ありがとう、マスター」
「奥さんも、ありがとうございました」
「じゃあね、道中みんな気を付けて」
「ドアを開けたら路地を抜けるまで静かに頼むぞ」
「わかった」
静かにドアを開け、我々は工房の外に出た。
マスターたちと小声で改めて挨拶を交わし、その場を後にした。
この後は乗合馬車を使って、クライアントに会うため隣町まで移動をする。
「ランチに間に合うね」
工房を出て早くもお昼ご飯に思いを馳せながらウキウキしているアメリア。
「はいはい、まずは馬車に間に合うように寄り道せずに行きますよ」
路地を抜けるまでマスターの言いつけを守ってヒソヒソとそんなやり取りをしていた姉妹。
彼女たちの両手は先ほどから剣あるいは杖をなでなでと撫で回していている。
新しい相棒、あるいは強くなった相棒を二人とも早く試したいはずだ。
そんな様子を目を細めながら見つめるアンドレス。
そんなアンドレスをチラチラ見ては彼から「何だ」と言われ「別に」と答える俺。
そんな我々は足早に停留所へと向かうのであった。




