中世から来た魔女は、テストを受ける。――11
「エリー、編入おめでとう! 乾杯!」
「「かんぱーい!」」
俺、エリー、悠莉は、サイダーがつがれたグラスを合わせ、鳴らした。
俺たちがいるのは、俺のマンションから車で二〇分の場所にある洋食店。そのお座敷の個室だ。
この洋食店は古民家を改装したものらしく、落ち着いた雰囲気の内装が、地元民からも観光客からも人気となっている。
雰囲気だけでなく料理の味もよく、俺も度々お邪魔する行きつけの店だ。
今日は、昨日編入試験に合格したエリーを祝うため、三人でディナーを食べにきた。
グイッと三人でサイダーをあおり、ぷはーっと息をつく。
食前の一杯を飲み干し、俺はテーブルの隅にあるメニューを手にとり、ピンクのニットに水色のフレアスカートを合わせたエリーに見せる。
「さ。気兼ねなく好きなものを注文していいぞ、エリー」
「い、いいの?」
「ああ! 遠慮する必要なんてない」
「じゃあ、あたしは一番高い、A5ランク牛ステーキ膳で!」
「お前は遠慮しろ、悠莉!」
メニューで頭を小突くと、「暴力はんたーい!」と、白いブラウスに紺のベスト、紺のスキニージーンズで着飾った悠莉が、ケラケラと笑った。酒でも入ってるのか、お前は。
まあ、気持ちはわからんでもないがな。俺も、エリーが試験に合格できてかなり舞い上がってるし。
「……養一も悠莉もありがとう」
俺と悠莉がコントじみたやり取りをしていると、グラスを両手で包みながら、エリーが眉を下げた笑みを浮かべた。どこか申し訳なさそうな表情だ。
「育ててもらえて、勉強も教えてもらえて、学校にも通わせてもらえる、わたし、幸だよせ……こんなに幸せでいいのかなって思うくらい」
「なに言ってるんだ、エリー。エリーは幸せになっていいんだよ。幸せにならないといけないんだよ」
遠慮するエリーに、俺は真面目な声で告げる。
「前にも伝えたと思うけど、つらい思いをした分、エリーは幸せにならないといけないんだ」
それに、
「エリーが幸せでいたら、俺たちも幸せを感じられるんだからな」
「そうそう! エリーちゃんが笑ってくれるのが、わたしたちにとっては一番のお返しなんだよ!」
「養一……悠莉……ありがとう……!」
エリーが涙ぐみ、あじさいみたいに美しい笑顔を咲かせた。
「わたしにとっての一番の幸せは、養一と悠莉に出会えたことだよ!」
「くぅっ! エリーちゃん、めっちゃいい子!」
「俺はきっとエリーの笑顔を見るために生まれてきたんだ!」
エリーの笑顔に、俺と悠莉は胸を撃ち抜かれていた。
「お待たせしましたー」
注文から一五分後、エプロンを身につけた女性店員がメニューを運んできた。
俺とエリーはオムライス。悠莉はグラタンだ。
テーブルに料理を並べ、「ごゆっくりー」と、店員が引き戸を閉める。
「じゃあ、いただきますか」
「「いただきまーす」」
三人で手を合わせ、俺とエリーはスプーンを、悠莉はフォークを手にとった。
「ねえ、養一? これはどうやって食べるの?」
エリーがオムライスを指で示し、尋ねてくる。
この店のオムライスは、ケチャップライスに半熟のオムレツを載せたもの。いわゆるタンポポオムライスだ。
「これはな? まずこうするんだ」
俺はスプーンの先でオムレツに切れ目を入れる。
切れ目を中心にオムレツが左右に広がり、ケチャップライスを覆った。オムレツのなかはトロトロ半熟だ。
その様子に、エリーが「ふわぁ……!」と感動している。
「エリーもやってご覧?」
「うん!」
見るからにワクワクしながら、エリーがオムレツにスプーンを入れた。
すーっと切れ目を入れると、オムレツがふわりと広がる。
「キレイ……それに、とってもおいしそう!」
「この店のオムライスは人気メニューだし、味も最高だぞ? いただこうか、エリー」
「うん!」
俺とエリーはオムレツとケチャップライスとデミグラスソースを一緒にすくい、口に運んだ。
口に入れた瞬間、トロトロのオムレツとコク深いデミグラスソースが混ざり合い、まろやかかつ濃厚な味が広がった。
強火で炒められたのか、ケチャップライスからはわずかな香ばしさが感じられ、酸味・甘み・うま味にさらなるアクセントを加えている。
ひとつとっても一級品の、オムレツ・デミグラスソース・ケチャップライスの三位一体。うまくないはずがない。
エリーが「んんーっ♪」と頬を押さえる。
「おいしい――っ!」
「だろ?」
「うん! 毎日食べたいくらいおいしいよ!」
「む! 毎日か……なんか、店主に負けた気分だ……」
「ふわっ!? お、おいしいけど、一番は養一のご飯だよ! だから落ち込まないで!」
店主に対する敗北感に肩を落とす俺を、エリーがワタワタと慌ててフォローする。
「なんか先輩、どんどんバカになってきてますよね」
そんな俺たちのやり取りを、悠莉が半眼で眺めていた。
うるさいぞ、悠莉。エリーを喜ばせるのは、やっぱり俺でありたいんだよ。嫉妬してなにが悪いんだ。まあ、バカになってる自覚はあるがな。
俺は『エリー馬鹿』だ。エリーが可愛くて可愛くて仕方ないんだから。
バカバカしいやり取りは多々あったが、今夜の俺たちは笑顔が絶えなかった。
もちろん、その中心がエリーであったことは言うまでもない。




