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中世から来た魔女は、テストを受ける。――1

 水族館に行った日の翌朝、俺はリビングダイニングでエリーが作ってくれた朝食を口にしていた。


 ダイニングテーブルの向かい側に座るエリーはうつむき気味になり、小松菜のおひたしを咀嚼(そしゃく)する俺を、不安そうな目で見ている。


「ど、どうかな?」

「うん。よくできてるぞ」

「ホントっ!?」


 それまで捨て犬みたいに心細そうにしていたエリーが、太陽みたいに明るい顔をした。


「小松菜がシャキシャキで、けれど、しっかりつゆを吸ってる。ゆで方と塩加減がいいんだな」

「えへへへ……よかったぁー」


 頬をふにゃりとさせて喜ぶエリーの背後に、ブンブン振られる尻尾が確かに見えた。溜息(ためいき)が出そうなほど(なご)む。


 朝からほっこりした気分になりながら味噌汁(みそしる)をすすった。(かつお)だしと白味噌(しろみそ)、なめこのぬめりが相まって、ホッとする仕上がりになっている。


 エリーが作ってくれる食事は一日の活力源だな。もう、エリーのいない生活なんて考えられないぞ。


 なんてことをしみじみと思いながら、味噌汁をふーふー冷ますエリーを眺めた。


 ただ、今日からは俺たちの生活に少し変化が訪れる。一週間の連休が終わったことで、授業がはじまるのだ。


 エリーがリボンのついた白いブラウスに紺のスカートという出で立ちに対し、俺が白いワイシャツに紺のネクタイ、紺のスラックス姿――仕事着姿なのはそのためだ。


 授業がはじまると、一日の大半をエリーと離れて過ごすことになる。


 正直、心配だ。俺がいないうちにいなくなることはもうないと思っているが、エリーをひとりにするのはやはり(しの)びない。


 中世ヨーロッパからタイムスリップしてきたエリーには、現代日本で頼りにできるひとが数えるほどしかいない。そんななか、長い時間ひとりで過ごさなくてはならないのは、流石(さすが)に心細いんじゃないだろうか?


「なあ、エリー?」


 ばつの悪さに眉をひそめつつ、俺はエリーに()く。


「今日から俺は授業を開きに学校に行かないといけないわけだが、ひとりでも大丈夫か? まあ、すぐ土日に入るけど」

「……うん。大丈夫だよ!」


 笑みとともにエリーは(うなず)くが、眉が『八』の字になっていて、無理をしているのが一目でわかった。やはり心細いのだろう。


 自分の唇が引き結ばれるのがわかる。俺としても、エリーにさみしい思いをさせたくないのだ。


 とはいっても、仕事を放棄するわけにはいかないし、悠莉や清香先生に頼ることもできない。ふたりとも、俺と同じ教師だからな。


 なにかいい方法はないものか……。


「うーん……」と(うな)っていると、ひとつのアイデアが降ってきた。


 エリーは、わずか一週間でゼロから小学校卒業レベルの学力を身につけるほどの、驚異的な学習力を持っている。中学の範囲に入ってからも、学習状況は順調だ。


 それなら、できるかもしれない。


 自分のアイデアに「うん」と頷き、俺はエリーに提案する。


「なあ、エリー。俺が務めてる月ヶ丘(つきがおか)高校に通ってみないか?」

「……え?」


 思いも寄らない提案だったのか、エリーが目をパチクリとさせた。

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