結局最後は
「アン……あなたが教皇?」
「信じられないかな?」
「いやー信じないわけではないんですけど」
もっと腹黒そうな爺を想像していたというか。
底の読めなさはあるんだけど、イマイチそんな悪人の類には見えない。
俺みたいな若造にバレるわけがないってだけかもしれないが。
「で、何で俺みたいな一般市民にそんな拘るんですか? アルムスター家とやらとは曾爺ちゃんの代で縁が切れてるみたいだし、なんか特殊能力とかもないですよ」
「なるほど。しかし君単体でも中々利用価値はあるのだよ。例えばルーナのことだ」
「えー」
やっぱりそこなのか。
そりゃ確かにクラウディアさんでも完全無効化はできてなかったしな。
でも曾爺ちゃんは完全に神子の力は効いてたらしいし、どっから湧いたこの体質。
「私は君とルーナに子を成してほしいと思っている」
「あの発言アンタのせいか」
ここにきてルーナの突拍子もない発言の元凶判明。
いやどうしてそうなった。
「簡単なことだよ。私は実の所ルーナのあの力自体はそれほど重要だとは思っていない」
「使いまくってるのに?」
「使えるものは使うさ。だが神子の力の本質はアレだけではないのだよ」
「本質?」
あの何でもできる力が本質じゃないのか。
でもレイン婆ちゃん何も言ってなかったぞ。
「それはそうだろう。レイン様にとってはどうでもいいことのはずだ」
「どうでもいい?」
「神子はね。女神の言葉を聞くことができるのだよ」
「女神の言葉ぁ?」
なんかいきなり宗教的な話になってきたぞ。
いや神子の存在自体が宗教的なもんだが。
「君も神父から聞かされているかもしれないがね。教会というのは中々に腐っている」
「ええ……そりゃ言ってましたけど」
不老不死である意味外野からもの見てる神父様ならともかく、思いっきり当事者な教皇が言うのか。
いや教皇でもどうしようもないほど組織として腐ってるのか?
「教会を改革する。そのための大義名分。そして指針を私は欲した」
「あーそれで」
「そうそれでだ。だがルーナは神子の力を宿していたが、女神の言葉を聞くことはできなかった」
「ええ……」
肝心なところがダメじゃねえか。
だから「どうでもいい」とまで言ったのか。
いや神子の力もないと神子だという証明にならないだろうけど。
「というか俺結局関係ないのでは?」
「ふふ。女神の言葉を聞けるのは神子だけではなくてね」
「聞けや」
なんなの。
俺に関わってくる人間はなんで人の話聞かないやつばっかりなの。
それとも俺が空気読めてないの。
「世には英雄と呼ばれる人間が沢山いる。そしてそういった人間の中には、女神の言葉を聞いて立ち上がったとされるものも多い。そう例えば神父だ」
「え? 神父様が?」
あの神官の癖に神様信じてるかも怪しい人が?
女神に言葉かけられても鼻で笑いそうだぞあの人。
「そしてそういった英雄の子孫というのは大抵その後大成していてね。例えばピザン王家。そしてその腹心とも言えるアルムスター家だ」
「あー」
なるほどそう来たか。
ルーナは神子の力は使えたけど女神の言葉が聞こえなかった。
そして世の中には神子じゃないけど女神の言葉が聞こえる人間がたまに出てくる。
じゃあ二つを合わせちゃえばいいじゃないと。
「馬鹿なの?」
「やってみる価値はあるだろう」
「いやねえよ。人を農作物みたいにかけあわせんなや」
つまり女神の声が聞こえた英雄の関係者の中で、一番さらっても問題なさそうなのが俺だったと。
いや探せば絶対認知されてない子供とか居ただろお貴族様だし。
「というかどんだけ気が長い話だよ。アンタが求める理想の神子が出来上がるころには、アンタ死んでるだろ」
「ごもっとも。だが私が死んでも意志は残る。ならばやるのは私でなくともいい」
「あー分かった」
「おお。分かってくれたんだね」
「アンタほっといたらダメなやつだ」
多分悪人じゃない。
いや悪人じゃないからタチが悪い。
自分の信念のためなら悪にもなる。
味方なら頼もしいが、そうでないなら傍迷惑な人種だ。
「そうか。仕方ない力尽くで連れ帰らせてもらおう」
「結局それかよ。無理すんな爺」
物騒なことを言い出した教皇へ負けずと言葉を返すが、さてどのあたりでルーナは介入してくるだろうか。
そう半ばあきらめながらも、俺は抵抗し続けるために剣を手に取った。




