ついに来た
とりあえず俺を狙っているしろすけが予想以上にヤバいやつだというのは分かったが、肝心の対処方法が分からないわけで。
俺には神子の力は効かないようだが、しかし例えば「出でよ炎」とか命じられて出て来た炎も無効化できるのかというと多分無理らしい。
なんかよく分からんが、神子が引き起こす現象はともかく、既に起きた結果は神子の力から良くも悪くも手が離れるものらしい。
だからこそ逆に「俺が結界に引きずり込まれた」という結果には後から干渉できたのだとか。
うん。説明されても境界線が分からん。
そもそも俺には通じないはずなのになんで結界に引きずり込むことはできるんだ。
結界の方から俺の方に来てるのか。
「あれ? じゃあ神子の力を無効化できるのって、そんな有利にはならない?」
「いえ完全に有利よ。それでもあなたがあのルーナという子に手も足も出ないのは、残念ながら力量不足ね。もし完全無効化できるのがクラウディアなら一蹴できたでしょうし」
「わーレイン婆ちゃん優しい」
「……今私に優しいところあったかしら?」
「どうも神父やヴィオラ様の普段の評価が辛口らしく」
首を傾げるレイン婆ちゃんに説明するクラウディアさんだが、実際神父様なら「まあレオンがへっぽこなせいで無効化しても何の役にも立ちませんが」とか言うな。
……あれ? 辛辣なのがデフォルトなヴィオラで麻痺してたけど、もしかして神父様も割と俺に容赦なかった?
「ヴィオラはまだ子供だから仕方ない部分もあるでしょうけど、あの馬鹿は。ともかくクラウディアならある程度対抗できるのは確かよ。今後は常に一緒に居てもらうわ」
それは願ったりかなったりだが、結局何かあのしろすけをやっつける打開策とかはないのだろうか。
このままでいつまた来るかと怯えて暮らすしかないわけだが。
「さっぱり怯えているようには見えないけれど。消極的だけれどクロエが出てくるのを待つしかないわね」
「あ、やっぱり神父様も神子の力効かないんだ」
「……ええ。それもあるけれど、後々のことを考えると一応は『身内』になるクロエに始末をつけさせるのが一番穏便に終わるのよ」
「あー」
そりゃ例えばクラウディアさんがうっかり出て来た教皇を返り討ちにしたとしても、正当防衛とは認めず「ピザン王国が教会を敵に回した」と因縁付けられる可能性はあるだろうしなあ。
神父様を鉄砲玉にして教会内部の争いとして終わらせるのが都合がいいのか。
問題はそんな呑気なことを考えている内に俺がどうこうなるのではということだ。
「大丈夫じゃないかしら。私の予想通りなら殺されることはまずないわよ」
「それ俺にまだ言ってない情報があるってことですよね」
「それに気付ける頭があるならどうすればいいのか分かるわね?」
「……貴重なお話ありがとうございました」
にっこり笑顔で言われて大人しく引き下がる俺。
大人って汚い。
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「余計なことを知ればさらに危険になるだろうという気遣いもあると思いますよ」
「いやそれもっ……分かりますけど!」
翌日。
相変わらずやることがないのでクラウディアさんに稽古をつけてもらっているのだが、相変わらずこちらの攻撃がかすりもしない。
というか話しながらのくせに隙が欠片も存在しねえ。
マジで剣術だけなら神父様より強いんだなこの人。
いやそもそも魔術師が本業なのに剣術が強い神父がおかしいんだけど。
「ところで私の従騎士になる件についてですが」
「あーその噂いつまで流しておけば……」
「本当になる気はありませんか?」
「何で?」
いや本当に何で?
そんなクラウディアさんに気に入られるようなことしたか俺?
今も稽古では手も足も出てないし。
「本当に自己評価が低いですね」
「えーでもスライムも倒せませんよ俺」
「それはヴィオラ様も『いつの話だ』と呆れていたでしょう。今のレオンさんなら一刀で倒せますよ」
「えー?」
確かに前も言われたが、比較対象がないのでイマイチ実感が湧かないというか。
でも仮に俺がスライムを倒せるのなら、そこらの新兵よりは強いということになるのか。
「それにカンタバイレでは突然目の前に飛び出してきたフーハンを斬り捨てたと」
「えーと。つい反射的に?」
「フーハンもそこらの兵では相手になりませんよ。鎧など役に立たないほど力が強い上に、陸上でもそれなりに動きが早いですから」
「マジで?」
あの妖精という名のどう見ても悪霊みたいな連中そんなに強かったのか。
いや確かにあいつらにやられた死体の有様はむごかったが。
「でも俺性格的に騎士に向いてないと思うんですけど」
「そちらはあまり問題はないかと。むしろ問題なのは、レオンさんが仕えたくなるような『主』に出会えるかどうかですね」
「主?」
まあ確かに騎士と言えば誰かに仕えてるもんだしな。
この場合俺が仕えるのはクラウディアさんになるのか?
「いえ。あくまで従騎士は一人前になるまでの師弟関係のようなものですから。その後は改めて国か、あるいは領主の誰かにということになりますが」
「国かあ」
それもイマイチどういったものなのか分からないというか。
実質的には王様に仕えるってことなんだろうけど、国に仕えてる騎士がたくさんいてその他大勢になるなら実感わきそうにないしなあ。
「以前祖父は言っていました。『自分に人に誇れるような理想や大義などない。ただこの人の助けになりたい。この人の剣になりたいと思えるお方に出会っただけだ』と」
「白騎士が?」
もうなんかその考え方が正に騎士だよというか、十分立派過ぎないかそれ。
俺神父様のことは尊敬してるけど、助けになりたいとか剣になりたいとか思わないぞ。
「とりあえず騎士の位だけでも貰っておきませんか?」
「ええ……もしかして俺を騎士にすると何かクラウディアさんに得でもあるんですか?」
「得はありませんが肩の荷が一つ降りる可能性がありますね」
「何で??」
「じつは我がシュティルフリート家は本来の領地以外にさる事情で他家の領地を預かっているのですが、祖父の代からの話故か元の持ち主が中々返還に応じてくれず」
「おおっとぉ?」
それもしかしなくてもアルムスターさんちの領地の一部ですかね。
そのアルムスター家が「いや返さんでいいよ」と言ってるから、一応親族な俺に押し付ける気かもしかして。
というか許されるのかそれ。
「ピザンはあくまで領主が集ってできている国ですからね。王に領主の領地をどうこうする権利はありませんし、他家が口を出すのもまた然りということです」
「ええ……でも元も持ち主が気を悪くしたりは」
「カール殿の曾孫だと知れば納得するでしょう」
「おのれ曾爺ちゃん」
というかそれ受け入れたら俺騎士どころか領主の仲間入りじゃん。
ますます冒険どころじゃなくなるじゃん。
「そもそも俺に領主とか無理でしょ」
「ヴィオラ様に手伝ってもらえばいいのでは?」
「何でヴィオラ?」
確かに魔法ギルドの次期党首なんだから政治関連の勉強もしてるのかもしれんが。
だからって俺に付き合わせるわけにもいかないだろう。
下手すりゃ一生の仕事になるわけだし。
「……そういうところでも自己評価が低いのですね」
「え? 今それ関係ありました?」
なんかすっごいため息つかれた。
比較的優しいクラウディアさんが今初めて盛大に俺に呆れてる気がするのだが、一体何が悪かった。
「君の生い立ちを考えると仕方のないことかもしれないね」
「え? 誰……」
不意に知らない男の声が聞こえて、咄嗟に振り向くと背後にあったはずの屋敷がなくなっていた。
「……えー」
それどころか、改めて周囲を見渡すとそこはヴィオラの屋敷の中庭ではなく、どこかの海だか湖のほとりのようだった。
少し立ち位置を変えれば細かな砂に足が埋もれ、その跡も寄せて来た水に流され消えていく。
波がたってるし海か? いやでも大きな湖でも波たつし、ランライミアの湖も波あったしなあ。
それはともかく。
「……あんたら親子は人を唐突にさらうのが趣味なのか?」
「おや。よく私の正体が分かったね?」
「他に候補が居ねえんですよ」
いつの間にか目の前にいた男。
いや、背が高くてガタイが良いから一瞬そう思ったが、顔つきからして爺さんか?
ともかくこの瞬きの瞬間に景色が変わるのは、どう考えてもルーナの仕業だ。
そしてルーナの仕業なのに話しかけて来たのは男。
だったら候補はほぼ一人と言っていい。
「なるべく君とは早く話をしたかったのだが、何せ多忙な立場でね。すまない。ゴッタやルーナの無体を早く詫びたかったのだけどね」
「へー」
それアンタが命じたことじゃないのかという言葉は飲み込んだ。
いくら今までの出来事で印象が悪いとはいえ相手が相手だ。
それに圧倒的にこちらが不利となれば、しばらくは挑発せずに話をきくべきだろう。
「うむ。そうやって人の話を聞く姿勢は大事だよ。例え相互理解が難しくとも、相手を知ろうとするのは大切だ」
「はあ。俺はレオンハルトといいますけど、あなたは?」
「おや失敬。そうだね。分かり切っていても名乗るのは大切だ」
そういってくつくつと笑う爺さん。
ああなんだか納得いった。
正体なんて関係なく、多分この爺さんは俺なんかでは太刀打ちできない狸爺だ。
「私の名はグエン。これでも女神教会の長をやらせてもらっているよ」
そう言って爺さん――グエンは聖職者の鑑みたいな邪気のない顔で笑ってみせた。




