全力で守られる系主人公
「ごめんなさいね。くつろいでいたところを」
「いや別にいいんですけど……くつろぐ?」
夕食をとりそのまましばらく女子二人と話をしていたら、どうやら気を持ち直したらしく顔色のよくなったレイン婆ちゃんに呼び出された。
しかしくつろぐとは。
何かあの二人と話してるとボケたつもりもないのにつっこみを入れまくられるのは何故だろうか。
「えーと、あの白い奴の話ですよね。何で俺とクラウディアさんだけ?」
そう。呼び出されたのは俺とクラウディアさんだけだ。
何故ヴィオラとカムナを省く必要が。
「今から話すことは、本当なら墓まで持っていくはずだった話よ。クロエが封印されている以上、知っているのは私だけ。いえ、もしかすればコンラートさんはクラウディアに話したかもしれないけれど」
「……」
レイン婆ちゃんの言葉と視線に、クラウディアさんは口を真一文字に結んだまま何も答えなかった。
心当たりがないのか、あるいはあるからこそ下手なことは言えないのか。
どちらにせよ二人の空気が重めぇ。
これ俺いる?
「何を言っているの。狙われているのは貴方でしょう」
「それがもう意味分からんというか。そもそもあいつのあの力は何だったんですか。カムナは神子の力かもしれないって言ってましたけど」
「そうね。恐らくそれで合ってるわ」
「え」
えらくあっさりと、レイン婆ちゃんは認めた。
待てよじゃあもしかしてマジで。
「……本当は魔王はあいつが倒すはずだったのに、百年前に神子なしでうっかり倒してしまった?」
「なるほど。知らなければそういう風に思うのね。面白い推測だけど半分ハズレ。だってあの時、神子はちゃんとこの世に生まれていたもの」
「……はい?」
あの時。魔王が倒されたその時に神子はちゃんと居た?
ちょっと待て。ならなんでそのこと全然伝わってないんだよ。
「私たちが……いえ、コンラートさんが隠したのよ。神子という存在を」
「え? 白騎士がなんで?」
「あの子はコンラートさんの妹だったから」
「……え?」
白騎士の妹。
いや、もしかしてそれって神父様が書いた本に不自然に登場だけしてた……。
「正確には妹のような存在ね。モニカ・フォン・ヘルドルフ。まだコンラートさんが王の直属の騎士になる前に仕えていた、ヘルドルフという伯爵家のご令嬢よ」
「え? 神子って天から降臨したとかどっかの秘境でいつの間にか生まれたとかじゃなくて、そんなその辺でポンと産まれたんですか?」
「産まれちゃったのよ。しかもコンラートさんがそのことに気付いたころには、ヘルドルフ家の人たちはモニカを残してほぼ全員亡くなっていたの。ただでさえ他の貴族の食い物にされそうな立場の少女が、教会にも利用されそうな神子だと知って、コンラートさんも頭を抱えたでしょうね」
「うわー」
いやそもそも神子じゃなくても守るの大変なんでは。
白騎士が政治の類に長けてたとかは聞いたことないし。
「あーだから?」
「そう。徹底的に隠したのよ。モニカが神子だということを」
まあそりゃ仕方ないというか、むしろよく隠し通せたな。
結局そのモニカさんに魔王倒すの手伝ってもらわなきゃいけなかっただろうに。
「いえ。コンラートさんは決してモニカを戦場に出そうとしなかったわ」
「え? じゃあ魔王は?」
「私たちだけで倒したわ。だから半分正解だと言ったの」
「ええ……」
折角魔王倒してくれそうな人間居たのに戦わせなかったの?
何その縛り。
いや実際倒しちゃってるから何とも言えないけれども。
「コンラートさんにとってはモニカはただの一人の少女だったのでしょうね。私も初めて彼女が神子だと知らされた時はすぐには信じられなかったもの。それくらい……普通の子だった」
「えーじゃあもしかしてそのモニカさんは魔王居なくなった後は白騎士と?」
「……ええ。だからクラウディアは何か聞いているのかと思ったのだけど」
「初耳です。しかし幾つか疑問は解けました。……知らなければよかった気もしますが」
「あー」
しばしの沈黙の後に答えたレイン婆ちゃんの問いに、クラウディアさんは表情はそのままに声だけ少し疲れたような調子で返した。
つまりアレか。
もしかしてクラウディアさんに神子の力が効かなかったのは、クラウディアさん自身に神子の血が流れてるからか。
いやそもそも。
「百年前に神子が居たのなら、あのルーナって子は結局なんなんですか」
「新しい神子……だとしたらまた魔王が現れるのかしらね」
「ええ……百年経たずに?」
「多分現れた方がマシよ。今のままなら、あの子は養父である教皇のためにその力を使うのでしょうし」
「あー」
確かに現時点でも思いっきり自分の都合で力使ってたもんなあ。
もしルーナが教皇の言いなりでその力を振るうなら、もう教皇は無敵だ。
勝てるとしたら神父様か、あるいは神子の力が効かないクラウディアさんくらい……?
「あれ? 結局何で俺には神子の力が効かなかったんですか?」
「さあ?」
「『さあ?』て!?」
ここにきてある意味一番知りたかった謎が投げ飛ばされた。
いやこれ絶対ルーナが俺に固執する理由とも関わってるじゃん。
どうすれば狙われなくなるのかとか分からないじゃん。
「もしかして曾爺ちゃんも神子の力効かなかったとか?」
「普通に効いてたわね」
「そっかー」
じゃあますます何でだよ。
とりあえずしばらくはクラウディアさんのそばから離れないようにしようと思った。




