新たなるおっさん
ジレントの首都ランライミア……の外の街での活動が始まったわけだが、やはりというか当然というか魔法ギルドの党首に会う方法は全く見つからなかった。
いやそもそも魔法ギルドの関係者にすら会えない。
どうも湖の内と外で完全に住み分けがされているというか、これ下手すると他の街より接触が難しいんじゃないか。
「一応魔術師でも中央ではなく外に住んでる人間はいるよ。本人はともかく、親や家族が非魔術師であちらの生活に馴染めなかったりするからね」
「ええ。それ子供がいきなり魔術師になったってことか? 党首の一族とかいるんだし、代々伝わるものなんじゃないのか魔術の才能って」
「基本はそうだけど、何事にも例外はあるさ」
「ふーん」
いつも通りカムナの歌の横で剣舞やって金を稼いだ帰り。
客たちからもそれとなく情報は集めてるが手ごたえはなく、軽く愚痴るとカムナからそんな話が飛び出してきた。
じゃあもしかすれば俺も突然変異で魔術師になってた可能性もあったのか。
実際には魔力ポンコツなわけだが。
「ん? でもその中で党首の動向知ってる人間ってかなり珍しくないか?」
「珍しいね。そもそも居ないかもしれない」
「オイ」
もしそうなら完全に無駄な労力費やしてることになるじゃねえか。
いや可能性がゼロじゃない以上は探してみるしかないけれども。
「他にも魔術師じゃなくても中央で働いてる人間はいるよ。まあそちらも珍しいけど」
「えー。あ、おばちゃんこのパンちょうだい」
「君どんだけ食うんだ」
通りがかった露店で売ってた焼きたてパンにひかれて買ったらカムナにひかれた。
いやむしろカムナが食わなすぎると思うんだよなあ。
下手すりゃ俺の半分も食わないぞ。
「毎度。冷めないうちにお食べ」
「ありがとー。ところでおばちゃんの知り合いに湖の方で働いてる人とか居る?」
「居るよ」
「マジで!?」
駄目もとでパン屋のおばちゃんに聞いてみたらまさかの答えが。
これ客だけじゃなくその辺の人に聞きこんでみたら案外居るんじゃないか。
「え? 会える?」
「難しいと思うよ。向こうの図書館の司書やってるんだけどね。人手が足りなくて忙しいとかで、ここ数ヶ月顔も見せてないんだよ」
「あー」
司書ってそんな忙しいのか。
何やってるのか知らんけど。
「この街の図書館は世界一の規模と言っても過言じゃないからね。そこの司書となると多忙だろうさ」
「そうなのか?」
「古来から書物というのは戦火の中で散逸、失われることが多かったからね。あの中ならほぼ確実に後世に残るから、貴重な本もよく寄贈されるんだよ」
「あー。なるほど」
カムナの説明に納得。
確かにあの街の中って世界一安全だろうしなあ。
「まあどのみちこのままだと埒が明かないね。一応アルフの爺様に手紙は送っておいたんだけど」
「いつの間に」
いやでも確かにこのまま地道に探すより手っ取り早いな。
仮にも大公だったんだから、党首と面識はあるかもしれないし、亡命したことで繋がりができてるかもしれない。
「そもそも少年がもっと前に党首に用があると言ってれば、爺様の亡命のついでに会えたかもしれないんだよ」
「……確かに!」
まさかどうせ頼る前に寿命尽きてるだろと思ってた時点で、爺様に頼るべきだったとは。
いやでも党首と会うのがこんな大変だと思わなかったし。
「少年はある程度頭は回るのに、常識に水漏れがあるからどこで躓くか予想がつかなくてタチが悪いね」
「水漏れて」
いや漏れてはないぞ。
元から注がれてないだけだぞ。
……その方が問題あるな!
「ならこのままアルフ爺さんの連絡を待って――」
「もし。そこの剣士のお方」
「はい?」
突然落ちついた空気の男の声で呼ばれて振り返る。
何故自分の事かと思ったかと言えば、ジレントに入ってから冒険者とか傭兵の類をあまり見かけず、帯剣してる人間とか他に見かけなかったからだ。
なので剣士と言われて振り返ったのだが。
「俺のことですか?」
「はい。お聞きしたいことがありまして」
そこに居たのは、どこにでも居そうな中肉中背の男。
ただ着ているものが異様だった。
黒く裾の長い服。神官たちが纏う服だ。
何で魔法ギルドのお膝元に神官が?
神父様は魔法ギルドと繋がりがあるけど、基本的に魔術師と神官は仲が悪いはずだ。
ここに居ること自体が不可解な存在。
そんな神官が次に発した言葉は、やはり意味が分からなかった。
「その腰の剣。もしやアルムスター家の方では?」
「はい?」
意味が分からず首を傾げる。
何だその御大層な名前のおうちは。
白騎士の家系……ではないな。
確かクラウディアさんが家名はシュティルフリートだと言っていた。
白騎士の紋章が入ってたから白騎士の持ち物だった可能性はあるし、白騎士の家系と間違われるなら分かるが、どこのどなただよアルムスター。
「……違いましたか?」
「えーと。俺しがない農民なんで」
「おや。ではその剣はどこで?」
「曾爺ちゃんの形見ですけど」
「ほほう。曾お爺様の」
何か神官のおっさんの顔が「こりゃ面白いもん見つけたぜ」とばかりに凄みのある笑みに変わった。
……と思ったら一瞬で人の良さそうな微笑みに戻った。
何この人恐い。
いや待てよ。
曾爺ちゃんは神父様によると魔物と最前線で戦い続けた、その道の第一人者だったらしい。
もしかして騎士としてそれなりに有名だったのでは。
じゃあもしかして曾爺ちゃんの騎士だったころの家名がアルムスター?
「旅の最中のようですが、しばらくはこの街に?」
「ええーと。そのつもりですけど」
「それはそれは。本日は火急の用件がありこれで失礼しますが、またお話したいものだ」
「ええ……」
先ほどの笑みが嘘だったかのように、人を騙したことのない聖者のような顔で言う神官。
そのあまりの変わり身の早さに逆にひいた。
いやあの一瞬の笑顔を見てなければ素直に「神官らしい人だなあ」と思ってただろうけど。
「……君の曾お爺様はアルムスター家の人間なのかい?」
「え? どうなんだろう。分からん」
「何で分からないんだ!?」
「何で怒られてんの俺!?」
神官のおっさんは去ったけど、今度はカムナが面倒くさくなった。
結局誰なんだよアルムスター。
正体不明の神官のせいで謎が増えた。




