誤解された
牢屋から出ることはできたのだし、このまま隙をついて……なんてのは無理そうだ。
剣は取り上げられているし、何より相手の数が多い。
勝機があるとすればカムナの歌魔法だろうか。
本人が言っていた通りマイナーで一般に認知されていないらしく、使うのに必要な弦楽器は取り上げられていないし、何より明らかにカムナへの警戒が薄い。
いや警戒が薄いというか、なんか兵士の反応がおかしいような。
ここに連行された時は下手に抵抗すれば殴られそうな雰囲気だったのに、今はどこか遠慮があるというか、妙に丁寧というか。
そう思いながら取調室らしきところに連れていかれたのだが、そこでまたしても不可解な状況に置かれることになる。
「ふっふっふ」
「……」
椅子に座り、何か胡散臭い笑みを浮かべながらこっちを見てくる、神経質そうなおっさん。
オールバックなのに一房だけ前髪が垂れてるのはお洒落なのだろうか。
それ鬱陶しくない? 引っこ抜いていい?
それはともかく、何でこのおっさんは俺をガン見して笑っているのだろうか。
不可解と言えば俺とカムナの扱いもだ。
俺はおっさんの正面の椅子に座らされているのに、カムナは俺の後ろに立たされている。
何でだ。もしかしてこれが黒い人たちは差別されているというやつなのか。地味な差別だな。
ともかく状況が分からない。
なのでとりあえず黙って経過を観察していたのだが、不意におっさんが笑みをひっこめ、世間話でもするみたいに話しかけてくる。
「クラウディア様はお元気ですかな?」
「この間会った時は元気だったけど?」
反射的に答えてしまったが、何故にクラウディアさん。
もしかしてアレか。この国では白騎士の人気が高いらしいし、孫なクラウディアさんの人気も高いのか。
いやでも何で俺に聞く?
「やはり。クラウディア様の名を知っているという事は、ただの市井の子供ではありませんな」
「あー……」
うん。確かに白騎士がいくら人気でも、その孫のクラウディアさんの名前なんて他国の貴族でもない子供が知ってるわけないだろうけれども。
何でこのおっさんは俺が知ってると確信して……?
「やはりそうでしたか。いや。これを見てもしや偽物かとも思いましたが、剣の質からしてそこらで手に入るものではない。ならば盗品の類かと思いましたが、どうやらそうでもなさそうだ」
そう言いながらおっさんが手に取ったのは、俺が取り上げられた剣。
しかしその剣は柄の部分が分解されていて、本来なら隠れている部分が露出している。
その部分に何やら白い盾のようなマークがあるのだが……なんだアレ。
曾爺ちゃんの盾についてた紋章とは違う。
アレは盾のマークの周りにもグリフォンやら王冠やらと色々描かれていたし、何より盾の色は白くなかった。
何だこの盾以外描かれてないシンプル過ぎる紋章。
「……白騎士の紋章」
後ろからカムナが呟くのが聞こえてきたが「そうなの!?」という言葉は飲み込んでおく。
え、待って。あれ曾爺ちゃんの剣だろ。何で曾爺ちゃんの紋章じゃなくて白騎士の紋章が。
もしかして元は白騎士の剣だったりするのか。
でも神父様何も言ってなかったぞ。
「クラウディア様が家督を継いだ時はこの国でも話題になりましてな。何故女性がと」
「へー」
そんな話になってたのか。いや村では聞いたことがなかったが。
というかクラウディアさんに勝てる男とかいるのか。神父様は除いて。
「故にこのような噂が流れました。クラウディア様は繋ぎで、事情がありまだ表に出せない、幼い男子がいるのではないかと」
「ほう」
いや「ほう」じゃねえよ俺。
でも「ほう」としか言えねえよ。
何かコレ凄い誤解が生まれてないか。
でもここで違うと否定しても事態は好転しそうにないし、乗っかった方がいいのかコレ。
「仮にそうだとして、今の状況に何の関係が?」
「いえいえ。此度の我々の手違いによる誤認逮捕を詫びたいのですよ。白騎士の縁者である貴方とは是非ともよしなにしておきたく」
「ほー」
誤認逮捕ねえ。
最初から違うと分かってる場合でも誤認逮捕と言うのだろうか。
ともあれ分かったのは、相手が俺を白騎士の縁者だと誤解してること。
なので今回の一連のことをなかったことにしたいと。
強気なんだか弱気なんだかよく分からない対応だな。
白騎士の名がそれだけ重いということか?
もし本当に俺が白騎士の縁者でここで殺されたとしよう。
それがどこかから漏れてクラウディアさんの耳に入ったとする。
おっさん終了のお知らせ。
うん。慎重にもなるわ。
まあ実際には別に俺は白騎士とは何の縁もゆかりもないし、殺されたとしてもクラウディアさんではなく神父様が報復に来るだろうが。
あれ? おっさんどのみち詰んでるのでは?
「しかも今回の事件の収拾に尽力されたとか。その腕を見込んでお頼みしたいことがあるのです」
「頼みたいこと」
やだ。それ絶対聞いたら面倒なことになるやつじゃん。
犯罪の片棒担がされる予感しかしない。
「……軽々しく聞いていいものではなさそうだ。しばらく時間をもらえませんか?」
できるだけ、育ちが良さそうな口調を心がけて時間稼ぎをはかる。
カムナも俺のことを「顔だけ見れば貴公子みたい」とか言っていたし、気合を入れればイケるはず。
「いいでしょう。では部屋を用意しますので……」
「いえ。あの牢のままで構いません。あの程度で音を上げる温室育ちではありませんし、何より目立つのは困る。……分かるでしょう?」
「……なるほど」
え、分かったの。俺自分で言っといて何で目立ったら困るのか考えてないよ。
これが神父様の言っていた「中途半端に頭が良い人間は、それっぽいことを言っておけば勝手に深読みして、自分に都合のいい方に考えるから面白いですよ」というやつか。
それ面白がっていいのか聖職者。
「ならば後で身の回りのものだけでもお届けしましょう。良い返事を期待していますよ」
「感謝する」
嘘だけど。
さーて。逃げる算段自体はついてるんだけど、この誤解放置しといていいのかなあ。
まあいいや。逃げてから考えよう。
そんな思考を巡らせながら、案内する兵士の後に続き部屋を後にした。




