脱走開始
さて。無事(?)牢屋の中へと逆戻りとなったわけだが、これからどう動くべきだろうか。
白騎士の子孫だと誤解されたのは……もうほっとこう。
大体あっちが勘違いしただけで、俺は「仮にそうだとして」と仮定の話をしただけで、否定も肯定もしてないし。
うん。つまり勘違いしたあっちが悪い。
「まさか君が白騎士の関係者だったとはね」
「あれー?」
そう頭の中で言い訳してたら、まさかの味方まで信じてた。
嘘だろ。おまえ俺が貴族らしくないの散々知ってるだろ。
「だからこそ納得してしまう部分もあるんだよ。一般市民のそれではない教養を持ちながら貴族や商人らしくもない。白騎士の縁者だというのなら、それも不思議ではなくなる」
「あー」
確かに。
白騎士は元々は平民だったらしいし、孫のクラウディアさんも物腰は丁寧だが結構親しみやすい人だった。
でも絶対俺は白騎士とは無関係だと思うんだよなあ。
盾にでかでかと書かれてた曾爺ちゃんの紋章が、白騎士と無関係だったわけだし。
そう説明したのだが、カムナは何故か眉間にしわを作りながらこっちを見て来た。
何でや。
「王冠の紋章があるなら一代貴族ではない、正当な貴族のもののはずだよ。それはそれで、貴族の地位を捨てて農民になった変人の家系ということになるんだけど」
「変人言うな。それにさっきのアレ本当に白騎士の紋章なのか。シンプル過ぎるだろ」
「シンプル過ぎるから白騎士の紋章なんだよ。今ではほとんど忘れられてるけど、白騎士というのは本来は『空白の騎士』という意味だからね」
「え、なんだそれ」
初めて聞いたぞそんな話。
というかさっき俺に対して一般人にしては教養があるみたいなこと言ってたけど、その俺より物知りなカムナは何なんだよ。
師匠とやらが神父様並みの暇人だったのか。
「白騎士が平民だったことくらいは知ってるだろう。そもそも白騎士は元は彼一人の称号ではなく、何十人もいた平民騎士の総称だったんだよ」
「多いな」
何十人て。
何があってそんなに平民を騎士にすることになった。
「何でも戦時に士気向上の意味もあったとか。だけど急に騎士にされた彼らには掲げる紋章がなかった。そこで急ごしらえで記されたのがあの盾だけの紋章だよ。騎士なのに記すべき紋章がない空っぽの空白の騎士。そんな蔑称から始まったんだ白騎士の名は」
「ええ……。性格悪いなそれ言い始めたやつ」
空っぽの騎士ね。
なんかそれはそれでカッコいいような。
「しかしその空白の騎士たちは殆どが戦死して、唯一残ったのが白騎士というわけだ。侮蔑が敬意に変わるほどの成果を白騎士は示した。だからこそあの空っぽの紋章をあえて使い続けたんだろうね」
「カッコいい」
いや素直にそうとしか言えんわ。
それ多分文句とか言わずに淡々と実力だけで周囲の信頼勝ち取ったんだろ。
まあ魔王倒した人間の一人なんだし、それくらい当然かもしれないが。
「そんな紋章が少年の剣に記されていたわけだけど、本当に心当たりはないのかい?」
「ない。曾爺ちゃんが生きてたら聞けたんだけどなあ」
実は白騎士から剣貰うほど仲が良かったとか?
神父様と結構仲良かったみたいだし、その繋がりで白騎士と知り合いでもおかしくはなさそうだが。
まさか曾爺ちゃんが騎士辞めて農民になったの、白騎士に影響されたからとかだったりしないだろうな。
「どのみちあの剣回収した方がいいよなあ。持ってるだけで白騎士の関係者の証明になるくらいには良い物みたいだし」
「回収って。そういえば何故わざわざ牢屋に戻ったんだい。逃げるつもりなら、素直にどこぞの屋敷にでも案内されていればよかっただろう。鍵もご丁寧にかけなおされてるし」
「えー。それだと警備自体が厳重になりそうだったから?」
実はそこまで考えてない。
ただこの場から逃げる手段自体はあったから、下手に環境変えるよりはマシかなと思ったくらいで。
「逃げる手段って、鍵はどうするんだい」
「俺開けられるぞ」
「……は?」
牢屋の前にかけられた錠前だが、先ほど出入りしたときに兵士が使っていた鍵の形状は盗み見ておいたし、かなり古いものなのか鍵穴もでかい。
細い針金とかなくても、それなりに長い棒でもあれば解錠はできそうだ。
そういうわけで、部屋の中に転がってた錆びたスプーンらしき物でレッツトライ。
錠前も錆びてるせいで結構固かったが、一分もしない内にあっさりと鍵は開いた。
「……何で解錠なんてできるんだい?」
「神父様に教えてもらった」
「それ本当に神父かい?」
神父様が神父なのか疑われた。
……確かに何で聖職者が盗賊みたいなスキル持ってるんだろうな!
「君は君でどこを目指してるんだ」
「冒険者!」
「ああ、うん。頑張れ」
胸を張って応えたのに、何かすごい生温かい目で見られた。
ともあれ今すぐ出ていってもまだ兵士が居るだろうし、警戒が緩むであろう夜を待つことに。
さーて。脱出するだけなら割と行けそうだが、剣をちゃんと回収できるかな。
そこがちょっと心配だった。




