幽霊が倒せない
そもそもの話、何でロイスさんがクラウディアさんと会っていたのかというと。
いつもより兵士の数が多いので、魔物の発生数が多い時期とぶつかり教会が忙しいのではと思ったかららしい。
何で魔物の発生数が多いと教会が忙しくなるんだと思ったが、ここの廃城から発生する魔物はアンデッドが多いので、その対応に教会からも人手がさかれるとか。
そんなところに「お祭りに使う杖くださーい」と呑気に行っても門前払いをくらう可能性が高いので、権力持ってるクラウディアさんの伝手を使うことにしたと。
「魔物が発生する時期って決まってないのか?」
「少なくとも季節とは関係ないわね。どこかで大規模な戦争やら虐殺が起きて怨嗟の念が溜まってるとか、大規模な魔術実験とかで世界の境界線が揺らいだりすると多くなるって言われてるけど」
「どっちも人間のせいじゃねえか」
もしかして魔物の発生自体が人間の自業自得だったりするのか。
魔王が出現したから魔物が出始めたんじゃなくて、魔王が死んでから魔物が出始めたらしいし、なんか裏がありそうなんだよなあその辺。
まあそれはともかく。
「昼飯適当なところで食えって言われたけど、宿の酒場でいいか?」
「まあこんな街に観光客向けの食事処なんてないでしょうし、それでいいんじゃない」
ロイスさんはまだクラウディアさんとやることがあるらしいので別行動。
多分教会に「この紋章が目に入らぬか」とか言って杖貰いに行ってるんだろう。
そこだけ考えるとただの横暴だなオイ。
「そういや魔法の武器ならアンデッド倒せるって言ってたけど、聖別された武器も効くのか?」
「効くわよ。教会が手伝うって言ってたのもそこじゃないかしら。流石に戦闘の心得がある人間ばかりじゃないでしょうし」
なるほど。じゃあ冒険者になるなら一本くらい聖別された武器持っといた方がいいのかね。
というかスケルトンと戦う時に聖別された武器あればあんなに苦戦しなかったのでは……?
「なあ聖別って頼むとしたらどれくらいかか……?」
いっそ今使ってる剣を聖別してもらえないのかなと聞こうとしたのだが、振り向いたそこにヴィオラがいなかった。
「……あれ?」
後ろを見てみるがはぐれたとかいうわけではない。
というか人がいない。
さっきまでそれなりに人通りがあったはずの大通りに人っ子一人おらず、俺だけがぽつんと立っている。
「……ええ?」
何だこの状況。
ヴィオラが居なくなっただけならまだ分かるが、何で俺以外誰も居なくなってんだよ。
実は俺がとんでもなく鈍くて、他の人たちが逃げるようなことがあったのに気付かなかったとか?
「うわっ」
そんなことを考えていたせいなのか、不意に冷たい空気が首筋に触れたような気がして、体を悪寒が走った。
同時に、建物の影が伸びるように、黒い何かが這い出てくる。
「……ゴースト?」
姿を現したのは、闇を吸い込んだような黒いローブを纏った、顔色の悪い男。
しかしその姿は朧気で、日の光にすけて向こう側の景色が見えている。
何が起こったのかは相変わらずよく分からないが、これもしかしてヤバい状況では。
「――火の精霊よ……古の契約に従い……我が声に応えよ」
「げっ」
こっちがまだ考えている最中だというのに、幽霊がしわがれた老人みたいな声で何か言い始めた。
聞き覚えがある。
これヴィオラもたまに使ってる、精霊に呼びかけるために魔法使いが最初に唱える呪文の一節だ。
つまりこの幽霊魔法を唱えようとしてやがる。
「――其は我が手にあり……刃となりて……駆け抜けよ」
「うをっ!?」
幽霊が呪文を唱え終わった瞬間、かざした手から炎がほとばしり、地面を這うように火柱がこちらへと飛んできた。
それを間一髪で横っ飛びで避けたが、速すぎて予想してなかったらまず避けられなかったぞこれ。
それこそ矢のような速度で飛んできやがった。
「いきなり何すんだよ!? 俺になんか恨みでもあるのか!?」
自慢じゃないが人様に迷惑はかけまくっても恨まれる覚えはない。
そもそもこの街に来たのは初めてなんだし、恨みを買うような相手がいるわけがない。
なのでこの幽霊に恨まれる筋合いもないと文句を言ったのだが。
「……い」
「はい?」
「……い。……くい。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
「あ、はい。すみません」
元々悪かった顔色をますますどす黒くしながら、血の涙を流し憎いと連呼する幽霊。
うんこれ話が通じる相手じゃないし、もう誰が憎かったのとか覚えてないやつだな。
だからって何で俺をピンポイントで狙ってきやがった!?
「――火の精霊よ。古の契約に従い我が声に応えよ」
「げっ。ちょっと待てよ!?」
何か活性化したらしく、先ほどよりハッキリとした声で呪文を唱え始める幽霊。
神父様曰く魔法使いと戦う羽目になった際は、呪文を唱えてるうちに接近して倒すものらしいので、一気に駆け寄りながら抜刀する。
「成仏しやがれ!」
そしてまだ呪文を唱えている最中で無防備なその体を、正面から袈裟懸けに斬り裂いたのだが。
「……ですよねー」
全く手ごたえがなく幽霊の体をすり抜ける剣。
うん。予想はしてたけど一応試してみたんだが、幽霊を剣で斬れるわけがないよな。
「――其は我が手にあり。刃となりて駆け抜けよ」
「ほわぁっ!?」
そして当然幽霊も気にせず魔法を使ってきたので、再び横っ飛びで避ける。
あ、これ接近してた方が逆に避けやすいかも。
そんなこと分かっても状況何も改善してないけどな!
「お、覚えてろー!」
「――火の精霊よ。古の契約に従い我が声に応えよ」
「情緒とかねえのかてめえ!?」
とりあえず尻まくって逃げることにしたのだが、まったく狼狽えることなく再び呪文を唱え始める幽霊。
しかし向こうは動く様子がないし、建物の影に入ったら当たらないだろ。
そう思っていたのだが。
「――其は我が手にあり。刃となりて駆け抜けよ」
「は?」
何故か建物の角を曲がった先に居て、呪文を唱え終わってる幽霊。
何が起こったのか分からないが、三度迫る火柱を反射で避ける。
頭が追い付いてなくても勝手に体が動いたのは間違いなく神父様にしごかれてたおかげなので、後で拝んでおくことにする。
「何でだよ!?」
「憎い」
「他に何か言えないのかおまえ!?」
よーし。とりあえずこいつが瞬間移動しやがることは分かった。
つまり逃げようにも限界があるし、手元にアンデッドに通じる武器はない。
……あれ? これ詰みでは?
「いや教会。教会に行けば」
もしかすればこいつは入って来れないかもしれないし、聖職者ならこいつにも対抗できるはず。
そう思い幽霊が飛ばす火柱を避けながら街中を走り回る。
俺以外誰も居ないのは他の皆が居なくなったのではなく、俺が幽霊の領域に引きずり込まれたからだということに気付くのはしばらくしてからだった。




