一人だけ凡人感
女連れ(多分)で歩くロイスさんを見かけ、好奇心に任せて尾行を始めてみたわけだが、ちょっと隠れるのが難しい状況になってきている。
大通りを外れた時点で人が少なくなり紛れるのが難しくなったのもあるが、さらに人っ子一人居なくなるほど寂れた場所に近付いてしまっていて振り向かれたら一発で見つかるコレ。
「というか何だ此処? 見かけの割に手入れがされてないというか」
ロイスさんたちを追って辿り着いたのは、広大な敷地を囲う塀やこれまた大きな屋敷の立ち並ぶ、いかにも富裕層が住んでいそうな区画。
しかし本来客を迎えるのであろう門は蝶番が外れてプラプラしてるし、塀はところどころ崩れて役割を果たしていない。
肝心の屋敷もガラスは割れ放題だし一部は何があったのか壁が吹っ飛んで中が見えてる。
いや廃墟じゃんこれ。
何でこんなとこに来てんだあの二人。
「ここは昔は貴族たちの屋敷だった所よ。遷都されて使うことがなくなったからそのまま放置されてるの」
「えーなんか勿体なくないかそれ」
「屋敷を維持するにしても壊して更地にするにしてもお金がかかるのよ。多分貴重なものは運び出されてるでしょうし、残ってたとしてもこの有様だからとっくの昔に盗まれてるでしょうね」
「治安が悪いにもほどがある」
というかコレ中に浮浪者とか住み着いてんじゃないのか。
ますますこんなとこに何の用だ。
「あの人の屋敷はまだちゃんと使われてるからそこに向かってるんでしょう」
「あの人って。そういやさっきなんか知ってる風だったけど、もしかして知り合いか?」
「一応は。ロイスさんとも知り合いだったのは予想外だけど」
それは確かに。
こんなとこに家があるということは、あの人貴族様だろう。
何で元傭兵なロイスさんとあんな親しげなんだ。
「ん……? あれ、止まった」
崩れた塀に身を隠し前の様子を窺っていたのだが。
不意にロイスさんがため息をついたかと思うと、女性が笑顔で振り返り手招きをしてくる。
もしかしなくてもコレは。
「見つかったわね。というより最初からバレてたんでしょうけど」
「マジかよ」
あっさりと言うヴィオラに脱力する。
全力で警戒してダッシュで物陰に隠れながら尾行していた俺の苦労はなんだったんだ。
「森の中でゴブリン一方的におちょくるような人が尾行の気配に気付かないわけないじゃない」
「そうだった」
本当に何者だよあの人。
ともあれバレてんだから開き直って堂々と姿を見せることに。
そしたら案の定「人のプライベートに首つっこむんじゃねえ」と一発げんこつを貰った。
これ以上馬鹿になったらどうしてくれんだ。
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「どうぞ。私の手作りで申し訳ないですが」
「い、いえ。お構いなく」
そうしてロイスさんと一緒に居た女性の屋敷らしきところに連れていかれたわけだが。
日当たりのいい部屋に案内されたかと思えば、その貴族様なはずの女性自らお茶と焼き菓子を持ってきてくれて戸惑う。
え、貴族なんだよな。
使用人とかいないのか。
「貴族と言ってもうちは祖父の代まで平民でしたから。騎士でもありますので自分の身の回りのことくらいは自分でやれるように仕込まれましたし」
「えっ。本当に平民から貴族になれるんですか」
そういう成り上がりって作り話じゃなかったのか。
絶対他の貴族から妨害くらうだろ。
「ほんの一部だ。白騎士って聞いたことあるだろ」
「あーなんか魔王絡みで出てくる」
魔王が倒されたのは百年前くらいの話らしいが、歴史的に見れば割と最近なせいか話が纏まっておらず全体像が掴めないというか、断片的な話しか聞いたことがない。
そんな断片的な話の中でもよく出てくるのが白騎士だ。
「魔王の城を各国の軍で包囲したはいいが、魔物の壁に阻まれて一向に戦況が動かない中で、少数で魔物蹴散らしながら乗り込んで魔王暗殺した頭のおかしい奴らの一人がこいつの祖父だ」
「人の祖父を頭のおかしい人呼ばわりしないでください」
そう抗議するように言う女性だが、その表情はあまり気にした風ではないというか。
つまり本当に頭おかしかったんだな。
しかしそれが本当なら普通に英雄では。
英雄の孫とかプレッシャー凄そうだなあ。
「改めまして私はクラウディアと申します。一応は貴方達が住んでいる村の領主です」
「レオンハルトと申しますちょっと待って」
神父様に叩き込まれた礼儀作法のおかげで反射的に挨拶を返せたが、マジでちょっと待って。
あの村領主とか居たの。
いやそりゃ居ない方がおかしいけれども、よりによってこの人!?
「そう深く考えずとも。あの村はほぼ神父様が作り上げたものですが、この国では教会関係者が領地を持つことを許されていないので名義を貸しているようなものですよ」
「こいつの本来の領地は別にあるしな。まあそっちも田舎だが」
「土地は肥えているし飢えることも少ない良いところですよ」
「ええ……」
クラウディアさんの立場の割に気さくな態度もだが、さっきから全力で馴れ馴れしいロイスさんはなんなの。
実はこの人も貴族でしたとか言い出さないだろうな。
「爺さんが元平民なせいか傭兵の扱いがいいし金払いも良かったんだよ」
「祖父からもロイスは信用できるので傭兵に用があるなら繋ぎを作っておけと言われましたね」
「何者だよアンタ」
英雄だったクラウディアさんの祖父から信用されてたってなんなの。
というかもしかしなくてもその祖父って割と最近まで生きてたの。
百歳軽く越えてないかそれ。
「ヴィオラ様もお久しぶりです。私が成人するより前にお会いしたきりですが、お元気そうで何よりです」
「覚えててくれたんですか」
そしてさらにこっちも知り合いだったらしいヴィオラだが、なんかクラウディアさんの言葉を聞いて今まで見たことがない花が咲くみたいな笑顔を見せている。
誰だおまえ。
やっぱりこいつ年長者には割と態度がやわらかいというか、同年代にだけあたりがきついのか。
「……これ俺いる?」
とりあえず一人だけ場違い感が凄いので、あえて平民根性丸出しで焼き菓子を貪り食いお茶を一気に飲み干してみた。
そしたら顔を真っ赤にしたヴィオラに襟首を締め上げられた。
みっともないと怒られたが反省はしても後悔はしてない。




