1-1 プロローグ
【自分の国をつくりたい】暴力団経営者の男が恩人に殺され、異世界に「鬼」として転生する。
神楽と名付けられたその鬼は恩人に殺されたことから生前の失敗を活かすため他者の心をコントロールし、自分の国をつくるために奮闘するお話。
略奪の鬼
1-1鬼の村編 プロローグ
僕は生まれてすぐ孤児院に捨てられていたらしい。
生まれた時から社会の最底辺…。
今思うと逆にすがすがしい。
なるべくして僕は僕になったというわけだ。
孤児院で育った子供はどうなると思う?
テレビやネットで孤児院育ちがボランティア団体を設立したり、医者になって人助けしたりと感動的なお話が転がってるけどあんなものは一部だ。
実際のほとんどは平々凡々な人生を送るか僕のようなアウトローになる。
そう僕はやくざ『だった』。
僕は物心ついた時から一つの目標があった。
僕は【自分の国が欲しい】。大人になってもずっと本気だった。
小学生のころ僕は毎日いじめられていた。
「施設育ち」「貧乏人」と馬鹿にされ毎日毎日殴られていた。
そんなある日、近所の空手道場のおっさんが声をかけてきた。
「いつも外から見ているね。きみもやってみないかい?」
僕は「施設育ちだからお金がない」というと、おっさんは金なんかいらないと僕を道場へ拉致した。
おっさんに空手を教わりはじめて数年が経ち僕は中学生になった。
だけどそこで待っていたのはいじめだった。
こいつ施設育ちだ貧乏人だとクラスのガラの悪い連中に絡まれた。
僕はもう嫌だった。
小学生のころから毎日毎日こいつらの嫌な顔がうんざりだった。
僕は容赦しなかった。
おっさんに教わってきたことを存分に活かしクラスで幅をきかせていた連中を叩きのめした。
結果1人は全治2ヶ月の重傷を負わせてしまい僕は少年院にいれられた。
初犯だったこともあり、いじめられていたことも考慮されて3週間くらいで出てこれたと思う。
そして学校に戻ってきた時にぼくを待っていたのはクラスの連中の怯え切った顔だった。
僕を貼れ者扱いする教師、同い年なのに敬語を使ってくるクラスの連中、絡んできた奴らに到っては僕のご機嫌取りにパシリをすすんでやってくれる。
その時僕はクラスを見渡してこう思った。
『ここは僕の国だ』。
それからというもの毎日、暴力にありくれた。
領土を増やさないといけない。そう思っていた。
高校生になる直前に大き目な喧嘩があった。
僕は主犯だったけど捕まるのが嫌だったからクラスのパしりAに捕まった時は自分が主犯だと言えと脅していた。その命令はあっさり裏切られた。
僕は進学先の合格も取り消され無職になった。
施設の規則で高校にいかない16歳以上は出ていかないといけない。
でももう「貧乏人」「施設育ち」と言われるのは嫌だった。
だから僕は何でもやった。強請、たかり、売春、薬物の横流し、金になることは何でも…。
国が欲しかった。
そのかいもあって、20後半になるころには街一つのシノギはすべて取り仕切れるぐらいの権力を持っていた。
自分で作った組織も自慢の一つだ。
有名な大学を出ている奴だっている。
そんな順風満帆な日常を送っている最中、あの糞みたいなことが起きて今僕はここにいる。
取り仕切っていた夜のお店の一つで給料を前借ばかりして出勤率が悪いバカ女がいたんだ。
だから僕は殺した。
臓器売買のルートもあるからね。
使えない奴はいらない。
使えない奴を一人消して、大金も入る。
一石二鳥のいいことをした帰り道だった。
僕は男とぶつかった。そいつは僕の部下だった。
「よお、何してんだこんな夜更けに今月のノルマは達成したのか?」
「あ、あう、うわああああ!!」
人の顔を見て逃げるとは無礼な奴だな。
明日少しかわいがってやるかなんて考えていると、ふとお腹から熱い物を感じた。
よく見る取っ手と銀色の刃。
あーナイフだねこれ。
刃渡りが結構長い奴。
僕のお腹からナイフが生えていた。
自家栽培ではない。
目の前の景色が揺らぐ。まだ死ねない死にたくない!
もっと僕の国を大きくするんだ。
辺りを見回して助けを呼ぼうと人を探す。
するとよく知ってるおっさんが近づいてきた。
助かった。
すこし気持ちが安堵する。
「お、おっさ…」
「お前は生きてちゃいけない奴だこうするしか…こうするしかないんだ!」
目が覚めると知らない顔に囲まれていた。
何か話しかけてるみたいだけど言葉が全く分からない。
僕の体が持ち上げられる。
もしかして刺された後遺症で下半身が切除されたのか?
それともこの女は世界アームレスリングチャンピオンなのか?
いったい…?
鏡のようなものに女と目つきの悪いガキが写っている。
生意気そうなガキだ。
そのガキは、いやがきだけじゃない女もそうだ…立派な角が生えていた。