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最弱職のイレギュラー  作者: 華藤丸也近
第2章 俺以外の“転生者”
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第24話 領主邸へ逃げ込め!

 どうしたら良い?

 さすがに、こいつらをどうにか撒かないと追われたままじゃニルと鉢合わせた時が大変だ。

 本当に、俺ばっかり何でこんな目に……。


「逃がすか!」


 反対側へ回ってきた衛兵が、俺を捕まえようと建物の間に入ってくる。

 クソ、挟まれた! けど……捕まる訳にはいかない!

 俺は、俺を捕まえようとする衛兵の腕を避け、股の間を擦り抜ける。そのまま建物の間の道から抜けて、俺はとにかく逃げようと当てもなく走った。


「ク、クソ! すばしっこい奴だな」

「突っ立ってないで追え! 見失うな!」


 後ろで衛兵達の怒号が聞こえてくる。

 まだ、俺を見失ったわけじゃない。あいつらには俺の姿が見えている。追い付かれる前に距離を取らないと。


 俺は背後を確認しつつ、建物の陰を利用しながら見失うよう狙って動き続ける。

 逃げるのに必死で、見覚えのないような場所まで来てしまったようだ。

 ……立ち止まっていてはいけないな。引き返すことは出来ないし、このまま進むしかない。


 周りの人間を警戒しつつ、建物の間に入り込んだり通りへ抜けたりを繰り返しながら、なるべく音を立てないように走り続けた。

 ……ん? 何だ? 急に静かになったような。


 しばらく歩き続けていると、気付かないうちに衛兵の怒号や甲冑の擦れる音が全く聞こえなくなっていた。

 この辺にはまだ手を付けていないのか? でも……衛兵はおろか、人の気配さえしないけど。


 俺は恐る恐る建物の間から顔を覗かせる。

 そこには街の人は誰もいないようだったが、門の前を守るように衛兵が二人配備されていた。鉄製の門は開け放たれている。

 正門とは全然造りが違う。鉄の門なんて正門には無かったし。


 門の奥は林道が続いていて、若干ながらそのさらに奥に建物が見えている。

 貴族が住んでいてもおかしくないような、周りの建物とは雰囲気も存在感もまるで違う。それはもう、屋敷と言ってもいいくらいだ。

 これ……誰が住んでいるんだ?


 しばらく様子を窺っていると、林道の奥から誰かがこちらへ向かって来ていた。

 ここからでもその姿は良く目立つ。ヴィクトリアンメイドの装いに長い黒髪、そして凛々しい目つき。

 あれは……ヤクザメイド! じゃなくて、ライムだ。

 あの屋敷は……モニカの家って事か? じゃあ、あれが領主の屋敷?


 ライムはデッキブラシの柄を両手で掴み、それを大きく掲げて深呼吸するように背伸びをして体を伸ばしている。

 肩を左右ずつ回し、首も回しと……何か、準備体操でもしているみたいだ。


 気配を感じたのか、唐突にこちらへ顔を向けられ俺はドキッとする。すぐに建物の陰に隠れ、少しだけ顔を出して様子を窺った。

 ここからじゃ、遠すぎて細かな表情の変化は分からないけれど、こちらを警戒していたよな。

 だけど、こっちに近付いてくる様子はないし……勘違いとでも思ったんだろう。助かったけど。


「クソ……一体どこへ逃げやがった!」

「このまま野放しにして置いたら被害が大きくなる。一刻も早く見つけ出すんだ!」


 あいつら……もう、こんなところまで!

 俺を血眼になって探し回っている衛兵達はすぐ近くまで迫って来ていた。

 まだ俺の姿を見つけていないからそれだけは救いだけど……このままここにいたら見つかるのも時間の問題だ。

 それにさすがにこれ以上、街中を逃げ回るのは得策じゃないな。本来の目的だった、ニルを見つけて救い出す事が出来ていないんだし。


 門の前では、屋敷から出て来たライムと衛兵が話しているようだ。


 何の話かはここからじゃじゃ全く聞き取れないし、表情もほとんど見えないからな何を話しているのか最低限の予想も出来ない。

 ニルの事だったら……ライムの事だ、衛兵と一緒に探すはず。

 ……いいや。ライムはあの時『女には手を出さない』なんてことを言っていたしな、それが魔族に対しても分け隔てないものならライムは探そうとしないだろうけど。

 分からない……クローディアの時みたいに、ニルが街のみんなに対して命を脅かすような事をしていたら容赦はしないはず。

 ああもう、心配性なだけに色々な可能性を考えてしまう、全くキリがない!


 ライムは衛兵との話を終えると、口に手を当てて欠伸をするような素振りを見せながらどこかへと行ってしまった。


 ……行ったみたいだな。後ろにも衛兵が迫ってる。のんびりはしてられない。

 ここは一か八か……しばらくの時間だけ、身を隠すしかない。

 俺は大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。緊張と不安で高鳴る鼓動を落ち着かせた。

 大丈夫だ……領主邸までの門を守ってる衛兵にまでは俺の情報は来ていないはず。

 ニルの情報があの二人に渡っているとしても、門を開け放っているなんて警戒心のない事をする訳がない。

 第一、こんなところに出てきたら一発でアウトだ。そこまで見越してのコレだろう。

 だが俺には、好都合だ。


 俺はなるべく音を立てないように慎重な足取りを保ちつつ、早足で脇目もくれずに衛兵の間をすり抜け正門をくぐり林道へ出た。

 林道の奥は花畑になっているようでかなりの広さを誇っている。その周りを取り囲んでいるのは森のようだ。

 領主の屋敷が街の外に? 大丈夫なのか? 魔物に襲われたりしないのか?

 領主邸までは、正直言って警備も手薄……それどころか、街を取り囲んでいる石の壁の範囲の内には位置していないようだ。

 この辺りは草原と森がかなり広がっているし、遠くには山々が連なっている……一部の森や草原を開拓した街って事か。

 じゃあこの林道は……さすがに人工的に植えたものだよな。

 感心している場合じゃない。とにかく、今は見つからないようにしないと。


 俺は林道の方へと入り、花畑の方へ抜ける。

 さすがに3メートル鉄の柵が屋敷の周囲を取り囲んでいるようだ。けれど、これって意味があるのか?

 これだけ広い花畑、モニカなら喜んで駆け回りそうだけど。

 俺は森の方へ近付いてみる。どうやら乗り込んでこれないように木製の柵は取り付けてあるようだが……万全ではない。

 ただ、こちら側に一番近い木の幹になにやら黒いランタンのようなものが結び付けられている。

 ランタンの中には淡いピンク色の炎か、光か何かは分からないが確かにそんな色の何かが灯っていた。

 それが一定の間隔で、取り囲むように結ばれている。

 何なのかは分からない。ただ、これを見ていると凄く嫌な感じだ。

 近付きたくない。それに、何とも言えないけれど、鼻が曲がりそうなほどの異臭をはなってるようにも感じる。

 分からない……何だろうこれ。例える事が出来ない。

 嗅いだことが確かにあるようにも感じるけど、色々と混ざり合っているようで、この臭いだ! と断定できる物が思い浮かばない。


 俺は不快に思ってその場から離れる。どうやら近くに寄らなければ匂いを感じる事もないようだ。

 あれは何なんだ? あんなのを掲げてよく平気だよな。


『当り前だ。今の主であるならアレを不快に感じても何らおかしなことではない』


 唐突に頭の中で悪魔の声が響く。

 今の俺って事は、魔物には有効って事なのか。


『肯定。あれはクロビジウムという花のエキスを配合した蝋燭を使っている。匂いと光で魔物を退けるものだ。それを一定の間隔で線を繋ぐように設置すれば一種の結界を形成できる』


 なるほどね。だからいくつも結び付けている訳か。

 強力な魔物除けだな……ありゃ、いくら強い魔物でもしっぽ撒いて逃げちゃうぞ。めちゃクソ臭いからな。


『だろうな。正直、我も堪えたぞ。今後は近付くなよ。それと……』

「え? 魔物?」


 悪魔が何かを言いかけたところで、俺は背後に近付く人物の存在に気付く。

 嘘だろ? 気付かれた? で、でも……俺の姿は見えないはずじゃ。アンチ・ハイディングの魔法も使っていないはず。第一衛兵だったら俺は間違いなく気付くはずだ。


『残念だが主よ。先の花の匂いの効果にはあらゆる魔法の効果を打ち消す効果があってだな。あのアンデットキングが掛けた魔法だとしてもこの花には意味がないのだよ』


 それを先に言え!!


『失敬。もう遅すぎたようだ』


 俺は恐る恐る声のした方へと振り返る。

 そこに立っていたのは、怪訝そうな表情を浮かべて首を傾げたモニカだった。

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