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ブランコにアオイの話をしたら爆発したよ

「しかし大変だったよ。行商があんなに大変だったとは思わなかった」


 エスタトゥアはぼやくように言った。大型獣やビッグヘッドの襲撃は置いとくが、商売は大変だった。

 何しろ主であるラタジュニアは若い。父親の威光などまったく通じないのだ。

 自分の子供と同じ年代の商人など簡単にやり込めると信じていた。

 怒鳴りつけたり、脅したりするが逆にラタジュニアが丸め込むというのをエスタトゥアは見続けてきた。


 ちなみにエル商会の従業員が使う休憩室だ。エスタトゥアはエル商会の制服に着替えている。


「交渉する姿は見たことなかったからびっくりだよ。親の七光りなんか通じない世界だな」

「当然です。旦那様をそこら辺の一山いくらの商人たちに適うわけがありません」


 ブランコが当然の如く言った。自慢などない。


「そうだね。サルティエラや三角湖ではえらい目にあったけどな」


 エスタトゥアは回想する。ヨモツやアオイなど強烈な女性たちが印象的であった。

 

「特にアオイさんはひどかったな。あんな目に遭うとは思わなかった」

「あんな目ですって? どんなことをされたのですか?」

「えっと、その……」


 エスタトゥアは口をつぐんだ。正直口にするのも恥ずかしい。

 そこをザマが口を挟んだ。ちなみに彼女も商会の制服を着ている。

 ここでは客分ではなく、従業員として働くことにしたのだ。


「エスタトゥアさんはアオイさんに接吻されました。

 さらに体をまさぐられました。とっても恍惚な笑みを浮かべてましたよ」

「ちょっ! 恥ずかしいだろ、ばらすなよ!!」

「そうですか? エスタトゥアさんはあの日以来夜な夜な自慰行為が止められなくなったではないですか。

 自分でするときはきちんと手を清潔に洗うことをお勧めします」

「だからばらすなって言ってんだろが!!」


 エスタトゥアはザマに怒鳴りつける。彼女は涼しい顔をしていた。

 するとブランコは笑みを浮かべている。ただし目はめちゃくちゃ座っていた。


「ははっ」


 一笑すると近くにある包丁を手にした。


「では、しばらく休暇をもらえるよう旦那様に陳情いたします」

「いや、休暇って、どこにいくんだよ?」


 エスタトゥアは訊ねた。本当はわかっているけど、思わず訊いてしまったのだ。


「決まってます。オロチマ村のアオイをぶち殺しに行くんですよ!!」


 その瞬間、ブランコの顔は豹変した。怒りに支配された魔女の顔である。

 エスタトゥアは一瞬びびった。


「あの野郎、よくも私のエスタトゥアさんに性的悪戯をしやがったな!!

 この世に生まれてきたことを後悔するような残酷な方法で殺してやる!!」

「いやいや、何物騒なこといってんだよ。口調が変わっているだろ!!」

「離してください!! 私ならエスタトゥアさんとキスするときはきちんとロマンチックな場所を選びます!!

 そう、海の見えるホテルに泊まり、夜は満天の星空の下、さざ波の音を聞きながら、柔らかいベッドの上で、シャンパンを乾杯した後に優しく相手をします。

 もちろん昼間はテニスをしたり、散歩を楽しみます。そして夕食は豪華なディナー!!

 支払いはすべて私が持つので安心してください!!」

「やだよ! 何その妄想、怖すぎだよ!!」


 ブランコとエスタトゥアの漫才を見てザマはほくそ笑んだ。

 そこにカンネがやってきた。エル商会の制服に着替えていたためである。


「おはようザマさん。あら、エスタトゥアさんとブランコさんは何を言い争っているのですか?」

「はい、どちらがエル様と海の見える高級ホテルに泊まるか言い争っているのです」


 ザマはしれっと嘘をついた。それを聞いてカンネは烈火の如く怒った。


「なんですって!? わたくしを差し置いてエル様とホテルですって!!

 許せません!! わたくしなら豪華客船を選びますわ!! 別世界を演出するのが大事ですわ!!

 なんて凡人の発想でしょうか!!」


 カンネは見当違いの怒りの声を上げていた。


「あれ~? みんな、何をしているなの~?」


 そこにポニトがやってきた。エスタトゥアの騒動などまったく知らないようである。

 その後ろにはラタジュニアが立っていた。


「まったくお前たちは何をしているんだ……」

「ああ、旦那様、申し訳ございません。実は私に休暇を―――」

「やらないよ。アオイさんを殺しに行く許可など出せるわけないだろう」


 ラタジュニアに先手を打たれて、ブランコはぐったりとなった。

 しょんぼりした様子にさすがに可哀想になったのか代案を出した。


「……エスタトゥアにきちんと性教育を施してくれ」


 するとブランコの表情は太陽の如く明るくなった。逆にエスタトゥアの表情は日の沈んだように暗くなる。


「おまかせください!! 私がエスタトゥアさんに正しい教育を仕込んでおきますわ!!」

「やだよ!! つーか旦那様、こいつに何てこと許可しやがったんだ!!」

「安心してください! さっそくカンネさんの進言通りに豪華客船の予約を取りに行きます!!」

「何それ!? あいつの話を聞いていたのか!! あんたにそんな金払えるのかよ!!」

「払います! エル商会で一生はおろか、三代かけて奴隷になる覚悟はありますわ!!」

「奴隷になるのかよ!! というか怖すぎだろ!!」


 ブランコとエスタトゥアの漫才を、ラタジュニアは頭を抱えていた。

 ポニトはきょとんとしており、首を傾げている。

 そこにザマが彼女の手を引いて休憩室を出ようとした。


「さあポニトさん、こちらは忙しいから私たちは仕事に戻りましょうね」

「? うん、わかったの!!」


 ポニトは元気よく手を挙げた。カンネも取り残されているが、ザマの後ろへついていく。


 この日はブランコが終始興奮しており、仕事にならなかったが、翌日はすっきりした顔になって遅れを取り戻したということだ。


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