エスタトゥアの天敵はアオイだった
「それでは帰るか」
カピバラの亜人であるラタジュニアは馬車に荷物を積んだ。愛馬のヤギウマ、クエレブレもメェェと鳴いた。
ここは三角湖のオロチマ村にある卸売市場である。ここの名産品をできるだけ購入したのだ。
ブラックバスやブルーギルの干物に、タイワンシジミやタイリクバラタナゴの佃煮。
ウチダザリガニやアメリカザリガニの缶詰などがある。
これらは本来オルデン大陸には生息しないものだった。外来種と呼ばれ、その地に住む在来種を食い荒らし、生態を狂わせる存在だった。
もっとも二百年前のキノコ戦争において大陸の気候は一変する。キノコの冬によって数年以上世界は雪に閉ざされたのだ。
さらに天変地異により地形は大きく変わっていったのだ。三角湖も昔は巨大な谷だったが、雪解け水により湖ができあがったのである。
これらを被爆湖と呼ばれており、本来は飲み水はおろか、人すら近づけないものだった。
現在は人の生活になくてはならない場所になっている。
「そうだな。ブランコさんがかんかんだろう」
「むぅ……、それを考えると頭が痛いな」
ゴールデンハムスターの亜人であるエスタトゥアは荷物運びを手伝いながらつぶやいた。ラタジュニアも難しい顔になる。
あれから三日が過ぎた。三角湖はすでに平穏を取り戻している。
これらは各村の村長が指導したおかげであった。
ガマグチ親分やベンテンとは挨拶はすでにすんでいる。
ヤドクガエルの亜人のアマは「ワイは父ちゃんの跡を継いだらもっともっとでっかくしたるで」と言っていた。
少なくとも兄のナガレヒキガエルの亜人であるナガレよりは立派に務めを果たせるだろう。その兄はコミエンソにある細工職人の婿養子にされた。
彼は偉大なる父親の背中を見ることから解放されたのだ。なんとなく安堵している。
もっとも彼はラタジュニアと会わずにコミエンソに向かった。たぶん気まずいと感じたのだろう。
この辺りは社交性が皆無であり、向こうの親方に教育してもらう必要がある。
ベニテングダケのヘンティルとサシハリアリのイノセンテはすでにオンゴ村へ帰っていった。ツキヨダケのルナも一緒である。
ただルナは表情が暗かった。雇い主のガトモンテスに怒鳴られることを恐れているのだ。
今回で三度目なので首になるかもしれないと、びくびくしていた。
おかげでエア酔っぱらいモードを発揮し、泣き上戸になっていたのは言うまでもない。
「ところであいつはなんだったんだ。しゃべるでか頭なんて初めて見たぞ」
「ああ、あれは松クラスのビッグヘッドだよ。
ちなみに一番下が梅で、中間が竹だ。
梅は野良のビッグヘッドによくいるやつだ。竹が少し賢くて梅を指揮する。
松は竹を指揮するタイプだ。もっともエビルヘッドは世界樹クラスと呼ばれているがね」
ラタジュニアの説明を聞いてもよくわからなかった。
ビッグヘッドに階級があるなど知らなかったからだ。
これはフエゴ教団に深く関わりのある彼だからこそ知っている情報だろうとエスタトゥアは思った。
「お前はウィッチヘッドにいいように操られたんだ。正確には他者を利用してお前を誘導したのだな。
俺の従姉のホビアルもそいつと関わっていたそうだ。
まったくエビット団の奴らの行動は常人の理解を超えるよ」
ラタジュニアは忌々しそうに言った。
「たとえ奴らがエル様にちょっかいをかけても、このわたくしがお守りいたしますわ!!
ザマさんも一緒にやってくれますわよね?」
そこにライオンのカンネがやってきた。準備はすでに完了しており、あとは馬車に乗り込むだけである。
その後ろに黒豹のザマがついていた。
「私もご助力いたします。もっともいざとなったらお嬢様を見捨てて逃げ出す所存です」
「ほほほ、ザマったら冗談ばっかり。わたくしはあなたを絶対に見捨てませんわよ」
「ありがとうございます」
ザマはぺこりと頭を下げた。いい根性しているとエスタトゥアは感心する。
さらにアオダイショウのアオイもやってきた。
アオイはエル商会の会計であるブランコに似た女性だ。親戚のようである。
「みなさん、今回はお世話になりました。まさか爺さんがでか頭に操られていたなんて夢にも思いませんでしたよ。
そのせいか、爺さんは怒り心頭でボケが治っちまったようです。今じゃ若いもんには負けられんと網元の仕事に張り切っておりますね」
アオイの祖父、クチナワ親分は痴ほう症の老人であった。出会った頃は自分のことなどすぐに忘れる曖昧な仙人であった。
しかしウィッチヘッドの卑劣な工作によって、エスタトゥアに嘘の情報を教えた。
本人はそれを知ると怒髪天を突くような勢いであった。おかげで意識がはっきりしており、朝晩忙しく働く日々だという。
ちなみに水泳大会はジライア村の勝利で終わった。本来水中騎馬戦をする前に勝敗は決まっていたのだ。
オロチマ村は三つの村で相談して決めた賠償金を支払うことで事態を解決したのである。
ジライア村の若い衆は盛んにオロチマ村に悪態をついていたが、ガマグチ親分に殴られた。
問題を起こした者は容赦なく矯正奴隷にしていったのである。
「それはよかった。俺も騙されたとはいえ、今回の騒動を起こした発端だからね」
「そうだな。だからあたし個人としてあんたに礼をもらいたいんだよ」
「礼だって? そりゃあ構わないけど何をもらいたいんだ?」
エスタトゥアが首を傾げると、アオイは彼女の腰を右手で回り込んだ。
そしてぐっと彼女を引き寄せる。小柄な彼女は長身のアオイを見上げていた。
さらにアオイは左手でエスタトゥアの後頭部を掴み、押し込む。
「むむ!?」
アオイはエスタトゥアの唇を奪ったのだ。あまりの出来事にエスタトゥアは目を丸くした。
さらにアオイは長い蛇特有の舌を入れてくる。生暖かい舌がエスタトゥアの可愛い小さな舌に絡みついていた。
アオイは目を開いたままで、真剣なまなざしであった。だがエスタトゥアは息が苦しくなっている。
「やだ、やめっ!!」
突き放そうとしても、両手で身体を抑えられているので身動きができない。
まさに獲物に絡みつく、蛇の身体であった。
その内右手はわしゃわしゃと蜘蛛の足のように蠢いている。
手はエスタトゥアの下半身をまさぐった。小ぶりの尻を撫でまわした上に、尻の割れ目まで指を入れてきたのだ。
さらにちっちゃな尻尾を丹念に撫でまわしている。まるで男性のシンボルをもてあそぶかのようであった。
左手は彼女の背中を撫でまわす。薄い毛に覆われており、小型犬を愛撫する感覚であった。
「あん、やめ!」
エスタトゥアの表情はとろんとしている。頬は赤くなり、鼻息も荒くなっていた。
抵抗はすでにできておらず、開いた両腕は胸を切なそうに揉んでいるのだ。
アオイの手は尻だけでなく、太ももや腹部にも伸びている。
全身を撫でまわされたあげく、エスタトゥアの腰が抜けた。
「いっ、いく!!」
エスタトゥアは思わず喘ぎ声を出してしまった。まるで自慰を初めて覚えた感じである。
実際、彼女の右手は女性の大事なところを抑えていた。余力が残っていれば自分でいじっていたかもしれない。
全身汗を流し、体が火照っている。まさに事後と言えるだろう。
時間は一分も経っていないだろうが、まるで悠久の時を過ごした気分であった。
アオイは彼女を解放すると、額の汗をぬぐう。
その表情は蛇の亜人に似合わず、満足気であることがよくわかった。
「ふう、ごちそうさま♪」
アオイは満足そうであった。逆にエスタトゥアはぐったりとしていた。
その様子を見たラタジュニアは唖然としていた。カンネも熱気に当てられザマの胸を触ろうとしたが、叩かれてしまう。
「あたい、初めて見たときからあんたのこと可愛いと思っていたんだよね。
だけどいきなりこんなことしたら嫌われるのは火を見るよりも明らかだ。
だから今回の騒動のお詫びとしてもらったわけだけど、最高だったな」
「おっ、おまえ、絶対ブランコだろ……」
エスタトゥアは力が抜けたまま、悪態をついていた。
だが本人の耳には届いていない。
一方でカンネは荒ぶっていた。
「ああ、なんて激しい行為なのでしょうか。わたくしの身体も火照ってきましたわ。
ザマさん。わたくしを相手に好きにしてもいいですのよ?」
「結構です。私は同性同士は興味がないのです。やるなら自分一人でやりますので」
「あらあら、そんなことをいうものではありませんわよ?
女の子同士はいわば遊びですわ。あなただって女の子同士ならキスをしたいと思うでしょ?」
「思いません。それはお嬢様だけです」
「またまた~。照れなくてもいいのに~」
ラタジュニアはそんな彼女らを見てやれやれと首を振った。
クエレブレが彼の頬を舐め、慰めている。
「そんなにしたければエル様に頼めばいいと思います」
ザマがラタジュニアに振ったため、カンネは標的を変えた。
すでに彼女の眼は獲物を狩る狩人の眼になっていた。
例えアナウサギでも全力で立ち向かい、手抜きなどするものかという覚悟を秘めている。
「そうでしたわ!わたくしには頭脳明晰、勇猛果敢なエル様がいらしたのですわ!!
しかし、なんということでしょう! わたくしの脳裏からエル様をところてんのように追い出すなどありえないこと!!
この罪人の如き不敬はわたくしが身体を張らねばなりませんわ!!
ええ、でもこの身体はすでにエル様の物。この日のために磨き上げた宝石のような物!! 愛でるも壊すもエル様の胸先三寸ですわ!!
さあ、エル様、わたくしと結ばれましょう。そして子種を宿してくださいませ!!」
カンネが襲ってきたが、ラタジュニアはトゥーススキルで彼女のあごを叩いた。
あっさりと気絶するカンネ。地面に倒れこんだ。
それをザマが介抱する。
「ザマ、あまり彼女を乗せないでくれ」
「わかりました。今度はもっとロマンチックな状況で煽ります」
「いや、そうじゃなくてな……」
その一方でエスタトゥアはまだ起き上がれないでいた。
この快楽はトラウマ物である。一生癒えない傷を負ったようなものだ。
あとはコミエンソに帰るだけであった。
アオイがブランコに似ているのは、この話を書くためでした。
私はケモナーではないのですが、潜在的にそうなのかもしれない。
次回はやっとエル商会に戻ります。
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