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森の子供・ユスリハ

 呆然とするカイン達に目もくれず、ユスリハと名乗った少女は話し続ける。


「貴方達が帰ってくるまでにブラドさんとボーガーさんに聞きました。根っこの化け物と呼ばれている存在は私たちの長兄で、私たちも少々、いえ非常に困っているのです」


 言葉が途切れた所でライラが尋ねた。


「あの、すいません。少し良いですか?」

「はい。何でしょうか、ライラさん」


 名乗ってもいないのに、名前を言われてライラの肩が跳ね上がる。


「ああ、すいません。貴方達の事も既にそこのお二人に聞いています。それで何でしょうか?」

「あ、そうですか……。えっと、ユスリハさんと、そこのお二人は……」


 ライラが口籠もる。

 だが何を聞きたがっているのか察知したユスリハが口を開く。


「貴方達が言う所の大魔王。その1体であるエンテの子供であるか? と言う所ですか?」


 聞こうと思っていた事を当てられ、ライラが固まる。


「答えは、その通りです。まあ、子供と言うべきかどうかは疑問の残る所ですが。まず貴方達人間や、亜人の考える子供では無いですね。言ってみれば漏れ出た魔力を弄って作り出された、疑似生命体と言った所ですか。でも、私たちがエンテの事を父と慕っているのは間違いない事でありますし、父も私たちに愛情を注いでくれている。下手な親子よりは、健全な親子だとは思いますよ」


 既にカイン達の頭はパンク寸前だ。

 色々疑問があるが、その中でも最大の疑問は何故そんな存在が目の前にいるかと言う事だ。


「すいません、ユスリハさん。ちょっとこいつ等には刺激が強すぎたみたいで……。後は私が話します」

「そうですか、ブラドさん。後、普通に話して下さって大丈夫ですよ」


 ユスリハにそう言われ、ブラドが引きつった顔を浮かべた。


「おい、お前等。何時までも硬直してるな、話が進まねえだろ」


 ブラドに話しかけられ、真っ先に正気に戻ったガヌートが慌てた様に尋ねた。


「ちょちょちょ、ちょっとブラドさん! 一体何がどうなってるんですか!?」


 前のめりに成るガヌートを手で制して、椅子に座り直させるブラド。

 一先ず落ち着いたのを見届けてから話を再開した。


「まあ、正直何が何だか分からねえだろうな。俺とボーガーも恥ずかしながらパニクっちまったし」


 ボーガーがブラドの横腹を肘で突いた。


「痛っ。まあ初めから説明するとだ、お前等が家を出て少ししてからそちらの3人が急に現れたんだ。いや驚いた。攻撃しかけたんだが、話を聞いてくれと言われたんで聞いてたら、その内容に余計驚いちまって」

「お爺ちゃん、驚いたのは良いからさっさと話してよ。というか話を聞いてくれって言われて、馬鹿正直に聞いたの」


 呆れた様にブラドを見るライラ。


「悪い悪い。で、話の内容ってのが、要は暴走しているお兄さんを倒してくれというものだ」

「ブラドさん、ここからは私が」


 ユスリハが話し始める。


「先ほど言いました通り、現在この辺りで暴れている存在は私たちの長男です。彼は今、父に掛けられた呪いを肩代わりしたために暴走しております」


 先ほどより一層強烈な衝撃を受けるカイン達。

 それもそのはず。大魔王に呪いを掛けた存在がいるというのだ、驚かないはずが無い。


「ユスリハさん達がどうにかする事は出来ないのですか?」


 カインが単刀直入に尋ねる。

 ブラド達が気が狂った者でも見る様にカインを凝視した。

 ただそんな質問に嫌な顔一つせず、ユスリハは答えた。


「勿論、それが出来ればしております。ただ、兄は兄弟の中でも少々特殊ですので。兄を除く私たち兄弟は父の手伝い、例えば森の中の監視や森の育成ですね。それらの為に生み出されました。ただ兄だけは今回の呪いを受け止めるためだけに作られたのです……」


 沈痛な面持ちで言葉を続けるユスリハ。


「父に掛けられた呪いは、古い古い呪いです。ある一定の条件で父の心を蝕み、暴力の化身へと変えてしまう恐ろしい呪い。それを父は他の大魔王と呼ばれる方と話し合い、数百年の時間を掛けて無効化する方法を考えつきました。父の場合、それが兄です。ただ今回問題となっているのはそこです」


 場にいる者全てが黙って聞き入っている。


「父は呪いを兄に移すため、私たち兄弟に比べ遥かに強い力を兄に与えました。それは器に大きな差があれば、呪いに気付かれる危険があったためだと言っておりました。その為兄は父には劣りますが、私たち兄弟に比べ遥かに巨大な力を有しております。父が出てくれば良いのではと言う意見もあるでしょうが、それは不可能です。呪いが暴走している今、本来の器である父が近寄れば呪いが父に戻ってしまう可能性が高いですから。幸い兄の意識がまだ少しばかりある様で、どうにか父に近づこうとはしていません」


 ユスリハの瞳から涙が流れた。


「私は兄、フリージアンをあの忌まわしい呪いから解き放ってあげたいのです。勿論、父に呪いが戻ってしまうのを阻止したいと言うのも本音です。ただ私は、父が呪いの器にする為に生み出した兄を哀れんで、いずれ訪れる破滅の恐怖を和らげる為、同時に生み出された双子の妹。今も兄の叫びが聞こえるのです。殺してくれと哀願する悲痛な叫びが。どうかお願いです、兄を楽にしてやってくれませんか……」


 長い沈黙。

 少ししてブラドが口を開く。


「貴女の言わんとする事は分かりました。ですが、一つだけ聞かせてください。カイン達が来る前にも聞きましたが、何故私達なのですか? 正直この場にいる人間でどうにか出来る範疇では無いと思うのですが」

「父の指示です。ブラドさん達が森の中に入って来た時から、父に見張る様に兄弟全員が指示を受けました。ブラドさん、貴方は私達の間でも有名なんですよ。特に貴方がお使いになる火の魔法は、植物の魔法に特化した我々家族には相性が良いですから。それと……」


 ユスリハが言葉を止めて、カインを見据えた。


「そしてカインさん。父は貴方が今回の鍵だと言っておりました。更に、今回の呪いの条件であるとも」


 カインは自分を見るユスリハの瞳に、一瞬だけだが憎悪を感じた。

 とはいえカインに心当たりは全くと言ってない。

 まるで自分が悪いと言われている様な気がして、カインの心に怒りが沸いてくる。


「ちょっと待って下さいよ! 急にやって来て、まるで僕が原因の様な事を言って。一体どういうことですか!?」


 音を立てて椅子から立ち上がるカイン。その顔は頭に昇った血で赤くなっている。

 カインが立った瞬間、ユスリハの隣に座っていた2人の青年も立ち上がる。


「止めなさい」


 静かな声でユスリハが、青年を制止する。

 2人の青年はユスリハを見るが、暫くして諦めた様に椅子に座り直した。

 それでもカインは立ったままだ。ユスリハを怒りと混乱の混ざった目で睨んでいる。


「申し訳ありません、カインさん。少し言い方が悪かったようです。出来れば座って頂けませんか?」


 カインは暫く睨んだ後、ようやく椅子に座り直す。

 まさかの出来事にブラド達が安堵の息を吐いた。


「先ほどは申し訳ありません。正確に言えばカインさんに流れる、ビッグゲート家の血。それが呪いを発動させる鍵となっております」


 言い直したユスリハに、ブラドが眉を顰めて尋ねた。


「ビッグゲート家の血が鍵ですか? でもそれはおかしくないですか。私はカインの祖父ガーラ・ビッグゲートと以前起こった戦争時にこの森に来ましたし、それ以前にも何度か探索者の仕事でこの森に訪れた事があります。ましてやそれ以前にも、ビッグゲート家の血を継ぐ者はこの森に探索者として来ているはずです。何故その時に呪いが発動しなかったのですか?」


 ブラドの言う事は正しい。

 元々ビッグゲート家は今は無きヴァンデンバーグ王国に根付き、病の副作用である力で何人もの著名な兵士や探索者を輩出してきた一族だ。

 カインやガーラ以前にも、探索者としてエンテの森に入った者はそれなりの数がいる。

 なのに何故カインが森に入った事で、呪いが発動したのか……。


「……父が言うには、ガーラさんが鍵になるには少し足りなかったそうです。他の方々も同様。カインさんは鍵となる条件が揃っていると。正直な所、私も正確な事は教えて貰ってはおりません。それと、今回の件に力を貸して頂き、無事成功すれば確りと恩は返すと父が言っておりました」

「それは一体……?」


 ユスリハ自身、本当に何も知らないのだろう。

 ただ父であるエンテに、兄であるフリージアンの内に眠っていた呪いが発動した理由が、カインにあると聞かされ敵意を持っていたというところか。

 これ以上聞いても何も分からないだろうと、ブラドはユスリハが話した見返りについて尋ねた。


「一つは中央国まで行く際のサポート。そして今回の事を含め、知っている事を言える範囲で話すと」

「それはビッグゲート家の血についてですか?」


 カインの質問にユスリハは頷く。


「それもあります。それに加えて、ライラさん。それにネイさんの力についても、と言っておりました」


 意外な答えを聞かされ、その場にいた全員が驚きを隠せない。


「私とネイの力もですか!?」

「父はそう言っていました。ただし、言える範囲でと言う事ですが」


 ライラがブラドを見る。

 難しい顔をして暫く考えた後、ブラドが口を開く。


「……カイン、どうだ?」

「僕も色々聞きたい事があります。もしかしたらこの病について、有益な情報が聞けるかもしれませんし」


 その返答を聞いてブラドがユスリハを見据える。


「分かりました。今回の件、協力させて頂きます」


 その返答を聞き、ユスリハは安堵した様に微笑みを浮かべた。



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