12.謎だらけのサプスフォード公爵家
お読みいただいている方、ありがとうございます。
アイリス様がお茶に何が入っているかを知っていてそれを飲んでいることはわかった。じゃあ、ヴィーセル様は? 自分が贈ったお茶に異物が入っていると知っているの?
ヴィーセル様を見ると、ドラコちゃんによるタックルを不思議がって周囲を見渡していて何も読み取れなかった。うん、当たり前だよね。
よし。ここはマナーの授業のことはすっぽぬけて忘れたふりしてみよう。
「アイリス様。そのお茶ってどんな味なんですか」
わたしがカップに手を伸ばそうとしたら、アイリス様はダメ、と焦燥の面持ちになり口の動きだけで静止した。
「駄目だっ!」
はっきりと声に出してわたしを制止したのはヴィーセル様だった。あまりの大きな声にビビって思わず体が硬直しちゃったよ。
「それ、は、俺がアイリスだけに贈ったものだ。そもそも人の茶を飲むのはマナー違反で、お前は―――」
ヴィーセル様がグダグダとわたしが飲んではいけない理由を必死に並び立てて話している。一見マナー違反だからと思える言葉ばかりだけれど、声音と顔の強張り見て確信した。
お茶にウィダー草を入れているのは、ヴィーセル様だということ。
「そうでしたね、そう言われれば先日授業で習ったばかりでしたね。それなのに忘れちゃうなんて、すみません。大変失礼なことを言いました」
えへ、と頭を掻きながら謝罪する。そして頭を下げて考える。
どうしてヴィーセル様はアイリス様の命を脅かすようなことをするの? この場で追及してアイリス様へ謝罪をさせたい。でもアイリス様がヒミツって言うし、アイリス様との約束は守りたいし。
アイリス様もどうして命が縮まるのを承知でそのお茶を飲んでいるの?
答えの出ない疑問をウンウンと頭の中で考えたら一息吐きたくなって、天上の国のお茶を一口飲んだ。
うん、これやっぱり美味しいわ。うまうま。
「ここにいたのか」
シンと静まり返ったサロンに、場に合わないやたら明るい男性の声が響き渡った。
「ロザリンド・アナフガルだな」
名を呼んでわたしの前に現れたのは中年の小太りの男性だった。背後に黒衣を纏った者数名、ローレンさんも、を連れている。小太りの男性は笑顔だけれども学園の貴族様たちと同じで目が笑ってなくて、明らかにわたしをバカにしている瞳をしていた。
「私はステン・サプスフォートだ」
当然というかやはりというか、公爵様登場かぁ。
なんとなく予想はしていたけど、目の前の人物はアイリス様の父親には見えない。血縁関係にあるようにも見えない。間違いなく奥方様が途方もなく美しくて麗しい方だったのね。
わたしはイスから立ち上がり、公爵様に礼をする。授業の成果が発揮できて、今日はうれしいわぁ(棒読み)
「はじめまして、公爵様。この度はアイリス様からのお誘いを受け、訪問させていただきました。この度の温かい心遣い誠にありがとうございます」
「挨拶はいい。それよりも私がそなたに寄付をしたいと考えていることをソレから聞いているか」
え、ソレ? ソレってアイリス様のこと? なんで名前で呼ばないの?
そういえば、サロンに来てからサプスフォート公爵はアイリス様に笑顔を向けるでもなく優しい声をかけるでもなく……娘に甘いと聞いていたけれど、そんな気配は全くない。まるで赤の他人みたい。
噂って信用できないんだねぇ。
「はい。伺っています」
「わが娘と同じ歳ながら民のために薬術師として働いていると聞けば、是非応援したくなり寄付をと思ってな」
「公爵様。お優しいお心遣い、誠にありがとうございます。ですが、寄付の件につきましてはお話を聞いたばかりでして考える時間をいただきたく思います。アナフガル診療所の設立者はわたしの養父なもので」
「そうか。では受け入れる意思が固まったらローレンに返事を。いま君は学園に通っているのだろう」
「はい」
受け入れる前提の会話だな。まぁ、公爵家からのお話を蹴る者は普通いないだろうけど。
それにしても、なーんかこの場の雰囲気も変な感じ。アイリス様はずっと無言で静観しているだけで公爵様に笑いかけるでもなく甘えるでもなく……絶対変だよ! なにがどうなってる、サプスフォート家は!
ってかさっきからわたしの足下でビシビシと叩く何かがいる……ってもしや透明化ドラコちゃんっ? 尻尾をビシバシ振ってる?
わわわ……高度な魔法使える魔道師さん達いるもんね、攻撃したいよね、気持ちはわかるよ。でも約束したよね、今はダメよ、止めてぇ!
「……公爵様」
公爵様の真後ろに立っていた白髭の魔道師さんが、公爵様に何か耳打ちをする。
「何? 魔力が?」
公爵様の言葉にギクリとなる。ドラコちゃんの存在がばれちゃうっ! あわあわするのを必死で隠そうとすればするほど口が引き攣り顔が青ざめてしまう。うわーん、どうしよう。
魔道師さんが小さく頷くと公爵様はサロン内を視線で一巡した。それからわたしを見て。
「君は魔力は持っているのか?」
「いいえっ。全くありませんっ」
「本当か」
「はいっ」
慌てるわたしを見て疑わしい顔してる。でも、わたしに魔力はない。証明しろって言われてもどうしていいのかわからないけど、本当に微塵もない。
「わたし、魔力は本当に持っていませ……」
「サプスフォード公爵。彼女は魔力なし判定ですよ」
返答を信用してくれるか不安なわたしの擁護をしてくれたのは、わたしの横にいつの間にか立っていたヴィーセル様だった。
「学園の体験入学に辺り、彼女の身辺調査の報告書は全て私の所に来ていました。目を通しましたが、魔力なしの薬術師であることは間違いないと私が保証します」
あー、身辺調査されたのね。そうだよね、王族もいる所だもんね。っつか、その報告書には一体わたしについて何が書かれていたんだろう。
「報告書の信憑性は?」
「提出者は第七騎士団長アンドレイです」
「ぬ、そうか。ならば信用できるな」
ほう。団長様は王子様にも公爵様にも信用される仕事っぷりなわけね……えええっ! あの団長様が? 信じられなぁい!
「はい。見た目子供なくせにやることはえげつないことこの上なしだが害はない等色々と書かれていましたが、私が見た限り報告書通りです」
うぉーい、団長様っ、わたしについて一体何を書いたあっ! ヴィーセル様もさり気なく何言ったっ!
「まあ、いいだろう。では館の魔法強化をしろ」
公爵様の指示に、白髭の黒衣の男は頭を下げて出ていった。よかった。とりあえずドラコちゃんはばれずに済んだ。
魔法強化かぁ。侵入者か盗聴か透視の魔法の影響があると思われたのかな。魔法強化してもドラコちゃんには関係ないけどね、と遠い目をしてみる。
「ではいい返事を待っている」
公爵様もサロンを出ていった。結局公爵様はアイリス様と一言も会話しないで出ていったよ。娘溺愛の父親の姿は全然感じなかったなぁ。
「アイリス様、あの……」
「ねえ、ロザリンド様。フィーちゃんともう少し遊んでも良いかしら」
「あ、ええ。全然良いですけど」
言われてフィーちゃんも喜んでますから。でもアイリス様。どうしてそんなに寂しいお顔をされているんでしょう。父親である公爵様には声もかけられていない、婚約者とも言えるヴィーセル様には睨まれている。今もわたしの隣でヴィーセル様はアイリス様を刺さんばかりの視線を向けていて、どう考えてもおかしいでしょう、この状況!
わたしはアイリス様の味方になりますからね。団長様には好きにしていいって言われてるので好きにさせてもらいます。王子様だろうが公爵様だろうが、アイリス様に害なすのなら、ドラコちゃんとフィーちゃんと共に戦いますからね!
帰りの馬車の中でわたしがそんな決意をドラコちゃんとフィーちゃんに熱く語って同意を貰った。
そうよね、ヴィーセル様よりサプスフォード公爵様よりやっぱりお綺麗で清らかなアイリス様よねー。
なんて話をし、フィーちゃんに
「楽しかったね」
と言って笑う。アイリス様と遊びまくったフィーちゃんはとても満足気。
「よく我慢したね」
あの魔道師軍団に負けなかったドラコちゃんを誉め……あれぇ。何でウマウマな顔してるの、ドラコちゃん!
満腹で満足してるドラコちゃん。一体どこで何を食べたの?
「あ、もしかしてあの魔道師さん?」
サプスフォード公爵様の背後にいた白髭の魔道師さんかな、とわたしが聞くとドラコちゃんは頷く。
ってことは、ダニエル先生宅に向かって光か闇の魔法を送ってきたのはサプスフォード様の館からで、術者はあの白髭の黒衣の男。
え……いるはずのない大陸外の人間がサプスフォード様のところで仕えているってこと?
お読みいただきありがとうございました。
2017/07/25追加
伏線忘れや時系列の粗があり、一人称で展開するには難しく行き詰まりました。私の筆力不足です。すみません。
アイリスの事情につきましては、こちら http://ncode.syosetu.com/n3798ec/ でこっそり(検索除外中)連載しております。多視点の話となりますので、苦手な方はお避け下さい。




