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カウントダウン

「父ちゃん父ちゃん。

なぞなぞだよ。

白いけどふわふわしてるものなんだ」

「あ?なんだよそのざっくばらんななぞなぞは」

カイザーが息子であるレノとリノの頭を交互に

洗いながら答える。

「リノ、いっしょうけんめいかんがえたんだよ?こたえて」

「あー白くてふわふわしてるもの?

あーそうだなぁ。

わたあめ!」

「ぶーっ!」

「ダンデの綿毛!」

「ぶーっ!」

「リノおれわかった!かあちゃんのおっぱい!」

「ピンポーン!」

「おまっ、まだガキのくせにそういうなぞなぞはやめなさい!」

カイザーが二人の泡だらけの頭にお湯をかけながらそう言う。

「なんでー?だって母ちゃんのおっぱい白くてふわふわだもん」

リノがおっとりとした様子でカイザーに反抗する。

「そういうことは大人になってからだな・・・」

もごもごとカイザーは煮え切らない言葉を発する。

「あーーーーーー!もうとにかくそのなぞなぞは禁止だ!

よしっ!お前らシャンプーハット取っていいぞ!」

「わぁい!」

2人ははしゃぎながらお揃いのブルーのシャンプーハットを

乱暴に放り投げる。

「こら!ちゃんとこれはここに掛ける!リノもレノも

誰に似たんだろうなったっくよー」

そうぶつぶつ言いながらカイザーは2人のシャンプーハットを

丁寧に拾いシャワーの隣のフックにちょこんと掛ける。

「父ちゃん!入っていい?」

レノが元気よくカイザーにそう尋ねる。

「いいぞーどんどん入れー」

その言葉を待ってましたかといわんばかりに

2人は湯船にはしゃぎながら飛び込む。

「ごらぁ!お前らもうちょっと・・・まぁいいか。

父ちゃんも混ぜろ!」

ザブーン。

カイザーが湯船に身を投じたことで風呂の湯が一気に溢れ出る。

「ぎゃははははははははは!」

「ぎゃははははははっはは!」

「ぐわはははははは!」

「もう、3人共しょうがないわねぇ。どう?お湯加減」

浴室の小窓からひょいとカイザーの妻リリアが顔を出す。

「んーちょっとぬるいかな」

「んーちょっとぬるいかな」

「んーちょっとぬるいかな」

リノとレノがふざけてカイザーの言葉をまねる。

「じゃあちょっと薪入れるね」

リリアがその様子を見て微笑みながら薪をくべる。

「とうちゃんとうちゃん!なぞなぞまたできた!」

「んー?なんだー言ってみろー」

湯に身を任せて目を閉じながらカイザーがリノに尋ねる。

「まっくらなのにぴかぴかひかってるもの、なーんだ!」

「星だな」

カイザーが即答する。

「・・・・・・」

正解をすぐ当てられたのが悔しいのかリノは口を尖らせて

カイザーを見つめてくる。

「リノのなぞなぞはかんたんだよな」

レノが隣からそう茶化す。

「そんなことないもん!ちゃんとかんがえてるもん!」

「じゃあこれは?まっすぐなのにぜったいおれないものなーんだ」

「?まって!かんがえる!」

「真っ直ぐなのに折れないもの?うーん、父ちゃんも考えよ」

「母ちゃんも考えてー!」

「はいはい。考えるねー」

「ねえねえ、ヒントいってほしい?」

「だめだよ!いまぼくかんがえてるんだから!」

「ヒント早すぎるよお前、もうちょっと考えさせて」

「ねぇ、お湯加減どう?」

「いい感じー」

「いいかんじー」

「いいかんじー」

「こらっ!パパの真似ばっかしないの!」

「いいかんじー」

「いいかんじー」

真っ直ぐなのに折れないもの?

はて。なんだろう。

どうせ5歳児の脳みそが考えたものだからそう難しくはないものだな。

カイザーは目を閉じながらそんなことを考えているその時だった。

「ねえねえ」

「!?」

カイザーの心に男の声が響き渡る。

「大切で大切で仕方ないものが無くなったら人はどうなるでしょう?」

目を思わず開ける。

目の前にはなぞなぞを考えているリノと

得意げになっているレノ。

窓の外にはその様子を幸せそうに見つめているリリア。

「答えてくださーい。制限時間、設けようか?」

ゲノム。

直感でそう感じる。

「おっと、誰になるかはまだ決めてませーん。

でも、絶対にやりまーす」

全身が粟立つ。

「俺だけは大丈夫。

俺だけは大丈夫。

そう思って調子に乗ってる人には

これから僕がお仕置きをしまーす!」

今度は別の声。

「いつかはまだ未定でーす。

でも、絶対にやりまーす。

それまで是非、家族ごっこ、

がんばってくださーい」

また違う声。

心がざわめき立つ。

「最後。これだけ言ってもまだ気が付かない人、だーれだ?」

「はーい正解は、カイザー君でーす」

目の前が真っ暗になる。

「はい、カウント、5。

さよなら、カイザー君。

また会う日まで」

ぶるぶると全身が震えだす。

ゲノムだ。

絶対にゲノムだ。

始めやがった。

でも、どうして俺なんだ!?

アレクは勇者だから「そういうこと」に陥っても

仕方ないと思っていたが、

俺はなにも関係ない!

いや、息子や妻は関係ないじゃないか!

息子たちがなにか話しかけてきているが

なにも聞こえない。

俺なのか!?

「とうちゃーん?」

「とうちゃーん?」

いや、俺じゃない。

びっくりした。

なんなんだ今の。

いきなり耳が聞こえなくなったような・・・錯覚?

錯覚なのか?

今心に聞こえてきた声も錯覚なのか?

「あなた、なに一点睨んでるの?怖いよ」

「こわいー」

「こわいー」

「はいはい。もう2人は出なさい。

今日のご飯はハンバーグだよーん!」

「わぁい!」

「ハンバーグぅぅぅ!」

そう叫ぶと2人は湯船から出て浴室をあとにする。

ぽつん、とカイザーだけがその場に取り残される。

だめだ。

俺はいいが家族はだめだ。

誰かひとりを選ぶといったな?

誰もだめだ!

だめだ!

だめだだめだ!

涙がこみ上げてくる。

やめてくれ!

本当にやめてくれ!!

必死にゲノムに心で懇願する。


ノーマ7刻。


まだ暮れきっていない外の世界でセミンの声だけが、五月蠅い。



          *


「ちょっとーなんでおいらが肩叩き1000回なんだよ!」

「お前最近ふらふらふらふら出歩いてばっかだから当然」

「ぶーっ!」

そう口を尖らせつつミルキは村の最長老の肩を優しくとんとんとんとんと

叩いていく。

「ほーっ。ミルキは肩叩きがほんに上手じゃ」

小柄なミルキよりももう一回り小柄な老婆が嬉しそうにそうつぶやく。

「あったりめーだっつーの!ばあちゃんの肩、たたいてもう

10年にはなるからな!」

「・・・・相変わらず口は悪いのう・・・」

優しい振動に身を任せつつ老婆がそう言う。

「これはね、もう全部あいつらのせいなんだって!

特に、これ前も話したけどさ、カイザーっていう大男がさ、

もうほんっとに口悪いんだよね!」

「お前の口の悪さは父親譲りだと思うがねぇ」

「ははっ!ばあちゃんの言うとおりだよ」

「うるせーな!外野は黙ってろって!」

小さな老婆のその小さな部屋にはミルキの他に

幼馴染が何人かくつろいだ格好でそれぞれ好きなことをしている。

「まじばあちゃんち落ち着く。俺、ここんちの子になろうかなー」

「わかる。なんかいい香りじゃないけどなんか、

ここ来るとばあちゃんち!って感じなんだよねー」

「ほほほほ。嬉しいのう。ほれ、そこの戸棚にリンゴがあるからの、

みなで食べなさい。冷蔵庫にはジュースもあるでの」

目にやや涙を浮かべながら老婆が皆に向かってそう言う。

「やった!俺まるかぶりー」

「お前下品すぎるだろ!ちゃんとナイフで皮むけよ!」

ミルキが笑いながら仲間に言う。

「お前もいつも丸かぶりじゃねえか!

なんだー?あの天使族のお嬢さまに影響されてんのかー?」

ニヤニヤリンゴを丸かぶりしながら仲間がミルキに言う。

「エレラのこと?あいつお嬢様なんかじゃないよ!

まあ・・・お金持ちだけどいっつもダイエットのことと

男のことばっか話してんだぜ?」

テンポよく肩を叩きながらミルキがそう答える。

「でも俺見たけどめっちゃ可愛いじゃん!

な、紹介しろよ」

「だめーエレラは理想が高いから」

「だろうなー」

リンゴに噛り付きながら仲間がそう答える。

「ね、ばあちゃん」

「?なんじゃ?」

「ほーそーかいってなんだ?」

「法曹界か。お前さんからそんな言葉を聞くことになろうとはね」

「長生きはしてみるもんだねー」

「!?」

明らかにミルキでも仲間でも老婆でもない男の声が部屋に響き渡る。

「な!今のなに!?」

「だ、だ誰だよ!?」

「え、なになに!?怖いんですけど!」

「・・・誰じゃ」

怖気づいているミルキたちとは対照的に老婆は落ち着いて

その声の主に尋ねる。

「私だ」

「私ではわかんねーだろ。がはは」

声の主が二人になる。

「・・・・」

老婆が一点を見つめながらこう言う。

「ゲノムじゃな」

「・・・・さっすがおばあちゃん!話がわかるね!」

「よっ最長老!」

「・・・・なんの用じゃ」

「いや、そこのミルキに話があってねー」

ミルキの身体が声にびくっと反応する。

老婆が黙って肩に置かれたミルキの手を握る。

「おめめくりんくりん、ショートカットのボーイッシュガール、

ミルキちゃーん。

俺、君のファンなんですー。

早く早く会いにきてぇ!?」

「ぎゃはははは!私信だろそれ!」

「お前真面目にやれって!」

声の主が3人に増える。

「なんの用かと聞いておるんじゃが?」

震えるミルキの手をぎゅっと包みながら老婆が尋ねる。

「もうっ!老人は話を急かすから嫌いだよ。

まぁいいや、ミルキちゃん、ねぇねぇ、

今一番好きな人だぁれー!?」

声の主が茶化すように質問する。

「・・・・・」

ミルキはなにも答えられない。

「ねぇ?だあれー?」

答えようにもどう声を出していいのかわからない。

ただ口がぱくぱくと動くだけだ。

ミルキの目から涙がぽとりと落ちる。

「・・・・ミルキ?」

仲間が不安げな顔でミルキの顔を覗き込む。

「答えられないよねぇ?

いーっぱいいーっぱい大切な人、

いるんだもんねーえ?

よっし!決めた!

その大切な人達の誰かをこれから殺しにいきまーす!」

ミルキの顔がら生気が失われる。

「・・・・だ・・・・」

「は?なーに?

きこえませーん」

「・・・・だ・・・・」

「わかりませーん!

カウント4!

はい、終了ー」

「・・・・だめ・・・」

やっとの思いで出せた言葉はその一言だった。

「い、今のなんだよ」

「ミルキ、大丈夫?」

「う・・・・うん・・」

「誰かのいたずらじゃねえの!?」

「つかまじびびったし!こっわ!」

「・・・・・・きおったな」

静かに天井をにらみながら、老婆がそうつぶやく。


        *


ノーマ7刻半。

イェーリー宅の夕飯はいつもきっちりこの時間に始まる。

「げ。またピーマンの肉詰めかよ。母さん、わざと?」

イェーリーとは年が8つ離れた弟のキィーリーが

食卓につくなりそう愚痴を呟く。

「嫌なら食べなくていいわよ。ね?イェーリー?」

「なんで私に同意を求めるのよ。

大きくなりたくなかったら食べなくてもいいわよキィーリー」

静かにほうれん草を咀嚼しながらイェーリーがそう言う。

「ちびだって言いたいのかよ!」

「はいはい。突っかからなくてもいいから。

誰もそんなことは言ってないし思ってもないから」

キィーリーの目は見ずにイェーリーがそう言う。

「なあ、父ちゃんは?」

「お父さんはまだ大学よ。研究が大詰めとかなんとか言ってたかしらね」

「お父さん・・・疲れてるよね」

お茶を一口飲んでからイェーリーは母親の目を見てそう言う。

「大丈夫よ。あれがあの人の仕事だから。

それよりあなたよ。毎日毎日学校の後どこに寄ってるのよ」

「・・・彼氏のところ」

「嘘つけよ!この前振られたって誰かに電話してるの俺聞いた!」

ゴッ。

「ってぇ!なんだよ!ほんとのことじゃん!」

「うっさいくそガキ。ミルミルのポスターあれ、いらないの?」

「ミルミルは出すなよ!卑怯だぞ!」

「へーそんな言葉どこで覚えたの?」

「バカにするな!」

「うっさいへたれ」

「はいはい。お願いだからご飯の時くらい静かにしてちょうだい。

音楽が聴こえないじゃないの」

「はーい」

「お前あとからひどいからね!?」

キッと眼鏡の奥からイェーリーがキィーリーを睨む。

ちょうどそのその時だった。

TRRRRRRRR

TRRRRRRRR

家の電話が鳴る。

「あ、私出る・・・はい、もしもし?」

「あ、イェーリー?私だけど」

「ああミンちゃん。なに?携帯にかけてくれたらいいのに」

「なんかつながんないよ?」

「え、そう?」

「そんなことはどうでもいいの。

モリスが大変なの・・・」

電話の向こうのミンリの声がいつもと様子が違う。

直感でなにかあったんだとわかる。

全身から血の気が引いていくのを感じる。

「・・・・なに?」

「事故。交通事故に遭って今手術してる」

「は!?」

大きな声を出したことで母親とキィーリーの意識が

こちらに集中しているのがわかる。

「今市民病院にいるから来て!」

「でもうち8刻過ぎると出してもらえなくなるから・・・」

「行きなさいイェーリー」

静かに母親が背中の向こうからそう言う。

「でもお父さんが・・・」

「今日は帰り遅くなるか向こうに泊まるって言ってるから。

母さん送っていってあげるから行きなさい」

「・・・うん」

急いで部屋着から外着に着替えて髪の毛を整える。

事故ってなに!?

モリスがどうなってそうなったの!?

死んじゃうかもしれないってこと!?

泣いてはいけないとわかっているのに

涙のかさがじわじわと増えていき今すぐにでも決壊して溢れそうだ。

大事な人だ。

たとえ元彼であっても。

私にすべてのことを教えてくれた。

人を愛すること。

自然を愛すること。

夢を持つこと。

父親と同じ道を歩きたいと打ち明けた時も

笑わないでただ黙って聞いてくれた。

植物が大好きで、私が尋ねたらどんな花の名前も教えてくれた。

人にやさしくていつも周りにたくさんの人がいた。

いつも笑っていた。

「早くしなさい。そんなに鏡見なくていいでしょ」

これが最期のお別れになるかもしれない。

いや、最後はいつ会ったっけ。

確か先週学校で今度の科学の講習一緒に受けようとかなんとか

話したはずだ。

その未来が彼にはないの?

ついに涙が防波堤を越えてあふれ出てくる。

「イェーリー落ち着きなさい!」

肩を揺さぶられてはっとする。

だめだ。

感情をむき出しにしてはだめだ。

「とにかく早く行きましょう」

母親がイェーリーの瞳を覗き込みながらそう言う。

「大丈夫よ。モリスは強い子よ」

肩に手を置かれる。

その一言でまた泣きそうになる。

「薬、飲んでいく?」

「・・・いいわ。自分でコントロールできるから」

泣いてはいけない。

泣いてはいけない。

怒ってもいけない。

この力のせいで今までどれだけ家族に迷惑をかけてきたのか、

イェーリーは十分に理解している。

でも・・・でも・・・

また涙の津波が襲ってくる。

ぎゅっとモリスにもらった指輪を握りしめる。

こんなことって・・・あるの?

「あるよ」

心の中に若い女の声が響く。

「誰!?」

「あれー?なんかこういうの慣れてる?

まぁいいや。

名乗るほどの者ではないし」

「何!?なんか用!?」

「あっれ!

そんな言い方していいのかなぁ。

モリス君、どうなってもいいのお?」

間延びしたような声が心の中で暴れまわる。

「・・・・・」

「なんにも言わないんだったら教えてあげる。

モリス君が生きるか死ぬかは、

お前にかかってるんだよイェーリー。

時間がもうないから手短に言うけどね、

ま、いいや。

ま、もういいや。

モリス君が生きようが死のうが

私にとってはどうでもいいし。

だって他人だし。

しかも敵の元彼なんてなおさらどうでもいー。

カウント3。

ちゃんと伝えたからね!?

じゃ、いってらっしゃい。

イェーリーちゃん」

「・・・・・」

母親は運転中でじっと前方を見据えている。

今の声は聞こえていない。

私次第?

モリスが生きるか死ぬかは、私次第なの?

今のは多分、ゲノムの仲間だ。

ミルキが泣きながら電話してきた内容と

内容は違えどほぼ合致する。

落ち着いて。

落ち着いて。

落ち着いて。

薬指に光る指輪を、右手で包み込みイェーリーは静かに目を閉じる。


      *


「エレラーお父様が呼んでるよ」

ドアの向こうで妹のミレラがそう言う。

・・・・やばい。

ついにばれた。

最近夕ご飯が終わったらシュエトリフにテレポの魔法を

使ってレベルアップのための経験値稼ぎをしているのだが・・・

ついにばれた。

「やばい・・・」

エレラは誰にでもなくそうつぶやく。

「ねー聞こえたー?なんか深刻そうな顔してたから早く行ってね」

「はいはーい。今行くよ」

そう言ってエレラは書きかけの日記をぱたんと閉じて

それに厳重に鍵をかける。

コモンの書にも日記を書く機能はついているが、

自分の字でゆっくりと確かめるようにその日あったこと、

自分の気持ちを書き綴る方が日記らしいとエレラは勝手に思っている。

「あれがばれたとしたら、しばらく門限なしで即監禁だなぁ」

ぼんやりとそんなことを考えながら階段を降りていく。

階段の途中にある白い天使の像がなんとなくこちらに

笑いかけている気がするが、気のせいだろう。

「はぁ。みんなといるの楽しかったんだけどなぁ」

3階から2階へ降りてきた時、姉のリレラとばったり遭う。

「わお。珍しいね、こんな時間にいるの」

「クラブ行こうとしてたらお父様に呼び出された」

「は!?あんたも?私もなんだけど」

「なにがばれたかなぁ。

もしかしてハメ撮り流出しちゃったかなぁ」

「あはは。まだあの男と付き合ってんの?」

「うん。だって一緒にいると楽しいし」

「好きだねぇ。くずみたいな男が」

「お父様が許すわけないよ」

「うわっ!なにあんた人の後ろに立つのやめてくれない!?

見えないから!」

「なに、ミレちゃんも呼ばれたの?」

「うん。大広間に来いって。なんだろ」

「なんだろうねー」

「赤点ばれたかな」

「ぎゃはは!まーた数学赤点だったの?」

「うるさいなぁ!今はまだ本気出してないだけだもん」

「いつ出すんだよ」

「これからだよ!」

そう言ってミレラがエレラの隣に出てくる。

3人の翼はそれぞれとてもきれいな乳白色であるが

リレラのものが一番大きく、ミレラのものが一番小さい。

慣れているのであろう、翼は閉じられたまま、

3人は大広間へと入っていく。

「やっときたか」

3人の父親であるドーバンはもうソファに座っている。

母のフェリアもだ。

3人はやや緊張しながらそれぞれいつもの低位置に座る。

侍女が紅茶を3人に供す。

「悪いがお前は席を外してくれ」

静かにドーバンがそう言う。

侍女は軽く頭を下げ部屋を出ていく。

「わたくしも出た方がよろしいのではないかと・・・」

ドーバンの側に立っている執事であるセバスがドーバンに

そう声を掛ける。

「いや、お前はここにいていい。さて、

回りくどい言い方は私は好まん。

今からとても大事なことを言うから3人共よく聞きなさい」

ドーバンは順番にリレラ、エレラ、ミレラの目を見つめて静かにそう言う。

3人は緊張した面持ちでドーバンの次の言葉を待つ。

カチコチカチコチ

柱時計の秒針がやけに部屋に響く。

「・・・・・」

ドーバンは下を向いて黙る。

周りの5人もただドーバンを見つめて、黙る。

カチコチカチコチ

カチコチカチコチ

ボーーーーーーーン

時計がノーマ8刻を知らせる。

その時計を合図のようにドーバンが顔を上げてこう言う。

「私は癌だ」


目をぎゅっと閉じていても涙があとからあとから溢れてくる。

いつも最悪のことを考えて、自分が傷つかないようにするのは

エレラのいいところでもあり悪いところでもある。

ノーマ11刻。

部屋を真っ暗にして身体をベッドに投げ出し、

ただただエレラは涙する。

思考が暴走する。

お父様が死んだらどうしよう!

あんなに立派で誰にでも優しいお父様が!

世の中にはどうしようもないクズなんていくらでもいるでしょ!

なんで、

なんでお父様なんですか?神様!

声を上げて泣くと誰かが来てしまうので、

声を押し殺して涙をただ流す。

「お父様・・・」

小さなころの自分と父の思い出がよみがえりそれがまた、エレラを泣かせる。

「詳しいことはまだ検査してみないとわかないんだ。

だけど胃の後ろに影がみえるのはまず間違いないらしい。

場所からして膵臓かリンパなんだが、

それは検査してみないとわからないんだ。

こんなことになってすまない。

だけど、なってしまったものはしょうがない。

私は戦うよ」

静かに供されたカップを見つめながら、

いつものように冷静に、お父様はそう言った。

一番怖いのはお父様のはずなのに、

どうしてあそこまで淡々と話せるのだろう。

「年のせいだと思うんだが・・・」

「!!」

思わず目を開ける。

真っ暗の部屋の中には誰もいない。

来た・・・。

心の中でミルキとイェーリーの話を思い出す。

低くて落ち着いた声がこう続ける。

「助かるといいな」

「・・・・・」

エレラは何も言わない。

そんな元気がないのだ。

「どうした?いつものように元気に意地悪の一つでも

言ってくれたら会話も成立するんだが・・・」

やや焦ったように声の主がそう言ってくる。

「・・・ゲノムね」

ぼんやりと前を見つめながらエレラはそう言う。

「私はゲノム様ではない。

私が誰であるか今君に言う必要性を私は全く感じない。

まぁ、ゲノム様の近い立場にあることは間違いないのだが・・・」

会話の主は煮え切らない返事をする。

「イライラする話し方が得意なようね?」

意地悪くエレラはそう言ってみる。

涙はいつのまにか止まっていた。

「これが私なんだよ、エレラ。

そしてこれから言うことが私の初めの仕事なんだ。

よく聞いてほしい。

えっと・・・・」

「あんた頭がいいんだか馬鹿なんだかわかんないわね。

こんな時にどもるなんてまじ最低」

「・・・その通りだ。

いいか?言うぞ」

「緊張感まるでないんですけど」

「このシナリオの元凶は

お察しの通りゲノムだ。

お前はまだ知らないだろうが

ゲノムはお前の父親の運命を知っている。

・・・私も知っている。

父親を助けたければ私の元まで来い。

私は父親を助ける方法を知っている。

カウント2。

確かに伝えたぞ。

そんなに泣くと心によくないから

もう泣くのはやめた方がいい。

それでは失礼するよ。エレラ」

ぼんやりとした頭で今言われたことを繰り返してみる。

お父様が助かる方法がある。

さっきの声の主は医者かなにかなのかしら。

ゲノム・・・。

巻き込まれるの嫌だったんだけどな・・・。

どうやら私も動かなければならない時が来たらしい。

「コモン」

ピアスに触れてコモンの書を取り出す。

ベッドサイドの明かりを点けてずっしりとしたそれを丁寧にめくる。

「レベル14か・・・弱いなぁ。

なんとかしなくちゃ・・・」

鼻をすすりながらエレラは1人そんな独り言をつぶやく。


      *


「なー今日何日だっけ」

「・・・やめてそれ。それ俺に答えさせないで」

騒がしい居酒屋で男たちは静かに酒を飲んでいる。

枝豆をちびちびと食べながら長髪の男レコーはぼんやりと

壁に貼ってあるコヨミンを見つめる。

「15日って言ってたよな」

レコーが誰にいうでもなくぼそりと呟く。

「・・・仕方ないじゃんゲノム今それどころじゃないもん」

レコーの真向かいに座っている小柄な色白の少年がそう答える。

「せっかくミルキちゃんに話しかけたのに」

「お前そればっかな。あんな馬鹿みたいな女のどこがいいの」

小柄な色白の少年、ヘンシが答える。

「わかってないねお前。だからまだガキなんだよ。

俺小柄でショートカットなら誰でもいいとこあるんだけど、

ミルキちゃん可愛いからなー。も、ね、最高!」

そう言ってレコーはビールを一気に飲み干す。

「お前は誰がいいんだよ」

「・・・僕はそういうのはない」

供されたから揚げを咀嚼しながらヘンシは言う。

「ゲノム様やお前みたいに色ボケしてないから」

「あ?誰が色ボケだ?」

「お前だよ」

「お前みたいなくそガキに恋愛語ってほしくないんですけどー」

「別に興味ないし。

僕は僕のことにしか興味ない」

「あーそうそうそういうこと俺にもあったあった。

恰好つけたいお年頃なんでちゅよねー」

「・・・・・」

「大体14のガキが居酒屋来んなって話だよ」

「・・・お前が誘ったんだろ」

「もうよさないか2人とも」

静かにワインを飲んでいた男が会話に加わる。

「ほらシューガルでたー」

「酔っているな?レコー。

もうその辺にしておけ」

「はいはーい。はいでぷう!」

「・・・放っておけヘンシ」

「言われなくてもそうするし」

そう言ってヘンシは携帯を取り出す。

「・・・リトルイズニとビッグイズニは遅いな」

シューガルが2人に向かって言う。

「あーあいつら全然やる気ないから」

「やる気ないのはお前もだろう。呼びかけは1人でと言われていたはずだ」

「!?なんでそれ知ってるの?」

怪訝な表情でレコーがシューガルに尋ねる。

「・・・ゲノム様に聞いた」

「お前がゲノム様と話してるのあんま見たことないんだけど」

「話したって言ってるんだからそれでいいじゃない」

ヘンシが画面から顔を上げずに助け舟を出す。

「・・・ま、いいけど。

あーWイズニおせーな」

「2人とも大学生だからじゃないの」

ヘンシが画面から顔を上げて言う」

「あーそれな。早く休学届出せばいいのにな」

「勉強が楽しくてたまらないと言っていたからな」

「え、それ誰に聞いたの?」

「立ち聞きして聞こえたんでしょ。

もういいよ。シューガルからかうのやめろって」

「はいはい。それにしてもゲノム様なんで

ここに来て足踏み状態なんだろうな」

「リーザでしょ」

「それは間違いないだろうな」

「洗脳するつもりがされちゃったのかね」

「そうかもね」

「え?そうなの?だったらこの計画完全に頓挫しちゃうじゃん!

え、え、恥ずかしい!俺学校までやめたのに!」

レコーが新しく供されたビールを飲みながらそう叫ぶ。

「田舎に戻ってくだらない大学生活やってる方がお前にはお似合いだよ」

レコーの後ろの席に座っていた女がこちらを向いてそう声を掛ける。

「お!やっときたか!なに、ずっとそこにいたの?なんだよ、

こっちこいよ」

「やだよ。そっちのテーブルだとBちゃんのご飯がのらない。

ね?Bちゃん」

そう言って派手な化粧をした女、リトルイズニが

向かい側に座っているビッグイズニに声を掛ける。

「うん。のらない。レコー、お前、うるさい」

「あはは。言われてやんの。そういうことだから、

私たちはこっちの席で食べるよ」

「B、から揚げやろうか?」

レコーがビッグイズニにそう声を掛ける。

「うん、からあげ、いる」

ビッグイズニがから揚げの皿をリトルイズニから受け取る。

「うん、うまい。から揚げ、うまい!」

「開戦前なんだからよーく食えー」

レコーはそう言って足を通路に投げ出し静かに煙草の火を点ける。


         *




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