最終話:キムはずっと先輩を愛してますよ!
「行ってきます!」
「ちょっと待って! なんでまた弁当忘れてるんだよ?」
朝早く、ようやく食器を片付け終えた俺は、テーブルの上に置かれた木箱を見て、すぐに玄関へ飛び出し、そそっかしいキムを呼び戻した。
これで今週三回目だ。昼食を持って行くのを忘れるのは。それでもキムはにこにこと笑いながら飛んで戻ってきて、もう少し俺といられるのを口実にして、適当にごまかしてしまう。
その笑顔を見せられると、俺は苦笑いして手を振ることしかできない。仕方なく、風で乱れた前髪を整えてやり、身だしなみには常に気をつけるようキムに言い聞かせた。
「今日はちゃんと早く帰ってこいよ。ステイシー部長やジェーンさんが何を言っても同じだ。」
時間がなくなってきたので、俺は軽くうなずいてキムを急かし、今日は何があっても時間通りに帰宅するよう、他の連中とふらふらして遅くならないよう言い渡した。
「了解! じゃあね先輩。」キムはさらに明るく笑い、額の前に手を当てて敬礼すると、羽ばたきながら小さくなっていき、やがて雲の向こうへ消えていった。
その背中を見つめていると、あの青空がまた一年前のことを思い出させ、俺は思わずため息をつき、やれやれと笑いながら、門前のゴミを拾い集めた。
◎
「魔族と人類の未来のためだ、少し犠牲になってくれ、『お義兄さん』。」
俺とキムのプロポーズのことを知るやいなや、結婚式を急ぎたいキムはすぐにこの話を世界中に広めた。そしてリム副社長は、すべて取り仕切ってくれると言い出したが、どう手配するかは彼女が決めるという条件付きだった。
まさかリム副社長のやり方が、俺を人間として仕立て上げ、魔王の娘が人間と恋に落ち、世紀の結婚式を挙げるという筋書きを大々的に宣伝することで、世界に平和の到来を伝えるとは思いもしなかった。
「ロマンチックすぎますよ先輩。私たちの名前が歴史の教科書に載るんですよ? 未来の人みんなが私たちがどれだけラブラブか知るんです、最高です!」
キムの反応を理由に断ろうと思っていたが、どうやら俺が甘かったらしい。リム副社長の提案にうなずく以外、ほとんど方法はなかった。
その後、目立ちたがりのキムは勝手に行動し、ブディン共和国の国境まで飛んでいき、上空で炎を使って「私は魔王の娘キム! 大好きな人間ソウルと結婚します!」と書き残した。地面に潜り込みたくなるような恥ずかしい宣言だというのに。聞くところによると、ブディン共和国の王族でさえどう反応すべきか分からず、国内の警備を強化するしかなかったらしい……。
やがて盛大な結婚式が予定通り行われた。白いウェディングドレスに身を包んだキムはついに願いを叶え、興奮のあまり三束のブーケを連続で灰にしてしまい、最後は魔王様自ら叱って、落ち着かせてから式が始まった。
キムの性格を知らなければ、彼女の化粧と純白のドレスに彩られた姿を見て、その動くたびに目を奪われ、息をのむだろう。だが俺たちが目を合わせた瞬間、彼女は我慢できずに歯を見せて大笑いし、司会の進行も無視して、いきなり俺に抱きつき、皆の前でキスをした。
「生きても死んでも、隕石が太陽にぶつかろうが、キムはずっと先輩を愛してますよ!」
キムは手の甲をこちらに向け、俺が贈った結婚指輪を見せながら、幸せそうな笑顔で誓いを立てた。周囲の視線などまるで気にせず、いつものように直球勝負だ。
「うん、俺もだ。ずっと愛してる。」
俺は穏やかに答えたが、無数の拍手と口笛の中で顔が赤くなり、思わず気まずい表情を浮かべ、皆からの祝福はキムに任せた。
式の進行はあっという間に終わったが、その後の祝宴は丸一週間続いた。絶え間ない花火、歌声、宴席が花のように全国各地で次々と咲き誇った。会社の同僚たちは一週間の休暇を勝ち取ってくれたと俺に感謝し、酒も料理もすべて会社持ちだと喜んでいた。ほんと現金な連中だよな。
参列した親族や友人の中には、魔王一家の親戚以外にも、にぎわう人波の中で、シロ、メイス、ジェシー、マイクの姿も見えた。もちろん、ステイシー部長と酒を張り合っていたあの大柄な男――ハンクも、豪快な笑みを浮かべて酒樽を掲げ、俺に合図を送ってきた。
会社に転職してきた元勇者たちだけでなく、多くの人間商会の面々や、好奇心から見物に来た普通の人間たちも祝福に訪れたため、この結婚式に参加した人間は、実際には想像以上に多かった。
リム副社長が思い描いた未来は、この結婚式から少しは垣間見えたのかもしれない。そんなことを考える間もなく、俺はキムに腕を引かれ、彼女の多くの親戚や友人たちの間を回りながら、笑顔で付き合わされる羽目になった。
◎
家に戻ると、俺は大きく伸びをし、この好天気を利用して布団と服を全部干し、そのあと昼寝をしてのんびりとした一日を満喫しようと計画した。この最高すぎる在宅勤務生活にしみじみしながら。
「仕事が嫌なら辞めて、キムに養ってもらえばいいじゃないか。」
「うわあああ! ま……魔王様?」
キムを含め、この家族はいつも音もなく現れる。藤椅子に横たわった魔王様はのんびりと果物を食べながら、半分冗談のようにそう提案し、俺は思わずちょっと気まずくなる。
社長が会社をうまく切り盛りしすぎているせいで、自分が内部運営に積極的に関われば足を引っ張るだけだと分かっている魔王様は、ずいぶん前からほとんど引退のような状態らしく、必要なときだけ姿を見せる。キムと結婚してから、俺の仕事はほぼこのこの暇そうなお方と一緒に時間を潰すことになった。
「冗談はやめてください、魔王様。家にいますが、ちゃんと仕事はあります。掃除や洗濯や料理とか、それからキムに思いきり甘えさせることとか。」
「UMAがあなたの半分でも気が利けばいいのに。長年連れ添っていても、私は彼に愛してると言ってほしいんだよ。それでな、この前見かけたケーキ屋のチーズケーキがすごくおいしそうでな、それからな……。」
こんな具合に、魔王様は独り言を始めると止まらない。形の整ったボブヘアは話すうちにどんどん乱れていき、本当にこの方が魔族全体を統べる存在なのかと疑いたくなる。
魔王様の相手をするほかに、通信装置を通じて新しいスパイを指導するのも俺の仕事の一つだ。魔王様の愚痴に応じながら、新人から届くメッセージに返信し、人類と正しく付き合う方法を教える。
「ソウル、俺は何か間違えたのか? どうしてリムがあんなに怒るんだ? 今はメイスも俺と話してくれない、助けてくれ!」
そのうちの一人は、人類側で和平理念を広める役目を担う元勇者――シロだ。仕事ぶりは悪くなく、彼の努力でいくつかの町は魔族と友好的に共存する意思を示しているが、シロの私的な感情のもつれについては、俺が軽々しく指示を出せるものではない。俺は「ハンクとジェシーに聞け」とだけ送って丸投げして、それ以上相手にせず、洗濯物を干す準備をした。
平和か……。穏やかな陽射しが顔に当たると、そんな複雑なことを考える余裕もなく、ただ目の前の生活が十分に素晴らしく感じられ、誰かと争う気も起きない。
すべてはキムから始まった。布団を叩いて埃を落としながら、彼女の笑顔を思い出す。わずか一年で仕事ぶりは飛躍的に向上し、多くの人に認められ、本当に優秀な会社員になった。心からうれしく思う。
視線は軒先の鳥を追って空へ向かい、仕事終わりにキムとどう祝うかを考えていると、雲の間から見慣れたピンク色の人影が現れた。次第に速度を上げ、大きくなり、まっすぐ俺に向かって突っ込んでくる。
「ごほっ……どういうことだ……?」
「先輩! まだ忘れ物があったの!」砂煙が晴れると、陽光がキムの輝く琥珀色の瞳に映り、弾む光を反射していた。
「家に入って探したら遅刻するだろ。何だ? 俺が取ってやる。」俺は眉をひそめてため息をつく。さっき心の中で褒めたばかりなのに、もう評価が一気に台無しだ。本当に甘やかせない。
「えへへ、結婚記念日の別れのキスだよ。」
そう言うとキムは一歩で距離を詰め、ぎゅっと俺を抱きしめて唇を重ねた。
「夜は早めに帰るから、それまでに少なくとも千回は私のこと思い出してね!」
本当に困ったお嬢様だ。こんなことでわざわざ戻ってくるなよ。洗ったばかりの布団まで汚しやがって。
でも、そこがキムらしいし、そこがこんなにも好きなんだ。心の声がうっかり口に出たらしく、キムはさらに得意になってたくさん甘い言葉を重ね、家の中から魔王様に呼ばれるまで、名残惜しそうに羽を動かさなかった。
「それじゃ、行ってきます、先輩!」
「ああ、気をつけてな。」
キムを見送ったあと、もう一度布団の砂を払い、日向の匂いを確かめてからようやく安心した。
この小さな庭で、この一年育ててきた花々を眺めながら、今夜どう結婚記念日を祝うかの案がふと浮かび、異次元ポケットから園芸ばさみを取り出し、キムの髪色に一番合う花を丁寧に選び始めた。
「さて、また仕事に戻るとするか。」
(完)




