第43話 ―― 屋敷への帰還と、増え始める灯
屋敷の門が見えたとき、ルナがほっと息を吐いた。
「つ、着いたぁ……」
思わず漏れた声に、フェリは小さく笑う。
「お疲れさま。みんな、よく歩いたね」
あえて、ここまで足で戻ってきた。
その意味を、全員がなんとなく理解していた。
レオンが門周辺を一瞥する。
「追跡の気配はない。問題なさそうだ」
リリも静かに頷く。
「はい。周囲の魔力の乱れもありません」
フェリは軽く肩の力を抜いた。
「……よかった」
門前に立っていた男が、
フェリたちに気づいて姿勢を正す。
「フェリ様、お帰りなさいませ。道中は問題ありませんでしたか」
落ち着いた商会員の声。
フェリは軽く手を振った。
「うん、大丈夫。留守番ありがとう」
「いえ、こちらが本来の務めですので」
男は一礼し、門を開ける。
屋敷の中に入ると、
張り詰めていた空気が一段だけ緩んだ。
だが、完全に休む空気ではない。
フェリは足を止め、くるりと振り返る。
「ここから、ちょっと準備の時間もらっていい?」
レオンが腕を組む。
「魔王城へ動く準備か」
フェリは頷いた。
「うん。全員じゃなくて、連れていくメンバーは絞るつもり」
リリが静かに一歩前へ出る。
「フェリちゃん、城の状況ですが……」
「うん。分かってる」
フェリの表情が、わずかに引き締まる。
「まだ、最低限だけなんだよね?」
「はい。王の間と寝室のみと報告を受けています」
レオンが低く息を吐いた。
「拠点としては、まだ脆いな」
フェリは小さく頷き、はっきり口にする。
「だから――急ぎすぎず、でも止まらず、で行こう」
強すぎない。
だが、芯の通った声だった。
リリがやわらかく微笑む。
「承知しました、フェリちゃん」
屋敷の空気が、静かに次の段階へ向かっていく。
一方その頃。
“古城復旧工事”の現場では、
普段よりもざわめきが大きくなっていた。
石畳の広場。
そこに――数十名規模の若い大工や石工たちが集まり始めていた。
男女混成。年嵩の職人の姿は、ほとんどない。
「思ったより……人、いるな」
「噂、結構広がってたみたいだぞ」
「日当いいし、宿付きだしな……」
ひそひそとした会話が飛び交う。
彼らが聞かされているのは、あくまで“旧領主城館の大規模修復”。
魔王城という名は、誰一人知らない。
そして――
この場所の立地を知る、古参の職人たちは。来ていない。
「あの辺りの城だろ? 昔の噂、気味悪くてさ」
「年寄り連中、誰も受けなかったらしいな」
そんな声が、若い職人たちの間で小さく交わされる。
だが同時に、
「まあ、仕事は仕事だろ」
「危険手当込みだと思えば美味いし」
と、割り切った空気も強い。
その様子を、少し離れた場所からセレナが静かに見ていた。
扇の向こうで、目を細める。
「……上々ね」
ミリアスが隣で分析する。
「黒薔薇商会経由が約六割。残りは口コミと同業者紹介です」
「ええ。いい流れだわ」
完全な囲い込みではない。
だからこそ、不自然さがない。
将来、城下町へ発展させる布石としても理想的な入り方だった。
ガルムが低く唸る。
「若いのが多いな」
「ええ。古参は来ないわ」
セレナはあっさり言い切った。
「この場所、知ってる者ほど警戒するもの」
だが――と、扇を揺らす。
「だからこそ、伸び代があるのよ」
視線の先。
若い大工の男女が、次々と受付へ向かっていく。
不安はある。
だが、それ以上に――
“条件の良さ”が、彼らの足を動かしていた。
王の間に、新しい作業音が増えていく。
一つ。
また一つ。
そしてそれは、
これまでとは比べものにならない速度で――
魔王城の再生を、前へ押し始めていた。




