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8:ガトレアの懸念

 新世界歴元年 1月7日

 ガトレア王国 キーファ

 首相官邸



「――想像以上の大国だな。日本は」


 オーランド・スヴェンソン首相が見ているのは日本に関しての情報が書かれた報告書だ。

 報告書を見る限り、日本という国はテラスの中にあってもかなりの大国に位置づけられるくらいには規模の大きい国だった。平和的に接触できて本当によかったと、スヴェンソンは内心安堵する。


「血の気の多い国ではないようでよかったですな」

「まったくです。これで、ガリアのような国だった場合どうなっていたか」


 閣議に出席していた他の閣僚たちもホッとしたような表情を浮かべていた。

 この中で渋い顔をしているのは、国防大臣や内務大臣くらいだろう。


「本当に『日本』という国が信用できるかは、まだわからないのでは?」


 実際に内務大臣は、これだけで日本を信用するのはまだ早いと楽観視している閣僚たちに疑問を投げかけた。彼の言葉を聞いた他の閣僚たちはお互い顔を見合わせる。


「し、しかし。この報告書を見る限り脅威になるとは思えませんが……」


 困惑したように反論するのは商務大臣だった。

 日本との貿易が始まれば、多少なりとも経済の落ち込みを軽減できると考えている商務大臣は、日本との関係をより深めるべきだと考えていた。


「この報告書はあくまで『第一印象』にすぎません。国の内面がわからないのに全面的に他国を信用するのは危険では?」

「そ、それは……」


 内務大臣の指摘に商務大臣は言葉をつまらせる。

 内務大臣の言葉は正論だからだ。とはいえ、内務大臣自身が日本と外交関係を結ぶことに反対しているわけではなかった。ただ単に、数日前にあった相手を信用できるだけの材料がないのだから、慎重に行動すべきであると考えていただけだ。


「まあ、その辺りにしておこう――数日後には日本側からの使節団もやってくる。詳しいことは日本の使節団がやってきたあとでも構わないだろう」


 スヴェンソンが場を落ち着かせるように言うと国防大臣はあっさりと「そうですね」と引き下がった。




 閣議が終わったあと。スヴェンソンは国防大臣を別室に呼び出した。


「相変わらず生真面目だな。アルフレッド」

「なんだ?わざわざそれを言うために私を呼び出したのか」


 閣議とは違ってお互い砕けた口調で会話する両者――スヴェンソンが悪戯っ子のような笑みを浮かべている一方で、内務大臣は閣議の時の同じく渋い顔をしていたが――。

 実はスヴェンソンと、内務大臣のアルフレッド・クルーソーは幼馴染の間柄であった。政治家になったのも同時期であり、首相になったスヴェンソンが最初に閣僚として任命したのがクルーソーだったほどだ。

 閣議など、公の場ではそれぞれ首相と大臣という振る舞いをしているが、いざプライベートの空間になれば、友人同士の砕けた口調で冗談を言い合うことも多い。


「それで?なんのようだ」

「なに、日本に関しての本音を聞きたいと思ってね」

「本音も何も、閣議で話したとおりだが?」


 スヴェンソンの問いかけに怪訝な顔をするクルーソー。

 日本と交流を進めるのは別にクルーソーは反対していない。ただ、あまり信用しすぎるのは問題である。クルーソーの本音は閣議で話した通りだ。


「もっと踏み込んだ話だ。報告書を見た時点での日本の感想をね」


 クルーソーは少し考え込む仕草をとりながら、報告書の内容を思い返す。

 日本の国土面積はガトレアと実際のところほとんど変わらない。だが、人口は倍以上違う。にもかかわらず、国土に占める森林の面積はガトレアとあまり変わらず、精霊がいる痕跡があると報告書の冒頭には書かれていた。

 だが、日本人は精霊を感知することはできないとも。

 こればかりは仕方がないだろう。一般的なヒト属が精霊を感知するのは難しい。エルフなど一部の種族が「見る」ことに秀でているだけなのだから。

 精霊が多いということは日本の環境は優れているということでもある。

 環境が悪ければ精霊など住み着かない。テラスにおいての「砂漠化」などの要因の一つに精霊消失が大きいと言われているくらいには、自然環境は精霊が支えているといって過言ではなかった。

 ついで、軍事力だ。

 日本の軍事力はガトレアよりも数段上の規模だ。

 特に海軍の規模は凄まじく。アークに日本が存在していたら恐らく「世界一」という称号がつく程度には艦艇数も空母保有数、航空機保有数も多い。更に陸軍や空軍の規模も大きく、軍事力だけ見れば「積極的に他国に軍事侵攻」する国のように見えてしまうが、あくまでこれらの戦力は「防衛」のための戦力だと日本側が説明していた。

 何の冗談だ、と日本側の説明に内心ツッコミをいれてしまったほどだが、あとに書かれていた理由を見て納得もした。

 日本の周囲は厄介な国が2つあるのだ。

 いずれも、社会主義政策をとる覇権主義国家であり、日本との間で何度も軍事的な衝突があったという。そして、日本は常にこの2つの国との二正面作戦を想定していたのだ。

 なるほど、厄介な軍事大国に対峙するならばそれだけの規模の戦力を「防衛」と言い張るのも納得だ。今回の騒動で厄介な国は2つとも日本から離れたようなので、恐らくはこの巨大戦力は「適正」なものへ縮小していくのだろう。もっとも、縮小されるのは陸上戦力メインで海軍や空軍の規模はこのまま維持されるとは思うが。


(仲良くできるならば心強い国ではあるか……たしかに)


 良好な関係を続くならば日本は非常に魅力的な国だ。

 日本は工業国であり、ガトレアも技術力が高い一方で農業が盛んだ。どうも日本は平地が少なく。その少ない平地に都市を形成しているので大規模な農業ができる地域が限られており、食料は他国からの輸入に頼っているらしいのだ。


(商務大臣がやる気になるわけだな。日本との貿易は我が国へのメリットは大きい)


 そこまで考えてクルーソーは結論を出す。

 日本が信頼できる国ならば非常に心強いと。だが、本当に信頼できるかどうかは今の時点では全くわからないと。


「日本が信頼できる国ならば心強い同盟相手になるだろうな」

「使節団の日本への評価は非常に高い。もしかしたら、永遠の友人ができるかもしれない」

「……そうなればいいな」

「実は、日本からいくつか紹介したい国があるという話も来ている。もし、彼らとも友好的な関係を結べるならば――テラスに居た頃より防衛の面では安心できるかもしれない」

「ガリアがいないだけで十分だが……本当にそうなればいいな」


 ガトレア王国が、日本側が紹介したイギリス・アメリカ・中華連邦の外交官たちと会談したのはその1週間後のことであった。


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