71:空母「鳳翔」
新世界歴元年 4月24日
日本帝国 広島県 呉市
帝国海軍 呉海軍工廠
呉軍港の中にある呉海軍工廠。
初代「大和」などの建造も担当した歴史ある造船所であり、現在でも主に空母や巡洋艦といった大型艦の建造や、第2艦隊所属艦の定期・大規模検査などを行っていた。
国防大臣の森田康之は、この日。進水式に出席するために呉海軍工廠を訪れていた。軍艦の進水式などはかなりの頻度で各地の造船所で行われている。重要なものは大臣や副大臣などが出席するのだが、大臣たちにも当然ながら予定があるのですべての進水式に大臣たちが出席することはなく、その場合は代理として鎮守府長官や、地区隊司令官などが出席し国防大臣の代理として命名を行う。
大型空母や戦艦などといった重要な軍艦の進水式の場合は、基本的に総理大臣あるいは国防大臣が出席することが日本では通例となっている。この日もまた1隻の大型艦の進水式が行われることから、国防大臣である森田が呉工廠まで足を運んだのだ。
すでに、建造が行われているドックでは式典に参加する関係者や報道陣が多く集まっていた。世界融合後に進水式が行われるのは3月に4つの造船所でほぼ同時に行われた神風型ミサイル駆逐艦の進水式以来――約1ヶ月ぶりのことだ。
そして、今回進水式を行うのは――空母であった。
4万トン級中型航空母艦。
それが、今回進水式が行われる空母の建造時における計画名である。
8隻もの原子力空母と3隻の軽空母。そして更に8隻の軽空母として運用可能な強襲揚陸艦を擁する日本帝国海軍。
空母の数でいえばアメリカ海軍に次ぐ規模だが、近年は北中国やソ連の軍備増強によって東シナ海や北方方面にも空母や巡洋艦などを常に常駐させなければいけなくなったのだが、既存の軽空母だけでは北中国とソ連の機動部隊に対抗できないと、海軍軍令部は判断。かといって、大型空母は建造する時間もそしてコストもかかることから、軽空母と大型空母のちょうど間くらいの大きさの中型空母の建造を決め、融合前の2023年に1番艦の建造が始まった。
今回進水するのはその1番艦であった。
基準排水量4万トン。全長298m。最大幅68m。
機関は統合電気推進を採用し、2基の電磁カタパルトを備え約50機の艦上戦闘機やヘリコプターなどを運用可能な中型空母だ。大きさでいえばイギリスや各国海軍で運用されている「アークロイヤル」級空母と同規模だ。
この、中型空母は多数の原子力空母を運用しているアメリカにおいても建造が進められているなど、主に西側陣営で注目を集めている艦種であり中華連邦や朝鮮連邦も将来的な導入を目指していた。
1隻あたりの建造費は一般的な水上戦闘艦よりは高い一方で、翔鶴型と比べれば安価である。設計のベースはその翔鶴型であり、設計にかかるコストなどを削減させており、イメージ画像は「小型の翔鶴型」と形容されるものになっていた。
午前10時。
国防大臣出席の下、中型空母の進水式は華やかに始まった。
軍楽隊の演奏などが行われ、いよいよ国防大臣による命名が行われる。
日本の場合、進水式で初めて艦への命名が行われる。
命名は国防大臣が形式的に行うことになっている。かつては皇帝が行っていたが、1946年の憲法改正によって皇帝から内閣――所管大臣(国防大臣)――が行うことになった。もっとも、命名者が変わっただけで命名に関しての流れは昔と変わらない。軍令部が予め候補を決めて海軍内で行われたアンケートを下に最終候補を決めて国防大臣に提出。国防大臣がそれを追認して艦名が決まる。
『本艦を「鳳翔」と命名するっ!』
「鳳翔」その名を持つ艦は過去に2隻存在し、いずれも空母であった。
初代「鳳翔」は1922年に就役した日本初の空母であり、世界としても当初から空母として設計・建造された初めての空母としても知られている。初代は主に練習空母などという形で運用され実戦に投入される機会は少なかったが、太平洋戦争ではフィリピン攻略戦に参加しフィリピン各地にある米軍基地への空爆を搭載機が行っている。
その後の、第二次世界大戦においてもインド洋に派遣され中東方面に進出したドイツ軍機甲部隊を搭載機によって攻撃を行った。ただ、排水量1万トン程度であったため、進化していく艦上機に適応できなかったこともあり1944年に予備役に編入。戦後の1946年に退役している。
二代目「鳳翔」はそれから14年後の1960年に就役した日本初の原子力空母であった。満載排水量7万トンに達する当時としては帝国海軍最大の軍艦であり、そしてアメリカに次ぐ原子力空母であった。
横須賀の第1空母戦闘群に配備された「鳳翔」は様々な戦争を経験している。まず、最初に経験したのが1970年におきた第二次中華戦争だ。
「鳳翔」は中華民国支援のために、北中国領内の軍事施設に対しての空爆などに参加した。
次に参加したのは1972年から75年まで続いたビルマ戦争だ。
軍事政権の南部と共産体制の北部での内戦にアメリカなどが介入した結果大規模な戦争に発展したビルマ戦争で「鳳翔」はアメリカ主導の多国籍軍として北部ビルマへの空爆作戦に従事した。
その後も、第二次湾岸戦争や、ソマリア戦争、イエメン戦争などといった主に中東方面で起きた戦争や紛争に「国連軍」の一角として派遣され、艦載機を用いた偵察任務、あるいは軍事施設への空爆などを行った。
二代目は2013年に退役。記念艦とすべき、という意見もあったが原子炉を搭載した原子力船であることから最終的に解体されているが、スクリューの一部などが最後まで母港としていた横須賀基地に一般展示されている。
そして今回の中型空母が三代目「鳳翔」として命名・進水した。
これからは艤装作業などが行われ、早ければ2年後に海軍へ引き渡されることになっている。鳳翔型はもう1隻の建造が長崎の四葉重工業の造船所で行われており、3番艦に関してもすでに予算化しており今年中に横浜の帝国重工で建造が始まる予定になっていた。
新世界歴元年 4月24日
ガトレア王国 キーファ
首相官邸
「……ルクストールが日本に関しての情報提供を要請?一体なにかあったのか?」
補佐官からの報告にガトレア首相・スヴェンソンは首を傾げる。
ルクストール共和国は、融合前におけるガトレア王国の同盟国の一つだ。融合後は、北中国に攻め込まれて戦争状態になっているということまでは報告を受けていた。そして、日本から北中国に関しての情報を得てルクストールに渡している。
北中国に関しての追加の情報提供要請かと思っていたら、相手は北中国ではなくまさかの日本であった。ルクストールと日本は一切接触していないはずなので、なぜルクストールが日本の情報を得ようとしているのかスヴェンソンは本気でわからず内心困惑していた。
「どうやら、交戦関係にある中華人民共和国との中間地点である海域に日本海軍の機動艦隊がやってきたので、中華人民共和国の援軍だと警戒して監視していたようです」
「なぜ、そんなところに日本の機動艦隊がいたんだ?」
「ユーラシア大陸の西側には石油や天然ガスの一大産出国が集まっているらしく、日本もその地域にある国々から多くの石油や天然ガスを購入していたようです。ただ、融合によって現地で積み下ろしを行っていたタンカーや貨物船の身動きがとれなくなったようで」
「……なるほど、つまり。船主からの要請で船団護衛のために機動艦隊を出したわけか。それを、ルクストールは自分と敵対する国への援軍ではないか?と警戒して監視――接触した場合は攻撃する予定だったと」
「そういうことです。実際に、攻撃一歩手前の状態になっていたようですが。寸前のところで外交関係を結んでいたインドという地球の国から日本の情報を聞いて慌てて作戦中止命令を出したことで大きな衝突にならずに済んだようですが」
「その、インドという国はルクストールに一体何を言ったんだ?」
「『日本は手を出さなければ無害だが、手を出したら徹底的に報復してくる』と言ったそうで」
「……それを『脅し』と思わなかったルクストールはさすがに冷静だったわけか」
「軍の一部から反発はあったようですが……」
「だろうな。その、インドという国だってルクストールからすれば数ヶ月の付き合いだ。すべてを信用できるほどの信頼関係なんてないだろうしな――それで、ルクストールと衝突寸前だった日本の機動艦隊はどんな規模なんだ?」
「超大型空母1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦4隻、フリゲート1隻だったそうです。このうち、超大型空母は最新の核融合推進の空母だった模様です」
「……確かに、その規模ならルクストールも警戒するのはわかるな。しかし、そんな艦隊を船団護衛に投入するとは、それだけ日本にとって重要なことだったということか」
「日本は国内で使う石油の7割とその地域から得ているらしいので……」
「……取引が止まれば国として立ち行かないか」
ならば、新鋭空母を中心とした機動艦隊を派遣するのも理解はできる。
しかも、途中には北中国とルクストールがやり合っている海域もあるのだ。護衛もなしに民間船舶を航行させるのは危険が伴う。ルクストール側がその艦隊を「敵の増援」と誤認したのも仕方がないことだ。これが、同じ世界同士ならばある程度お互いの状況を把握できているので「最悪の事態」にはならないだろうが、残念ながら異界同士なのでそもそも通信で意思疎通ということもできなかっただろう。
「しかし、インドから情報は得ているのだろう?」
「ええ。ただ、やはり複数のアプローチから情報を得たいということで」
「……なるほどな。しかし、我が国が知っている日本の情報もたいしたことはないんだがな」
本格的な交流をはじめてまだ2か月ほど。
最近になって定期旅客便が東京の羽田空港とキーファ国際空港の間で設定されることが決まったがそれまでお互いの国を民間人が行き来することは殆どなかった。主に企業関係者と政府関係者がそれぞれの交渉をするためにお互いの国を行き来しているくらいだ。
なので、お互いの国民はまだそれぞれの国に関して知っていることが殆どないのだ。
日本国民からみたガトレアは「エルフが暮らすファンタジーのような現代国家」といった感じ。
一方のガトレア国民から見た日本は「なんか南の方に出現した国」という。特にガトレア国民は日本に関する情報をほぼ知らないのだ。まあ、これはガトレア政府がまず日本に関しての情報を集めている段階だったので仕方がないだろう。
なので、ルクストールには簡単な情報のみを提供することになった。




