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33:第1水上打撃群

 新世界歴元年 1月31日

 日本帝国 神奈川県 横須賀市

 帝国海軍 横須賀基地




 三浦半島の北東部に位置する横須賀市。

 人口は約50万人で神奈川県の中では横浜・川崎・相模原に次ぐ第四の都市だ。国鉄の横須賀線や京浜電鉄が市内を南北に縦貫しており、横浜や東京方面のベッドタウンとして丘陵地を中心に宅地開発されている。

 一方で、海岸部には広大な軍港が広がっている。

 横須賀海軍基地は、日本が最初に建設した海軍基地だ。

 現在は連合艦隊の総司令部と第1艦隊の司令部や海軍工廠などが置かれており、約60を超える軍艦が母港にする東日本最大規模の軍港でもあった。


 そんな、横須賀基地から数隻の艦艇が出港しようとしていた。

 第1艦隊に属する第1水上打撃群に所属する艦艇たちだ。

 岸壁や、近くにある高台などではその様子を見ようとする住民たちが集まっており、その中にはテレビカメラまで含まれていた。

 

 第1艦隊第1水上打撃群は、


戦艦「大和」

ミサイル巡洋艦「高千穂」「乗鞍」

ミサイル駆逐艦「冬月」「春月」

汎用駆逐艦「敷波」「磯波」「沢波」


 以上8隻によって構成されていた。

 そして、見物人の多くは一際巨大な軍艦を見ようとしていた。 



 戦艦「大和」

 2023年に就役した満載排水量8万トンに達する現代に蘇った「戦艦」である。

 かつては海軍の花形とも呼ばれた戦艦であるが、太平洋戦争や第二次世界大戦で航空機の優位性が確認されたことや、戦艦自体の運用コストが膨大であることを理由に徐々にその数を減らしていた。

 更に、戦後はミサイルなども一般的なものになり小型の艦艇でも十分な対水上・対地能力を得るようになるとただでかいだけの戦艦を作ろうとする国すらなくなっていった。



 一方で帝国海軍はそういった情勢下でも戦艦は重要な存在だという認識を行っており、太平洋戦争後に就役し第二次世界大戦では地中海や大西洋方面で活躍した大和型戦艦の3隻を現役で運用し続けていた。

 平時は予備役として最低限の整備を行いながら、必要なときに現役復帰するというのを繰り返した大和型戦艦は最終的に2010年代まで軍艦として運用され続けた。もちろんその間には近代化改修などが行われているが、その近代化にかかる予算は新たに軍艦を作るのが安いといえるほどの膨大な額であった。

 そのため政府内や野党からはしばしば「無駄な存在」として批判のやり玉に上げられていた。ただ、砲艦外交という言葉がある通り「大和」の存在は日本の防衛において重要な役割を果たしていたのも事実であった。

 周辺の国を見てみると、ソ連は「巡洋戦艦」と評される大型の巡洋艦を配備していたし、同盟国のアメリカも大和型に対抗して建造された「モンタナ級」を現在でも予備役編入と現役復帰を繰り返しながら使い続けていた。


 さて、いくら近代化改修が施されシステム面では現代の軍艦とほぼ同じものになっていても、建造から80年近く経っている軍艦をいつまでも動かしつづけることは出来ない。大和型は海軍工廠で建造していることから、部品に関しても一通り海軍で用意することが出来るが、それでもこの長い期間で製造が終わった部品も多く、なにより艦の老朽化は無視出来ないレベルにまで進行していた。

 そのため、海軍は大和に変える戦艦を建造することを秘密裏に計画した。

 もっとも、海軍も一枚岩ではなかった。膨大になる予算を考えると、巨大戦艦ではなく大型巡洋艦クラスでも十分ではないか、という意見が多かったからだ。だが、2010年代は経済を立て直したソ連が軍備増強路線に転換し、同じく急激な経済成長によって軍の近代化を進めていた人民解放軍の存在が「新世代の戦艦計画」を後押し、結果的に「現代の戦艦」は建造される運びとなった。

 かつての大和型戦艦がそうだったように、新型戦艦の建造もまた秘密裏に行われた。国防省や海軍上層部――そして当時の総理大臣などの一部の政府上層部のみしか知らされなかった戦艦の建造は、原子力潜水艦などの建造を行っている秋津島にある八神海軍工廠で2020年から進められた。


 そして3年後の2023年に初めて公の場に姿を見せたのが新型戦艦「大和」であった。



 基準排水量6万トン。満載排水量8万トンに達する現代の超戦艦。

 その、動力は核融合推進を採用している。核融合推進自体は2020年に就役した翔鶴型空母で採用されたもので、大和に搭載された核融合炉も翔鶴型のものを発展改良したものだ。

 主砲は46cm三連装レールガンを3基9門。ミサイルのVLS発射機は200基設置されるなど、初代大和型戦艦を大きく上回る戦闘力を持っていた。

 大和は、横須賀の第1艦隊第1水上戦闘群に配備され、現在に至るまで兵装を含めた多くの試験や訓練を実施してきた。



 当然ながら「大和」は近隣諸国から強い反発を受け。国内からも一部メディアや野党から猛烈な批判に晒された。

 当時は岸辺政権末期の時代であり、岸辺総理は国会や記者会見などでこの件を厳しく追及されることになる。ただ、世論の反応はそれほど悪いものではなくむしろ好意的な意見のほうが多かった。

 思いの外、世間を味方につけられなかった野党などは次第にフェードアウトしていったが、自分たちの脅威になるソ連と北中国は大規模な軍縮条約の必要性まで訴えていたほどだった。

 まあ、その軍縮条約の話も今回の転移によって有耶無耶になっていたが。



 さて、大和を旗艦とする第1水上打撃群だが、大和以外の艦艇も強力だ。

 富士型ミサイル巡洋艦「高千穂」と赤城型ミサイル巡洋艦「乗鞍」はいずれも、強力な艦隊防空システムである「イージス・システム」を搭載した「イージス巡洋艦」だった。

 イージス・システムは日本・アメリカ・イギリスの三カ国が艦隊を、東側陣営のミサイル飽和攻撃から守るために共同で開発した戦闘システムであり同時に数十を超える目標を探知・追尾・ミサイル誘導を可能としており、西側の友好国を中心に多くの国の海軍で採用されている。


 とりわけ「高千穂」は全長200m。満載排水量1.9万トンと、かつての重巡洋艦を上回る大型巡洋艦であり、主砲としては60口径155mmレールガンを2基装備していた。


 第11駆逐隊に所属する秋月型ミサイル駆逐艦「涼月」「春月」もイージス・システムを搭載した防空駆逐艦で、高い艦隊防空能力を持ち、同じく第11駆逐隊に所属する綾波型駆逐艦「敷波」「磯波」「沢波」は対空・対艦・対潜という幅広い任務に対応出来る大型の汎用駆逐艦であった。

 また、本来ならばそれ以外に攻撃型原子力潜水艦も艦隊に加わるのだが、現在は海底の状況が不透明であることから潜水艦の運用を全面的に中止していることから、原子力潜水艦は艦隊に同行していなかったが、それでも小国の海軍ならば余裕で退けさせる戦闘力を持った艦隊であった。



 そのような艦隊が何の前触れもなく、母港である横須賀を離れていく。

 この場に集まった記者たちの多くはこれから起きることを察した。


「『大和』を使って、報復か。中々えげつないことを考えるもんだねぇ」


 偶々、横須賀市内で別の取材に訪れていてこの場に居合わせた記者はそう言ってこれから報復を受けるであろう相手に同情する。大和の主砲である46cmレールガンの射程は200kmを超えると言われているし、更には射程2000kmを超える巡航ミサイルも多数搭載されている。軍事拠点を叩くには十分すぎる武装だし、随伴している高千穂、乗鞍、涼月、春月も巡航ミサイルが搭載されている。小国の首都くらいならば吹き飛ばすだけの破壊力があった。


「平和団体が喚きそうだな」


 そう言って苦笑する記者。

 実際、横須賀基地のゲート前では市民団体による抗議活動が行われており、それを取材している記者たちもいた。ただ、この抗議活動は特に大きな注目を浴びることはなく、住民たちは堂々とした姿で基地を出ていく巨大戦艦に釘付けとなっていた。


「無駄飯喰らいとは言われていたが、少なくとも世間の注目を集めるという点では『大和』は成功だろうな……それに、地球なら必要ない戦力でもこの物騒な世界じゃ必要な戦力になりそうだからな」


 実際に樺太は異世界の国の攻撃を受けた。

 更に中央アメリカやヨーロッパでも戦争は起きているらしい。東西冷戦という超大国同士が睨み合っていた時代はもう終わりを迎えたのだ。これからは未知の国家との接触が続いていることになる。中には交渉すらせずに突然攻め込んでくる国も出てくるだろう。

 今回の相手のように。




 樺太西方沖

 帝国海軍 第4空母戦闘群

 原子力空母「瑞龍」




 原子力空母「瑞龍」を旗艦としている第4空母戦闘群は、樺太西部・間宮沖の海上にいた。

 マリス海軍の第2機動艦隊は空軍の戦闘機と陸上の地対艦ミサイル部隊の飽和攻撃によって壊滅したことから、第4空母戦闘群は直接マリス軍を対峙することなく、地上での戦いは終わった。

 ただ、あくまで地上での戦いが終わっただけであり戦争自体は終わっていないため、第4空母戦闘群は母港である舞鶴に戻ることなく、次の任務のために樺太沖に待機していた。


「横須賀から、第1水上戦闘群が出港したようです」

「本当に、大和を出すのか。軍令部も本気のようだな」

「恐らくは、我々は第1水上戦闘群と共に北へ向かうことになるでしょうね」


 参謀の推論に「そうなるだろうな」と同意するように頷く。

 この時期に、大和を旗艦とする第1水上戦闘群を横須賀から出すということはそれ以外に考えられなかった。


「大和が出た時は、今の時代に合わないと思っていたのですが」

「俺も同じだったよ。今更大艦巨砲なんて時代遅れだとな……だが、今は大和がいて良かったとも思っている。あいつのインパクトは異世界相手にも通用するだろうからな」

「砲艦外交ってやつですね……戦艦主体の国相手に空母を出したところでインパクトは薄いでしょうからね」

「――まあ、80年前の世界の国がこの世界にいるかはわからないがな」


 第4空母戦闘群に、軍令部から「第1水上打撃群と共にマリス連邦へ向かえ」という指示が届くのは2日後のことであった。


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