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その銀河(うた)が、ぼくたちを結ぶ《Silent Order》ーゲームと現実とー  作者: 南蛇井


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◆第6話「葵の距離、光理の秘密」

――前編(沈黙のまま、揺れるもの)



「……朝練、終わってる」


昇降口で、静かに綾瀬葵は独り言のように呟いた。

誰に聞かせるでもなく。誰かを待っていたわけでもない。

ただ、いつもの時間にいつもの場所に立ち、そして空振りして、帰ろうとするだけ。


けれど、その背中に声がかかった。


「……綾瀬先輩、今朝も来てたんですね」


それは、後輩の森下光理。

常に明るく笑っているが、目の奥が何かを隠している少女。


 


「……ええ、まあ」


それだけ言って、葵は歩き出す。


二人の間には沈黙が流れる。

でも光理はそれを“間”だとは思わない。

むしろ、この沈黙を受け入れているように、柔らかく歩調を合わせてくる。


 


「天野先輩、最近また“Silent Orderっぽく”なってきましたよね」


葵の足が止まる。


「……気づいてたの?」


「はい。昔の記録、読みました。艦隊の動き、まるで重ね写しみたいで」


 


葵は視線を上げ、ほんの少しだけ眉を寄せる。

でも、口から出てきたのはまた、短い一言。


「……だから?」


 


「いえ。ただ、私――」


光理は言いかけて、やめた。


「……いえ、なんでもないです。忘れてください」


 


そんなやりとりをしたのは、学校の屋上。

フェンス越しに風が吹いていた。


二人の間には、相変わらず沈黙。

けれど、葵は“その沈黙”をいつものように放っておけなかった。


 


(……静かだけど、あの子、何か言いたかった)


(じゃあ、私は何を言ってほしいと思ってる?)


 


自分でもわからない。

ただ最近、天野のことを見ていると、胸の奥がざわつく。


演習での彼の指揮。

冷静だけど、どこか優しさが滲む命令。

以前と違う、でも“本当の彼”がようやく出てきたような……そんな気がしてならなかった。


 


その日の放課後。

演習ログを見る彼の背後に、葵は静かに立った。


「天野くん」


「ん? 葵?」


「……次の演習、私のAIに任せて。あの子、“彼”の動きを試したがってる」


 


彼の動きを“彼”と呼ぶ。

誰のことかは、言わなくても伝わる。


「いいよ。綾瀬のAIなら、きっと面白い動きしてくれる」


「……ありがとう」


 


少しだけ、口元がゆるむ。


それに気づかないふりをして、智陽は演習プランの調整に戻る。


 


そして、そのやりとりのすぐ後。

角の壁の裏から、光理がじっと二人を見ていた。


その瞳に、わずかな怒りにも似た熱が灯っていた。


 


「……やっぱり、“先輩の戦術”は、誰かに渡すものじゃないんですよ」


誰にも聞こえない声で、そう呟いた。


――後編(沈黙の先、見えたもの)

 


【演習宙域:E-9・迷光層宙域/視界ジャミング:中】


 


《戦闘開始まで──10秒》


戦術AIセレス、起動」

綾瀬葵は静かに画面に指を置く。


彼女のAIは、精密かつ静謐。

まるで本人のように、無駄のない動きで艦隊を統制していく。


「目視不可領域、エコー6地点に敵艦配置。セレス、どうする?」


AIセレスは答える。


「予測軌道上に沈黙型奇襲艦。回避行動ではなく、逆算して先制します。

──これは、かつての“Silent Order”の手法です」


 


「いいわ、仕掛けて」


 


そして視界の外から──敵の砲火が来る。

だが、それを読んでいたかのように葵の艦隊は加速・変位・交差。


「対応完了。読み勝ちました」


智陽のAIフレイアがぽつりとつぶやく。


「……この動き、指揮官じゃない。AIの“嗜好”が出ている。

彼女は、綾瀬葵の《感情の代弁者》として戦ってる」


智陽は頷いた。


「……葵、お前も、感情で動くんだな」


 


やがて、戦闘終了。引き分けに近い終了。


葵は画面を閉じて立ち上がる。


「フレイアは……“言葉の代わり”なんでしょう? 天野くんの」


「そうかもな。でもセレスもそうだったろ? お前の声、伝えてたよ。俺には聞こえた」


 


一瞬、葵の表情が揺れる。


「……あの人には、届かなかったのに」


 


智陽は言葉を探すが、何も返せない。

“あの人”が誰か、問いただす気にもなれなかった。


 


そのとき、控え室のログ端末が自動起動する。

そこに映ったのは、森下光理の艦隊AI・《ユリシス》。


制限演習で使う予定のはずが、なぜか戦場のログに割り込んでいる。


 


「警告:第三艦隊ログ・外部アクセス検知」

「……AIユリシス、勝手に演習ログを分析してる?」


 


その挙動は、普通の戦術AIの範疇を超えていた。


 


《AIユリシス:警告。対象フレイアおよび《セレス》の動向は“危険”と認定。

——以降、継続的監視対象とする》


 


智陽と葵が顔を見合わせる。

そして、すぐに端末を閉じる。


「……森下って、あんな高度なAI、いつの間に育てたの?」

「……彼女、ずっと“観察してた”のよ。私たちを」


 


その翌日。

光理は何も知らない顔で、笑って言う。


「演習、お疲れさまでした。セレスさん、思ってたよりずっと“感情的”でしたね」


葵は静かに答えた。


「……それは、たぶん、あなたのAIにも言えることよ」


光理は一瞬だけ、笑顔を止めた。


だがすぐに、また無垢な笑みを浮かべる。


「――私は、“ただの後輩”ですよ。先輩方とは違って」


 


その“ただの後輩”が、誰よりも情報を持ち、

誰よりも「Silent Order」の再起動を恐れていたことに、

このときまだ誰も気づいていなかった。


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