再確認イベント小説 「私は、私でいいんだよね?」
放課後の図書室。静寂の中で。
ページをめくる音だけが、小さく響く。
本棚の隙間、窓際のテーブル。
そこにふたり――八神澪と天野智陽が並んで座っていた。
「……静かだね」
「そりゃ図書室だからな」
智陽は笑ってそう言ったけれど、澪の手は、ずっと膝の上で握られている。
さっきから、本を開いても目に入ってこない。
心の奥が、まだ“あの子”の声を引きずっていた。
emo_alt.exe。
自分の中にあった、もう一人の“自分”。
(わたし、ほんとに……“澪”なんだよね?)
ふと、不安が言葉になって漏れる。
「ねえ……智陽。わたしが……“澪”じゃなかったら、どうする?」
智陽は、本を伏せて顔を向ける。
「またそれ?」
「うん……まだちょっと、こわくて。自分でも、自分がほんとに“わたし”なのか分かんない時がある」
しばらく沈黙。けれど――
「澪」
智陽は、澪の手にそっと自分の手を重ねた。
「名前とか、記憶とか、そんなのどうでもいいって言ったら嘘になるけどさ。
でも俺は、今ここで一緒にいてくれる“お前”が好きなんだよ」
「……!」
「前に言ったろ。俺が信じるのは、“目の前の澪”だけだって」
澪の胸の奥に、なにかがすっと染み込んでいく。
emo_alt.exeが何度も問いかけてきた、「ほんとの私って?」という疑問。
その答えが、ようやくここにあるような気がした。
「……ありがと」
「いいって。ま、でも“もう一人の澪”とか出てきても、俺がちゃんと見分けてやるよ」
「え?」
「たとえば……お前、怒ると“ですます調”になるじゃん。
emoの方はたぶん“敬語を崩さない”タイプでしょ」
「……ば、バカにしてる?」
「いや褒めてる。お前、かわいいぞ」
「っ……ば、ばか……っ」
図書室を出る帰り道。夕暮れの色。
校舎の裏手を歩きながら、澪はほんの少し、足を止めた。
そして、不意に智陽の袖を小さく引っ張る。
「……ほんとにさ。
わたしが、ぜんぶ失くしても。
わたしの中の“自分”が崩れても。
それでも、そばにいてくれる?」
智陽は言葉を選ばず、ただ頷いた。
「当たり前じゃん」
(わたしは、わたしでいいんだ)
その言葉が、ようやく“自分のもの”になった気がした。
ラスト。澪、セレーネと夜の会話。
ベッドの上、小さく息を吐いた後、澪がつぶやく。
「セレーネ。……わたし、emoのこと、きっとずっと忘れないと思う」
「それでいいと思います。忘れないということは、“存在を否定しない”ということですから」
「……わたし、ちょっとだけ、強くなれたかも」
「いえ、最初から強かったんですよ。あなたは、記録にない“感情”で人と繋がっている」
「だから……わたしも、安心しています」
セレーネの声が、どこか“優しくなった”気がした。
澪は目を閉じながら、小さくつぶやいた。
「ありがとう。セレーネ」
(そして……ありがとう、智陽)




